第33話・1 嫌な男
キク・カクタン国王の寝室へ連れてこられたラーファ。
女官長に手を引かれ見知らぬ大きな部屋へと連れ込まれた。
中は何人かの侍女が居るだけで王は居なかった。ラーファは手を引かれたまま中央の盛り上がった場所へと連れてこられた。
この盛り上がった場所は赤い絨毯を引いた部屋の真ん中に巨大なクッションを何枚か重ねたベッドの様だ。上に掛けられたシーツは肌触りの良さそうなベルベットで掛布団は絹で織られた物が置かれて在る。
女官長に手を引かれてその巨大なベッドの中央へ連れてこられた。
「ここで座って、王の御なりを待つのです」
「王の為される事に逆らってはいけません」
「王の希望を素直に受け入れなさい、分かりましたね」
当然分かりませんし、待つ積りも在りません。女官長が手を離せば、直ぐにインベントリへと逃げる積りです。女官長はなかなか手を放してくれません。何やら気がかりな事がある様で、頻りにラーファの様子を見ています。
周りの女達もラーファを見て、おかしいと感じている様です。媚薬の効果を考えれば、これまで媚薬を塗られた女たちは、粘膜から吸収された媚薬の効果で性的な興奮と痴態と言える悶え方を見せていただろうから。
ラーファは下半身の火照りはあれど、性的な興奮などは起こしていない。それを女官長や周りの女達が不思議がっているのだろう。
そんな周りの事よりも、今のラーファは手ごたえがあった解除キーワードを探す事に全力を挙げたい。女官長が早く手を離してくれることを願っていた。
そんな傍目からは茫然とした様子が媚薬の効果が少しはあったと思われたのか、やっと女官長が手を離してくれた。
急いで周りを見回し、逃げる隙があるか伺います。大きな部屋に侍女と女官長たちが10人は居ますから、逃げ出せばすぐに捕まるでしょう。
時間も無いようですからこの場所で、ベッドへ倒れ込むようにしてインベントリへ逃げ込みます。
ラーファが忽然と消えた様に見えたのでしょう。侍女や女官長が上げた声が大きく響きました。
「klbf904q3!」、「df435?」、「消えた! 何処へ行った?」
女官長の一際大きな声が聞こえます。
「kjf83584ぢ!!!」探せとでも言っているのでしょう。
インベントリに逃げ込めたと言っても、移動は出来ないので首輪を外す必要が有ります。
ラーファは必至だった。「マーナニナ」彼女の名前がキーワードなのは間違い無い。探らねばならないのはマーナニアの夫が彼女を呼ぶ愛称だ! それが解除のキーワードのはず。
『開け! マーニャ!』ダメか。
『開け! ニナ』これもダメ。
思い出せ、マーナニナの夫が彼女を呼ぶ愛称を一度ぐらいは聞いているはず。解除キーワードを探す事に没頭しているラーファに外の騒ぎが一段と大きく聞こえてきた。
王が来たのかもしれない。今インベントリの出入り口はベッドの赤いベルベットの上に少しの隙間を開けている。隙間は音が聞こえる様に指が入るくらいの幅にしてある。
「**********!!」明らかに命令し慣れた、声が聞こえてきた。
「きvxc8fが」女官長の声の様だ。
「**********?」
「kdふぃ8」
「ゴッ」急に何かぶつかる鈍い音がした。
「ギャー」
どうしたのか心配になって少し腕輪のインベントリ《空間収納》の出入り口を広げて音がした方を見えるようにした。
見えてきたのは拳を振り上げ、何度も人を殴りつける男と既に気を失ったようにぐったりとしている女官長だ。
怒りで興奮した男の顔を見て、ラーファは嫌な男だと思った。
次回は、ラーファの怒りが爆発します。




