第53話・2 打明け話(2)
マーヤに会いに行く件をビェスに相談します。
私が、聖樹の変からオウミ国迄逃げた話をビェスは最後まで静かに聞いてくれた。
「そうだったんだね。」
「ラーファの記憶がマーヤを産んだ時に消えたのは残念だけど、私にはラーファに残酷かもしれないけど良かったと思っているんだ」
「ごめん 酷いことを言ったね」
「でも、ラーファに記憶が無い事が、ラーファを僕の妻に出来た一番大きな事だったとラーファの話を聞いて思ったんだ。」
「今更な事をビェスに聞きたいんだけど?」
「なんだい?」
「子持ちの私でほんとに良いの?」
「良いも何にも 最初っからラーファしか目に入ってないよ。」
「君が空を飛んで来た時の事を覚えているかい?」
「君と僕が初めて出会った時の事さ。」
そうだ、ベロシニアから華麗に空を飛んで逃げ出すはずだったのに、飛竜の襲来で撃退したけど魔力切れとなり墜落した。その時にビェスと出会ったのだ。
「ラーファが空を飛んで近寄って来るのは、結構遠くから見えていたんだ。」
「ラーファが空から降りて来て、最後はひっくり返ったけど 凄い!! 凄い!! 凄い!! て思いっきり興奮して見ていたから。」
「壊れた魔道具の中からラーファが出て来た時は、なんて奇麗な人なんだ!! て見とれてしまった。」
「今思えば、着地に失敗したんだと思うけど、その時はカッコ良くて美しくて 無茶苦茶興奮したのを覚えているよ。」
ビェスが照れながら話す姿は、あの時のビェスを思い出します。
「ただその時の僕はシャイで臆病だったから」
「言葉も上手く言えなくて ほとんど単語の羅列だったよ。」
「今思えば、良くぞラーファをイタロ・カカリ村へ誘えたと称えたいね。」
お互いに一目ぼれだったようです。
そうそう、マーヤの事を話さなければ。
「ビェスに許しを貰いたい事が一つあるの」
ビェスが少し警戒した顔をしています。私がマーヤに会いに行く事をビェスが嫌だと拒否したらと心配した事を察知したようです。
私の顔を覗き込んで、どうやら私がお願いする事が難題だと分かった様なのです。
「許しを出すかどうかは話を聞いてからだ。」
ちょっとだけ厳しい言い方で、私の話を聞くために腕組みまでしています。
「マーヤの事は話しましたよね」とビェスの顔を見ながら言います。
「マーヤかい? 君の娘だろ。」
「私の義理の娘のマーヤちゃんが如何したの?」
構えた姿がマーヤの名を言うと、柔らかくなりました。すかさずお願いを言います。
「マーヤに会いに明日の夕方から朝まで空間収納の中へ行きたいの!」
「えっ!」
驚いたのか、私が言った事が何のことだか分からないようです。
確認するように私に聞いて来た。
「マーヤちゃんは今オースネコン国に居ると言ってたよね。」
「なんで、明日の夕方から朝まで?」
「ラーファはそんなに早くロマーネ山脈を越えられるのかい?」
混乱して何やら思案しているようですが、もう一度ビェスに説明します。
「ビェス! 聞いて!」
「私は、空間収納の中へ行きたいと言ったのよ」
「なんで、空間収納?」
「マーヤも同じ空間収納のスキルを持っているのよ」
「しかも、同じ空間収納を利用しているの」
「ええっ!!」
やっと理解できたのか椅子から立ち上がってしまいました。
「そうなのよ、同じ空間収納だから、中で会う事も簡単に出来るの」
「そうなんだ、ロマーネ山脈を越えて会いに行くわけじゃないんだね。」
「直ぐ帰れるなら、私も反対しない・・・? よおぅ!!」
「明日の夕方から次の日の朝まで居ないのかい?」
「はい、ありがとうございます」
「娘と久しぶりの親子水入らずの時間を過ごしたいと思っております」
お礼を忘れないうちに言って、ビェスの許可を得たんだと既成事実化しちゃいます。
ビェスが頭を抱えて椅子に座り込んでしまいました。
更に別の件を相談してあまりこの件について考えが行かない様にした方が良さそうです。
話し合いでまだ残っているのは、魔女の薬の件ぐらいでしょうか?
そうだ! ビェスが私と話し合いたい事があると言っていた。
「ビェスは何か私と話し合う事があると言ってましたよね?」
話を振ると、ビェスも話し合いたい事があると言っていた事へ、切り替えてくれました。
「山ほどあるけど、それは追々でかまわない。」
「今は護衛の説明と、セリーヌたち侍女の件が急ぐかな?」
「護衛とセリーヌたちですか?」
「そう、護衛の件は、近衛に新しくラーファ専用の護衛隊を作る積りだ。」
「護衛隊が動き出せるまで、ラーファには王宮からしばらくでないでほしいとお願いしたい。」
「飛竜で飛ぶ事は別だよ、空の上まで護衛はできないからね。」
「でも行く行くは、竜騎士を育成して貰って護衛として乗せたい。」
「セリーヌたちの方はラーファに、侍女の増員と選抜をしてほしいのだ。」
「侍女はラーファの手足となって働く君の側近だからね。」
侍女の事はここ数日の間に何度か話す機会がありましたので、私も内情が分かって来ています。
何人かには使い魔を使って調べているぐらいです。
今の所、怪しい人物が侍女の中に入り込んでいるとは思っていません。
「分かりました、侍女の件は私が決める事にします」
そう言ってマーヤの件に戻るといけないので、次の魔女薬へ話を繋ぎます。
「後は、魔女薬の事ですが、魔女薬を作る商会を私が立ち上げようと考えています」
「ビェスも商会の運営には参加してください」
「そうか、ある程度の目標は出来ているんだね。」
「商会が立ち上る前に教えてくれ、私も人を一人出すから。」
「そうして貰えるなら、ビェスとの意思の疎通も問題無いでしょう」
この日の話し合いで、私は侍女の増員と魔女薬の商会立ち上げに向けて動き出す事になった。
次回は、公開治療後のパスト市内での反響と商業的な魔女薬作成の開始です。




