お詫び
少しだけ後書きを追加しました。23.4.25
この物語を読んでくださっている方へ。
こんにちは。
アイシェの旅にここまで同行してくださってありがとうございます。
実は、幕間を書いた後に承認欲求モンスターに支配されてしまった私は、そこでパッタリとアイシェの世界が見えなくなってしまいました。
それでも見えていたところまでを書いて21話をアップしましたが、その先が全く見えてこないままでした。
どうしたらいいか分からないままに内から湧き出る漠然とした渇望を止められなくてなろうの中を徘徊する中、ニコ様の書かれた「諸説はあるかも知れませんが、上達したいのなら承認欲求はいったん捨てないと無理ですよ」に出会い、自分の中から承認欲求モンスターを排除することができました。
ようやく承認欲求から解放された私はこれでまたアイシェの世界が見えると喜んだのですが、数日後に見たのは、この物語の終わりでした。
唐突に脳裏に浮かんだそれは、物語を書き始める前に考えていたものとは全く違うものでした。
それを見た私は、大泣きしてしまいました。
私は、アイシェと一緒に異世界を旅したかったのです。
公爵家から逃げ出して、シマエナガ(モデルになった鳥)を巨大化したようなシク・ラッパルと、まだ登場していない箱付き4tトラックサイズのノルウェージャンフォレストキャット(モデルになった猫)のフェリエスという種族に出会い、一緒に旅をしていくはずだったのです。
そして、これまで出会ってきた沢山の異世界転移・転生の物語のように、行く先々で大活躍するはずでした。
でも、蓋を開けてみたらバルンさんの料理に胃袋を捕まれ、公爵家を脱走することもなく、旅に出ることもなく、ドルチェンさんと一緒に暮らし始めました。
3歳の祝受の儀で手に入れた力は、これまで人として生きてきたアイシェにとっては異質で大きすぎるために全く使いこなせないでいます。
自分で訓練して身につけた魔法も日常生活にはそれほど必要ではなく、魔法や【もどき】を使って物を作り出すこともできますが、日々の暮らしに満足しているアイシェはお山で必要な生活雑貨を作ることぐらいしかしないために、何かを作って話題になるとかお金を稼ぐということもありませんでした。
自立して生活するために一度は魔粒石を作って売ろうとしましたが、それが多くの失業者を生むと知り、魔法で作った物を安易に市場に出してはいけないのだと学んだ結果でもあるのかもしれません。
私は無属性魔法で物を作り出せると分かった時に地球の物をどんどん作って売るということを考えました。
多くの異世界転移・転生の物語のように、日本の物が異世界の人たちに喜んで受け入れられて成功していくことはワクワクすると思ったからです。
でも、異世界には異世界の異世界に合った文化や生活様式や料理があり、美味しいものも便利なものも素晴らしいものもあるのではと思い至り、その考えも消えました。
食についても肉体が異世界のもので生まれた時から異世界の食事をしているので、体が日本食を求めないために日本食への渇望もありません。
アイシェとしてアイシェの暮らしを思い浮かべれば浮かべるほどに物語を書き始める前に考えていたものとは色々なことが変わっていきました。
当初は冒険者になるはずだったのですが、それも無くなりました。
私はロールプレイングゲームのファイナルファンタジーが大好きでした。
と言ってもファイナルファンタジーを始めたのは5からだったと思いますが。
そして10までやった時、ゲームができなくなりました。
馬鹿げた話ですが、私はレベル上げのためにモンスター達の住む場所、彼らの領域へわざわざ自分から侵入して行き、殺して回ることが怖くなったのです。
ゲームの中なのに……
それ以降一切ゲームをやらなくなりました。
その影響は自分の書く物語にも出てしまいました。
アイシェは魔物や魔人を殺すことに恐怖したのです。
今書いている25話の中でそのことに少しだけ触れていますが、8歳の時に修行の一環でライホーゲンの森に行き、最初に出会ったラゴスという魔獣を殺したことで半月間修行から離れてしまいます。
アイシェは殺してしまったラゴスと前世で一緒に暮らしていた猫を重ねてしまい、ラゴスを殺してしまった罪悪感と恐れから泣きながら謝り続けるという日々を過ごします。
途中でダルバリオン先生にあることを言われたことで自問自答を繰り返し、最終的に戦うという選択をしますが、それでも殺すという行為に対して泣くし謝るしということがしばらくの間続きます。
そのため、もしも唐突に見てしまった物語の終わりが無くても、アイシェは冒険者以外の何かになっていたでしょう。
何が言いたいかと言いますと、書き進めていく内に書く前に考えていた物語とは流れが大きく変わってしまったということです。
そして、見てしまった物語の終わり。
私は今、大泣きしてしまった終わりに向かってお話しを書き進めています。
ですが、そこに至るまでの流れは見えているのになかなか文章にできないでいます。
全く書く気が起こらなくなってしまったのです。
それでも今なら書けると思った時に少しずつ書いていますが、今書いている25話ですらいつまでかかるか分かりません。
私には小説家になろうで一つだけ悲しいと思うことがあります。
それは、読んでいる物語が完結しないままで放置されてしまうことがあるということです。
物語の先がどうなるのか分からないまま消化不良のままで読むことを諦めなければならなくなる。
今、この物語もそうなりかけています。
ですから、この物語はこの回で完結として、ここまでアイシェの旅に同行してくださった方が消化不良にならないように、私が見た物語の終わりまでの大雑把な流れと大雑把な終わりを以下に書きます(所々細かく書いてます)。
説明のように書いていくので、いつも以上に読みにくいかと思いますが、もしよろしければ、以下に目を通していって下さいませ。
◇
23話以降のアイシェは、五歳の誕生日以降、一週間に一度バシレウス族の誰かと必ず模擬戦をしてもらえるようになり、戦闘経験を積んでいきます。
6歳、7歳は特に目立ったことはなく、誕生日にそれぞれ岩人と翼人の国にダルバリオンに連れていってもらい、岩人がドワーフではなく頭に鉱物の結晶が生えた地下に住んでいる種族で、翼人は翼があり飛ぶことができる自分たちを高貴な存在だとしてそれ以外の人種を下等種だと見下した高慢ちきな種族だと知ったことが特別な出来事でした。
8歳の時、修行の一環で魔物や魔人と戦う経験を積むためにとライホーゲンの森に行きますが、最初に出会ったラゴスという魔獣を殺した時点で絶叫して剣を放り出してお山に逃げ帰り、そこから半月間午前中の授業も午後の修行も出なくなります。
しばらくしてダルバリオンからあることを問いかけられ、自問自答を繰り返した結果、戦うことを選びます。
そこからまた修行が始まり、魔物や魔人との戦闘訓練はライホーゲンの森ではなくアイシェ専用の迷宮が用意され、そこで行われるようになります。
8歳の誕生日には獣人の国に行きますが、同じ髪型の人ばかりで見分けるのが難しい尻尾のあるマッチョな人たちだと知ります。
9歳では、5歳の誕生日に頭突きという意表を突いた攻撃があったから勝てただけで、本当は思いっきり遊ばれていたバシレウス族の王アムザへの再戦が叶いますが、敗北。
それでも5歳の時とは違い、なかなかいい勝負ができたことでアムザ王が喜び、それ以降、週に一度の模擬戦の相手を度々してくれるようになり、アイシェの戦闘力は更に上がっていきます。
アイシェ対複数のバシレウス族の人たちという1対多の模擬戦もこの年から始まります。
この年、出会ったときからずっとアイシェのことをチビと呼んでいたダルバリオンは、アイシェを一人の戦士と認めて初めて名前で「アイシェ」と呼びます。
初めて名前で呼ばれたアイシェは天変地異の前触れだと騒ぎますが、実は嬉しすぎて素直に喜べないだけでした。
そして、誕生日にはアイシェの望みを聞いたダルバリオンがジュリウス・ベンシューレンをお山に呼び出してくれて(無理矢理ではなくダルバリオンがジュリウスの了解を取って)、念願かなってジュリウスに会うことができます。
骨皮の妖怪を思い描いていたアイシェは栗色の髪に翡翠のような綺麗な瞳を持った落ち着いた雰囲気の40代前半に見えるジュリウスに拍子抜けしますが、これまで出会った魔道具や魔法陣に感動したことを一生懸命に伝えます。
が、自己紹介をしていなかったことを思い出して、改めてお互いに自己紹介をして話していくうちに、地球の言葉を聞き取ります。
思わず聞き返すと、なんと、ジュリウスはアイシェと同じように前世の記憶を持った人で、前世はアメリカ人だったことを知ります。
ジュリウスはコンピューター関連の仕事をしていた、いわゆる天才でした。
そんなジュリウスとの交流が9歳の誕生日をきっかけに始まります。
そして、10歳。
数えで10歳の年の最初の月に全国で行われる魔粒石の蓄粒限界量の検査で超越者のランクだと判明してしまったアイシェは、当然のごとく学園への入学が決まってしまいます。
ですが、アイシェは学園へ行きたくないのです。行く必要も無いのです。
何故なら、学問とマナーはエフィレイスに指導してもらい、戦闘訓練はダルバリオンにしてもらい、自力で習得した魔法は学園の教師ですら及ばない域にいるからです。
そこで、入学免除を求めて国王の寝所に直談判しに行きますが、正論をもって入学免除を却下されたために、学園に行くことを渋々承諾します。
が、学園に行くことはありませんでした。
魔粒石の蓄粒限界量の検査からしばらく経ったある日、アイシェは12年の間小規模のスタンピードが起きていないことを知ります。
振り返ってみれば、確かにスタンピードが起きたと聞いたことは一度もありませんでした。
ドルチェンは、スタンピードが起こらないことはありがたいが、これまでは必ず5、6年に一度は起きていた小規模スタンピードが12年も起きていないのは逆に怖いと言いました。
更に、前回の大規模スタンピードから32年が経った今、いつ大規模スタンピードが起きてもおかしくないが、小規模スタンピードが起きていないこともあり、もしかしたら過去最大の想像もできないほどの大規模なスタンピードが起こるのではないかと懸念しているとも言いました。
それを聞いたアイシェはダルバリオン先生に事情を話し、スタンピードが起こる前に装置を破壊しようとライホーゲンの森に行きます。
装置は5mほどの高さがある卵形をしていました。
何故これほどに目立つ物が今まで破壊されずに放置されていたのかというアイシェの疑問に、「地上の者達には大きな岩にしか見えないのだ」とダルバリオンは答えました。
大きな岩にしか見えないと言われたアイシェはまじまじと装置を見ます。
無数の光が瞬く無限の奥行きを感じる空間を卵形にしたようなそれは、まるで宇宙空間を閉じ込めたようでとても美しい物でした。
これが見えないなんてなんて勿体無い。
アイシェはただその美しさに引かれて装置に近づきます。
もう少しで手が届くというところで、装置に這うように伸びた蔦のような木の根のようなものが気になり、装置に伸ばしていた手をそちらに向けます。
そしてそっと触れた瞬間に全身が総毛立つほどのおぞましさを感じて慌てて手を離しました。
一緒に来ていたダルバリオンはアイシェの様子を怪訝に思いどうしたのかと聞くと、上手く説明できないけど装置に這っている蔦のような木の根のようなものがとにかく気持ちが悪いと言いました。
それを聞いたダルバリオンはそれは木の根だと言い、この木の根の本体が虫の星の神セルフィシオンであることを話します。
そして、アイシェが感じた気持ちの悪さは長い間木として生かされてきたセルフィシオンの怒りや恨みの念だろう言いました。
それを聞いたアイシェが手に付いたセルフィシオンの念を払い落とすようにパンパンと手を叩いている横で、ダルバリオンは装置が正常に稼働しているならば5、6年に一度は必ず起こるはずの通常のスタンピードが起きていないのは何故なのかと疑問に思い装置と木の状態を調べます。
「何てことだ……」
ダルバリオンは、五千年前ほど前に再び中央管理局から出された手出し無用の指示に従いセルフィシオンを地上に任せたままにしていたことを後悔します。
何故なら、目の前の装置と他の地にある4つの装置にも異常なほどの膨大なエネルギーが蓄積されていること、セルフィシオン本体にも神に匹敵するほどのエネルギーが溜まっていること、更に、木の根が世界中に伸びてその先にも膨大なエネルギーが溜められていることを知ったからです。
さらにそのエネルギーは爆発寸前でした。
ダルバリオンは今この瞬間にも大規模スタンピードが起きる可能性があると判断し、装置がある地で大至急大規模スタンピードに備えるようにと、それとは別にアルファルド王国の中の5つの地点についてそこの地下に木の根が伸びていてそこでもスタンピードが起こる可能性があることをアイシェに伝えると、自身はエイラの神域へと戻ろうとします。
ここでアイシェは目の前の装置だけでも破壊したいと言いますが、ダルバリオンはそれを止めます。
今この瞬間にも爆発しそうなものに刺激を与えれば全てが一気に爆発する可能性があり、スタンピードへの備えが少なからずあるアルファルド王国は持ち堪えられるかもしれないが、他の国はそうではないのだと。
何も知らない無防備の状態のところに大規模スタンピードが起きればその地域に住む人種の全滅もあり得るのだと。
だから決して装置に触れてはいけないと言いました。
それを聞いたアイシェは装置破壊を諦めて急いでドルチェンの元に行くと、ダルバリオンに言われたことを伝えます。
ドルチェンは緊急事態として公爵に知らせ、公爵は王城へと連絡を入れ、王城から各公爵家へと連絡が行き、それぞれにスタンピードに備えます。
同時に5つの地点についても調べられ、確かに強力なエネルギー反応があることを認めます。
国中がスタンピードに備えて動き始めました。
一方エイラの神域に戻ったダルバリオンはセルフィシオンの状態を神々に報告しました。
神々は急いでセルフィシオンの全貌を調べます。
そして、空中に映し出されたセルフィシオンの姿を見て驚愕します。
セルフィシオンは大陸全土に根を伸ばし、その先に膨大なエネルギーを溜めていました。
それだけではありません。
木の根は星の核を包んでしまっていたのです。
「木の根でどうやって核に到達できたの?」
キュリエスの疑問に
「全大神の魂にしては随分と小さくなっているわ」
ヴィビニエールが言い
「何らかの方法で魂を削って細胞を強化したのでしょう」
エフィレイスが答えました。
「自分の魂を削ってまでして星の核を包んだと言うことは」
オルフェスの言葉に
「僕たちへの牽制だと思うよ」
アイデンは答えると、側にいた補佐神達に大至急中央管理局に状況を説明して対処する許可を取るように頼みます。
同時に、根が伸びている各地の神殿に大規模なスタンピードが起こる可能性が高いために大至急備えるように通達することと、バシレウス族に各地へ向かい人種を助けるように指示を出すことを頼みます。
ところが、中央管理局へ許可を取りに行ったはずの補佐神が直ぐに戻ってきました。
何かあったのか、浮かない表情をした補佐神はとても言いにくそうに中央管理局からの回答を口にしました。
それを聞いた神々は絶句し、そして、怒ります。
何故なら、またしても「手出し無用」の指示が来たからです。
エイラの神々は怒りを爆発させますが、中央管理局に逆らうことはできません。
逆らえば、親神、ひいては始まりの神々に逆らったということになり、星ごと消されてしまう可能性があるからです。
神々は唇を噛み締めて、拳を握りしめて、星の行く末を見守り続けなければならなくなりました。
そんな時、セルフィシオンから雑音だらけの念話によるメッセージが届きました。
「地上を浄化する。そして楽園を作る。手出しすれば星ごと破壊する」
その言葉と共に空中に映し出されたセルフィシオン本体の周りと木の根の先、装置の周りに小さな光が生まれ始めました。
一部を拡大してみると、それはこの世界の魔物や魔人ではありませんでした。
大きさは様々で、しかし、小さくても人間の大人と同じぐらいの大きさのある、硬い表皮と節のある手足と羽根を持った様々な容姿のものや、複数の足を持ち地を這うように移動する一見ブヨブヨとした表皮に見えるものや、大きな羽根を羽ばたかせて粉を撒き散らしながら空を舞うものなど、多種多様な虫の星にいた生命体でした。
この世界にも虫タイプの魔物は存在しますが、三種類しかおらず、大きくても人間の大人ほど。
戦ったことのない生物相手に果たして人種は対抗できるのか。
「私達の星が」
フェリアースが泣きそうな声で呟きました。
「何故親神は動かない! 反省させると言って木にしたのは親神だろう!」
ダルバリオンが吠えました。
「ダル、私もそう思うけどここで怒鳴っても何も変わらないわ。だから、少しだけでいいから声を小さくしてもらえないかしら」
リーフィアがダルバリオンの声の大きさに耳を塞ぎながら言いました。
「始まりの神々は私達末端のものの気持ちなんてどうでもいいのかもしれないわね」
ランツィエールが言いました。
「あら、光の神らしくない言葉ね、ランツィ」
「だって、どう見たって私達の星の危機よ。それなのに手出し無用なんて、この星がどうなってもいいって言われているようなものじゃない!」
ヴィビニエールの言葉に涙声で答えたランツィエールに
「きっと何か解決策があるわ。一緒に考えましょう」
ヴィビニエールは優しく答えます。
そこに
「実は、解決策になるだろうことはあるんだ。セルフィシオンが全大神の魂ではなくなった今ならね……」
アイデンがとても苦しそうに言いました。
アイシェはエイラの神域へと呼ばれました。
地上では大規模スタンピードに備えて大忙しです。
アイシェも即死でなければどんな怪我も治る治療薬をせっせと作っていました。
だから、一分一秒も惜しい今、早く戻って作業の続きをしたいと告げると、とても大切な話があるからと言われます。
そして移動した部屋にはエイラの神々が集まり、部屋の中央には巨大な木の映像が空中に映し出されていました。
アイデンは映像の木を見ながらアイシェに話しました。
虫の星の神であるセルフィシオンが親神により木にされて地上に落とされたこと、セルフィシオンが今地上にいる生き物を殲滅して新たな世界を作ろうとしていること、エイラの神々はそれに対して手出しができないこと、そして、これを阻止できるのはアイシェだけだということを。
何故アイシェだけなのか。
それは、神であるセルフィシオンを倒せるのは地上では神の力を持ったアイシェだけ。神の魂を壊せるのは神の力だけだからなのです。
それを聞いたアイシェは、自分がやらなければ今の世界が無くなるというならやりますと答えようとしたところでアイデンに止められました。
どうして了承しようとしたのに止められるのか分からないでいるアイシェにアイデンは正直に言いました。
アイシェの力は今のセルフィシオンより少しだけ弱いために、セルフィシオンを倒すにはアイシェの全てを破壊の力に変えて叩き込まなければセルフィシオンを倒せないのだと。もしもそれをすれば、アイシェは魂すらも残さずに消滅するだろうと。
アイシェは愕然としました。
目の前に突きつけられた『死』。
セルフィシオンを倒せば自分も死ぬ。
セルフィシオンを倒して平和な世界になったとしても、そこに自分はいない。
アイデンは言いました。
決めるのはアイシェだと。
アイデンはお山について教えてくれました。
お山は神結界を発動した時点で地上とは隔絶された空間になっているから、地上がどうなったとしてもアイシェが助けたい人をお山に避難させれば、その人達は守れると。
そのまま人の寿命を終えるまでお山で生きることもできると。
だから、世界のことは気にせずにお山で平和に暮らす選択肢もあると。
アイシェが決めたことに僕達も従うと。
決めるのはアイシェ。選ぶのはアイシェ。
セルフィシオンは既に自分の兵隊達を生み出しています。
いつ動き出してもおかしくありません。
猶予はないのです。
それでもアイシェはお山に戻って温泉に浸かりました。
静かに心を落ち着けて考えたかったのです。
すぐ近くで気持ちよさそうに寝そべるヴォルグスたちを眺めながら前世を思い出していました。
アイシェは前世で社会の脱落者でした。
子供の頃から変人と呼ばれ続け、勉強も仕事も人並みのことができない。
何をやっても上手くいかず、自分を受け入れてくれるのは一緒に暮らしている猫だけ。
会社を転々としながらも社会人として生きますが、守るものがなくなった時、生きる意味を失い、生きる気力を失い、ただ苦しいだけの仕事を辞めて家にこもりました。
それからどう生活していたのか霧がかかったように思い出せません。
そして、気がついたらアイシェとして生まれ変わっていました。
生まれ変わった世界での暮らしは、アイシェにとって信じられないほどに幸せなものでした。
二年間穴蔵で暮らすことにはなりましたが、それを除けば前世では味わったことのない驚くほどの愛情に包まれて暮らしています。
だから死にたくない。生きたい。ようやく掴んだ幸せ。
でも、セルフィシオンを倒さなければ今の世界は無くなってしまいます。
守りたい。
でも。
死にたくない。
アイシェは死にたくない、生きたいと思う気持ちと、大好きな人たちを守りたいと思う気持ちの間で葛藤します。
自分が死ねばその先はない。
大好きな人たちが死んでしまっても、やはりその先はない。
アイデンはアイシェだけでなくお山に避難させた人たちなら人としての寿命を終えるまでは生きていけると言った。
自分たちだけが生き残る。
それをドルチェンたちは受け入れるだろうか?
いや、自分たちだけが助かるなどということは受け入れないだろう。
アイシェは子供たちの笑顔を守るために戦っていると言ったドルチェンを思い出します。
もし無理矢理お山に避難させたら、ドルチェンの顔から笑顔は消えるだろう。
そう、ドルチェンなら間違いなく戦うと言う。
例え自分が死ぬと分かっていても。
アイシェはドルチェンの言葉を思い出し、自分がドルチェンの笑顔を守ると決めていたことを思い出します。
だから、アイシェは決めました。
セルフィシオンを倒すと決めました。
そして温泉の中で泣きました。いっぱいいっぱい泣きました。
心配したヴォルグスたちが温泉に入ってきて、アイシェが泣いている間中アイシェに寄り添っていました。
アイシェは側に来てくれたヴォルグスに抱きついていっぱい泣いて、生きたいと思った自分を温泉に溶かして流し、セルフィシオンを倒すと決めた自分だけを抱きしめて立ち上がりました。
温泉から出たアイシェはヴォルグスたちにお別れを言うと、ジュリウス・ベンシューレンに会いに行きました。
そして、セルフィシオンを倒すことになり、その際に自分が消滅してしまうことを伝えて、できればお山に住んでドルチェンとヴォルグスたちを守って欲しいと頼みます。
ジュリウスはアイシェの頼みを聞いて、ドルチェンとは気が合うし、犬が大好きで実はお山に住みたいと思っていたと言って二つ返事で引き受けてくれます。
これでアイシェに思い残すことはありません。
ジュリウスと一緒にお山に戻ってくると、可能な限りの治療薬を作り、次に、バシレウス族の王ラムザの鱗を使ってシールを大量に作りました。
そして、ドルチェンに渡しに行きました。
治療薬を渡したアイシェは両手を上げて言いました。
「ドルチェンさん、抱っこ」
数えで10歳になったアイシェにいきなり抱っこをせがまれたドルチェンは面食らいますが、嫌な顔一つせずに抱き上げます。
「一緒に住み始めた頃は小さい人形みたいだったが、大きくなったな」
そう言って嬉しそうに笑ってアイシェの頭をガシガシと撫でます。
アイシェはそんなドルチェンにぎゅっと抱きついて
「ドルチェンさんに会えた私は世界で一番の幸せ者だよ。魂の底から感謝だよ。ありがとう、ドルチェンさん。大好き! ずっとずっと大好き! ずっとずっとずーーーーっと大好きだからね! ありがとう!」
そう言うと神移動でアイデンの元に行きました。
アイシェが消えたドルチェンの腕の中にはアイシェと同じぐらい大きな袋が乗っていました。
袋を開けると白い紙が一枚と、薄水色の光沢のある紙に直径が1センチほどの金色の円が並んでいるものがぎっしりと入っていました。
白い紙にはアイシェが書いた綺麗な文字が並んでいました。
——大好きなドルチェンさんへ。この金色の紙を水色の紙から剥いで武器の見える位置に貼ってください。どこでもくっ付くからとにかく見える場所に貼ってください。スタンピードで生まれた生物に対してのみですが、武器を守りつつ攻撃力が格段に上がるし、この紙を貼った武器を持っていれば、防御や回避できなかった攻撃を防いでくれます。無敵になるわけではないので、そこは注意してくださいね。効力が無くなると粉になって消えるので、金色の紙が無くなったら貼り直してくださいね。作れるだけ作ったので、戦闘に参加する人たちで分けて使ってください。……ドルチェンさん……生きてね。あ、バルンさんとセリーお姉さん、レイオンさんに会ったら、目一杯ありがとうございますって伝えてくれると嬉しいです。それから、メディエス公爵閣下に会ったら、閣下にもありがとうございましたと伝えてもらえると嬉しいです。それからそれから、今日からお山にジュリウスさんが住み始めたので、家に帰ったらジュリウスさんがいても驚かないでくださいね。ジュリウスさんがいるからとレイオンさんが焼き餅を焼かないように、喧嘩しないように、ちゃんとジュリウスさんのことは説明してくださいね。三人で仲良くしてくださいね。じゃあ……しばらく家を空けるので、ヴォルグス達のことをよろしくお願いします。アイシェ——
アイデンの元に神移動したアイシェは、セルフィシオンを倒すと決めたことを伝えます。
アイシェの決意を聞いたアイデンはアイシェを抱きしめると、一度謝りかけますが、その言葉を飲み込み、「ありがとう」と言いました。
アイデンはアイシェをセルフィシオンの映像の前に連れていくと、神視界でセルフィシオンの魂を見るように言います。
アイシェが見えたと言うと、アイデンがアイシェの目に触れます。
これで神視界を使わなくてもセルフィシオンの魂が常に見える状態になったはずだからと、映像のセルフィシオンを見るように言います。
言われたようにアイシェが映像のセルフィシオンを見ると、確かに上方に光る玉が見えました。
それを確認したアイデンは、セルフィシオンの倒し方を説明します。
まず、各地と木の周辺での人間達との戦闘にセルフィシオンの意識が向いている間に木の根元にバシレウス族の王ラムザと瞬間移動し、ラムザが木の根本を魔法で広範囲分解する。
木の根元が消えてしまったセルフィシオンは絶対に根と切断されるわけにはいかないために早急に修復しようとそちらに意識を向けるはずなので、その瞬間にセルフィシオンの魂のところへ瞬間移動し、【もどき】による破壊の力をセルフィシオンの魂に全身全霊で叩き込むというものでした。
倒せるチャンスは一度だけ。
何故なら、アイシェが神の力を持っていると知らないセルフィシオンにとって、エイラの神々以外は敵にすらならないために、全く警戒していないからできる作戦なのです。
最初の攻撃が失敗してアイシェの力が知られてしまえば、セルフィシオンはアイシェに対する防御を展開するため、以降は木に近づくことすらも難しくなるだろうというのです。
一発勝負。
アイシェは【もどき】による破壊の力の出し方をアイデンに教わると、その足でバシレウス族の王ラムザの元に行き、事情を話して鱗を数枚もらい、追加のシールを大量に作ると、ラムザ王と他に2人のバシレウス族を連れてアルファルド王国の国王の元に飛びました。
つい最近会ったばかりの、しかも欲求を突っぱねたことで不機嫌な状態で帰っていったアイシェがバシレウス族を3人も連れて現れたことに驚いた国王でしたが、来訪の目的が学園入学免除の話ではないと分かると、警戒を解いて話に耳を傾けます。
そして、スタンピードで襲ってくるのは異界の生物であること、原因は深淵の森イリスの奥深くに聳える巨大な木であること、その木をアイシェが破壊しないと世界が滅ぶことを知ります。
丁度そこへスタンピードが始まったこと、襲ってきたのは見たことのない生物ばかりなことが報告されました。
報告を聞いたアイシェは今から巨大な木を壊しに行くと言いました。
ただ、作戦を成功させるためにも、各地で徹底抗戦してもらわなくてはなりません。
そのためにアイシェはバシレウス族の鱗で作ったシールを使い方と効果を説明して渡しました。
国王はそれを近侍補佐のワイス子爵に渡して大至急配布するようにと伝え、できる限り派手に戦うから作戦を成功させて欲しいと言いました。
アイシェは手を握りしめて頷くと、バシレウス族と一緒に深淵の森イリスに飛びました。
距離はまだ随分と離れているのに天まで届きそうなほどの巨大な木はよく見えます。
木の周りには元々生えていた森の木すらも食い尽くしたのか、更地になった場所に無数の異界の生物が蠢いています。
「アイシェ、行くぞ」
ラムザの言葉にアイシェは頷きます。
同時に一緒に来たバシレウス族の二人が咆哮を上げながら巨大な竜体に戻ると異界の生物の群れに突っ込んで行きました。
アイシェ達はバシレウス族の二人と異界の生物達が交戦する場を大きく迂回して地上を瞬間移動しながらセルフィシオンの背後に回り込みました。
アイシェはセルフィシオンの魂の位置をしっかりと目視で捉えます。
そしてアイデンの言葉を思い出します。
「木に覆われているように見える魂はね、僕たちがいる神域と同じ層にあるから瞬間移動では行くことができないんだ。だから、魂の元に移動するにはアイシェの言う神移動をしないといけない。でも、神の力を使えば必ずセルフィシオンは気づく。もし移動した後に一瞬でもセルフィシオンを破壊することを躊躇えば、アイシェに気づいたセルフィシオンに攻撃されるからね、そうなったら作戦は失敗に終わる。だから……移動したら直ぐに力を叩き込まないといけないよ」
躊躇いは許されない。
アイシェは目を閉じて心を沈めます。
そしてこれまでのことを思い返します。
楽しかったこと、嬉しかったこと、泣いたこと、笑ったこと。
ゆっくりと目を開けたアイシェはアムザに向かって言いました。
「アムザ王、ここまでありがとうございました」
アムザは背が低いアイシェが下げた更に低い位置になった頭に手を置くと「我も感謝する」そう言って頭を撫でて、それからアイシェに頭を上げるように言います。
そして一つ頷くと
「では、いくぞ!」
そう言ってセルフィシオンの根元へと瞬間移動し、無属性魔法で巨大な木の根元を消滅させました。
それを確認したアイシェはセルフィシオンの魂の元へ神移動しました。
白く強く発光する光の塊。
アイシェはその塊に向かって思いっきり力を叩き込みます。
「消えろーーーーーーーーーーー!!!!!」
木の修復と根元にいるアムザに気を取られていたセルフィシオンは突然感じた神の力と同時に魂に加えられた破壊の力に絶叫します。
そして必死に抗います。
アイシェの力とセルフィシオンの力が拮抗しアイシェが押されかけたとき、再びセルフィシオンの気が逸れました。
アムザが再び木の根元を消滅させてくれたのです。
その一瞬をアイシェは逃しませんでした。
アイシェの脳裏には大好きな人たちの笑顔が浮かんでいます。
「うわーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
ただただ叫びました。
大好きな人たちを思って叫びました。
全てを出し切る勢いで叫びました。
セルフィシオンの絶叫が再び響き渡りました。
アイシェの叫びとセルフィシオンの絶叫が重なります。
世界が真っ白になりました。
まるで光が全てを飲み込んだように世界から音が消えました。
光が収まったとき、そこには静かな静かな何も無い空間が広がっているだけでした。
世界にも音が戻りました。
そしてセルフィシオンの木は轟音を立てて倒れていきました。
世界中で生み出し続けられていた異界の生物達が生まれなくなりました。
スタンピードが始まってから3日後には無数に生み出された異界の生物達は掃討されました。
犠牲は出ましたがその数はとても少ないものでした。
アイシェが作った治療薬と金色のシールが戦う者達を守ったのです。
ドルチェン達はアイシェの戻りを待ちました。
でも、アイシェは戻りませんでした。
アイデンからアイシェのことを聞いたドルチェン達は、泣きました。
それから30年。
お山の家の外に出した椅子に座ったドルチェンは、膝の上に置いた小さな箱から黄ばんだ紙を取り出します。
そして、そっと開いた紙に書かれた『……ドルチェンさん……生きてね。』の文字を指で優しく撫でます。
「アイシェ、俺は元気に生きてるよ」
◇
以上です。
ここまでアイシェと一緒に旅をしてくださった皆様、ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
そして、完結まで物語を書き切ることができなくて申し訳ありませんでした。
最後に、イメージ固めで書いた残りの絵で、出番がなかった人族やライホーゲンの森に出る残りの魔人達、そしてアイシェの顔を載せましたので、気が向かれましたら見て行ってください。
●岩人
固有能力:雷撃
地下に国を作って住んでいる。
地下にある巨大キノコの森に住む魔物や、栽培したキノコや苔を食べている。
巨大キノコから取れる繊維で作られた布や、頭から抜け落ちた鉱物などを交易品として地上と交流している。
光がなくてもよく見える目を持っている。
アイシェが行ったのはトトスス国。他にもメメナナ国とかララホホ国などがある。
●獣人
固有能力:なし
血の気が多く喧嘩っ早いが、さっぱりとした気質の種族。
同じ髪型でほとんどの人がマッチョ。
とにかく素手で強い人が好きで、年に一回格闘大会が開かれる。
男性はハーレムを作って暮らしている。
人間の社会に混ざって暮らしている獣人もいる。
●ベランドゥナ
固有能力:擬態
体色を周囲の色に合わせることができる。
木の幹などに擬態して待ち伏せして襲う。
首と手と足が伸びる。
●ボンボ
固有能力:物理攻撃無効
唯一穏やかな魔人。
攻撃しなければ滅多に襲ってこない。
大抵は水辺にいる。
体色が赤く染まっている状態のときは即襲ってくるので注意。
口から酸を吐く。
●グルーバ
固有能力:幻覚
廃墟などに住んでいる。
体から男を引き寄せて興奮させる匂いを出している。
引かれて寄ってきた男にその男の理想の女性の姿を見せて行為に及び、満足すると殺して食べてしまう。
(胸がむき出しだったので紙を乗せてます)
●オーギス
固有能力:催眠ガス
普段は森深くや山奥の土の中で眠っている。
十年に一度、一週間だけ起きて徘徊する。
催眠ガスを吹きかけて眠らせて大きな口で食べてしまう。
鋭く尖った太くて黒い毛を飛ばして攻撃する。
●アイシェ
髪も目ももっと白が強いですが銀色しかなかったので……
ちょっと生意気そうな顔です。
子供なので顔が丸いです。
髪の毛はヴィビニエールに切ってもらって形もつけてもらって外ハネになっています。寝癖もつかないすぐれものです。
ふう、終わったねー、ねえ赤、緑、今回のはなかなか良かったと思わない?
うん、なかなかだったねー。生まれたエネルギーも多かったし味も良かった。
特に神達のエネルギーが刺激的でクセになりそうだと思ったのは僕だけ?
緑だけじゃないよ。僕もそう思ったよ。青は?
僕もだよ。はぁ神達の感情エネルギーかぁ……どこかに神達が反乱を起こすような未来がないか探してみるかなぁ。
あーそれいいねー僕も探してみるよー
僕も僕もー
その前にさー、赤と緑はどんな世界を見せてくれるのー?
それは見てのお楽しみだよー
そうそう。
仕込みはバッチリだからねー
僕のところもー
楽しみだなー早く見たいよーって、僕は次の特異点を見つけないとねー
そうそう。仕込みは大事だからねー
少しでも味が濃い方がいいもんねー
そうだよねー
あ、青ってその特異点どうするの? 散った魂をわざわざかき集めるなんてさ。
これー? なんかさーまた輪廻に戻せば特異点を作ってくれるかなーって。
うわー、まだその魂を働かせるのー容赦ないねー
そう言う赤だって同じことするでしょー
まあねー僕たちは3つで1つだもんねー
ねー
よーし、じゃあ、次のイベントに向けてまた星巡りでもしますかー
そうしますかー
そうしよー
◇
お目溢しいただけた……始まりの神々よ、感謝します。
砕けた魂と肉体の再構築はうまくいった。
そろそろ目覚めてもいい頃だが……
ふむ、顔筋に動きがあるな。目覚めるか。
「白い…… !! セルフィシオンは? !! 消えてない! 消え——」
——止めよ
「え? 嘘、力が消えた? 嘘、どうしよう、倒さないとドルチェンさん達が」
——セルフィシオンは消滅した。
「え?」
——もう一度言う。セルフィシオンは消滅した。
(頭の中に声がする? ん?)
「セルフィシオンは消滅した?」
目が覚めたと思ったら跳ね起きて攻撃しようとするとは、一度落ち着いて状況を確認しようとは思わないのか?
エフィレイスとダルバリオンは何を教えていたのやら。
——そうだ。セルフィシオンは消滅した。
(どう見ても光の玉だからセルフィシオンの魂なのに何で誤魔化そうとしてるの?)
「分かった! 消滅させられたくないから嘘ついてるんでしょ?」
……馬鹿なのか? いや、魂と肉体を再構築した際に異常が生じたか? こちらが導いた流れとはいえ忠実に動いたことへの労いを込めて【もどき】ではなく完全な神の肉体と魂にしたが………………ふむ、異常は見られないな……
——わたしとセルフィシオンとでは輝きも大きさもかなり違うと思うが?
違うっけ? とか思いながら眉間に皺を寄せて腕を組んでこちらを見つめて首をかしげているが、本当に分からないのか? 全く違うだろうに。
ハッとした顔になったな。
「確かに! 輝きは分からないけどなんか大きさが違う気がする。あなたの方が大きい気がする!」
気がするのではなく確実にかなり大きいのだが………………ふむ、なるほど、確かにセルフィシオンの魂が大きく見えたようだな。
あの状況がセルフィシオンの魂を大きく見せたのか。
——わたしは親神だ。
「親神って、神様達を作ったり私達の魂を作ったりする神様?」
——そうだ。そして、ここはオリジェン。
「オリジェン? この真っ白な空間がオリジェン?」
確かにここは白いな。
「そっか、やっぱり私、死んだんだ……あ、でも意識があるってことは魂は消滅しなかったってこと?」
全てを諦めた微笑みを浮かべたと思ったら両手を見て驚いた顔をして、死んでいないと言ったらどんな顔をするのやら。
——君は死んでいない。
思ったより反応が薄いな。
キョトンとした顔をして首をかしげただけか。
思考が止まっている。理解できなかったのか?
「ん?」
まだ思考が止まっているな。
——君は死んでいない。
「死んでない?」
——そうだ。
「うそ、でもだって」
——君は確かに一度砕け散った。それをわたしが回収して再構築した。正確に言うなら一度死んだが神の肉体と魂を持って復活した。
「再構築? 復活? 死んでない? 死んでない、死んでない……じゃあ、じゃあ、じゃあ、私、生きてるの?」
——そうだ。
「生きてる……生きてる……生きてる………………私、みんなと生きられる………………私! ドルチェンさん達と生きられるーーーーー!!!!!!」
これは……拳を握って高く高く突き上げた体から暴力的なほど激しく強い歓喜のエネルギーが放出されている。信じられない、これほどのエネルギーが生じるとは……なるほど、これも始まりの神々は……だからお目溢しいただけたのか……
「親神……様、えっと、今すぐ戻りたい……です」
——言葉を気にする必要はない。戻る前に伝えておく。君はもうその姿のまま成長することはない。そして、人としての寿命は無くなった。もう一つ、エイラはエフィレイスが消滅してから30年が経過している。
「え? え? えっと、まず、この姿のままって、大人になれないってこと?」
——そうだ。
「ずっと子供のまま?」
——そうだ。
子供のままという言葉を繰り返しながら胸の前で手を握りしめて下を向いてしまったが、どうした?
ん? このエネルギーは
「やったーーーーーーー!!! 精神年齢に合った外見のままでいられるーーーーーー!!!」
またしても強い歓喜のエネルギーが
「あ、でも、私、死なないの?」
収まったな。
——神は始まりの神々か我々親神に消されなければ通常ならば死ぬことはない。
「あーじゃあご飯食べる手段を得なきゃかあ……」
——神の体に食は必要ない。
「食べなくてもいいの? でも、神様達はご飯食べてたよ?」
——食べる必要はないが、食べることはできる。
「光の塊の親神様がトイレに入っているところが想像できない……」
——我々親神は食べない。それに、神は食べても排泄はしない。そもそも排泄の機能がない。全てをエネルギーに変換できる。
「なんて衛生的な……人間もそうならいいのに……」
——人間は星の生命の循環の中にいる。得るだけでは循環が滞る。だから排泄が必要なのだ。
「汚いだけだと思うけど……」
——本来は大地を肥やすものだ。それを歪めているのは人間自身だ。
「そうなんですかあ……ま、人間には排泄が必要だということですね! 分かりました!」
考えることを放棄したようだが
「ところで、エイラはセルフィシオンが消滅してから30年が経過しているって言ってましが……あの、ドルチェンさんたちは無事ですか? 今も元気にしてますか?」
——問題ない。生存している。肉体が30年の時を経ているから容姿に少しだけ変化があるだけだ。
「よかったあ………………」
先ほどの暴力的なエネルギーとは真逆の柔らかいエネルギーだが、これもまた強い。
「あの、今すぐ戻りたいです!」
——君はもう自分で戻れる。ただ見て望むだけだ。
「見て、望むだけ……神視界!」
行ったな。エイラの神々よ、わたしにできることはした。あとは頼むぞ。
◇
「アイシェ、俺は元気に生きてるよ」
アイシェは椅子に座って黄ばんだ紙を見つめながら呟くドルチェンの前に立っていました。
アイシェはもう二度と会えないと思っていたドルチェンに会えたことで湧き上がる喜びが抑えられずに名前を呼びます。
「ドルチェンさん」
ドルチェンの耳に自分を呼ぶ聞こえるはずのない声が聞こえてきました。
でも、それはこれまでにも何度もあったこと。
今もアイシェのことを考えていたからだろうと見ていた紙を畳もうとした時、いるはずのない存在の姿が視界に見えました。
ドルチェンは遂に幻覚も見るようになったのかと頭を振りますが、
「ドルチェンさん」
再び聞こえるはずのない声が聞こえてきました。
ドルチェンは頭を振るのをやめて恐る恐る顔を上げます。
そこに立っていたのは30年前に別れた時のまま何一つ変わっていない、笑顔なのに泣きそうにも見えるアイシェでした。
「ア、イシェ?」
ドルチェンは目の前のアイシェに引き寄せられるように立ち上がりました。
膝の上にあった箱が地面に落ちて小さな玉が転がり出ました。
その側に先ほどまで見ていた紙もゆっくりと滑るように落ちていきました。
でも、ドルチェンは目の前にいるアイシェから目が離せません。
無意識に足が一歩前に出て片膝をつきました。
(消えないでくれ)
突き上げてくる思いのままに伸ばされたドルチェンの手は、すぐに小さな手が添えられてアイシェの頬へと導かれました。
それまで苦しげだったドルチェンの目が驚きに見開かれました。
「幻じゃ、ないのか……」
「幻じゃないです」
「幻じゃない……」
まだ信じられないといった顔のドルチェンにアイシェは目を閉じてより一層強くドルチェンの手に頬を押し当ててその温もりを感じるように深い呼吸をするとゆっくりと目を開けてドルチェンの目を見つめました。
「ドルチェンさん、帰りが遅くなってごめんなさい。しばらくのつもりだったのに、思った以上に長くなっちゃいました。でも、ようやく、ようやく帰ってこれました」
震える声で言い切ったアイシェの目からこぼれた涙がドルチェンの手を濡らしました。
幻じゃない、本当にアイシェが戻った。
ようやくそのことを実感したドルチェンはアイシェを掻き抱きました。
「ドルチェンさん、ただいまです」
泣きながら言ったアイシェにドルチェンは腕の中の確かな温もりを感じながら噛み締めるように応えました。
「ああ、ああ、おかえり。おかえり、アイシェ」




