第15話 魔女の名は騒動の元(1)
王都で再び公開治療を始めます。
竜騎士のダルトシュに乗せてもらい王都へ帰った。その騎竜振りを見ると成長したなぁと思う、彼が初めて飛竜に乗った時緊張の余り蒼白になっていた事を思い出した。
静けさの戻ったカカリ村では、シュシュを巡ってマーヤがゴムの製造をどうするのか悩んでいる。この世にゴムの素材を樹液として出す植物があるのか知らないが、マーヤが神域で作り出した神石生物の魔木は未だこの世に生まれていない生き物なのは間違いない。
トレントの改良で生まれたゴムの木はダンジョンか神域にしか住めないので、当分は樹液の供給をマーヤがする事に成ると思う。エイシャ奥様やボーデン奥様と話し合って、マーヤが何処まで譲歩させられるのか結果を聞くのが楽しみ。
マーヤが開き直ってお二人にダンジョンからしか材料を手に入れることが出来ないから今ある分しか提供できないと言えるかどうかだと思う。恐らく毎週ゴムを加工した物をお二人が欲しがるだけ、供給する約束をする事に成ると思う。
お二人の事だから酷い事にはならないだろう、暖かく見守ろうと思う。マーヤが大変そうなら介入して、供給量を減らすなり加工を誰かに押し付けるなりするのも良いだろう。
さて翌21日広場で魔女の公開治療を再開する。前回と同じに、立て看板を出し椅子とテーブルを用意して準備完了。
先ずは口上を述べる事から始める。
「みなさんー、お馴染みのカカリ村からやってきました魔女でーす」
「今日も格安での治療を始めようと思います」
「見るだけなら無料で診断します」
「見るだけの診断なら無料でしますよー」
何度か公開治療を行っていると、呼び込みも少し変わって診断だけなら無料にしている。最初から診断だけなら無料でするつもりだった、王様の目的を探るには王都の人を観察して問題点が何処に在るのか、無かったとしても王都の病気の傾向が分かる利点がある。
診断すると、体のケガや病気が何処かしら出てくる。治療に移る時に魔女の薬を必ず手に取って、目に見せる事にしている。
初級回復薬 銀貨1枚 傷、発熱、毒、風邪、体調不良 の初期症状に効く。
中級回復薬 銀貨10枚 骨折、酷い発熱、中毒や毒物、風邪や肺病、体調不良 の症状に効く。
上級回復薬 金貨1枚 大ケガ、古傷、慢性毒、ほぼ全ての毒、体調不良や病気 の症状に効く。
初級傷薬 銅貨10枚 2,3ヶ所の切り傷、数か所のケガ、単純な骨折の時 に効く。
初級解熱薬 銅貨10枚 高熱や浮腫が在る、痛みを一時的に取る時 に効く。
初級解毒薬 銅貨50枚 軽い中毒や毒キノコなどの毒物を食べた時 に効く。
初級風邪薬 銅貨30枚 風邪や咳、のどの痛みが在る時 に効く。
公開治療をする時に立て看板に貼ってある広告の内容だ。
魔女の薬を使わない時は、魔術の回復か簡易治療の治癒を使用する。特に簡易治療の治癒の魔術は魔女見習いが最初に覚える回復系の魔術なので銅貨5枚で提供している。
虫下しの対処に使用する事がほとんどだし、骨折後の自然治癒による骨の歪の矯正にも対処できる。それにしても寄生虫と骨の歪みはこれまで見た人のほとんどが両方病んでいる。
今の時点での判断では寄生虫は王都の生活環境特に下水問題だと思う。他にも食生活で水や生で食べる野菜や果物なども考えられる。骨の歪みは幼少時での交通事故やケガだろう。
ふと気が付いた、危機察知が働いている。赤表示の男が居るが、近寄って来ないので気が付かなかった。男の方を何気なくを装って見てみる。
どこかで見た事が在る様な気がする。
「おい、見てくれんか?」
気がそぞろに成っていたので、今日最初の患者が来ていた事に気が付かなかった。
「はい、見るだけなら無料でしますよ、治療は銅貨5枚からです」
「見るだけなら無料なら、早う見てくれ。」
使い魔を召喚して、匂いを嗅いで診断する。使い魔から送られてきた診断内容は、何時もの寄生虫と虫歯、歯周病、胃腸に潰瘍が出来ている。
珍しく骨の歪みは無かった。
「寄生虫と虫歯、歯周病、胃にただれが在りますね」
「初級回復薬を飲めば治療できますよ、全部で銀貨1枚です」
「へっ、旨いこと言いやがって、魔女のポーションは偽もんだろう、エーッおい!」
「治療は有料ですよ、虫下しだけなら銅貨5枚で治癒魔術で治療しますよ」
「ああん、治癒・・・ 魔術やと?」
「じゃあ歯が痛いんだが、魔術でいくらで治せる?」
「虫歯ですか? そうですね、治癒魔術では無理ですね、回復魔術が必要になりますから銀貨1枚です」
「銀貨1枚やと、てやんでぃ、たかが虫歯の一本や二本にそんなに掛けられるかよう。」
「虫歯と歯茎の病気はバカにしてはいけませんよ、口から食べ物と一緒に虫歯からの毒が体に入るのですから、万病の元と言って良いのです」
「虫歯や歯茎の病気歯周病を治すには毒で溶けてしまった歯茎や歯を治さなければなりません、治癒より強力な回復魔術をしなければ元通りにはなりません」
「回復魔術は行使するのはとっても大変なんですよ」
「おお、そうかい、すまなんだなぁ、なんか虫歯ちゅうてもえらい大事なんやな。」
ラーファの勢いに押されたのか、銀貨1枚と聞いてビビったのか、勢いが急になくなった男が、恐る恐る言って来る。
「虫下しなら銅貨5まいやったな、そいつでたのまぁ。」
「はい、賜りました」
「お腹の中の悪い虫を退治しましょう、治癒魔術行使します、エイッ」
言葉は掛け声みたいなもので、頼まれた虫下しと胃腸の潰瘍もついでに治癒する。虫歯と歯周病は腫れを治し進行を止めるだけに止めた。
「はい、終わりましたよ、この後トイレに行ってすっきりしたら、お腹の張りや違和感が無くなりますから」
「今後は生水や火を通してない食べ物は取らない様に注意してくださいね、気を付けないとまた虫が湧きますからね」
「そうか、なんだか腹が緩くなった気がする、ありがとな。」
すっきりした顔をして、男が去って行った。
代わりにかどうか知らないけど、あの赤表示の男が近寄って来た。
近寄って来た男は見覚えがありそうですが、騒動の元は男かラーファかどっち?




