第34話・1 久しぶりの神域
マーヤと久しぶりの語らいです。
神域の中の家へ歩きながらマーヤへ念話を飛ばす。
『マーヤ、返って来たよ!』
『・・・!!!』
『マーヤ、ラーファだよ、やっと軛から解放されたんだ!』
『あぇ、ラーファ?』
『そうだよ、ラーファだよ』
『ラーファ!!!、ラーファなの?』
『間違いなくラーファさ!』
『ラーファ!!!』
後はマーヤの号泣の念が伝わるだけになった。マーヤに心配をかけた様だ。
神域で体を洗い、乳香や媚薬の入り混じった物を洗い流す。口を漱ぎ竜騎士の飛行服を着る頃にはマーヤも神域の家へ走って帰って来た。
しばらくマーヤと抱き合っていた。この2ヶ月間積もる話もあるけど、無事だった事を嚙み締めよう。
首輪を解除できなければ、最悪の事態になっていただろう。口の中で魔術を行使できても毒ぐらいしか効果的に相手を倒す方法は思いつかなかった。
毒であの男、キク・カクタン国の王を倒せば最悪ラーファも殺されただろう。今は神域が在るからあの男を殺しても余裕で逃げられる。
今後の事は、マーヤと話をしてから決めれば良い、時間は十分にあるのだから。
しばらくして落ち着きを取り戻した、マーヤがラーファに誘拐された時の事を聞いて来た。
お互いに身を寄せ合って椅子に座ると、ラーファはマーヤへこの2ヶ月間の出来事を話始めた。
ウラーシュコでのベロシニアから呼び止められた事。
危機察知に引っ掛からない従者から首輪を嵌められた事。
馬車に乗せられ、ベロシニアと話して、エルゲネス国の闇魔術師とベロシニアが取引をしてラーファとマーヤを協力して罠に嵌める事にした事。
南へと移動中にキク・カクタン国の海賊から攫われた事。
馬車で海まで連れてこられ、船に乗せられた事。
2ヶ月に及ぶ長い航海の末、キク・カクタン国の港に近づいた時、迎えの船が現れた事。
王の代理人と名乗る男に船を乗り換える様に言われ、乗り変えた事。
船でキク・カクタン国の王都に在る港まで連れてこられた事。
王宮迄輿に乗せられ、王の後宮に連れ込まれた事。
生前のイスラーファの記憶を思い出そうと頑張った事。
マーナニナの事を思い出した事。
首輪の開錠が出来た事。
襲って来たキク・カクタン国の王を殺した事。
全て正直にマーヤへ話したけど、女官長の事はさすがに言えなかった。
今度はマーヤの話を聞く番だ。
マーヤはウラーシュコでラーファが攫われた、その日の夜にはその事実を掴んで行動していたそうだ。
「あの時(9月15日)神域でラーファを待っていたの」
「でも夜の3時(午後8時)になっても来ないから、心配になって使い魔にラーファを探させたの」
「ウラーシュコの町をラーファの匂いを追いかけたら、道の途中で途切れていたの」
結局ラーファが馬車に乗せられた場所で匂いが途切れ、それ以上追跡できなかったのだろう。
マーヤはラーファの身に何かが起こった事、神域に入れ無い事、念話が通じない事などからダキエの首輪を真っ先に疑った。そして、ベロシニア子爵を疑い、家宅捜査まで行い、ガランディス伯爵が情報源だと突き止めた。
更にエルゲネス国の闇魔術師の事も在る程度調べていて、王家の首輪がイスラーファに使われた事、オウミ国の宝物庫には偽物が置いて在る事まで調べたそうだ。
まだ7才のマーヤがたとえ彼の方の知識を持っていようともここまでの判断力と行動力を持っていたとは、ラーファは改めてマーヤの成長とその能力の凄さを思い知った。
そしてマーヤがその時どんなに悲しんだ事かと、ラーファはラーファをマーヤと置き換えてみた。その途端、思いもよらない自分の荒ぶれる心の闇の深さを思い知った。
ラーファはその時、関わった男らへの破壊的衝動を感じてしまった。いや男らだけでは無い、ダキエのエルフの中に居るラーファ親子への一連の事件の根源。ダキエの首輪を3国へ渡したアーノン・ススミの雇い主、エルフの女が居る。
エルゲネス国の闇魔術師らがこの女と如何関わっているのか分からないが、何処かで繋がっているのは間違いない。
ラーファはこの憤りを一端心の奥へとしまい込んだ。今は敵の事をもっと知るべきだ。
次回は、マーヤとラーファの話から分かって来た敵の行動です。




