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傲慢な男らと意固地な女  作者: 迷子のハッチ
第3章 南の国
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第33話・2 思い出せ!解除へのキーワード!!

 王のした、許されない事。

 男と女、いや男女、種族、歳の多寡にかかわらず性欲は存在する。種族や年齢によって其の現れ方は違えども、根本の生命を繋げる行いである事に違いはない。

 ラーファだって夫との夜の営みでマーヤを身ごもった訳だし、魅力の多い樹人でも性欲は人族と変わらない。


 だが、今女官長を殴って血だらけの拳をふるっている男は明らかに性的に興奮していた。何せこの男はほとんど服を着ていないかった。どうやら湯上りにロープをひっかけただけの恰好でこの部屋へ来たようだ。

 興奮してそそり立つ見たくも無い物を見てラーファはインベントリ(腕輪の空間収納)の出入り口を再び指1本分にした。

 気絶している女官長に悪いことをしたとは思ったが、興奮した男に見つかる事は同じ目に遭う事だと理解した。


 殴る事で自分の性欲を満たし、性欲の対象がどんな気持ちでいるのかさえ自分の性欲を昂らせる一助とするようなこの男はラーファには理解できないし嫌悪感しか感じない。

 何が嫌だと言えば、そのどす黒い欲望の独りよがりで他者を虐げる事を喜びとする心の在りようが許せない。


 抵抗する術も無くこの男の暴力にさらされている女官長は、助けるすべの無いラーファにとっても、耐えるしかない責め苦の時間だ。ラーファはどうにかして助けたいと思うが、その為にも首輪を作ったドワーフの妻を思い出す事が必要だ、全力で記憶を手繰り寄せる事に集中して行った。


 ダキエの聖樹では、ドワーフの男との付き合いはエルフの女にとって注意を払っても払い過ぎではない鬼門だ。エルフの女はドワーフの女を奪う存在では無い。では何故鬼門なのか、それはドワーフの男を奪う女だからだ。

 エルフの女が誘う相手は、全ての種族の男だ。当然ドワーフの男も含まれる。その事が妻や娘を大切にするドワーフの男らからすれば許されない行いになる。

 誘惑されたドワーフの男は社会的地位をその瞬間に失うスキャンダルだ。妻の家族や娘の夫として期待されている男の裏切りはドワーフの社会全体への反逆でしかない。その結末はドワーフの社会からの追放しかない。

 当然其の事態を引き起こしたエルフの女へはドワーフ族を上げての報復が待って居る。たとえエルフの女にその気が無くて、ドワーフの男との一夜の恋だとしても。


 そう言った紛争の火種を解決するのも王たちの仕事だ。ドワーフの男を追放し、エルフの女に復讐を誓うドワーフたちに報復するがままにしていてはエルフの女たちからも反発される。

 エルフ対ドワーフの戦争になる前に、大概そのエルフの女を聖樹から追放する事で事態を終わらせる事になる。エルフの女王とドワーフの王の仕事の大半はそんな揉め事の解決らしい。


 イスラーファも次期女王として少しずつ学んで居たから知っている。


 だからエルフの女はドワーフの女としか話さ無いようにしている。ドワーフの男の顔を見るのも仕事を頼む時ぐらいだ。でも妖精族から変異したイスラーファは別だった。ドワーフの男女を問わず親しく付き合う人が多かった。イスラーファは妖精族出身だから安心だと思われていたから。

 マーナニアもそんなドワーフの一人だった。どちらかと言うと親しい友人だと言える。聖樹の太い幹の終端部分に在るエルフの女王の宮殿、宮殿は幾つかの枝分かれする部分へと広がる聖樹の中に広がっている。イスラーファの私室はその枝分かれした一つに作られていた。


 まだ妊娠する前だった、子供を身ごもる事を期待され、イスラーファ自身も希望していた。周りの期待の高さに辟易したイスラーファがドワーフの友人を呼んで、おしゃべりで憂さを晴らそうと庭園でお茶会を開いた時の事だと思う。

 招待したマーナニアとのおしゃべりの中で魔封じの首輪の話が出た。彼女は夫の作った首輪を険悪していて、思いつめた末にイスラーファに言って来た事を思い出した。

 『イスラーファ、覚えておいてね、首輪の解除の言葉は、夫が私の愛称のマーナニーアを『開け!』の後に言えばたとえ首輪をされても開錠出来るからね、これは夫の首輪を悪用される事への危惧を感じたからなの』

 そうだ思い出した。『開け! マーナニーア!』


 首輪が床の上に落ちた。


 ラーファは首輪が外れると女官長の事が気になり、急いで外へと出た。そこは悲惨な状態となっていた。


男は赤い絨毯に横たわる女官長の上に跨って、まだ殴っている。殴られる度、女官長の首は力なくブラブラと揺れている。遅かったのは見れば分かる、男はあれから殴り続けていたようだ。

 男はベッドに降り立ったラーファの足音を聞くと振り返った。

 「****!」にやりと笑った男は女官長から離れると、ラーファへ向かって近寄って来た。


 男はラーファに手を伸ばした。その顔は欲望だけがギラギラと燃えさかり既に理性のかけらも見えない。その目は獲物を見つけた獣の目だ。

 ラーファは女官長を助けられなかった事を嘆く暇も無く男の欲望にさらされた、手を伸ばした男はラーファの胸を覆う布地を掴んだ。引き寄せようとするだけで一枚の布地で体を覆っているサリーはほどけてラーファの体を離れ男の手に残った。


 ラーファの裸身を見た男は、一瞬で暴力から欲望へのフィニッシュへと変わり、獣の如く襲い掛かった。残渣の如く残る暴力のはけ口にと、抱き寄せる前に拳をラーファへ叩き込もうとした。

 ラーファは魔力をそのまま周囲へと爆発的に噴出させた。周りに控えていた女らもラーファを今まさに殴ろうとする男も、全て吹き飛ばされた。


 ラーファは男への、拒絶の言葉の代わりに必殺の魔術を行使した。

 『氷槍アイス・ジャベリン!』


 そう、男の暴力と欲望の醜さは、ラーファに男を許そうなどと言う思いの欠片さえも浮かばせ無かった。


 至近距離から行使された氷槍アイス・ジャベリンは、魔力を当てられ吹き飛ばされる男の胸板へ深く刺さり、男を赤い絨毯へ弾き飛ばした。

 「「「きゃあ!!!」」」周りを取り巻く女達が悲鳴を上げた。


 男の胸に刺さった氷柱を中心に氷が体全体を覆っていく、男は断末魔の声を上げることなく死んだ。


 ラーファは普段は土槍ジャベリンを使う、だが相手を確実に殺そうとするときは氷槍アイス・ジャベリンを使う。

 氷槍アイス・ジャベリンは少しでもかすればそこから凍り付いて相手を確実に殺す、文字通りの必殺の魔術なのだ。


 吹き飛ばされ悲鳴を上げていた女たちも、手動の扇風機を回していた女たちも、声も無く白くなって行く男を身動きもせず見ている。仰向けに倒れた男は凍り付いた真っ白な氷の結晶に覆われて息絶えた。

 白くなって死んだ男とラーファが居るベッドの間に、死んだ女官長の体が横たわっている。間に合わなかった事を悔やんでも、死者は生き返らない。


 ラーファは腕輪の中に落ちていた首輪を手に取ると、神域へ首輪の持ち込みを許可をした。そして久しぶりの神域へ入った。2ヶ月位神域に入れなかった。さぞかしマーヤは心配しているだろう。


 次回は、久しぶりの神域へ帰ったラーファです。

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