第5話 ウルーシュの生活(4)
町役場へ広場での公開治療の許可を貰いに行きます。
ここは北町流東堀、第2城壁との間に在る大堀の側にあるイガジャ侯爵家の下屋敷です。
5月2日いつもの様に朝食は神域の家でマーヤと食べます。
マーヤはカカリ村の魔女学園に男爵邸のラーファの部屋から通っています。
ラーファが王都へ移動したため、ラーファが迎えに行くまでカカリ村へ住みます。
ラーファとマーヤが神域で行き来出来る事は、二人以外は知りません。
しかし、イガジャ家の人はラーファのインベントリにマーヤが入れる事は知っています。
ワイバーンを2頭中で飼っている事は知っているので、中が広い事も知っているでしょう。
イガジャ家の方々がどの程度インベントリについて知っているのか分かりませんが、いざとなればマーヤを逃がす事が出来る手段を持っているとは思っている事でしょう。
マーヤは魔女学園の護身術と高等科の実習以外の時間は、おばばへの魔女の新薬の作り方とワイバーンの卵を孵す飛竜学園の竜騎士見習い達へ助言しています。
8月に卒業した後もラーファが船に乗る9月まではカカリ村に残っているそうです。
神域で毎日会っているので、分かれて住んで居る様な気にはなりませんね。
朝食後、下屋敷の食事などの管理をしている侍女頭に、夕食までに帰る事を告げて下屋敷を出ます。
下屋敷を取り仕切る使用人頭からは昨日の内に、北町流東堀の町役人へカカリ村の魔女で王都への移住者として登録する事を知らされています。
魔女の場合登録時の名前は必要ありませんが、魔女認定された時貰うメダルの番号で登録するそうです。
師匠の魔女は自分が魔女認定した弟子の魔女が何処にいるのか、登録時のメダルの番号から役人が確認するため連絡して来るので居場所を把握できるのだそうです。
下屋敷の使用人頭の話だと。
王宮のある高台だけでこの王都ウルーシュの面積の6割以上を占めていて、残りの4割弱が第3城壁内の一般市民が住む場所で形は楕円形をしています。
ウルーシュの建物は5階建てで統一されていて、それより高い家は大聖堂や大劇場ぐらいだとか。
大堀に沿った東堀筋の家は貴族か大商人の家が多く。
中堀筋あたりから商店や工房、住居などが多くなるらしい。
南町流は東堀と西堀に教会や聖堂が在り、広場も広い。
特に南町流中堀は全てが大きな練兵場に成って居て、真ん中を通る道が町を4つに分ける様に通っているのが有名らしい。
アリスが飛竜のデモンストレーションを行った時は王都中から見えたそうでブレスで悲鳴を上げた人が大勢いたそうです。
中町流は3つの町全てに劇場やレストラン、酒場に娼館などが集まっている。
下町流は庶民が多く住み、工房や商店、住宅用のアパートが立ち並んでいる。
各門の側になる西町筋だけを見ると、商人の倉庫や宿屋などが多く、住人より旅人が寝泊りする方が多いそうだ。
城壁内にはスラムなどの最下層になる人は住んで無くて、それらの人は第4門を出た外の川湊あたりに住んでいるそうです。
第1城塞と第2城塞は東側の高台にその威容を見せつける様に高く朝日に輝いています。
ウルリッヒと名乗った使用人頭の説明を思い出しながら、下屋敷の出口へと階段を降りる。
ラーファは王都の地図とガランデァス伯爵様の紹介状を持って下屋敷を出た。
出たのは北へ向いた下屋敷の玄関で、右手には第2城壁から大堀に橋が架かっていて、そのまま道路が真っ直ぐ西へ通っている北町流通りに出ます。
この北町流通りは王都で最も華やかで繁栄をしている通りです。
通り沿いに並んだ家々は高さが遠く何処までも皆揃っていて、壮観です。
勿論下屋敷も5階建てのアパルトマン建築に成っています。
建物の1階は個性を出すためか装飾的な柱や飾りを華やかにしています。
5階部分も個性的で、大きな屋根裏にしている所も在れば、5階まで部屋を作り、屋根部分を小さく作っている建物もあります。
庭の在るような家は無く、2階以上の窓辺で花を楽しむのか屋根の無い小さなベランダを作り、花が沢山咲いています。
レンガを積んだ壁は赤い色で屋根の色が明るい緑色なので、全体に華やかな美しい街並みです。
ラーファは12も在る町の内、庶民が多い中堀筋の中町と下町で許可を取ろうと思っています。
第3城壁内は町役人が住民生活の全てを握っているようです。
市民の代表と言うよりこの王都の役人の末端を担っているようですね。
ラーファは東堀筋を南町、中町、下町へと渡り、住民が一番多いと思われる中堀筋下町の中央広場へ来ています。
広場の中心に役場が在る作りはオウミ国共通の作りなのでしょう。
橋と町の中心部に広場が設けて在って、人や馬車が集まる場所に成っています。
町役場へは歩道橋が四方から掛けられています。
広場はロータリーと成っていて、馬車は全然止まりません。
馬車の合間を縫って道路を渡ります、貴族の馬車だと人が居ても止まらないそうです。
交通事故は多いと思います、馬の落とし物はとても多いですが清掃人が常に片付けています。
入り口を入ると中は広い円形のホールで、紙とインクの匂いが漂っています。
入り口から入って直ぐの受付と書かれた札の在るカウンターへ行って、用件を言います。
「イガジャ領の魔女です、この度王都ウルーシュで魔女として開業する事となりましたので手続きにまいりました」
おばばから頂いた魔女の証のメダルを見せながら、伯爵様が書いた紹介状を受付に居る年配の男の人へ差し出します。
「少しお待ちください。」
不思議そうな顔をした男性は、私が差し出した封書を開けて中の紹介状を読みました。
「ガランディス伯爵様のご紹介で見えられた方なら、喜んで歓迎します。」
笑顔を貼り付け歓迎の言葉を言いますが、目がこちらを値踏みするような鋭さを感じます。
「どうぞ奥へお入りください、お話等お聞きしたい事も在りますので。」
と受付に居る若い女性に案内するように指示して、頭を下げて礼をしてきます。
私も頭を下げて答礼します。
貴族の方かしら?
礼儀作法が滑らかで洗練されている様に感じました。
ウルーシュの町を町役場まで歩きました、ラーファの交通事故への懸念は当たりそうです。
次回は広場での公開治療への手続きです。