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傲慢な男らと意固地な女  作者: 迷子のハッチ
第4章 王妃として
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第60話・2 決着(2)

 其の後のビーザ砦とパスト市でのラーファ。

 ビェスからの手紙で辺境領群へ入り、エンビーノ男爵たちエバンギヌス子爵に反旗を翻した人たちと合流できたそうだ。

 エバンギヌス子爵領へ進軍する予定だと書かれてあった。


 ビーザ砦から帰った次の日、ビェスから手紙が着いた。まだ私の送った手紙は着いていないのでビーザ砦の事は書いて無かったけど、辺境領群の事は詳しく書いていた。


 ヨハン陸尉と名乗った伝令はどうやら貴族ではない様だ。疲れた様子のそれでいて背筋の通った立ち姿は鍛えられた軍人の姿だ。


 彼に付き添ってきたボーダマン近衛長官から手渡された手紙を先に読んだ。

 エバンギヌス子爵領への進軍は2枚目に詳しく書いてあった。

 手紙では、エバンギヌス子爵は孤立しているようで、開拓団上がりの領主たちは全てビェス側に立っている。

 今はビェスの軍と一緒にエバンギヌス子爵領を取り囲むように部隊を展開しているそうだ。

 彼らからの要望で魔女薬の傷薬を出来るだけ多く送ってくれと追伸で書いて在った。


 ヨハン陸尉に聞く事にした。


 「ヨハン陸尉、手紙によるとエバンギヌス子爵領への進軍の準備は終わった様ですが、エバンギヌス子爵の抵抗は激しそうですか?」


 私の問いにヨハン陸尉は一度三本指で敬礼(近衛隊の敬礼)して答えた。


 「エバンギヌス子爵は最初領を出て攻めるつもりだったようですが、陛下の御出馬が早く領地の砦に閉じこもっています。」

 「砦では戦の用意を急いで行っているようですが、我らが進軍するまでに終わらないだろうと報告が在りました。」


 どうやらビェスは此処でも早く進む事で、エバンギヌス子爵に準備不足を露呈させる事が出来たようです。

 後はこの情報が何時の時点の情報なのか聞くだけですね。


 「ヨハン陸尉は何時ビェスの元を離れたのですか?」


 「ハッ、22日の昼12時頃(午後5時)頃に伝令に出ました。」


 1日半前に向こうを出たとヨハン陸尉は言ったけど普通なら4,5日掛かる距離だよ?


 「まぁ!? たったの一日半で、辺境領群からパスト迄着く事が出来たのですか?」


 驚いて聞いて見た。


 「夜も昼も街道を駅伝毎に馬を代え、走り続けてきました。」


 ヨハン陸尉はその時だけは疲れた顔を少し得意げにして答えた。


 「見事です、ヨハン陸尉は疲れているでしょうから直ぐに休むように」


 馬は代えられるが人は変わりが居ないのだから、1日半も馬に乗り続けていた事になる。

 疲れた表情のヨハン陸尉に報告を聞いた後、労って休むように伝えた。


 何時もの様に使者と共に出て行こうとするボーダマン近衛長官を呼び止め、話を聞く事にする。


 「月の出ている天気の良い日だとしても、夜も馬を走らせる事ができるのですか?」


 ボーダマンは得意げに教えてくれた。


 「普通なら、夜街道を馬で疾走するのは目隠しして突っ走るのと大して変わりがありません。」

 「月明かりが在っても道には暗い部分が多く、人が歩いても足を取られて最悪転倒します。」


 前置きは夜は馬どころか人も歩けないと言いたい様だ。


 「陛下が街道整備を始めた時、ダキエの街道工事を手本にしたと聞いています。」

 「ビチェンパスト国に多い火山灰と石灰石を焼いて砕き粉にした物と砂利や小石を混ぜた物を、使う時水で捏ねて 基礎を水はけの良い小石の層で作った上に敷いて行くのです。」

 「表面が乾いて来た頃、重たいローラーで平らに整えてやるとデコボコの無い平らで硬い地面が出来ます。」


 「硬い地面が故に、新しい街道は人も馬も靴を必要とします。」

 「馬に蹄鉄、軍人に革靴を用意しています。」


 ダキエの道はコンクリート舗装なので火山灰から作られる粉がコンクリートなのかもしれない。

 そこを走る馬は蹄鉄を履かないと足を痛めるだろう、人も靴が必要になる訳だ。


 「舗装された街道ですが、それだけでは夜馬が走れるわけではありません。」

 「街道は10ヒロ(15m)毎に焚火台が置かれ、命令が在る場合に常夜灯として焚火が一晩中焚かれています。」

 「その備えが在って初めて、夜も昼と同じに馬で走れるようになります。」

 「王領全体にこの度の戦の知らせが届いたのでしょう、街道に焚火を焚くのは戦などの非常事態の時だけなのです。」


 辺境領群からパスト市まで1日半ぐらいで伝令が着くようになったのは、街道の準備が出来ただけでなく王領全体が戦の準備が整って来た証拠らしい。

 20日に突然始まった(前々から近々始まりそうだとは分かっていた)戦争も今日で5日目。王領に戦の始まった事が知らされて、準備が整って来たのだ。


 ボーダマン近衛長官が下がった後、王領の準備が整った事で何が起きるのか調べた。

 調べるのは侍女たちだが、命令書は控えがビェスの部屋に在るので私もそれらの書類を調べた。


 それによると。

 街道一つ取って見ても、ビェスが作った軍や軍事的変革は、移動、伝達、指揮、命令、準備が早い。

 今、王領では軍役経験者の一部に軍への復帰命令が出されていて、各拠点へ続々と兵士が集まっているだろう。第一陣は5千ほどだけど、ビェスと辺境領群の兵に加わるならキリアム侯爵軍と規模で互角になる。


 ビェスは遠征先から伝令を王領の各地へと飛ばし準備状況を把握しているのだろう。

 ビーザ砦に向かう時途中で合流させるため、王領内から兵を集める計画を立てていた。


 恐らく辺境領群へ残す軍は3千から5千ぐらいかと思う。それだけ魔物の対処は厳しい物が在る。

 減った分を十分補えるだけでも心強いし、ビーザ砦の兵5千と合わされば2万もの数になる。


 辺境領群の兵が混ざる事で行軍速度は若干落ちるだろうけど、整備された道や行軍が終わり休憩する場所にはあらかじめ周囲の住民が食事や寝床を作って待っている状況なら大して遅れないだろう。


 だからこそ、ビーザ砦にキリアム侯爵軍をくぎ付けにする事が出来れば、ビェスはキリアム侯爵の軍を奇襲できるだろう。

 キリアム侯爵は「パスト市から辺境領群へ遠征したビェスは一月掛かってもビーザ砦に来ることは無い」と考えているだろうからだ。


 その三分の一の時間でやって来るなら、十分奇襲の意味が在る。


 ヨハン陸尉が帰る時少しだけど魔女の回復薬200箱程持って行って貰った。

 ビーザ砦へカトリシアとニコレッタを迎えに行けたのは25日になってからだった。

 23日から2日間、小規模の攻撃は有ったが直ぐに引くような攻撃だった。


 ビーザ砦には魔女薬を新たに500箱づつ持ち込んだけど、代わりの侍女は連れて行かずに現地の医師に任せる事にした。

 3日の間侍女と治療に関わったおかげで、魔女薬の効果を知る事が出来た様だ。

 任せても大丈夫だと思う。


 同じ日ビェスは、エバンギヌス子爵領からビーザ砦に向かい1万5千の兵を率いて進軍を始めた。


 次回は、決戦の始まりです。

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