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傲慢な男らと意固地な女  作者: 迷子のハッチ
第4章 王妃として
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第59話・1 ビーザの戦い(1)

 ビーザ砦から帰って来たラーファはパスト市で状況を知ろうとする。

 トラント将軍から渡された書類は代理王としてサインした書類と一緒に革のカバン入れに仕舞った。


 それを振り分け荷物のようにキーグの両脇にぶら下げ、落ちない様に固定する。

 竜具は主に私がキーグに取り付けて行って、一つ一つしっかりと固定されているか確認していく。

 セリーヌの荷物が網に入れられ固定されるのを待って、セリーヌと共にキーグへ乗った。


 見送りに来た人たちへ手を振り、キーグへ出発を告げた。

 キーグは今朝暴れた余韻からか、とてもおとなしい。

 それでも、離陸は2歩目で強く地面を蹴って、大空へと力強く羽ばたき 上昇して行った。


 日はまだ高く、晴れ渡った空が暖かさを散らしてしまったかの様に冷たく風となって顔に当たる。

 私もセリーヌも毛皮のマントに包まり寒さを極力避ける様にしているが、飛行眼鏡が無ければ真面に目も開けられないほど冷たい風が顔に吹き付ける。 


 今は帰還するだけなので、昼7前(午前中)の様な戦闘機動は行なわないから安定した飛行だ。

 前方の私は、高度を維持して巡航飛行を始めたキーグにそのまま進むように指示し、竜具や固定した物が緩んでいないか確認して行った。

 後ろのセリーヌの方も目視になるが点検していく。


 セリーヌは来た時と同じように、前に(うずくま)る様にして 顔だけ右に左にとせわしなく向けて景色を見ている。

 二度目となると怖さより好奇心の方が強い様だ。


 キーグの後ろにはビーザ砦が少し小さくなって見える。

 その向こうにキリアム侯爵軍が展開しているのだが、細かな所までは分からない程に小さくなっている。


 私が飛び立つところはキリアム侯爵軍から見えていただろう。

 今の所使い魔からは、キリアム侯爵の本陣にまだ私が飛び立った事は伝わっていないようだと伝わってきた。

 使い魔は、私がパスト市へ帰っている間キリアム侯爵の本陣に潜んで、どんな動きをするのか監視しする様に指示している。


 使い魔に意識を集中していると、待っていた報告が来たようだ。


 急に慌ただしくなったテントの中で、呼ばれて出て来たキリアム侯爵と息子がヨーヒム将軍と副官の二人から報告を受けていた。


 「それで、飛び立って東へと消えたのは確かなのだな!」キリアム侯爵が大声で問うた。


 「ハッ! 間違いありません。」ヨーヒム将軍も確かだと声を張り上げている。


 「今の時間に飛び立ったとしたら、何が目的だ?」キリアム侯爵は疑心暗鬼なのか考え込んでいる。


 「父上、パストへ帰ったのじゃありませんか?」息子のダンテスが正解の答えを言った。


 「馬鹿者! 東へ飛んで行ったからと言ってパストへ帰るとは限らんだろう。」

 「迂回して攻撃してくるかもしれん、それとも空高く見えないぐらい高くから後ろへ回り込み、夜に成るのを山中に潜んで待ち夜襲するかもしれん。」


 キリアム侯爵は妄想を広げている様だけど、私はそんな単独で特攻するような事はしない。


 「今夜は警戒を強めろ!」

 「戻って来るかもしれんから、監視だけは怠るな!」キリアム侯爵がヨーヒム将軍へ怒鳴る様に命令した。


 「ハッ!」


 ヨーヒム将軍は素直に命令を受け入れ、引き下がった。

 顔を見ると安堵したのか嬉しそうだ。


 「二人共、今夜は警戒の人数を増やせ!」副官の二人に命令している。

 「だが、主だった部隊は休ませろ。」


 そこまでは命令口調だったが、少し砕けた話し方になった。


 「間違いなく魔女の奴はパストへ帰ったと思う。」

 「影からはダキエの姫と呼ばれている奴が代理王に指名されたと知らせが在った。」

 「そもそも 辺境領群へ行ったビェス王の代理王がビーザ砦に来ること自体が可笑しかったのだ。」

 「一度パストへ帰ればしばらくは出てこれないだろう。」

 「明日魔女がビーザ砦に帰って無ければ全力で攻める。」


 「攻城用に投石器を組み立てさせて置け!」


 最後だけ命令口調になった。


 彼は私がパストへ帰ったと確信している様だ。

 彼にはビェスが辺境領群のエバンギヌス子爵を討伐に出ている事や私がビェスの代理王になった事が伝わっていた。


 ビーサ砦とパスト市の間を2日で伝令として走破したシルベスト陸尉の例もある。

 ヨーヒム将軍の使う影もパスト市の情報を何らかの手段を使って伝えたのだろう。


 ヨーヒム将軍が飛竜ワイバーンの性能をどこまで知っているのかは分からないけど、今東へ飛び立った事はパストへ帰還したと正確に捉えている様だ。

 その彼にしても何時頃ビーザ砦に帰って来るのか、又は帰らないのか分からないだろう。


 キリアム侯爵の本陣でのやり取りを聞く限り、今日は監視するだけで終わるだろう。

 使い魔にそのまま本陣を監視する様に言いつけ、パストへの帰還に専念した。


 パストへの飛行は一度海へ出た方が飛行しやすい、海岸線をたどって行けばパストは直ぐ側にあるからだ。


 日が沈む前の茜色に染まった西の空を背に、広がる平らな大地へと海から打ち寄せる白い波の彼方にパスト市が見えて来た。

 パスト市が見えると、王宮は直ぐ目に付いた。

 王宮が見えれば飛行場に着陸するのは1コル(15分)も掛からない。


 王宮の中庭に作られた飛行場に無事着陸した。

 拘束具を外し、セリーヌを降ろした後、書類入れの革カバンを取り外してセリーヌに預けた。

 荷物を降ろし、集まって来た厩番の助けを借りて竜具を外す。


 竜具から解放されたキーグは「キェェェェェッ」と鳴くと神域へと竜具を口で引っ張り込んで入って行った。

 今日の仕事はキーグも満足したようだ、『今日は面白かったよ、また遊ぼうね。』とキーグから念話が来た。

 『ええ、又ね』と答えた。


 セリーヌの側に集まって来た侍女たちと話し合っていたセリーヌが「ダキエの姫様、湯あみした後お食事になさいませんか?」と聞いて来た。


 「そうね、そうしましょう」私もさっぱりしたいし、お腹も減った。


 セリーヌは革の書類入れを持って王宮の私の部屋までは一緒でしたが、湯殿へと行く前に分かれた。


 「書類は分類して、然るべき処へ出しておきます」一礼しながらセリーヌが言う。


 彼女を見送りながら、考えていました。


 『早めにトラント将軍の報告書をビェスへ送る必要がありますし、今のビェスが居る場所や状況を食事の後 報告して貰う必要がありますね』


 お風呂でゆったりと過ごし 二日分の疲れを癒した後、着替えて食堂へ行くと既にセリーヌが食事の手配をしていた。

 セリーヌもお風呂に入った様で、髪はつやつやしてますし、服も着替えて新しいお仕着せになっていました。


 今日の夕食は、私の好きな海の幸が沢山入ったブイヤベースの様な匂いがします。

 オウミ国の農産物も美味しい物が沢山ありましたが、ビチェンパスト国は海の幸が美味しい。

 料理長の腕もあって、海の幸が詰まったブイヤベースは食べる前から幸せに成る匂いがします。


 食後に 留守中に届いた手紙や書類に目を通します。

 決済書は相変わらず出兵関係が多いです。


 私の所まで上がって来る書類は、役人では決済できない物か判断できない物ですから、戦の最中だと軍事費関係の出費が大半になります。

 他は出費を賄うため予備費の取り崩しや貯めていた財貨を換金のため売り払う事などです。


 戦争前に勧めていた魔女薬の製造工房や治療所の増設は全て保留されています。

 何らかの予算を組む必要がある様な 大きな案件は王か王の代理しか決定できませんから、戦が終わるまで保留されるのは仕方が無いのです。

 そのため私が進めている、パスト市や王領の各地に建設予定の治療所は戦争が終わるまで進められません。


 次回は、王宮とビーサ砦の状況になります。

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