第56話・1 ビーザ砦防衛(1)
不穏な情勢のビーザ砦へラーファは竜騎士として向かいます。
ビーザ砦で私が行う事を決めた。
一つは、偵察。
もう一つは、防衛戦への参加。
最後に伝令として、キーグ単独でパストまで往復して貰う事。
ビェスの願いを叶え、ビーザ砦を守るために出来る事はこのぐらいだと思う。
ブレス攻撃は、ビェスが危険な状況に陥った時だけ行う事にする。
しかしビェスはビーザ砦の人数を合わせても1万2千か3千ぐらいでキリアム侯爵の2万の軍勢と戦う事になるけど大丈夫なんだろうか?
王宮の私の執務室で戦船の出航に拠って生じた人夫や商会への支払いに”代理王 ダキエの姫”とサインする。
これは、ビェスの出陣でパストに残る私へ、ビェスの代わりに統治する様にとビェスから仕事を押し付けられたためだ。
代理の代理は難しいと言うか、残っているビェスの側近で事務処理が出来る者は儀典長ぐらいしか居ない。
ボーダマンは武力は申し分無いが、事務処理が出来る程計算や文言を書けない。
自然と書類は私の所へと集まって来る。侍女集団が補助してくれているので処理出来ているのが現状だ。
キーグでビーザ砦へ飛行して日暮れ前に着くには、王宮を昼10時(午後3時)までに出なければならない。
今回は初めて乗る人が2人も居るので速度は4コル(1時間)で30ワーク(45㎞)ぐらいで飛ぶ予定だ。
治療所から帰って来たセリーヌを筆頭に侍女たちに書類の確認をして貰い、後はサインするだけの書類が机の上に積み上がっている。
もちろん、内容は確認しているが、ほとんどが戦のために購入や雇用した事で発生した費用の支払いだ。サインすれば支払われるので内容が間違っていなければサインしている。
計算間違いや文言の訂正が必要な書類は、セリーヌたちが突き返しているので、修正して戻って来るだろう。
私の侍女たちと言うより私の側近の官吏と言っても良いぐらいだ。それだけ計算能力が高く字(この場合は文言と法律)を良く知っている。
時間も無くなってきたので、机に積み上がった書類はビーザ砦へ持って行く。
向こうでサインしてキーグに王宮へ持って行って貰い、ビーザ砦へ帰る時新たにサインが必要な書類を持って来て貰う事にしている。
窮余の作だが、キーグは頭が良いので単独でお使い位は出来るだろう。
皮の書類入れに書類や筆記道具などを入れ、セリーヌたちに付き添われて王宮のキーグ専用発着場へと向かう。
セリーヌは私と共にビーザ砦へ行く(誰か一人は侍女が必要だと言い張った)ので軍服の上下に防寒着を着ている。着替えはカバンに入れて持ってるし、トイレは済ませたそうだ。
軍服は近衛の女性武官から借りている、それでもぶかぶかだけど。(今後の事も在るので飛行服を侍女の分も作ろうと思う byラーファ)
発着場には近衛兵の長官ボーダマンと防寒着に包まったシルベスト陸尉が既に待って居た。
急いで打ち合わせを行い、飛行出来る状態か体調を確認する。
二人共初めての飛行に緊張はしてるけど、体調は良い事を回復魔術で調べた。
二人には飛行中の危険な行為について説明した。
落下防止のためベルトで固定しているので外さない限り落ちる事は無い。
今回の飛行では急降下や旋回などの戦闘機動はしないから身を乗り出すような事をしなければ危ない事は無いだろう。
二人には防寒着のフードをしっかり被って貰い、前へと蹲る様に乗って貰う。
フードを押える役にも立つので、竜騎士用の飛行眼鏡を二人には付けさせている。
上空の風は冷たく強いから飛行眼鏡が無ければ上空からの景色を楽しむ事は難しいだろう。
キーグを神域から呼び出し、竜具の取り付けに慣れ始めた厩の係官と3人分の鞍をキーグに装着する。
乗る位置は私が先頭で、中にセリーヌ、後ろにシルベスト陸尉となる。
後ろの二人がしっかりとベルトを付けているか最後に私が確認して、私もキーグに乗った。
「では出発します」私の掛け声で、キーグの周りから人が居なくなる。
出発を口笛でキーグへ伝える。キーグが羽ばたき始めた。
少しの助走でキーグの体が浮き始める。後ろから「きゃぁー」、「うわぁ」とか聞こえたがしばらくはしがみついていて欲しい。
体が浮けば後は上空へと速さを増して上昇していく。飛行先は西南西だ。これより1刻(2時間)の空の旅になる。
3月後半になって地上では春めいて来ているが、上空はまだ冬だ。
左側に太陽を感じながら準巡行速度(時速45㎞)でビーザ砦へ向かって飛行する。
ビーザ砦へは着陸した事は無いけど、上空まで行った事は何度かある。去年の12月にパスト市の示威飛行を始めてから、1月・2月と飛行範囲を広げ王領内を飛行して廻った。
砦の場所も上空から確認している。
ビーザ砦周辺は開けた土地が西へと広がった場所の最も山に近い場所に在る。
ロマーネ山脈から長靴の踵半島へ山並みが続くビチェンパスト国の山岳地帯が、西へ後退している場所が在る。
平野部が西へ張り出し、山から川が大きな流れとなって平野を潤す。キリアム侯爵領との境は平野が終わり山の峠道を越えたぐらいに在る。
山から流れる川を掘りとしてビーザ砦は築かれている。キリアム侯爵領からの街道を下りてくると川に橋が架かっている。橋の先に川に挟まれるように砦が築かれている。
キリアム侯爵軍が峠道を下って平野部へ出る時に立ちふさがる場所だ。
次回は、ビーザ砦に到着です。




