第45話・1 王が娶るダキエの姫(1)
ラーファの婚姻によってビチェンパスト国は大きく揺れ始めます。
最初の被害者は王宮に勤める家臣たちです。
キーグに乗って王宮の庭へ降り、ビェスが指さした建物に連れられて入った。
ビェスの周りには侍従や侍女に護衛の衛兵が更に外側に居るので、30人ぐらいの集団になる。
キーグは神域へ戻す事は出来なかった。
最初は、キーグと宮殿の上空200ヒロ(600m)ぐらいで、雲に紛れて神域へ戻る積りだった。
私がビェスといきなり結婚する事になり、私の事情(神域の事)を知らせずにキーグと空を飛んで居なくなると、宮殿内がパニックになりかねない。
キーグは一端ビェスが用意させた大きな厩に入るように言い聞かせた。
しばらくはおとなしくしていてくれるだろう。後で厩へ行って神域へ入れてあげよう。
王宮の玄関から入って直ぐに、後ろの侍従と侍女の集団から抜け出してきた白い髭の人が近づいてきて、部屋の事をどうするか聞かれた。
王宮での私の受け入れは、予定通りなら客人として部屋やお世話する人の人選は終わっていた。ところが急に王様のビェスが私を妻にすると宣言してしまったから、混乱させてしまった。
「妻とは同じ部屋で寝起きするのは当然だろう。」とビェスは言うけど。
「陛下、まだ婚姻前でございますれば、床を共にするのは憚りがございましょう。」と侍従の白い髭を伸ばした方が言った。
「そう言えば籍を早く入れねばならないな。」
「良し、今日の昼すぎに教会へ籍を入れるために訪れると申して置け。」
「陛下、籍をお入れになるなら、前から問題になっていた新たな家名をお決めください。」
「そうだな、・・・ラーファ、あなたの家名は何だったかな?」
「私ですか? 表向きでしたらエルルゥフ・ダキエとなりますけど」
「秘する名の方は、ビェスにしか言えません」
「ふむ、エルルゥフ・ダキエか、良しパストを付けて、パスト・エルルゥフ・ダキエにする。」
「よろしいのですか? パストは分かりますけど、エルルゥフ・ダキエは樹人のエルフ王家の家名ですよ」
「あなたが引き継いだ家名だったよね。」
「はい、聖樹が燃えて、王家は滅びましたから、私とマーヤだけしかその名を引き継ぐ者はいません」
「マーヤは聞いた事が在る様な、ない様な、誰だったかな?」
「8年前に生まれた私の娘です」
「そう言えば、ダキエでは結婚していたが、前の夫は聖樹の変で亡くなったと聞いたな。」
「その時の忘れ形見か?」
「はい、今年7才に成りました」
「そうか、私の義理の娘になるのか。」
「グレバート、話は聞いたな。」
「はい、陛下。」
「パスト・エルルゥフ・ダキエを新たな家名にする。」
「籍は今日入れに行くから、新たな家名で教会には知らせる様に。」
「ははっ。」
白髭の侍従さんからグレバートさんになった方が側に控える数人へ何やら指示を出すと、戻って来てビェスに話しかけた。
「陛下、この後ダキエの姫様を陛下に紹介した者共が待っております。」
「凪ぎの部屋で待っておりますので、会われてはいかがでしょうか?」
「そうだな、今回の件を終わらせ、彼らに褒美を出さねばな、そうしよう。」
ビェスはグレバートさんにそう言うと私の手を握ったまま、正面玄関から歩いて来た廊下を右へ曲がった。
そこは、小さな庭園に面した回廊に成っていて、冬でも明るく暖かな気持ちになれる場所だった。
ビェスに手を引かれ回廊を歩き始めた。
私たちの周りでは、侍従や侍女の群れが慌ただしく移動を始めた。前に出て来る事は無いので、迂回してこれから向かう部屋へ行くのだろう。
侍女の一人がグレバートさんに何やら話しかけている。グレバートさんは頷くとビェスの側に寄って来た。
「陛下よろしいですかな。」
「なんだ?」
「はっ、ダキエの姫様のお着換えを先にされてはいかがかと、今のままでは寒かろうと案じております。」
「うん、そうだな。」と私を見て聞いて来た。
「ラーファ、なんとなく魔術を行使しているのは感じるのだが、寒さ除けの魔術かい?」
「はい、身体防護と言う魔術を行使しています」
「魔術で防寒するとは聞いていたけど、寒くは無い?」
ビェスが見た目は寒そうな貫頭衣を着た私を見て聞いてきました。
「身体防護は、周囲の温度から身を守れますから、寒く無いですね」
ビェスが頷いています。私の答えに納得したようです。
「グレバート、会談相手は彼女の知り合いだし、パレードの裏方だ、このままで良い。」
「だが、この後の食事と、教会へと向かう時には衣服が必要だ。」
「かしこまりました。」グレバートさんが今度は侍女だけに何やら指図をしています。衣装を用意するのでしょう。そう言えば、今着ている貫頭衣も作る時、王宮から派遣された人がサイズを計っていました。
「ラーファ、見えて来たよ、この先の部屋が二人が待って居る場所だ。」
廊下の先に両開きの重々しいドアに青色で海原の模様が装飾されたドアが見えて来ました。
でもビェスが私と一緒に侍従が内側から開いた部屋に入ったのは、幾つか手前のドアです。
「ラーファ、私たちは部屋に此方から入るからね。」
そう言って入った小部屋の突っ切った向かいにあるドアが開きます。そこにも侍従が控えていてドアを向こう側から開けていました。
そこは先ほどより一段と簡素な廊下が続いていました。
「此処は、私のプライベートな通路だよ。」
自然な板材のままの廊下で、床板の上に植物の繊維で編まれた敷物がしかれてます。
此の廊下は王宮の主要な場所へ、ビェスが他の人から邪魔されずに通れるように作られているのでしょう。
廊下の先で、控えている侍従がドアを開けました。
「陛下、並びにダキエの姫様が御着きになられました。」
ドアを開いた侍従が部屋の中へ厳かな声で伝えました。
次回は、ゴドウィンとトマーノへの恩賞です。




