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土御門香織

挿絵(By みてみん)


 香織(かおり)が独白する。


 物心ついた時から、違和感を感じていた。自分は「ここのもの」じゃなくて、どっか全然違う場所から連れてこられた、そんな風に思っていた。

 イギリスの妖精物語に「取り替えっ子」というのがある。妖精が人間の赤ん坊をさらって、代わりに妖精の赤ん坊を置いておく。両親は気がつかずに、自分のこどもだと思って育てるんだけど、実は違う。妖精だか、妖怪だか、とにかく「違うもの」なの。それが、わたし。

 何でそんな風に思うようになったのか? 両親の愛情が足りなかったから? それは違う。ママもパパも、それにおばあちゃんも、わたしのことを本当に可愛がってくれた。

 パパがディーラーやってた外資系証券会社が何ちゃらショックで潰れて、それまで住んでいた、飛鳥山(あすかやま)のタワーマンションの社宅から、上十条(かみじゅうじょう)木賃(もくちん)アパートに引っ越して、一家四人でつつましく暮らしてた時もそうだったし、一念発起したパパが起業して、OL向け消費者金融とソープランドと安物宝飾のトリプルビジネスで大成功して、赤羽台(あかばねだい)に成金テイスト満点のパチモン洋館ぶっ立てた後も変わらなかった。

 パパはしょっちゅう浮気してたし、ママはいつもキーキー怒っていたけど、わたしのことは心底愛していた。おばあちゃんは優しかった。でも、そのわたしが感じていたのは違和感。愛されるべきこどもはとうの昔にさらわれていて、代わりに何か「違うもの」が置かれている。そして、本来受けるべきじゃない愛を存分に受けている。それがわたし。

 わたしが本来いるべき場所は「ここ」じゃなくて、どっか全然違う場所。そこがどこなのかはまったく分からないけど、「ここ」じゃないってことだけは絶対確実に分かってる。だから、大きくなったら「ここ」を出て、「そこ」へ行くんだって思ってた。わたしが本来属していた、妖精だか妖怪の世界へ。


 中学生になり、憧れの図書委員になれた。そこで「百年に一人のテッラ」なんて怪物だったって分かって、逆にホッとしたかもしれない。

 わたしは、本に宿る言霊(ことだま)…マナの力を「(つち)属性」に変換して、大地を支配する、テッラの図書委員。日本広しと言えどもテッラはわたしただ一人。半径五十メートルを一撃で真っ平らの更地にする「ぐらびて」が必殺技。別名・地獄のハンマー。

「ほら、やっぱり怪物だったじゃん」って、逆に安心した。怪物だか、怪獣だかのこどもが、人間のこどもと取り替えられて、人間として育てられてきたんだけど、ついに化けの皮がはがれましたとさ、と。

 で、実は怪獣だったわたしは、どこへ行けばいいんだろう? 怪獣は怪獣の国へ帰ればいいんだろうけど、それはどこにあって、どうすれば帰れるの? どこにも行き場のないまま、ヤケクソになって、ゴジラみたいに暴れて、町を破壊して、人をいっぱい殺して、芹沢(せりざわ)博士にオキシジェン・デストロイヤーで退治してもらえばいいの? 全身が泡になって溶けて、骨になって東京湾深く沈んでいくのが、わたしの最期にして救済なの?


 だから「戦争」で、(もも)ちゃんと知り合えて幸せだった。桃ちゃんは「(みず)属性」のアクアの図書委員で、スキルはめちゃくちゃ高かった。それ以上に孫子(そんし)もナポレオンもびっくりの「戦争の天才」だったから、わたしなんかが勝てるはずがなかった。でも、そのわたしを桃ちゃんは助けてくれたのよ。そして、愛してくれた。いろんなことを教えてくれた。

 桃ちゃんは優等生だったから、わたしも負けちゃいけないって、一生懸命勉強した。桃ちゃんが受験勉強につきあってくれたお陰で、最難関の葉桜(はざくら)女学院に合格した。中高一貫の女子校で、高校から入るのは、けっこう難しいのよ。その前の年に桃ちゃんは都立北野(きたの)を卒業して、早稲田(わせだ)の文学部に進学してた。わたしも大学は早稲田一択!って決めてたのに。


 なのに、何よ。桃ちゃんはわたしを裏切った。人生最大の裏切りよ!


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