第38話・1 御位《みくら》
この国の終わりの始まり。
この椅子の作り手は、イスラーファの記憶が確かならガーランドで決まりだと思う。ただ、電撃の魔術陣を追加した人物は分からない。
噓判別の魔道具の元となる魔印象は、エルフの研究者として有名なヒーナニマ家の従妹同士だったアサエアスとクレスナーによって作られた。
それは、ダンジョンに住む魔物の研究から得られた成果だった。
イスラーファがダンジョンに関係する事で覚えているのは。
聖樹島にこの世界で始めてダンジョンが出来たのは、4万年前だった事。新し物好きなエルフは、ダンジョンを調べる事に夢中になったらしい。
最初の頃のダンジョンはただ魔力が濃く漂う場所でしか無かった。時間がたつとダンジョンは聖樹島を中心とする周辺にも発生して行った。
3万5千年前に魔力を持つ生き物がダンジョンやその周辺に住んでいる生き物の中から発生した。魔力を持つ人以外の生き物を魔物と言い出したのは人族だと思う。
ダンジョンへの好奇心が大きく変化したのは、魔物が発生し出して直ぐの頃で。ダンジョンに共鳴した魔物がダンジョンへと取り込まれて行ってからだった。
取り込まれた魔物はダンジョン内で魔核生物と成り、殺されても再出現すると言う不死性を得た。
魔物の研究からこの世界の魔力を持つ生き物全ては魔紋を持つと発見したのはアサエアスだった。
彼女は魔紋を発見し疑似魔核を予想した。従妹のクレスナーは疑似魔核の理論を用いて魔印象を作ったと記憶している。
彼女らが魔印象の技術を確立させたのは、1万年位前だったと思う。その数千年前頃からエルフの中に魔物のダンジョンでの生態を研究する者やダンジョンその物を研究する人達が増えた。
魔核が魔物の生命情報を持っている事は、この研究が発表されてから理解が進んだように記憶している。
大雑把な知識だけど、一度死んだため忘れている事も多いと思う。
私が生まれたのは、魔力を持つ生き物が生まれ始めた頃だった。名前が思い出せない夫と結婚するまで聖樹の中から出た事が無かった私は、結婚した事で聖樹の外へと初めて出た。
魔物を実際に見たのはその時が初めてだったと思う。
聖樹の中に在る訓練施設での戦闘訓練では、魔物に似たゴーレムとの闘いは経験していたが、実際の魔物とはその時まで戦った事は無かった。
その後も私は、魔物と戦う事は在っても、魔物やダンジョンの研究をしようとは思わなかった。
エルフの王は、魔物やダンジョンの研究を嫌っていたように覚えている。やがて表立って魔物やダンジョンを研究する人は少なくなって行った。
でも、それらの研究から派生した、魔印象や魔紋は広く応用がされて行った。
嘘判別の魔道具が作られ始めたのは、5,6千年前だったと思う。でもドワーフ迄技術が浸透するのはもっと遅く4千年ぐらい前からだと思う。
そう言えば3千年ぐらい前、ガーランドもエルフの商人から頼まれて作っているとマーナニアと話した様な記憶がある。
そうだ、あの首輪を作った時期と同じ3千年前だ。首輪はエルフの長老たちからの依頼で作られたのは知っているけど。
マーナニアは嘘判別とは言っていなかったわ、自分の血筋かどうか調べる魔道具と言っていた気がする。
血筋を判別する魔道具は、確か商人のマルティーナ・カトリナスからの依頼だと聞いた。
そうなるとマルティーナから売られた血筋判別の魔道具が、此処カクタンの御位に据えられ。その後電撃の魔術陣が追加されたと言う事かしら?
改造の時期は分からないけど、マルティーナは聖樹には住んで居なかったから、聖樹が燃えた後も生きている可能性はある。彼女に聞けば何か分かるかもしれない。
御位の調査はこれでお終い。私は御位に何かをする気は無い。作り手を調べる事が目的だったからね。
撤収する積りだけど、遅かった様だ。思ったより早く上がって来た人達が居る。
守っていた方か攻めていた方か分からないけど、此の御位の在る建物を手に入れた人達だろう。
4階の上まで兵と共に上がって来たのは、御位に挑戦しようとする御子の一人だと思う。先頭に立って御位への階段を意気込んで上がろうとした。
御位の場所が見える程上がって来た時、私に気が付いて立ち止まった。
コリン君と同じ反応をしているよ、何か言っているけどコリン君と同じ事を言っているのかも。
「lkd835d!!」、「kっぢ38rjf!」、「kぃえlds9!」
分かんないけど、「お前が父を殺したのか!!」とか「穢れるから退け!」とか「敵討ちだ!」とかかな?
とうとうしびれを切らしたのか、腰の剣を抜くと私に切り掛かろうとした。
その前に散弾を撃ったけどね。
彼は、こちらが魔術を行使する事を分かっている様だった。男は散弾を躱そうとして階段を踏み外してしまい、ゴロゴロと4階へと落ちて行った。
結果として散弾を躱したのだから凄いと思うな。
落ちて行った先を見ると、今落ちた男が起き上がって来た。驚いた事に階段を落ちても大ケガはしてない様だ。身体強化スキルの金剛身が使えるのかもしれない。
周りにいる衛兵たちが彼を取り囲んでいる。彼らが一斉にこちらを見た。落ちた男が何か言ったからだと思う。
敵意が殺気に変わったのだろう、彼の一声で指示が周りの衛兵に伝わった。御位の周りを囲むように衛兵が展開して、一斉に弓を構えた。
後ろは囲めないので3方だけだけど、これで逃げ場が無くなったと彼らは思っているんだろうね。
笑い猫の影隠が私にはあるんだよ。
御子たちが4階の上まで移動した方法は閑話で名前だけ出てきます。
次回は、御位に暗殺者を見つけた御子の自業自得の行いです。




