第32話・2 王様とラーファ
キク・カクタン国の王様との出会いはショックな出来ごとでした。
やっと輿が降ろされたのは、水路と木立に囲まれたエリアの奥。長い塀で囲まれた、白く垢抜けた建物の入り口でした。やっと降りる事が出来そうです。
ところが、建物の中から出てきた女達が、私の輿を担ぎ上げて建物の中へと入って行くでは無いですか。どうやらこの建物の中は女と幼い子供だけの様です。男の人の姿は見えません。
建物の中には乳香の匂いが漂っていて、私にはル・ボネン国の王宮で嗅いだ麻薬の香りを思い出し、強く警戒心を掻き立てます。やがて大きな広間に入ると、やっと輿から降りる事が出来ました。
ただし、私が降りた先には一人の男がクッションの上に座っています。この建物の中で見た唯一の男性です。まぁそうゆう事でしょう。王様の代理人はいつの間にか姿を消していましたが、この男が王なのでしょうね。
男の周りには、ゆったりとした布を体に巻き付けた身なりの女性と一枚の布を腰に巻き付けただけの身なりで働く女達が居ます。腰布だけの女たちは剥き出しの胸を惜しげも無くさらして、自信ありげに堂々と仕事を熟しています。
唯一の男の周りに侍る布を纏った女達は、私が気になるのか注意深く見守っています。
男が何か言いました。
「*****、***!」
いきなり後ろから腰布だけの女達が、私の服を引き剥し始めました。力も強く数人で腕を掴まれ抵抗も出来ません、あっという間に下着だけにされてしまいました。
男が立ち上がると、私に近づいてきた。手を私の顎の下に入れ、顔を持ち上げます。男は値踏みするような視線で、私の顔からじっくりと見て行きます。視線を下げて行き、私の腕を持ち動けなくしている女達の後ろで、私から服をはぎ取った女達に何か命令したようです。
「**、***!」
いきなり下着をはぎ取られた、それも一気に。恥ずかしさに蹲ろうとしても腕を持った女達が離さない。男の目線にさらされる事に耐えられない。身もだえする私を無視して男は、上から下までじっくりと裸の私を見て行き。
「**、********、***!」又何か言いました。
男が先ほどの場所へ戻ると、再び腰かけます。私はその場から素っ裸のまま、引きずられるようにして別の部屋へ連れ込まれました。
その部屋にラーファを待っていたのは、数人の腰布のみの女たちと一人の肩から赤い布を纏った30位の女でした。
「待って居た、そなたは今日からこの部屋の主じゃ」
戸惑うラーファへシリル語で話しかけてきました。海賊船の船長以外の始めて話せる人が居ました。
「あなたはどなたですか?」
素っ裸のままなので女ばかりとは言え、恥ずかしさを感じますがそれより話せる相手がいたのです。もっと話をしてラーファに何が起こっているのか知る必要が有ります。
「私は女官長と呼ばれている、名前は失くした」
そう言えばアーシャとシーリーンもラーファが名付ける迄名前を持っていなかったようでした。この国では女には名前が無いのかもしれません。
名前が無い、それだけでこの国での女の地位が分かります。家畜と同じ位の物として扱われているのでしょう。ひょっとしたら売り買いされていて男の財産と考えられていそうです。
女官長と名乗る女の人は名を失くしたと言いました。前は持っていたのでしょう、恐らく海賊に捕まり奴隷として売られる時名を失ったのでしょう。シリル語が話せるのもそれなら頷けます。
「そなたは王の物となった、これからはこの部屋の名”湖水に吹く風”の主で”湖水に吹く風の主”と呼ばれる事になる」
「王の御用が務まる様、これから”湖水に吹く風の主”へ躾を私が行います」
「王の御用は何時あるか分かりません、躾が間に合わなくてどうするか分からなくても、くれぐれも逆らうような事はしてはなりませぬ」
「良いですね」
ラーファは逆らう気満々ですが、女官長はラーファの事など気にも留めてません。女官長はラーファを無視して、腰布だけの女たちに命じて薄絹で織られた一抱えもある布を持って来させた。
「この布は織られたままの何処も切られていない穢れの無い布です」
「本来は、侍女たちのように腰に巻くだけの着方なのですが、貴人の持ち物になる女は区別するために肩から掛ける着方をします」
「教えますから、あなたも覚えなさい」
そう言って、布の端から腰に数回きつく巻く。ラーファをぐるぐる回して腰に巻きつけていった。布の横幅が丁度腰から足の踝ぐらいある。腰で巻いた布の上端を折って内側に入れ厚くする。
今度は反対側の布の端から、左の腰から右の肩を通して膝の後ろへ垂らせるぐらいを使う。使う分の布を持ち背を通して左の腰に持って来る。これも内側に入れてばらけない様にする。
次に布の端を手を広げた幅ぐらいで折りたたんで行った。先ほど止めた腰の位置から手の幅ぐらいの帯にした布の束を右肩へと胸を覆うように通して肩から膝裏まで垂れ下がらせる。
最後に中間に残っている布をお腹の前で畳んで行く。畳んだ布をお腹の前に広げて腰の中に折り入れる。後は布の位置を整えて、束ねた布が肩から落ちない様にピンなどで止めると完成した。
「ウルタ・パッルーよ、あなたも早く着方を覚えなさい」
「下着は無いの?」
「下着はそもそも着ません」
女官長は、他にも細々した生活の全般を説明すると。
「王の気が変わるか子が出来るまで、ここで暮らす事になります」
と言って廊下へと行ってしまった。「子が出来るまでね!」ほんとに男らは女を物のように扱う癖に子供が出来ると扱いが変わる様です。
ラーファは逃げ出す事を決めています。ここで腕輪のインベントリ《空間収納》の中に入っても良いけど、移動が出来ない。やっぱり首輪の解除をメインに時間が無いようなら腕輪のインベントリ《空間収納》に逃げましょう。
覚悟を決めたラーファは、残された数人の侍女を気にせずに部屋に在ったクッションの上に座った。
ラーファの思索の邪魔をしない様なので、首輪の解除のキーとなる言葉を探す記憶の探索へと没入して行った。
次回は、王に呼び出され、逃げ出すラーファは逃亡出来るのか?




