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暴力というお仕事

挿絵(By みてみん)


 でも「暴力」で組を支配できても、暴力で「仕事」はできないのよ。おかしいでしょ、暴力団なのに。カタギに手を出したら瞬殺で「アウト!」。まあ、それは分からんでもないわよ。だったら同じヤクザ相手なら無問題なのかな、と思って、

「隣りの組に戦争仕掛けて、叩き潰してシマを拡張しましょうか?」

 と沢田(さわだ)さんに提案したら、

「冗談でもそんなこと言うんじゃねえ!」

 と本気で怒られた。「戦争なんて絶対しません」って、聖書に右手を置いて誓わされた。

 実際の話、ヤクザ同士の抗争なんて、イマドキ十年に一回あるかないか。それも事務所のドアに拳銃撃ち込むとか、その後すぐに上部団体に仲介してもらって、金銭で解決するとか、要するに、互いの面子(めんつ)を立て合う儀式みたいなもん。菅原文太(すがわらぶんた)が拳銃一丁持って敵の親分を殺しに行った「仁義なき戦い」なんて、昭和の昔話。

 たまたま乗った電車に「週刊ポスト」が中吊り広告出してて、その見出しに「民事介入暴力」ってあったんで、意味もろくに分からないまま、

「わたし、ここんとこ暇なんで、ちょっくら民事介入暴力で稼いできましょうか?」

 って提案したら、

「香織にゃ無理。司法試験合格レベルの知識と実務経験が必要」

 とゼロ秒で却下。

 ちなみに沢田さんは慶應(けいおう)の法学部出身で、弁護士資格も持っている。とある事情で資格停止されてたけど。泉組(いずみぐみ)若頭(わかがしら)をまかされているのも、図抜けて頭がいいから。そんな人が何でヤクザになったかと言えば、小説三冊書けるくらいのドラマがあってね。


 それはさておき、わたしが始めたのは「解体屋」だった。


 その頃、関西系の某ビッグ・カンパニーの手先が板橋に「出店」してね。けっこうな額の資本をつぎ込んで地道にシマを荒らし始めた。「抗争」にはならないように、ごくごく地道に。でも、確実にじわじわと。こういうのが一番対処に困るのよねえ。

 わたしと沢田さんが不用意にボヤいてたのを聞いた、組の若いもんが早まって突っ走り、トラブル起こした。そいつを敵が拉致(らち)って、嫌らしくいじめたりしたもんだから、わたし、ついブチ切れて、やらかしちまったの。文太さんみたいに。いえ「ランボー」のスタローンみたいに。ワンマンアーミーでカチコミかけたの。

 沢田さんとの誓いは破ってないわよ。わたしは「戦争はしません」て誓ったわけで、これは「防衛」だからノーカンなの。最終的には、相手の「店」を、それが入ってたビルごと「ぐらびて」で粉々にしてやったんだけどさ。

 そこで、ああ、これって「仕事」になるじゃん、と気がついたわけよ。


 それが解体屋。老朽マンションや廃ビルを取り壊すお仕事。時には巨大な廃工場なんかも。油圧ショベルやクレーン、ブルドーザーといった重機を使ったり、時にはダイナマイトを仕掛けたりして、鉄筋コンクリート製の建造物を壊して更地(さらち)にするの。

 危険物取り扱い資格とかあれこれ面倒なもんが必要なんだけど、わたしがいれば、重機もマイトも要らない。「ぐらびて」を駆使して、六十階建てのタワーマンションだって粉々にできる。それも騒音も粉塵(ふんじん)もアスベストもいっさい出さずによ。便利でしょ?

 で、重機やマイトその他を使って、所定の人員と日程と工数をかけたことにすれば、何百万何千万って費用が浮く。でかい物件なら「億」よ。その半分を、わたしこと泉組がちょうだいするわけ。

 現場は日本全国あちこちで、月の半分は新幹線乗って「出張」してた。どこの現場でも、最初は不審がられ、怪しまれ、疑われた。でも一度「仕事」して見せたら、オケーオケーよ。小娘だろうが、ヤクザだろうが無問題。半年もしないうちに「マイトの嬢ちゃん」と呼ばれて有名人になった。現場のおっちゃんたちにご飯おごってもらったり、一緒にカラオケ行ったり、ホント楽しかった。当たり前なんだけど、皆さん、カタギだし、いい人ばっかりだったし。

 仕事はいくらでもあったし、お金もガンガン稼げた。細かいことは全部沢田さん任せだったんだけど、その頃の泉組のシノギの半分はわたしが稼いでたんじゃなかったかな。


 沢田さんにはホント、頭が上がらない。あの人がいなかったら、わたしなんてとっくに刑務所行きよ。ああ、当時は未成年だから、少年院とか、少年刑務所とか。軍艦島の?

 敵事務所を破壊した時なんか、百人以上が籠城(ろうじょう)してるビルを、警察・消防、それに野次馬(やじうま)も含めて、千人ぐらいが集まって見てる前で、盛大にぶっ壊したのよ。テレビ中継も入ってた。普通なら問答無用で「殺人未遂罪」。その前に「大量」がつくかな。でも沢田さんがフォローしてくれたおかげで「器物損壊罪」にすらならずに「過失事故」止まり。立件すらされなかった。

 民事の損害賠償請求はあり得たんだけど、ビッグ・カンパニーは一円も請求してこなかった。ま、賢明よね。むかついたわたしが関西に「出張」したら、もう十個ぐらいビルが更地になって、ビッグ・カンパニー自体が無くなってたんだから。…って、これは確実に「戦争」ですね。やりませんですよ。聖書に誓ったんだから。

 まあ、双方にとって結果オーライ、ということよ。


 暴力も稼ぎも一番。そうやって、中卒小娘のわたしは泉組という「反社」の実質トップになった。看板は組長の爺だけど、実質は爺の家政婦のわたし。その小娘に誰も逆らえない。

 でも、それで泉組が「正義のヤクザ」に成り上がった、なんてのは、それこそあり得ないお話。上から下まで悪の限りを尽くしてた。だって、そうしなきゃ生きていけないんだから。

 ヤクザの本業である賭場(とば)開帳(かいちょう)、「夜のお店」からのみかじめ料徴収、さらに違法薬物の取引から、未成年者の売春管理から、ありとあらゆる「悪いこと」を泉組はやってた。その実質トップだった、わたしがやっていたということ。その事実からは逃げない。全部受け入れる。小娘だって、それだけの覚悟は完了してたのよ。

 だって、「悪いこと」だとしても、それがシノギとして成立するのは、「必要なこと」だからでしょ? 法律や倫理道徳に(そむ)いていても、誰かが必要としていることだから、誰かがやることになる。その責任を誰かが負わなきゃいけないなら、それは、当時もうアルツが始まってた七十幾つの爺じゃなく、爺にわざわざ「お願い」して、稼業を手伝わせてもらったわたし。わたししかいない。わたしこそが「反社」なのだよ。文句あるなら、かかってきなさい。拳で語り合いましょう、と。


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