第41話 王都パスト(1)
中断でご迷惑をおかけしました。再開します。
ラーファのビチェンパスト国への上陸は何時の日にか、レリーフとなって飾られる事でしょう。
飾り立てられた台車が3台、わざわざ王宮から離れた場所に停泊した2本マストの船3艘から降ろされた。
一艘の船から降ろされたのは台車が1台。三艘から三台の台車が降ろされパレードのため並べられた。
最初の1台には作り物の人魚の捧げる手の上に、空ポーションの丸い入れ物が収められている。
次の台車はワイバーンのキーグがおとなしく乗っている。
最後の3番目の台車に私は乗っている。腕は手枷をした状態で、王様へ貢物らしい。
私は、前を往く2台の台車の後を、飾り立てられた台車に乗せられ、王宮へと向かいながら一体何でこんな茶番をする事になったのか、これまでの事を振り返っていた。
ゴドウィンの話に乗って、彼の船団と一緒にキク・カクタン国を出た。その時はビチェンパスト国へ行ってゴドウィンから王様を紹介して貰うだけだと思っていた。
怪しくなってきたのは、ゴドウィンがビチェンパストの武装交易商人と沖合で合流してからだった。
ゴドウィンの伝手とは合流したビチェンパスト国の交易商人で、ゴドウィンとは海賊行為を手心して見逃す見返りに金や奴隷をもらう取引相手だった。
そして、手土産とは私だった。王様に私を紹介するのと王様に手土産を渡すのは同じ事だそうだ。
ゴドウィンは取引相手のトマーノと名乗った商人と一緒に既に王宮へと向かったらしい。
私は、今の状態のまま1刻(2時間)程の時間を掛けて、王宮まで披露を兼ねてパレードをする。
パレードが王様の急な要求で決まり、慌てて打ち合わせる中で一番の心配がキーグだった。
キーグをおとなしく台車の上に1刻もじっとさせられるか心配したゴドウィンとトマーノから聞かれた。
「キーグは私の指示には従うのでおとなしく座っているわ」
それに注意する点も言っておかなければ。
「誰かがパレードを邪魔しようとしてキーグを傷つけでもしない限り、大丈夫よ」
それを聞いて、二人は台車全ての周りに警備の衛兵を着けるように王様で提案したようだ。
こうして台車に乗っているけど、周りをぐるりと馬に乗った衛兵が取り巻いている。
キーグの台車だけは、馬では無く徒歩の衛兵だけで警備している。馬が怯えて近寄らなかったから。
王様との話し合いが終る都度、何回も此のパレードへの王様からの変更の申し出が有った。その度に台車の飾りつけは豪華に仕立てられていった。
「ダキエのポーションはこの国でもおとぎ話に出てくるお宝の中で、一番有名な物だ。」
「それ故一番最初の台車でなければならない。」だとか。
ワイバーンは竜騎士の名が周辺国からビチェンパスト国へと伝わるているそうで。
「空を飛び、火を吐く飛竜は、騎士が乗る最強の武の象徴だ。」
「当然パレードの中心に置くように。」だとか。
「ダキエの姫の名は名高いが、秘すべきお方だ。」
「その名は、ポーションと竜騎士の作り手として知る者は少ないが、しかるべき立場の者は知っている。」
「民衆は、おとぎ話に出てくるお宝のポーションを作る妖精と思っているようだ。」
「パレード終盤で我が解放する見せ場の大事な相手だ。」
「参加してもらわねばならないが、最後の台車に乗って、奴隷で在った事を分かる様にしてくれ。」
別に王様への献上品として私をさらし者にする必要は無いと思うのだけど、王の置かれた状況がそれを許さなかっただけだ。
国内の大多数の貴族から王として担ぎ上げられたけど。自分の権益拡大を図る貴族が内陸部に数多く存在する。
元々国の最大の港だったパスト市を地盤とする王家の一族は、貿易を牛耳る国内最高の富を持つ貴族だった事も在り。
海の権益を押え、パスト周辺を領土にして、交易を通じてもたらされる物品故に王となれた。だが王家より力のある貴族家は多く。国内の引き締めのため王には強力な味方が必要だったのだ。
そこにもたらされる事になった。病気を一瞬で完治させるポーション。竜騎士の活躍の話が遠くオウミ国から此処ビチェンパスト国まで伝わるほどの戦力になる騎竜。
そしてすべてを手に入れ、発展させるための人材たる私。
王が此れを逃すはずも無かった。而してラーファは台車の上で手首に拘束具を着け、パトス市の町中をしずしずと引き回されているのだ。
表向きの理由は、捕まっていたキク・カクタン国から助け出された奴隷の私を解放したのがビチェンパスト国の王様だった。と、演出するためだけに、こんな奴隷の格好で台車の上に立って居る。
このパレードの最後に、パストの民衆の前で王様から手枷を外して貰い奴隷から解放される演出がある。パレードのクライマックスは王様による奴隷解放ショーの後の民衆への演説となる予定だ。
私の役は台車から降ろされ、王様の前に連れていかれて、跪き、手枷の付いた両手を王様へ差し出して解放を願うのと。
解放された後、王様への奴隷からの解放を感謝し、ポーションを王様に渡してワイバーンに乗って王宮の庭へと飛んで行くまでが私の出番と言う事になる。
王様は集まった民衆へ良き出会いと病を癒すポーションについて演説して、民衆の喝さいを浴びる事になる予定です。
王様がポーションと飛竜?とダキエの姫を全て手に入れた様に見える。実質はポーションしか受け取らないのは、民衆は知らない事になる。
勿論これは国内への牽制のため、全て手に入れたと思わせているのだ。
これからの王様創作にして主演の演目を考えていた私の目に、1本の桟橋に停泊している三艘の船が見えてきた。
その桟橋には3本マストのゴドウィンたちの船が隠れるように停泊している。船に人が少ないのは、今頃は船員が町へと散っているからだろう。
武装商人トマーノと出会ってビチェンパスト国へゴドウィンの船団が亡命したいと告げた時は、最初良い顔をされなかった。
当然、これまでの海賊行為で散々恨みを買っている訳で、すんなり亡命が認められる事はゴドウィンも思っていない。
そこで亡命が受け入れられるための手土産で在り、キク・カクタン国の情報なのだ。
その時点まで私は、手土産の内容を知らなかった訳だけど、知ってれば躊躇したと思う。
だけど、躊躇したとしても結局はゴドウィンの話に乗ったと思う。
ゴドウィンが言う王様への紹介は、私としては何としても欲しい。一人の民間人では無く、王様の伝手が在ればビェスを探すのが格段に探しやすくなる。
恐らくだけど王様が知っている人物の可能性は大きいと思っている。ビェスの家は貿易に関わる傭兵団だから。
ビェスに会えると思えば、パレードでさらし者にされるのも、一時の我慢だ。
次回は、ビチェンパスト国へ来るまでのキク・カクタン国からの旅路。




