暴力の花園
ここでちょっと解説しとく。
図書委員が最初に学ぶのは護身術。マナを使った異能の力を持っているとはいえ、実体は生身の中高生女子。その女子が、現場に出たら、警察や消防、時には自衛隊と協働して「案件」に当たるわけよ。何よりも先に自分自身の身を守れなきゃ、仕事にならない。
その方法は属性によって異なる。
火属性のイグナの図書委員は「変身」。マナを十二分に体内に取り込んで、肉体を内側から強化する。女子レスラーみたいなガタイになって、体温は摂氏七〇〇度。触れるものすべて焼き尽くす炎のファイターよ。
水属性のアクアの図書委員は「水の鎧」。水をスライムみたいに粘っこくして、自分の全身を覆い、打撃や熱による攻撃を中和する。これには応用技がいろいろあって、上級者になると「鎧」全体を光学迷彩にして忍者みたいに姿を消すこともできる。「板北戦争」の時に桃ちゃんが使った技で、わたしはまんまとしてやられた。
風属性のウェンタの図書委員は「軽身功」。風を呼んで身体を浮遊させ、空を飛ぶのね。東京…というか関東にウェンタは、ほとんどいないんで、詳しくは知らないんだけど。
で、土属性のテッラの図書委員。日本でただ一人、百年に一人のテッラであるわたしは「硬気功」。文字通り、自分の身体を鉱物のように硬くすること。ダイヤモンドとはいかなくても、モース硬度で七くらい。さらに「ぐらびて」の応用で自分の体重を瞬時に十トンくらいにできるから、殴られても蹴られても平気。拳銃どころか、ライフルで撃たれても無問題。爆発物食らっても、服が吹っ飛んでマッパになるだけ。絶対無敵の完全防御。
ぶっちゃけた話、これがあったから、齢十五の小娘が自信満々で反社に身を投じられたのよ。フツーだったらチンピラに輪姦されてシャブかなんか打たれて裏風俗に沈められて「はいそれまで」ですよ。
そもそも、わたしら図書委員とヤクザじゃ「基本」が違うのよ。
図書委員の基本は「言葉」。マナは言葉の力だし、それを使うためのリンガ・ビブリアも言葉。姉弟子が妹分を指導するのも「言葉」。時に厳しいことも言うけど、ちゃんと理を立てて話すし、手を上げるなんてことはめったにない。…たまにはあるけどさ。
ヤクザの基本は「暴力」なの。任侠とか極道とか、それらしいことを言うけど、本質は暴力。言葉じゃなくて拳よ。だから、真っ先にやらなきゃいけないのは、強い力を見せること。それが分かったから、チンピラが突っかかってくるのを、いちいち殴ってたんだけど、同じこと繰り返すのは、めんどくさいじゃない?
だから、デモンストレーションを試みたのよ。国際興業バス一台借りて組員全員乗せて、組関係の産廃処理業者が持ってる、赤塚の廃車置き場に連れて行った。
わたしはその日初めて、葉桜の制服を着て「出社」した。セーラー服姿はもちろん、わたしがスカートはいてるのを見るのさえ皆初めてだから、目を丸くしていた。髪はツインテールにして、紫色のリボンで結んだ。
「じょ、じょ、女学生」
「セーラー服援交日記…」
「角川映画かよ…」
不穏なつぶやきが聞こえるけど気にしない。
ギデオン聖書を両手で挟んで合掌し「いんへるの」とリンガ・ビブリアでつぶやく。出現した黄色い光の玉を身体に取り込む。ぼおっと身体から、黄色い、おしっこ色のオーラが陽炎のように立ち上がる。
これもまたヤクザどもには「手品」に見えたかもしれない。いえ、もっと大がかりな、プリンセス・テンコーのマジック・イリュージョン?
わたしの目の前に置かれたごついクルマ…二十年落ちのベンツだったかな。そのボディの前後左右上下の六方向から「ぐらびて」をあてて、ゆっくりとプレスする。凄い音がして、頑丈なドイツ車が潰されていく。ボディもシャーシも中の座席も全部、ティッシュペーパーをたたむみたいに軽々と、くしゃくしゃに折りたたまれて、小さく、小さく潰されていく。最後に五〇センチくらいの大きさのサイコロになった。
ヤクザどもは死ぬほど驚いて、びびっていた。わたしは汗一つかかず、涼しい顔を見せつけてやる。わたしが象なら、ヤクザはアリ。わたしが鯨なら、ヤクザはミジンコ。「暴力」においての圧倒的な格差を認識させたのよ。
で、それからは殴るんじゃなくて、スキンシップを試みたの。相手は組の幹部クラスよ。チンピラと違って、正面からわたしに逆らったり挑んできたりはしない。もっと陰険でねちっこいやり方で、陰からわたしの足を引っ張ろうとする。
そういう奴には「おじさま」と甘い声を出して抱きついてやるの。桃ちゃんくらいのボディなら悩殺もんかもしれないけど、わたしがやっても「猫がじゃれついた」くらいにしか見えない。でも、気がつくと身動きできない。両腕両足の関節を「猫」に決められているの。そのまま痛めつけるのは簡単なんだけど、わざと痛くはしない。単に動けないだけ。「ベンツごっこしましょうか?」と冗談っぽく言ってやる。
恐怖を感じた人間が、すさまじい勢いで汗をかくって初めて知った。それも独特の匂いのある汗で、意外なことに、けっして嫌な匂いじゃないのよ。中には軽く失禁する奴もいて、それはさすがにカンベンしてちょ、だったけど。
で、幹部の耳元に唇を近づける。軽く息を吹きかけると、さらに汗が噴き出る。そこで「お願いしますね」と小声で囁き、自由にしてやる。大概はそのまま十分間ぐらい固まってるんだけど。で、それを体験した幹部は、次からは決してわたしには逆らわず、わたしの「お願い」を何でも聞いてくれる。分かりやすいでしょ?
その当時の「業界」の噂じゃ「泉組の幹部が色仕掛けで籠絡されている」ということになってて、当の幹部連中も否定しなかった。実際はわたしという小娘の絶対的な暴力に支配されていたんだけど、それよりも「色仕掛け」のほうが外聞が悪くないわけよ。




