第36話・1 海賊船長の話(1)
ラーファが聞いた海賊船長の話です。
船の船尾に場所を移して、海賊船長と話す事にした。
海賊船長が周りを取り巻く乗組員に椅子を持ってこさせた。私を恐れている乗組員たちが慌ててイスを2つ持ってきた。
ゴーレムの頭辺りに椅子の座るところがある、ゴーレムに登れと言うのかな?
海賊船長はテーブルや日差しを遮るテントを用意するように指図し終わると、私に向かい合う椅子に座った。
「俺に何を話させる積りでしょうか?」
私も椅子に這い上がると向かい合って座った。海賊船長も土のゴーレムと向かい合うのは居心地が悪そうだ。
色々聞きたい事はあるけど、この国について何も知らないので、前提となる知識から話して貰う事にした。
「最初にあなたの事と、この国について大雑把で良いので説明してほしい」
海賊船長は少し拍子抜けした様だが、自分の事から話始めた。
「俺は、ゴドウィンと言う、家名は最初から無い。」
「十年ぐらい前から海賊の船長をしている。」
「生まれはモルバ族の出身でオウミ国の黒の海沿岸の漁村で生まれた。」
名以外は無いらしい、まぁ名乗れないのだろうが、彼に思い入れも無いラーファはそれ以上の事を知りたくもなかった。
名前を知ったので、海賊船長改め、ゴドウィンにこの国についてどんな国か聞いた。
「このキク・カクタン国とは女性を極端に蔑んでいるように感じました」
「この国の宗教や何時頃、国として成り立ったのか、ゴドウィンが知っている範囲で良いから話して」
ゴドウィンはそこからか? とでも思ったのか、顔を顰めたが気を取り直して言ってきた。
「ちょっと待ってくれ、考えを纏めるから、それに日差しも強くなってきた、テントも用意出来たみたいだから先にテントを張りたいが良いだろうか?」
了解すると、乗組員の内数名が、船尾に近い帆柱と船尾に繋がれたロープに帆布を掛けて日陰を作ってくれた。
その間に考えを纏めたのか、ゴドウィンが喋りだした。
「この国はキク・カクタンの双子神を拝める宗教国家だ。」
「キク・カクタン教の信者がこの地に住み始めたのが3千年前だそうだ。」
「ほれ、俺の上役であなたを迎えに来た”王の使い様”、御使いハリヤーデ様が言っていた話になる。」
チョット長い話だったけど、纏めると。
国の成り立ちからして宗教が関わっていたらしく、国家として成り立つ前からこの地に住んでいた人たちの集団がそのまま宗教集団として纏まり国を作ったのが、始まりだったらしい。
最高神であるキクとカクタンの2神は双子神で、対極の存在として位置づけられていた。私の感想だけどキクって樹人の国ダキエの聖樹の事で間違いなさそうだ。なにせ北の海の彼方に在る島にその御位が在るとされているのだから。
逆にカクタンはこの地の王宮の中に在るそうだ。どうやらあの争いの在った5層の建造物がカクタンの御位になるようだ。
南大陸の事を全然知らなかったラーファにとって初めて知る南大陸の事柄だった。つくづく樹人の対外的な情報の疎さにあきれる。
ラーファには宗教的な事は良く分からないが、人族にとって3千年の歴史は結構な長さの歴史があるそうなので、人族としては古い宗教なのだろう。
ゴドウィンの属する海賊の集団についても話してくれた。
彼らは雑多な人の寄せ集めで、南大陸以外の中央大陸からも人が集まっている。中央大陸出身者はほとんどが海賊に奴隷にされた男らで奴隷から解放される条件で海賊に成った。
ゴドウィンの様に自分から海賊に成りに来たような人はほとんどいないらしい。
言葉はキク・カクタン国のカクタン語が共通語になる。南大陸側の中の海に面した沿岸部一帯で話されている。南大陸の奥地へも隊商を通じて商売する際の共通言語になっているそうだ。
キク・カクタン国は南大陸の中の海沿岸地域から結構奥地まで勢力を及ぼしていて、属国になる国が多いと聞いていると話してくれた。
そしてこの国は全ての男はキクとカクタンの双子神に帰依していて、この地をカクタンの座す御位として聖地と崇めている。
男だけが人で在って、女はこの地ではただの男の持ち物に過ぎない。キクの地では逆になると神話が教えているそうだ。
そのため中央大陸の西側の国々(ビチェンパスト国やオウミ国、ロマナム国などの北から西の国々)を女の治める地として、いつの日にか男の治める国へと調伏しないと世界がキクで覆われて滅びると信じている。
ビンコッタ海戦で死んだルクデス王はこの神話に基づき、中央大陸へと侵略しようと軍を派遣した。中央大陸の西側の人々は、全てキク・カクタン国の治めるべき人々であるそうな。
つまりは、王様の持ち物らしい。
次回は、ラーファ襲撃の話です。




