第32話・3 王の呼び出し
キク・カクタン国の王はラーファを自分のコレクションの一つと思っているようです。
その日の夜、王から呼び出された。
王の呼び出しを告げる女官長の言葉から、彼女も早すぎる呼び出しに驚いているようだ。
”湖水に吹く風の主”と成ったラーファへの扱いは言葉は分からないが、丁寧な物だった。クッションに座るラーファへ数人の侍女が回す扇風機で風を当て、ラーファの手が届く所へ果汁の飲み物や果物にお菓子らしき干しブドウを入れたクッキーみたいな物を用意してくれた。
この国は日に3回の食事を摂る習慣の様で、昼9時(午後2時)から幾つもの小皿に盛られた料理が次々に運び込まれた。飲み物はワインが注がれ、煮物、酢物、汁物、焼き物、そして薄焼きのナンと呼ばれるパンが出た。
全部のお皿を合わせると5,60皿はあるだろう、とても全部食べる事は出来ないし、そんな意欲も食欲も無い。ワインとナンと数皿から取り寄せた物を食べただけで食欲は失せた。
ほどんどを食べずに食事を終わらせると、侍女たちが嬉々として隣の部屋へと料理を持ち込むと、数人毎に交代で食事を始めた。どうやらこの国では主人が食べ残した物を下げ渡す事で侍女たちも食事が摂れるみたいだ。
首輪を外すキーワードは”開け”までは分かっています。もう1ワードが分からないだけです。生前イスラーファが記憶した首輪の事を、今のラーファの記憶の底から浮かび上がる様に、没入して行きます。
再び記憶の探索を始めたラーファに一つの記憶が浮かび上がってきた。
それは一つの情景として浮かんできた。
ドワーフの女性がイスラーファに話しかけています。
「イスラーファ様、エルフの長様たちが私の夫に、又変な物を作らせているのよ」
「・・・・・、あなたの夫はドワーフの長なのですから、相手がエルフの長達だからと言って全ての仕事を受ける必要は無いのよ」
「そうなんだけど、面白そうだからの一言で受けてしまうのよね」
「マーナ・・、ドワーフの性が悪く出たようね、一体何を作っているの?」
「魔力を封じる首輪だそうよ、神格の在る樹人でも魔力を封じる事が出来る物を作るらしいの」
「マーナニナ、なんだか恐ろしいもののようね」
そうだ! マーナニナ! 彼女の夫が首輪を作った張本人だ。
『開け! マーナニナ!』
「カチャリ」首輪が外れ、後ろへと落ちた音がした・・・、気がしただけで首輪は未だ首にそのまま残っている。
でも、手ごたえがあったような気がした。何が違ったのだろう?
そこで呼びかけられてマーナニアとの記憶は闇へと引っ込んだ。女官長がラーファに話しかけてきたのだ。
「”湖水に吹く風の主”よ、王のお呼びです、速やかに用意をする様に」
「え? お呼びって王が?」
思い出す事に没頭していたので話しかけられた事で、少し混乱してしまいました。
「そうです、まだ躾も始めたばかりでお呼びがかかるとは」
「良いですか、くれぐれも王のされるがまま、逆らってはいけませんよ」
「王は逆らう者に容赦が在りません、何人も殺されているのですから、くれぐれも気を付けなさい」
体を洗うからと離れに在る建物へと連れてこられ、再び着ている布をはぎ取られた。
プールの様な泉のような場所です。どうやら湯あみする場所の様です。今度は腰掛に座らせられて泡立ちの良くない石鹸の様なもので洗われ、乳香の匂いのする香油を体に塗られました。
考えなくとも分かります。この後、あの男に宛がわれるのでしょう。猶予は湯あみの終わる1刻(2時間)といった所でしょうか?
髪も洗われ何やら香油の様な物を塗られました。匂いは柑橘類の様な匂いがします。
いきなり、女達が私の秘所に、何かクリームの様な物を塗り込んできました。媚薬が成分として入っているのか、下半身が火照ってきます。急いで解毒の魔術を行使しますが、塗られたクリームから成分が私の体に浸透して来て1回の解毒では解毒できません。媚薬の効果が強く出始めたら再度解毒する事にしました。
再びサリーと呼ばれる布を着せられましたが、今度は先ほどの半分も無い長さのしかも薄すぎて透けて見える生地です。腰に巻かれる回数も1回で束ねた布を肩から垂らす長さも腰ぐらい、ほとんど肌が透けて見えてるはず。
女官長に手を引かれて”湖水に吹く風”の部屋から廊下を歩かされます。
媚薬の性で下半身が火照って仕方ありません。夫との夜の秘め事の記憶は戻っていませんが、感覚は覚えている様です。今の私は男を受け入れる準備が出来ているようです。このままではあの男の為すがままです。
出来るだけ冷静に私の出来る事を考えます。口の中での魔術行使以外に出来る事はあるかしら?
船の中で考えた事をもう一度改めて検討します。広い部屋では麻痺毒の効果は限定的にしか効果がないでしょう。別の手立てが必要です。
今こそインベントリの中に隠れる時です。
次回は、王の寝室に連れ込まれたラーファと首輪にまつわる記憶です。




