第56話・2 ビーザ砦防衛(2)
キリアム侯爵が攻めてきた、ビーザ砦へ到着前にキリアム侯爵の軍団がやって来た。
キーグで飛びながら、キリアム侯爵が何故このタイミングで攻めて来たのか考えた。
今の季節は雪解けで川の水嵩が増す時期だ。
攻めにくく守りやすい時期なのに何で今攻めて来たのだろう?
と思ったのが考える切っ掛けになった。
治療所の襲撃から始まったけど、切っ掛けは開所日の遅れだろうか?
私が引っ越しで忙しいため、治療所の開所を伸ばした。
最初は3月始めに予定していた。
その頃なら増水時期のギリギリ前なので砦を攻めやすいかもしれない。
奇襲となる最初の一撃は敵の急所へ行う方がより効果的だと思う。
でも私の暗殺はビェスの側にとってそれほど効果的だろうか?
確かにビェスには打撃に成ると思う(思いたい)けど、ビェスは過去に同じような経験をしている。
我を忘れて、敵討ちへと暴走する事は無いだろう。
辺境領群への進軍は前から計画されていた事だし、領事館の件が判明する前に進軍している。
それより、キリアム侯爵の戦船によるパスト市への襲撃の方がメインだと思う。
襲撃を知らせるタイミングが治療所への襲撃とほぼ同時だったのも謀略っぽい。
この場合はビェスの辺境領群への後詰を邪魔する意図が有ったのかもしれない。
私にはビェスをパスト市に留まらせて置きたい。と意図したように感じる。
ビェスによる後詰が無ければ、エンビーノ男爵の旗揚げは失敗に終わるだろう。
キリアム侯爵が黒幕だとして、キリアム侯爵の領地から離れた場所にあるエバンギヌス子爵の救援は王領を通って行かなければならない以上無理が在る。
そのために計画された一連の襲撃だったのではないだろうか。
パスト市への襲撃は成功しても失敗しても、ビェスの足止めさえ出来ればエバンギヌス子爵がエンビーノ男爵を抑え込めるだろう。
パスト市に被害が出て、ビェスへの怨嗟の声でも上がれば、中立の2つの領地もキリアム侯爵へ味方する可能性が在る。
そうなれば五分以上の勝ち目が在るとキリアム侯爵が思ったのだろう。
キリアム侯爵の思惑は外れた。
襲撃も戦船によるパスト市への急襲も撃退され、エンビーノ男爵を後詰するためにビェスは軍を率いて進軍している。
後は、ビーザ砦でキリアム侯爵を引き付けてビェスの到着を待てば良いだけだ。
そう結論付けて、そろそろ砦に着く頃だと下を見た。
麦の緑色に染まった畑を眼下に見ながら、私としてはのんびりとした飛行を楽しんだ。
夕日が赤く色付く頃、キーグの首の先にビーザ砦が見えて来た。
川を掘りとして活用しているため砦の両側は川が流れている。
ビーザ砦から橋が伸びていて、山へと続いている。
キリアム侯爵領へと続く街道はビーザ砦の中を通って、砦の出口から橋を渡り山へと続いている。
その橋は、橋げただけ残っている。橋の上部構造は戦いのためだろう取り除けられていた。
砦の堀となって流れる川は街道の通る山から流れている。
二股に分かれた山裾を砦を挟むように巨大な石垣で両岸を固めていて、街道を通らずに砦の後ろへは通れない。
両側に延びる山裾を上って越えれば越えられるが、道らしい道は見えない。
今、その街道をぞろぞろと蠢く塊が在る。
キリアム侯爵の率いる軍がやって来たのだ。
街道を進む軍の先頭は山を下りて平野部へと入ったところだ。
後ろには山の上まで延々と人の列が続いている。
先頭集団は2千程の人数が居た。
同じぐらいの長さを物差しとして後ろに続く軍団の数を計ってみると、13か14倍ぐらいは見えている。
とんでもない数が攻めてきている。ざっと数えて2万6千か8千以上居る様だ。
シルベスト陸尉が報告した五割増しの3万ぐらいは居そうだ。
数千にもなろうかと言う長い列が幾つも進んでくる。
集団の間を馬が行き来して動きを調整している様だ。
動きそのものはゆっくりした動きだけど、山を下りても止まらず、ビーザ砦の正面へと向かって進んでくる。
キーグから見える範囲の人数は把握した。
この事はビーザ砦からも先端の一部が見えているだろう。
上空から見た全体の人数は早めに報告しておこう。
砦の中に竜騎士用の四角い発着用の土地と龍舎が立っているのが見える。
ビェスが急遽作る事を王領内の砦に命令して急いで作らせた物だ。
後ろを見ると、二人は蹲っているけど、キョロキョロと周りを見ている。飛行にも慣れて上空からの景色を興味深げに眺めている。
砦には東方面やや北よりから近づいて来ているので、二人にはキリアム侯爵軍はキーグの頭方向になって見えていないと思う。
「降りるよー!」と後ろへ大声で伝える。
二人に聞こえたようで、此方を見た。指を下へと指さし、降りる事を伝える。
二人も気が付いたようで、頷いている。
キーグに合図して降下していく、着陸地点は作られたばかりの茶色い土の色をした飛行場だ。
次回は、ラーファのビーザ砦への到着とキリアム侯爵の率いる軍の到着です。




