第37話・1 御位《みくら》の椅子(1)
御位の事を聞いたラーファは、宮殿に確かめに行きます。
ゴドウィンの話を聞き、御位が嘘判別の魔道具なのか調べる必要を感じた。もし魔道具なら樹人の関与が疑われる。
魔道具なら樹人の誰が作ったのか分かるかもしれない。そして今回の裏に潜む樹人(絶対にエルフの女ね)が誰か分かるかもしれない。最低でもキク・カクタン国の建国に関わったのが誰か分かるだけでも良い。
ゴドウィンを連れ出すのは、私より腕力の強い男が側に居る事になる、それはとても怖い。昨日の夜まで首輪のせいで魔術が使えなかった私にとって力のある男は側に居てほしくない。
「ゴドウィン、この船にあなた以外に中央大陸の標準語(シリル語)が話せる者は居ないの?」
ゴドウィンは首をかしげながら答える。
「何人か居るが、如何される積りで?」
「女性で喋れる人は居ない?」
私の問いかけに、ゴドウィンは首を振る。
「陸なら何人も居るが、この船には積んでない。」
女性は物扱いですか、「積んでない」なんて言いぐさに怒りがこみ上げます。
ゴドウィンが私が通訳を探していると察したのか、続けて言ってくる。
「女より増しな奴が居るぞ、俺ほどじゃあ無いが経験もある。」
そう言って、乗組員の中から一番小さい男の子? に指で招くような動作をして言った。
「コリン! こっちへ来い。」
呼ばれた子は、二人の会話をしている場所へ子供にしては素早い動作で近寄って来た。
ゴドウィンは子供を引き寄せ、頭に手を置き此方へ向いた。
「俺の息子の一人だ、コーデリカルンと言う。」
「コリンと呼んでやってくれ。」
ゴドウィンが側の12,3才位に見える子供を私に紹介した。その子はラーファがこの船で見た事が無かったので、港に着いてから乗船してきたのだろう。
彼の息子だと言う男の子を連れ出して良いのだろうか? 見た所12才前後だと思う。
私より力が強いようには感じないので、側に居て通訳して貰うのに都合は良い。
「ゴドウィン、 通訳が出来るのなら、王宮に連れて行きたいけど大丈夫?」
ラーファが通訳が出来るのか疑問に思って聞くと、「大丈夫だ、これでも港で奴隷に対して通訳をやらせているから、早く正確に通訳する事にかけちゃあ旨いもんだぜ。」と自慢そうに言った。
奴隷との通訳とは、なんて酷な仕事をさせているのかしら。こんな幼い時から世の中の裏側を見て行けば、父親の様な海賊船長に成るのかもしれない。
このキク・カクタン国がいよいよ嫌いになった。
代わりが居ないのもあり。親が連れ出すのを了承している事だし、私と一緒に王宮に連れて行く事にした。
「分かった、この子を連れて行くけど、王宮の内部事情はどの程度知っているの?」
「うーん、ほとんど知らないが、俺もほとんど知らないから同じだぜ。」
ゴドウィンの言い方がだんだん元に戻っている気がする。
やたらと胸を張って知らないと言って来るが、先ほどの王宮の事情を適格に知っていたゴドウィン程は知らないと思う。でも王宮で話す言葉を直訳してくれれば、推測は出来る。
私は御位を魔術的に解析出来れば良いので、簡単な通訳ぐらいなら、この子でも使えると思う。
海賊船長の息子だと言う事なので油断できないけど、危機察知が在れば攻撃前に防げると思う。今のこの子の反応は好奇心を刺激されたのか少し赤い緑色をしている。敵意はあまりなさそうだ。
父親から何か言われて率直にラーファへ近寄って来た。ズボンにシャツ姿で腰に子供用の長さの短剣をベルトで吊り下げている。この子にとって自慢の品なのか常に左手を短剣に置いている。
「名前はコリンで良い?」と少年に聞く。
「・・・はい、おいらコリンって呼ばれてる。」少し怯えているけど、率直に答えてくれた。
この少年は、ゴドウィン船長と同じ黒髪に目の色だけ船長の茶色と違って青い色をしている。顔つきも少年らしく柔らかく、なかなかなハンサムさんだ。少しタレ目なのが愛嬌がありそうで、これが将来海賊船長の様なゴツイ無精髭の男に成ると思うと、無常を感じる。
「この子を借りていく事にするよ、ゴドウィン船長はここで船を止めて、夕方にラーファが帰るまで待てますか?」
「まぁ、元々船は補給が終わるまでここに停泊する予定だったからな、明日迄でも待てるぞ。」
「そうですか、では、行きます」
コリン君を覆うように、笑い猫の闇隠を広げ中に入って貰った。船長たちからは、いきなりコリン君が消えた様に見えるだろう。土ゴーレムも回収した。
笑い猫には王宮へ戻る事を命令する。
「始めましてコリン君、私がイスラーファよ」
「床に座って待っててね、ここは私の使い魔のねぐらの中なのよ」いきなり現れた私に少し戸惑っている様だ。
「へぇー、あんたがイスラーファって呼ばれている邪神の娘?」
この国の男らと同じで女には強気に出れる様だ。「邪神の娘?」いきなり失礼ですね。先ほどまでの怯えから一転してへらへらと、此方をバカにしているのかしら?
次回は、王宮の御位へと行きます。




