第48話・3 初めての夜(3)
ラーファはビェスと一夜を過ごす・・・。
上を向いたビェスが天井を睨みながら淡々とキリアムと呼ぶ領の事を話す。
「私が初代の王として王位に就いたのが4年前だ。」
「当時もその前も状況は変わっていない。」
「彼らが私を王位に就けたのは領地の安堵とパストの金が必要だったからだ。」
そう言って一端話を止めた。ビェスが私を見て話をつづけた。
「海沿いの農業に向いた地域は我が家の領地が占めている。」
「貿易による物の流れもパストが独占している。」
「周辺地域は一つを除いて森ダンジョンに面した辺境だ。」
「彼らは鉱業や魔物由来の製品は豊富だが、生活に必要な物資の大半は我が領かパストから仕入れている。」
「そんな彼らが現状を変えようと取った手が、私の叔父をそそのかせて父を討つ事だったんだ。」
「叔父の後ろ盾になってパストへの進出を考えていたんだろう。」
「叔父と彼らは父と母を殺した後、私を殺そうと探したが私はたまたま領地の視察へ出ていて襲撃を免れた。」
「捕まった妹のアンナはキリアム侯爵の息子によって連れ去られた。」
私の首の下から腋を通り胸の上に置かれていた手が、私の右手を握ってきた。私の手を握って安心したようにため息をつき話の続きを話始めた。
「私は領地の軍を率いて叔父と彼らに戦いを挑んだ。」
「戦いは此方が有利に戦えたが周囲が敵なためにパストへ進軍できなかった。」
ビェスは未だ心の中に抱える無念な気持ちを思い出したのだろう、私の手を握ったまま暗い目で私の向こうを見ていた。
「そんな時彼らからアンナがキリアム侯爵の息子の子を妊娠したと知らせて来た。」
「結局彼らの提案してきた停戦に応じる事になった。」
「アンナをキリアム侯爵家へ嫁入りさせる代わりに、身の周りの世話をする者を此方から送り込む事を条件とした。」
「アンナの産む子はキリアム侯爵家の嫡子とする事も決めた。」
「叔父はパストを支配し、その他は私がそのまま支配する形で停戦した。」
ビェスにとって、辛い時だったのか顔を顰めて黙り込んだ。私はつらい話をさせてしまった事を後悔した。
「ごめんなさい辛い記憶だと思うけど、あなたと共に生きる事を選んだ私にはあなたの言葉で話して貰う事が必要だったの」
「ビェス 愛しています」
その言葉を告げた後、私はビェスにキスをした。
「僕もラーファを愛しているよ。」そう言ってキスを返してくれたけど、「此処まで話したんだから残りの話してしまうね。」と私を抱きしめながら言った。
「一度はその形で収まったけど、パストは我が家との関係が深く、たとえ一族の叔父と言えども裏切りに強く反発したんだ。」
「破綻は直ぐだった。」
「切っ掛けはアンナの産褥による母子共々の死だった。」
「その知らせをアンナの周りに置いていた手の者から聞き、すぐさまパストへと討ちいった。」
「パストの人たちの手引きでね、裏切者はこの手で殺した。」
私を抱きしめたまま小さく囁いた。
「家名が決まって居なかったのも、前の家名が裏切者と同じだったから変える気になったんだ。」
妹の死からの話は早口で吐き出す様に喋ると、黙り込んだ。
しばらくして、私のほほに啄むようにキスをすると、話し出した。
「彼らが私を王にする事を承諾したのは、長い内戦で彼らの領地が疲弊していた事もある。」
「それ以上に、戦に一度も勝てなかった事が大きと思っている。」
「私も叔父が占領していた間にパストも荒れたし、領地も争いで荒れてしまったからね。」
吹っ切る様に私に笑顔を見せ、話をつづけた。
「お互いに争いに疲れていたんだ、妥協の産物で停戦が決まり、私が王となった。」
「既に共和国の体を成さなくなっていたからね。」
「私を王として自分達を臣下とすれば、それまでの共和国と違って自分たちの領地を安堵する主従の契約が結べる。」
「彼らの爵位はその時希望した爵位を私が認めて授けた物なんだ。」
「彼らの狙った通りに成るのは癪だったが、共和国が王国に変わる事によってパストと王領を私が支配できることがより重要だった。」
「それから今まで大きな戦いは無いが、小競り合いが続いている状況さ。」
一通り周辺の情勢と経緯を聞いたので、重くなった話の流れを変えようと少し気になったパストの事をビェスに聞いて見た。
「そういえば、パストの場所ってどうして沖の砂州に移動して港町を作ったの?」
ビェスは、苦笑いを浮かべながら説明してくれた。
「海辺の都市のままだと発展性が無かったのさ。それに敵対的な勢力が多くて奴らが攻め込もうと手ぐすね引いて待ってたからね」
「幸い此処は遠浅で干潟が多く水路が迷宮並みに複雑だから、浚渫と埋め立てで土地を作ることなら簡単に出来たんだ。」
「干潟の向こうは水深も深くなっていて、桟橋を伸ばせば大型船も横付け出来たしね。」
「そうなんだ、今後の守りは、竜騎士の私が居れば攻めて来る敵は居なくなると思うわ」
「それは敵が飛竜のブレスを経験したならそうかもしれないけど、私を含めてこの国の人間は誰も経験した事が無いんだよ。」
「攻めて来る時が、経験する時になりそうね」
「意外に好戦的なんだね、可愛い竜騎士のラーファは、でも戦いは小競り合いが多いから君の出番は少ないと思うね。」
「その時は、負傷者の対応で応援するわ」
「君の魔術と魔薬が在れば負傷者も直ぐに治ると期待してるよ。」
「そう言えば空ポーションってラーファは言っていたけど、あれはどうやって使う物か教えてくれないか?」
「空ポーションはポーションを作る前段階の液体の事よ」
「ポーションを入れているビンは魔銅の入ったガラス瓶に硬化の付与がされてるので、斧を打ち付けても割れないわ」
「力ずくで割って中の液体を取り出すのは、人力では無理ね」
「使い方は、中には1グラン(約700g)の魔水が入っています」
「ポーションを作る時に、必要量を医療魔術の近距離転移で取り出して付与して作るの」
「1グル(約0.7g)の魔水なら回復ポーションが一つ作れます」
「一つの回復ポーションはダキエ金貨1枚しますから、オウミ金貨6000枚ですね」
「なんと!! そんなに高いのか。」
「待てよ、1グル(約0.7g)と言う事は一ビンから1000本のポーションが作れるのか?」
「それは・・・ 金貨600万 ・・・。」
ビェスは絶句してしまった。
「ビチェンパスト国と言うより王領の年間予算を知っているかい、金貨50万枚なんだよ。」
「年間予算の12年分かぁ。」
ビェスがベッドに横になったままため息をついた。
そして私を見つめると抱き寄せた。
その手が夜着を脱がせていきます。
夜着の下は何も来ていません。
「話は終わったよ、ラーファ。」
「この後はご褒美の時間だ。」そう言って首筋にキスをすると、胸へと移動させていった。
彼の言葉と行為に今更ながらドキドキ緊張してしまう。
「えっと、あの、・・・」何か言えれば良いけど緊張して言葉が出ない。
「あうっ」言葉を探している内に、彼の舌が敏感な場所を刺激した。
私は、人族の若い男性がどれほど飢えた狼なのか知らなかった。
その夜、たじろぐ私の裸身にビェスの落とすキスや舌先が彷徨い、手が指先が探り行きかう。
長い愛撫の末。
彼が私の中に入って来た時も、苦痛と恥じらいは一時で、いつの間にか私の口から声が漏れ始めた。
耐えられなくて、ジリジリと上へと逃げたけど、ビェスのがっちりと抱きしめた腕力にはかなわなかった。
彼の為すが儘、翻弄され、その果てに意識を失ったのだろう、最後は分からない。
疲れ果て、気絶するように眠ったのだと思う、気が付いた時は朝だった。
体が言う事を聞かない、重く身動きしにくい、小指さえ重く感じる。
昨夜ビェスから翻弄されたのが原因だと思う。回復魔術で回復する暇さえなかった。
朝、気絶から覚め、指一本さえ動かしにくい状態なのに気が付いた。急いで回復魔術を全身に行使ししようとして魔力がほとんど無い事に驚いた。
動ける迄回復させるのに長い時間が掛かったのは魔力の回復に時間が掛かったからだ。
回復魔術を使うため回復してきた魔力を全て使う必要があった。
体内に残ったビェスの愛の名残りは、その一部を私の免疫細胞が取りんだようだ。まだまだ子供が出来るまでには程遠いけど、やがて彼に馴染んで行けば子供も出来るだろう。
たった一回と言っても彼との秘め事は何回も有った様で一夜の出来事だろうけど。たった一夜を共に過ごしただけで私は強烈にビェスの存在を身に刻み付けた。
そう、私は姿形は前日と変わらないけど、中身は既に人族に変異した事を知っていた。恐らく寿命も人族と同じになったと思う。
私は妖精族から前の結婚後エルフへと変異している。今更二度目の変異があるとは思っても居なかった。
二度目のせいか、エルフの見た目は変わらなかったが、人族へと変異した事はなんとなくわかった。
妖精族の特徴なのだろう。変異には大量の魔力が消費されるから。朝あれだけ体がだるく、魔力が枯渇していたのは変異のせいもあると思う。
元々1000年の寿命だろうと覚悟していた。それが50年の寿命だとしても私はビェスと同じ人族へと変異した事が嬉しい。
彼の子を産む事が出来るのだから。恐らく生まれてくる子は長命な人族に成るのだろう。
疲れ果てたビェスが横で寝ている。素肌と素肌が触れ合う暖かさが気持ち良い。
目と目が合った。ビェスが起きたようだ。彼の手が伸びて私の胸に触る。
だ、だめよ。そこは・・・。
次回は、パストで魔女として最初の活動を始めます。




