第34話・2 敵対する者達の動きを推理する
ラーファは誘拐の背景をマーヤの話から推理する。
マーヤが今一番聞きたい事を聞いて来たのはお互いの話が終わり一息ついた頃だった。
「この後ラーファは、どうする積り?」
私の心は決まっている。
「ラーファはマーヤたちと合流しないよ」
「カークレイ様たちに会いたいけど、お別れはしてるからね」
元々旅立った理由が神聖同盟に目を付けられたオウミ国から離れる事だった分けだし。私の目的地はビチェンパスト国なのは変わらない。
「もう少しこの国で調べたい事が在るの、ラーファの事をキク・カクタン国がどうして知ったのか疑問が残っているから」
今の私にはベロシニア子爵への関心は既に無い。マーヤの話だとミンストネル国のダンジョンの中で散々打ちのめしたようなので、私から仕返しをする気は無くなった。
でもベロシニア子爵と行動を共にしている闇魔術師らの動向は把握しておきたい。マーヤの話から推測すると、エルフの男一人とその眷属二人から成る3人で、魔術師としても高い技能を持って居る様だ。
彼らの暗躍で私は今回ひどい目に遭った訳だけど、油断して良い相手ではなさそうだ。
馬車の中で聞いた、ベロシニア子爵の話や、カカリ村でマーヤが遭遇した闇魔術師らがダンジョンコアの部屋から慌てて逃げた姿から判断すると、マーヤから逃げた闇魔術師達は、そのままベロシニア子爵の屋敷迄逃げて、ベロシニア子爵にかくまわれた様だ。
彼らとベロシニア子爵の共謀で私は捕まったのだが、日付からすると、逃げた闇魔術師達はベロシニア子爵とそのまま王都へ行き、ウラーシュコへは王都のベロシニア子爵の下屋敷から馬車で移動したのだろう。
時間を遡って考えるとマーヤから逃げて、その夜にもベロシニア子爵を連れて王都へ移動したと考えなければ、13日にベロシニア子爵がキラ・ベラ市に居た証拠が矛盾してしまう。
闇魔術師の闇隠が大きいと言っても馬車や使用人迄は無理だろう。彼らは何処で馬車と使用人を手に入れたのだろう? 王都のベロシニア子爵の屋敷しか考えられ無い。
人数にしても闇魔術師はウラーシュコでは別行動だとしても、ベロシニア子爵と私を襲った2人に御者が一人の最低3人使用人がいた。
馬車で移動中は監視のため馬車に複数の女性がいた気がする。そうなると最低でも5人になる。
女性はウラーシュコで雇ったのかもしれないが、その時の私には気にする余裕はなかった。
馬の疲れなど闇魔術師が居ればポーションで回復するだろうし、ベロシニア子爵の使用人が危機察知に引っ掛からなかった事も移動中に洗脳したとすれば説明がつく。
15日にウラーシュコに居る為には、王都を14日に馬車と使用人を連れて出なければ計算が合わない。出発してから闇魔術師が使用人らを洗脳して、私の危機察知を掻い潜らせたのだろう。
とすると私の誘拐は現地で考えた事の様だ。
王家の宝物庫から首輪が何時すり替えられたのか、知らないが、闇魔術師らが王都に着いた日にすり替えたのなら、彼らはとても忙しい思いをしただろうと思う。
眠らずキラ・ベラ市から王都へ移動し、ベロシニア子爵は屋敷へ、闇魔術師らはそのまま宝物殿へ行き首輪をすり替える。その後ベロシニア子爵の下屋敷に行き合流、ベロシニア子爵が用意した馬車と使用人を率いて、ウラーシュコへ向かう。一日中飛ばしてウラーシュコに15日の朝到着する。そして私を探し出して誘拐する。
今思えばベロシニア子爵の覇気の無い態度は、疲れから来ていた訳だ。
私がウラーシュコに船で着いたのは15日の朝だったけど、ベロシニア子爵らも同じ朝にウラーシュコに着いたとしか考えられ無い。
もし、ベロシニア子爵らに見つからずに船へ戻れていたなら、キク・カクタン国の海賊はビチェンパスト国の船団を襲っただろうか? そうなって居れば火球を叩き込んでやったのに。
マーヤの話から分かるのは、オウミ国内でのベロシニア子爵らの動きぐらいだ、キク・カクタン国の海賊が何故あの時に襲撃出来たのか? 何処から情報を得ていたのか、その話からでは分からない。
うん、今度は別の怒りが込み上げてきた。なんだって私をそんなに何重もの罠に嵌めて子供を産ませたいのだか知らないが、背後で蠢いている奴らにいい加減怒りをぶつけたくなった。
今はそんな事より、マーヤが今何をしている最中なのか話を聞かなくちゃ。
「マーヤは傭兵に成ったんだよ、今は9級になってダンジョンにも入ってるの」
「今日は、ミンストネル国から川を下る船に乗って次の国へ移動中だったの」
「マーヤ、神域に入ったら船に置いて行かれるわよ」
船室から入ったのなら、その時の場所から神域の入り口は移動しないから、船の移動で神域の入り口は船から離れてしまう。
「大丈夫だよ、笑い猫を召喚して闇隠の中に入って追いかければ、戻れるから」
「あら! そうよね置いて行かれても追いかければ良いのよね」盲点だったわ。
マーヤはカカリ村のカークレイ様たちやポリィーの一家と私を探す旅をしている途中らしい。私が無事? 逃げ出せたので目的は達成できたけど、手に入れたいものができたそうだ。
エルゲネス国の闇魔術師がミンストネル国の王都に在るダンジョンの中で戦った時、私が宇宙樹の種を持っている事を指摘して、『ゆりかご』と呼ばれる魔道具が宇宙樹を種から実生に育てる時に必要だと言われたらしい。
マーヤは私を助ける事を目的に旅を続けていたが、助けた後は『ゆりかご』の材料を集めるためにダンジョンを攻略していく事を考えているそうだ。
マーヤに託した宇宙樹の種、それを実生まで育てるために必要な『ゆりかご』と呼ばれる魔道具を作るには、種一つに付きダンジョンコアが最低でも1つ必要だと言われたらしい。
イスラーファの知識の中には確かに『ゆりかご』の事は覚えているけど、作った事がないので材料ぐらいしか分からない。
確か。魅了の大きな物を種の数だけ用意して、魔力が一定の量留まっていられる器と土が必要だったはず。土には魔金属が豊富に含まれている必要もあり、錬金で作った土だと記憶している。
マーヤに私が覚えている知識を伝えると、カカリ村の皆と相談して今後の事を決めるそうだ。
『いきなり神域へ飛び込んだので、みんな心配していると思うから、マーヤは帰るけど、念話は切らさないでね』
念話で念入りに念押しされた。しばらくは念話での会話になるらしいので念話を頻繁にする事になりそうだ。
マーヤから夜は必ず神域に居る様に言われたのも在り、夜は神域の家で寝る積りだ。
幸いマーヤが昼夜などの一切を制御している神域と、私が居る現在地との時差は大してなさそうだから昼夜が逆転するような事は無いだろう。
次回は、王宮を調べたラーファは戸惑いを覚えます。




