第59話・4 ビーザの戦い(4)
ラーファはキリアム侯爵の本陣で使い魔が聞いた内容に疑念を覚えていた。
すいません、疑惑のせいでビーザ砦にたどり着けませんでした。
ビーサ砦再訪は次回になります。
ボーダマン近衛長官と一緒にやって来た伝令の兵士と会ったけど、手紙の内容を詳しく説明しただけだった。
私からの手紙とトラント将軍から預かった書類を託した。
辺境領群に居るビェスの元へ着いて、返事が馬に乗った伝令が急いでも2日掛かるそうだ。
距離的にビーザ砦と同じぐらいなのだろう、手紙の返事は早くても26日ぐらいになりそうだ。
ビェスが辺境領群のエバンギヌス子爵を倒し、ビーザ砦まで進軍して来るには、どんなに急いでも来月になる。
ビェスの軍が辺境領群まで4日で行けるのは鍛えていた軍だからだけでなく街道が整備されていたからだ。
ビェスは前の内戦が終わった時からパスト市からの街道整備を始めている。
街道の途中途中に軍が休める場所を設けて、近くの町に維持管理をさせている。
行軍に際しては、休息している軍への食事の賄いまで行わせるほどの徹底ぶりだ。
ビェスの軍が4日で辺境領群の境まで進軍できるなど誰も思っても居なかっただろう。
だからこそキリアム侯爵の予想に反してエバンギヌス子爵は反旗を翻したエンビーノ男爵達を倒せず領内に籠っている。
私が代理王として処理しているのは、軍事関連が多いが直接的な作戦を指揮する事は無い。多くは軍事費の調達や必要な物資の調達などだ。
中でも街道の整備と伝令が使う駅舎の整備は裏方になる輜重関連の物になる。
軍に輜重だけを扱うような組織は無いけど、将軍付きの陸尉が居るぐらい必要とされている職域だ。
今回の内戦が終われば、新たな軍の組織改革をビェスに提案しても良いと思っている。
変えたいと思っているのは軍関係だけでなく、行政や教育、医療などを含む全体的な物だ。
ただ大きな変革は反発も大きいだろうし、国民の習慣や常識を一度に変える様な変革は成功しないだろう。
少しづつ変えていって、何時しか人々が”昔は今の常識が非常識だった”などと言えるようにしたい。
今の私が出来る事は、街道の整備では無くてキリアム侯爵軍をビーザ砦にくぎ付けにして置く事だ。
ビェスは辺境領群を平定した後、ビーサ砦に駆けつけるだろう。
予想される半分の日数で。
そしてキリアム侯爵はその事をまだ知らない。
パスト市内にキリアム侯爵側の影の組織は居る様だが、辺境領群から連絡を取ったとしても駅伝の使えない彼らでは、パストへ着くのが数日は遅れるだろう。
何かが引っかかった、確か私は彼らが2日とかからずパスト市の情報を手に入れた事を聞いていたはずだ。
私の情報がいち早くキリアム侯爵側に伝わった事例が在る。
そうだ使い魔から、ヨーヒム将軍が私を”代理王”と呼んだことを聞いた。
”代理王”になったのは20日にビェスが遠征するため私を指名したからだ。
その時まで誰も私が”代理王”になるとは思っていなかった。
ヨーヒム将軍が私が”代理王”に指名された事を21日の私が飛び立った夕方までに知る事は、早すぎる。
そう、ビェスの作った伝令の仕組みが無ければ無理なのだ。
それともシルベスト陸尉から漏れたのだろうか?
私が”代理王”に成った事はビーサ砦では誰にも話していない、ビェスの妻ダキエの姫としてしか動いていない。
シルベスト陸尉はパスト市滞在中に知ったのかもしれないが、話したとしたらトラント将軍に伝わっているだろう。
トラント将軍は分かれた時までダキエの姫としか私の事を呼ばなかった。
知って居れば”代理王”と呼ぶだろう。彼の性格は厳格に身分を守る人だと思う、妻の立場より戦場では”代理王”の指揮権こそ最も尊重されるから。
私があえて”代理王”を言わなかったのも指揮権を混乱させる事を避けたからだ。
やはり伝令関連の部署にキリアム侯爵の影の組織が紛れていると考えて良いだろう。
影の組織と連絡を取っているヨーヒム将軍は、未だに連絡してきた内容をキリアム侯爵に伝えていない。
ヨーヒム将軍が伝えないのは、影の組織をヨーヒム将軍が秘匿したいと思っているかまだパストで襲撃する事を計画してるのかもしれない。
それともパストから2日でヨーヒム将軍が私の事を掴んでいた事から、今の段階で話すと伝令関連の部署だと特定されてしまう事を恐れているのかもしれない。
私が考え込んでいたのは、二人が部屋から出ようとドアまで歩いている間だった。
伝令と一緒に下がろうとしていたボーダマン近衛長官を引き留めた。
「ボーダマン殿、今少しお話したい事があります」
「はい、ダキエの姫様。」伝令に下がる様に手で指示し 長官は私へ向きなおって言った。
周りに私の侍女だけの状態になってからボーダマンに打ち明けた。
「実は、ビーザ砦に出向いていた時、敵の将軍が私の事を”代理王”と言っていたのを聞きました」
「代理王に任命されたのは20日で、その日までビェスはパスト市に居ましたから代理王などキリアム侯爵側の人が私を指す言葉として知ってるはずが在りません」
「その将軍が私を”代理王”と呼んだのは21日の夕方でした」
「私は伝令に関わる部署の誰かがキリアム侯爵側に味方しているのではと考えています」
私の知り得た事とそこから推測した事を話した。
「ほう! う~ん・・・。」とボーダマン近衛長官しばらく考え込んでしまいました。
しばらくして私を見つめて聞いてきました。
「ダキエの姫様、その将軍とやら名前はわかりますかな?」
使い魔の事はビェス以外には話せませんが、私がどうやって知ったのかまでは言う必要は無いでしょう。
「ヨーヒム将軍と呼ばれていました」
「なんですと!」
ボーダマン近衛長官は本当に驚いたようで、口をパクパクと開け閉めして何か話そうとしていたけど結局声は出てきませんでした。
「畏まりました。信頼できる手の者に調べさせます。」やっと出た言葉は苦渋に満ちた物でした。
「よろしくお願いします」
私は彼に任せるしかありません、調査は彼に委ねました。
今は昼の5時(午前10時)今から用意してビーザ砦に向かえば昼9時(午後2時)までに着くことが出来るでしょう。
使い魔からは、投石器の組み立てが昼7時(午後0時)にも終わると知らせが在った。
組み立てが終わっても組み立てた場所から投石する場所へ移動する必要があるので、直ぐに攻撃される訳では無い。
今回は、ビーザ砦へ行くのはカトリシアとニコレッタを連れて行く事にした。
急いだ方が良いだろう、二人をビーザ砦に残して帰るには投石器を潰しておかないと安心できない。
二人には魔女薬を使って負傷兵の手当をお願いする積りだ。
ボーダマン近衛長官は、ビェス王からラーファが使い魔(鼠や鳥)を使うと聞いています。
ビェスはカカリ村で聞いた話から、魔女が使う使い魔は小さな動物を使役する事だと思っています。
そう言った理由でラーファの言葉を疑わなかったのです。
ボーダマン近衛長官はヨーヒム将軍と何か在るようです。そのあたりは閑話でお話します。
次回は、ビーザ砦に今度こそ出かけます。




