第35話・3 脅迫は話し合いの前座です
シリル語を話せる男を話し合いの席に座らせる方法?
腰を抜かした海賊船長が、出来るだけ平静になる様に声も抑えて挨拶します。
「驚きましたか? 今頃王様の宮殿であ~んな事やこ~んな事をされていると思ってたでしょ!」
声は抑えたけど、ついからかってしまった。
「驚いたぜ!! お前王宮でとんでもねぇ事仕出かしたんだって?」
あら? 意外と立ち直りが早いですね。それに王宮の出来事もいち早く掴んでいるし、抜け目のない男ですね。情報提供の見返りにお金と言う妥協も考える必要が有りそうです。
でも、最初が肝心ですから、盛大にビビらせてあげましょうね。
「ええ、あなたも少しは知っているようですから、私の力をもっと詳しく知って頂きますね」
『キーグ、出て来て下さい。ラーファが居る船の周りをまわりながら次の指示があるまでそのままで待機してて』
海賊船長へのちょっとした圧力になってくれるでしょう。キーグが現れて、この船へ一直線に降下してきます。
彼らの叫びは翻訳しなくても分かりました。そんなに意味は違わないでしょう。
「klどr5(ギャー、飛竜だ)!!!」、「ld8fd(助けてくれー)!」
甲板に居た海賊船長を含めた全ての人が物陰に隠れようとしています。その中で一人立って居るのは土のゴーレムだけです。小さすぎてワイバーンからは見つけにくいでしょうね。
「海賊船長、あのワイバーンは私の騎乗するワイバーンです、ですから私の命令には従います」
「なんじゃとー!!! あれが人の乗り物なのか? 馬鹿な!!!」
今回は神域から出て来て貰っただけなので、馬具ならぬ竜具は着けていません。
キーグが船の周りを回り出しました。時々「キェー」と声を発しているのは見慣れない光景に好奇心を持ったのでしょう。
首をキョロキョロさせて港を見ています。この光景を見て港中がパニックに陥っているようです。水を補給していた船もこの船から離れようと慌てて櫂で漕ぎ出し、ホースが切れてしまいまました。
桟橋でも人が逃げまどって大混乱に成っているようです。
「お、おれたた、俺たちをどどうするつももりだ?」
キーグから目を離さずに、私に聞いてきますが、声がきょどっていて海賊船長の名が泣きますよ。
「ただあなたから今の状況を聞きたいだけです、話してくれますよね?」
「は、話さない時はあれを嗾けるのか?」
そうですね、もう少し脅しておきましょうか、そうすればお口が滑らかになりそうです。
「海賊船長、あの河口の塔は、今人が詰めていると思いますか?」
「なんだと河口に在る関門の塔か? あそこは港の防衛のためにしか動かさんから人は居ないが、・・・何故そんなことを聞く?」
海賊船長に無言で土ゴーレムの手を上げて関門の塔へ向けて手を差し伸べる、同時にキーグへ命令した。
『キーグ、川の出口の高い建物が2つ並んで建って居る、近い方をブレスで壊しなさい』
「キェーッ」
キーグが甲高い声で分かったと答えます。船を回る事から上昇へと変え、船から離れる。加速しながら河口の塔へ急降下してブレスを浴びせます。
ブレスは塔の中央に命中して、大音響と共に塔の中央部分を吹き飛ばして、塔を崩壊させました。鎖が切れたのかガラガラと水に落ちて行きます。
魔術に火球と呼ばれる魔術陣が在る、使う魔力次第では最高の破壊力が有ると言われる。ワイバーンのブレスはその最高クラスの火球に匹敵する。
オウミ国の盗賊退治で見たブレスより、一段と魔力の乗ったブレスだった。
船の中だけで無く、港中から悲鳴や怒号が聞こえてきます。
「ウワァー!!!」「ヒィーッ!」「ウエンウエンz??」「ヘルプネン!!!」
船長は蒼白な顔をして、放心したように崩壊した塔を見つめています。
キーグは命令を実行すると、ほめてーと言うようにラーファの居る船に戻ってきた。
『良くやりました、キーグ、ではまた命令があるまで船の上を回っててね』
キーグが再び船の周りを回り出して、しばらく静かな時が流れた。放心状態の海賊船長がぶるぶると震える様に身動きする。どうやら動けるように成った様だ。
いきなり甲板に膝を着いた。膝を甲板に付けて両手を祈る様に組み、土のゴーレムを見て懇願した。
「あなた様に、御慈悲をお願い申し上げます、如何か我らへ上のワイバーンを嗾けないでください、お願い申し上げます。」
船長の様子を見た乗組員全員が同じ様に甲板に膝を着いて懇願する姿勢を取った。
海賊船長は抵抗する気を失くしたようです。全面降伏してきました。
次回は、話し合いの前座は終わったので、船長から話を聞きます。




