第54話・2 魔女として動く(2)
パストで暮らし始めたラーファは魔女として治療所を始めるようです。
ビェスからパスト市の中で集めた噂話の報告書を読ませてもらいました。
「辺境領主領群の有力な領主の一人が深手を負う重症で、パストに治療に優れたダキエの姫がやって来たとの話を聞きつけ、治療の依頼してきたのがそもそもの始まりだそうだ。」
「手足を失うケガを負ったのに、ダキエの姫様が治療すると手や足が生えて来たってさ。」
「嘘だと言うのなら、王宮に勤めている従弟のエランに聞いて見ろよ。」
「え、聞いているって? じゃあ何で嘘だと言ったんだ?」
「嘘とは言ってねぇよ。」
「ただ手や足が元通りになったのは伝説のポーションのおかげだと聞いたからだ。」
「そんなの信じられるか?」
「ポーションか! 話じゃ魔女の薬とか言ってたな。」
「ポーションは神話だけど、外国の薬を使った治療で治ったと聞いたんだけどな。」
報告書によると、パスト市内での人が集まる場所で一番多く噂されているのが魔女薬の話題です。
話によって、”ポーション”だとか、”魔女のポーション”や”魔女薬”の名前になります。
内容は、”腕が生えた”とか”足が元に戻った”、”死んで復活した”などの内容になります。
報告書を読む切っ掛けは、ビェスから新たなお願い事をされたからです。
王宮に取引の有る商人を介して、または貴族の伝手をたどって治療のお願いが多数来たため。王として動かざるを得なくなったのだそうです。
ビェスから「どうにかならないか?」と相談を持ち掛けられました。
ビェスだけでなくビェスの側近や主だった役職の方たちに侍女たちとも話し合い、王宮の一角を囲ってパストの市民が入れる治療所を開く事に決めました。
治療所の所員は私の侍女から出します。警備も私の護衛隊から派遣します。
それに合わせて更に侍女と護衛を増員します。
侍女を増やした事で、人数にゆとりがあった事もあり。セリーヌとカトリシアを魔力の訓練や治療方法の学習に出しても大丈夫だと判断したからです。
ついでに治療に訪れる人や付き添いで来る人を調べて、魔力の高い人材を見つけようと思っています。
治療に使う魔女薬はマーヤが神域で増産していました。神聖同盟とダンジョン・スタンビードで協力するため、魔女薬を増産する必要があったそうです。
マーヤは神域の一角に工房を作って魔女薬を作っているそうなので、その一部を譲って貰う事にしました。
治療所の建物は2月中に完成する予定ですので、3月中頃には治療を始めたいと考えています。
今月の末に有る空ポーションの展示終了式にはビェスと出席します。
その時のスピーチでビェスが治療所の事をパスト市民に発表する事にしています。
具体的な治療費や治療対象者については、2月の治療所の完成式典で発表します。
今決まっているのは、パスト市民が対象だと言う事ぐらいです。
王領の領民へは折を見て出かけていく出張治療をイガジャ領と同じように考えています。
私の事は順調ですが、ビェスの方はあまり順調とは言えないようです。
今一番の紛争案件になっているキリアム侯爵の動きが怪しいそうです。
今の大きな領の動向はキリアム侯爵対王です。
辺境領群が王へ味方する事になったはずなのですが。
エバンギヌス子爵が煮え切らない態度を取っているため、エンビーノ男爵が動いてエバンギヌス子爵を追い出そうと動いているらしく不穏な情勢です。
エバンギヌス子爵の煮え切らない態度と言うのが
「ダキエの姫様を一度辺境領群へお招きしたい。」
「ダンジョンとの闘いで傷ついた領民を救って頂け無いだろうか。」
「来てもらえればダンジョンしか関心の無い辺境領群の意思も統一できるだろう。」
と、言う理由でエバンギヌス子爵は旗振り役でしか無く、王へ帰属するには辺境領群の意思の統一が必要だと言うのだ。
ビェスの判断は違う。
エバンギヌス子爵は辺境での開拓に大量のお金を貸し出しており、配下の辺境領群の赤字化に頭を抱えている。其の打開策にラーファを求めていると判断している。
エバンギヌス子爵が貸し出したお金の大半はキリアム侯爵領の商人が高利で貸したお金だそうです。
領民への治療により開拓の推進を図る。事だけでなくラーファを人質にした金銭の要求も有りそうだと見ている。
エバンギヌス子爵はキリアム侯爵と密かに連絡を取っていて、資金援助も受けているそうだ。
ビェスが私に、エバンギヌス子爵がしびれを切らせて、私に手を出すか、エンビーノ男爵が動くのか様子を見ている状況だと言っていた。
3月の治療所開設までに、何らかの反応が出て来るとビェスは警戒しています。
その件に関してビェスは密かに辺境領群に対抗するため築かれている砦の強化を始めています。
勿論キリアム侯爵に対抗する砦は大ぴらに強化しています。
今回は飛竜の運用が出来るように砦の中に竜騎士が運用できる広さの空地と飛竜舎を作っています。
誰かが何らかで動いた時が、新たな争乱の始まりに成るのかも知れません。
次回は、一発触発の事態へと不穏な空気の中治療所が開かれました。




