第61話・2 (閑話)ヨーヒム将軍(2)
誠実な故に真面目で融通がきかない男が出世し過ぎて将軍になってしまった。
キリアム公爵家でヨーヒムは将軍となったが、ビェスとの繋がりは手紙のやり取りとして残った。
それが彼にビェス側の理解を深めさせ、キリアム侯爵への提言に適格な助言となって表れた。
評価が上がり将軍として益々重要される事になり、早くパストへ帰りたい彼の悩みは尽きない。
『ビェスよ、もうそろそろ此処を辞めてパストへ帰りたいのだが? 俺は何時も侯爵様に聞かれるんだ、ビェスならどう出る? どんな手をうってくるのだ? ってな。』
『その度に、俺が考えるビェスが取る方法を言うんだが、大概お前が打つ手と似てるんだ。』
『其の度に、お前は知恵が回るし、知識も多いと言われるんだぜ。』
『そんなのお前から来た手紙の内容を知ってれば誰でも分かるだろうに、侯爵様はいちいち驚くんだ。』
『この間、道路整備が多くて金が掛かって弱ってる、て話が在ったよな。』
『侯爵様は何処からかその話を聞いた様でな。』
『侯爵様は金が無くてビェスが弱ってると喜んでいたけど、俺が道路が良く成れば軍隊も商人も早く移動できるようになるんですぜって言ったら、塞ぎ込んじまって大変だったんだぜ。』
『結局街道の拡張や整備より、船でも作ろうって言う方の意見が多くて、パストへ軍隊や商人を運ぶなら船が一番だってなっちまったけどな。』
『お前結婚したんだってな、こっちでも凄い評判になってるぜ!』
『お相手は奴隷から解放した魔女だとか、エルフの姫だとか色々噂があるけど、お前がどうやら結婚した事だけは本当の事みたいだな。』
『結婚おめでとう! 旧友としてはお前が結婚する気になったのが嬉しいぜ。』
『前のパストの海賊みたいな家名より今のパスト・エルルゥフ・ダキエの方がかっこいいぜ。』
『神話の国のエルフから嫁さんが嫁いできたそうだってな、すげえよな。』
『お前の嫁さん、エルフ様なんだってな、パスト市で治療した件、こっちまで聞こえて来たぜ。』
『侯爵様が怯えていたぜ、エルフ様ってのは魔術が使えて病気をポーションであっという間に治すんだってな。』
『侯爵の息子が羨ましがってたぜ、なんとかポーションだけでも手に入らないかとか、エルフ毎手に入れたいとかほざいて居たから、無理だろう、って言っといた。』
『魔術が使えるエルフ様に人間がかなう訳ないもんな。』
『エルフ様が使う魔術は、国を丸ごと焼き尽くすんだってな。』
『キク・カクタン国の滅んだ話は此処まで聞こえて来たぜ、お前ん家の嫁さんが竜に乗ってブレスで王宮を焼いたって聞いたぜ。』
『こっちじゃ竜騎士だとかエルフ様だとか噂が広まって、今すぐにでもこっちが滅ぼされるような騒ぎに成ってるんだ。』
『ここんとこ、バカ息子が攫ってこいとうるさくて、手に余るんだ。』
『何度エルフ様に手を出すと、返り討ちに会うからやめとけと言ってもやめないんだ。』
『こいつは、近々そっちで何か仕出かすぜ、それに侯爵様もエルフ様を恐れているようで息子と違って一気に軍まで動かすかもしれん、お前も気を付けるんだぞ。』
『どうやら船でパストへ殴り込みをかける様だぜ、市内の噂だとこっちの港を2月の末辺りに船団が出て行ったから、侯爵様は3月中頃 事を起こしそうだって、誰もが言ってるぜ。』
『今の所俺には何も言って来てないが、俺たちの軍を含めて軍の拡張を始めているぐらいかな。』
『このところ、酒が不味くなった、良い酒は何処かが買い占めているんだと。』
『食い物の値段が上がって、市内じゃ生活が苦しくなって軍に身を売る奴が増えたそうだ。』
『お前ん所じゃ廃れたが、こっちじゃ奴隷兵は多いからな。』
『農村から強制募兵で連れてこられる奴らよりは、奴隷兵の方が装備が支給されるだけましかもしれんがな。』
『農村の奴らは武器から装備まで自前だからな。』
ビェスにとって得難いキリアム侯爵側の情報提供者となってくれていた。
ヨーヒム将軍としては敵としてビェスを認識していない訳では無いけど、昔からの友としての方がより強かった。
ヨーヒムも将軍として知り得た機密事項を漏らす事は無かったが、市井での噂や起こった事などは手紙に書いている。
ビェスとの手紙(秘密の通信)は日々の噂話や愚痴を話す恰好の気晴らしとなっていたのだ。
今回の戦いでも、数多の突撃を粘り強く受け止めながらも軍の崩壊を防いだ手腕は、手ごわかった。
ヨーヒム将軍で無ければ、もっと早い段階で崩れていただろう。
死ぬ間際にもキリアム侯爵から感謝の言葉を貰っている。
ヨーヒム将軍にとってそれは、敗軍の将と成った身に辛い言葉となった。
次回は、最終話 千年後ある義理の親子の会話です。




