第50話・2 辺境領群の問題(3)
ビェスはラーファに何をさせたいのか? なかなか言い出さないビェスに詰め寄るラーファ。
「実は、エバンは患者をパストへ連れて来ているのだ。」
衝撃的な事を言い出した。明日をも知れない患者を動かしただけでなく、人口の多いパストへ感染症の可能性のある患者を連れて来ているなんて、これは戦争を仕掛けているのではないでしょうか?
「ビェス! あなたはそれを許したの!!」
「患者をパストへ入れた事かい?」
「そう 感染症の流行をパストに起こす積りですか?」
「いや大丈夫だとエバンが言っている。」
「患者は毒とケガによる衰弱はあるがうつる病気では無いと言っていた。」
「ビェスは確かめもせず、彼の言う事をうのみにしたのですか?」
「いや、とりあえず王宮の医者にパストへ入る前に確認させたから安心してくれ。」
どうもビェスの態度がはっきりしません。私への答えが後だしで私の出方で対応を変えようとしているようです。
先にビェスが希望する事を聞いたほうが、私を腫物に触るように恐る恐る対応されるより良いでしょう。
「ビェスに聞きたいの」少し冷たい言い方に成ってしまった。
「私にどうしてほしいの?」
ビェスの顔色が悪くなった、お酒の影響が残っていたのかな?
(もちろん私の回復魔術でお酒の影響は全て治癒してますよ byラーファ)
私はビェスに協力するのは当たり前だと思っているけど、私には分からない政治的な条件があるようです。
ビェスからどうしてほしいのか聞き出して、その中で何処まで自由に動けるのか知りたい。
「実は、今回のスタンビートでは開拓村が幾つか壊滅したそうだ。」
「エバンギヌス子爵としては、その一つエンビーノ男爵領が消えて無くなりそうな事態なので、何としてもエンビーノ男爵と息子二人と叔父と甥を助けてほしいそうだ。」
「放っておくと開拓地全体が危うくなるそうで、ポーションで早急に回復してほしいらしい。」
話始めてもビェスは未だ目的を言いません。いい加減じれったくなってきますね。
「話は聞きました それでビェスは如何したいのですか?」つい、声が大きく成ってしまいました。
感染症で無いのなら、毒とケガの治療でしょうから、四肢の欠損への再生治療以外でしたら魔女薬で対応できます。
エンビーノ男爵領の重鎮なのでしょうが、人族へのポーション使用は私が作る必要がある事は変わりません。
問題はビェスが煮え切らない態度で、してほしい事をなかなか言わない事ですね。
私のつっけんどんな言い方で機嫌が悪いことを知って、ビェスも覚悟を決めたのか、恐る恐る話しだした。
「あー、その ここ王宮でね エンビーノ男爵領の患者をね みんなの前で そのう ポーションで 治療してして欲しいのさ。」
「それって、衆人観衆の前で公開治療を行い、見世物にするって事?」
「身も蓋も無い言い方だけど、その通りだよ。」ビェスも口に出した以上腹を据えたのか、今はまな板の上の鯉のように神妙です。
どうやらビェスは公開治療を、そこらの見世物と同じだと思うかもしれないと私が拒否するか激怒すると思い、切り出せなかった様だ。
オウミの王都ウルーシュで公開治療を行ってきた私は、公開治療は治療方法を周知させるためにも必要な事だと思っている。
私はパストで必要ならウルーシュ以上に大々的に行いたいとさえ思っている。
「公開治療は今後も治療の普及や研修のため行う事は考えていました」
「ビェスの話だと、今回は学ぶのが目的では無いのよね」
「学ぶためなのは変わらないけど、有力者に分からせたいのが目的だよ。」
ビェスの不穏な言い方だと、ポーションによる劇的な治療効果を見せて政治的な優位性を取りたいようだ。
「わかったわ、ビェスの希望に沿った公開治療をするわ」
「ただし、私は魔女として治療しますから ただの魔女としか名乗りません」
ビェスが立ち上がって、座ってる私を抱き上げ、そのまま抱きしめた。
「ありがとう!!」
そう言いながら私を抱えたままグルグルと回り始めた。
目が回る!!
「助かったよ、ラーファが嫌がるかと思うと言いづらかったんだ。」
心底ほっとしたように鼻から息を出し、目を回した私に軽く口を啄んできた。
彼のキスで気が付いた私は、ビェスを見上げて質問した。
「今患者は何処?」
「辺境領群のパスト市内にある領事館だ。」
場所をセリーヌに教えて貰って、使い魔を調べに行かせましょう。
「分かりました これから患者を治療する準備をするわ、急いで見学する人を集めて下さい」
そう言って、彼の拘束を解いてもらい離れた。まだ少しフラフラします。
魔女として治療するのに何が必要かしら? 忙しくなりそうね。
「あ、でも見学人は少なめにね」治療するのだから、部屋に人は少ない方が良い。
「分かった5,6人ぐらいだと思う」と返事をしたけど、考え込んでいる。
ビェスも私が公開治療を承諾した事で、やらなければならない事が色々あるのだろう。
考えが纏まった様で、私に話しを続けた。
「王宮の部屋の一つを治療に使える様に用意させる。」
「部屋はグレバートに任せよう、彼から聞いてくれ。」
「私は、使いをエバンギヌス子爵と他の3領のパスト領事館にも出そう。」
「今回の公開治療は、君のお披露目になるね。」
そう言うと、私にキスをして急いで部屋を出て行った。
使者を各領地の領事館へ送るのだろう、ひょっとしたら既に使者を待たせているのかもしれない。
ビェスは私が”魔女として”公開治療を行うと言った意味が分かっているのかしら?
魔女は名を隠し名乗らない事を。
次回は、ビェスに物理的にも精神的にも振り回されるラーファ。




