24話 ダルバリオンの独り言
俺は力と戦いの神ダルバリオンだ。
意識が覚醒した時には俺が何者なのか、何故生まれたのか、持っている力をどう使うのか、全てを知っていた。
殻を破るように大きく伸びをしながら目を開けると光の玉が見えた。
それが親神だということは既に知っているから驚きもない。
何の前置きもなく親神から出される質問に淡々と答えていくと、正常という判断を下された後にダルバリオンという名をもらった。
頭から被る筒のような白い服を受け取ると、それを身につけて生まれた部屋を出た。
部屋を出た瞬間から何もかも初めての世界が広がっていたが、俺は全てを知っている。
だから、迷うことはない。
本能の赴くままに足を進めていく。
行き先は俺と同じようにここで生まれた神々が集う場所。
途中で目に入る光溢れる世界は全てが美しく、知識として知っているにも関わらず、魂が震えるのを感じずにはいられなかった。
そのせいなのか、俺は自分の顔がニヤつくのを止めることができないままに神々が集う場所に入った。
だからだろう、入り口近くにいた神々が俺を見て驚き散っていくのを見て、こんなことはいつものことだ、気にする必要はないと思った自分に驚いた。
初めての場所のはずなのに、いつものこととは何なのか。
答えは直ぐに得られた。
俺の中に知識としてあったからだ。
今の俺は星を管理する側になったが、元々は星に暮らす側だった。
明瞭な記憶は無いが、数え切れないほど戦士として生きた経験が魂に蓄積されている。
神になるために作られた魂。
それらの生の中で周囲の奴らに恐れられることは日常茶飯事だったのだろう。
今も厳つい形の俺がニヤついているからその異様さに恐れを感じて散っていった。
神になっても肝っ玉の小さい奴らだと思いながら奥へと進んでいくと、声をかけられた。
「やあ、なんだか楽しそうだね」
にこやかに微笑む細身の姿からは、俺に対する恐れなど微塵も感じない。
醸し出されるのはのんびりと穏やかな雰囲気だけ。面白い。
「ああ、ここに来るまでの見るもの全てが綺麗だったからな」
答えると、目の前の神は心底嬉しそうな顔をして言った。
「僕はアイデン、全小神のアイデン。僕は僕が理想とする星を作りたいと思っているんだ。君、僕の仲間になってくれないかな?」
いきなりの勧誘だった。
驚いたよ。俺のことを何も知らないのに何の躊躇いもなく俺を誘いやがった。
「何で俺なんだ?」
興味が湧いた。だから聞いた。
「僕もここに来るまでの道のりで見たもの全てに感動したんだよ。それで顔がにやけるのを止められなくてね。ここに入ってきたときの君の顔がまるで僕に重なって」
目の前の神はそこまで言うとふふっと笑って続けた。
「だから君なんだよ」
これがキッカケで俺はアイデンの星作りのグループに入った。
入って驚いたが、全小神一柱と属性神八柱という星作りに必要な最低限の神々の集まりだった。
その属性神八柱の最後の一柱が俺だった。
自己紹介をして更に驚いた。
一柱も属性が被っていない。こんな偶然もあるのかと。
どうやって選んだんだとアイデンに聞くと、この場所に入ってきた時ににやけた顔をしていた神々に声をかけて、その理由を聞いて誘ったと。
それでここまでバラバラの属性神が集まったのだから、アイデンの引きの強さに感心させられた。
自己紹介の後は、アイデンがアイデンの作りたい星を語った。
それは全員が望むような星だった。
ここに来るまでに見たものに感動した俺たちは、感性が似ているのかもしれない。
多少の追加意見も出し合い作る星のイメージがしっかりと固まると、中央管理局で星を作るための空間を割り当ててもらった。そして、誰もが意気込んでそこへ向かったが、窓口の補佐神のあの気の毒そうな顔が、まさか割り当てられた階層で先に星を作っていた先輩神達にあるとは思いもしなかった。
思い出しただけでも腹が立つ連中だった。
親神に作られた俺たちは持っている力の差はあれど、立場は対等だとされている。
にも関わらず、全小神と属性神の集まりである俺たちに対して、自分たちはお前達よりも優れている全大神の集まりで先輩なのだからと偉そうに振る舞い、やたらと干渉してきた。
事あるごとに俺たちの星に来てはあーしろこーしろと指図してくるのだ。
そんな先輩神達にうんざりしていた俺たちは、メルヘルンとニーブルの神々から干渉されることについて、再三に渡り中央管理局に苦情を入れていた。
だが、実力行使されていないために、自分たちの星以外の星作りに干渉するなという注意が両方の星に送られるだけに留まっていた。
その甘い対応のせいなのか、ニーブルの神セルフィシオンが暴走した。
自分の作った装置を自分の星で実験しようとして仲間の神々に止められたからと、俺たちの星で実験するという愚行に出たのだ。
気がついた時は既に遅く、地上界の上空で装置を設置しようとしていたセルフィシオンを止めようとしたが、装置は地上に落とされてしまった。
自分たちで作った星以外に力を使うことは明確な違反である。
即座に中央管理局に報告を入れつつ、俺たちは地上界の空でセルフィシオンを逃さないように取り囲んでいた。
当然中央管理局の補佐神が来てセルフィシオンを連行していくと思っていた。
が、現れたのは親神。
疑問に思っている間にセルフィシオンに罰が下された。
セルフィシオンは全ての力を奪われ、意識だけを残した木に変えられると、地上に落とされたのだ。
親神はセルフィシオンに対して、これより先を木として生きて己のしたことを反省しろと言った。
何故中央管理局に連れて戻らずに俺たちの星で罰を下したのか。
理由を問うと、「中央管理局に戻れば思考の矯正がなされるだけで、すぐに元の星に戻される。その場合、自分がしたことについて反省することも後悔することもない。これまで中央管理局から度々注意をされていたのにも関わらず干渉し続け、挙げ句の果てに他の神々が作った星を実験場にしようとしたのだ。このまま通常通りの処置をした場合、再び同じことを繰り返す可能性があると考えられるためにこのような罰を下した」と言われた。
納得できるようなできないような、複雑な思いが残った。
何より、俺たちの星にセルフィシオンがいつまでもいることが不快でならなかった。
そして、セルフィシオンが地上に落とした装置の撤去は親神の指示で見送られ、神々は手出し無用の指示も出された。
理由は、装置が人間の生活の糧になっている未来が存在しているからだそうだ。魔物や魔人の乱獲、虐殺を防ぐことにもなると。
これについては俺たちは全く納得がいかなかった。
何故なら、そのための対策として迷宮を各所に作っていたからだ。
人種の中でもずば抜けて欲深い人間の中に、特に厄介な連中がいる。
それは、全てが人間のためにあると勘違いをしているやつらで、そこに命が有ろうが無かろうが関係なく欲しいものは奪い取り己の物にしていく。
そのせいで元々は世界中に住んでいた妖精人が絶滅しかけ、今ではバシレウス族の縄張りの中の森に住んでいるだけになってしまった。
他にも広大な森が一つ失われたり、一部の地域の魔物達が狩り尽くされるなどということも起きた。
これらの経験から俺たちは迷宮を作り、迷宮で人間の生活に必要な物が手に入るようにした。
迷宮に宝箱を置くのは、人間の目を迷宮に向けさせるためだ。
この対策は上手くいき、迷宮を作ってからは自然発生の魔物や魔人が狩り尽くされることも虐殺されることも無くなった。
だから、今更セルフィシオンが作った装置など必要ない。
それなのに何故それを残すのか?
必死に抗議したが取り合ってはもらえなかった。
この事件のあと、ニーブルの残りの二柱がセルフィシオンのやったことを謝りに来た。
その時に、何故あんな装置を作ったのかの説明もされた。
どうやら大切な虫たちが人間の手により大量虐殺されたらしい。
その理由が、強くなるため、金を稼ぐためという物だったそうだが、俺たちの星より長く運営されている星なのに、これまでその問題が起きていなかったことが不思議だった。
何故今頃と聞くと、虫が好き過ぎてニーブルには人間を住ませていなかったのだと答えた。
が、俺たちの星を見て、様々な文明や文化を築く人間もやはり必要かと思い人間を住ませたのはよかったが、増えた人間が起こしたのは欲からくる大量虐殺だった。
それに対処するために、最初から殺されても問題の無いものを定期的に大量に生み出して与えれば、大切な虫たちが大量虐殺されることが無くなると考えたらしい。
そういう考え方もあるのだと思いながら、俺たちはそれに対して迷宮を作って対処したと言うと、迷宮という発想は無かったと驚いていた。
一つのことに対して意見を求めたとき、意見が多いほど纏まりにくくなるという欠点はあるが、いろいろな視点からの意見が得られ、その中には驚くほどの良案がある場合もあるだろう。
俺たちも強欲な人間の対処方を考えていた時、いろいろな案が出た。
俺が出したのは、強欲な人間が住んでいる場所をまとめてバシレウス族に滅ぼさせればいいだったが、それは、他の人間も巻き込まれてしまうからと却下された。
人間など放っておけばいくらでも増えるから、少々減ったところで問題なかろうと思うが、中央管理局から魂の受け入れ数を増やせとせっつかれるのはいい気持ちがしない。だから渋々引き下がったが、その時に時空の神オルフェスが出したのが迷宮を作る案だった。
それが今も地上を人間の強欲から守っている。
親神は最初、全大神と補佐神しか作らなかったが、その後全小神を作り、さらに後に俺たち属性神を作った。
理由は星作りに多様性を持たせるためだったと言う。
全大神だけの頃は一柱で星を作れてしまうせいで、片手に収まる数の生物だけが住む星も珍しくなかったという。
親神にとってはそんな星は必要なかったのだろう。まあ、そのような星はもう存在しないが。
ニーブルの二柱の言い分は、今回は人間による大量虐殺という問題に対する解決策がセルフィシオンの作る装置の案しか出なかったために起きてしまった事件で、全てはセルフィシオンが悪いというものだった。
しかし、俺たちがその言い分を受け入れるはずも無かった。
そもそもの原因は俺たちを格下に見て、俺たちの星を自分たちの好きにしようとしたことにあるだろう。
そう伝えると気まずそうにしていたが、構うことなく謝罪は受け入れられないと追い返した。
あれから五億年が過ぎた。
メルヘルンの神々は消滅させられるまで煩かったが、ニーブルの二柱はあれ以来干渉してくることは無くなっていた。
そして、セルフィシオンの木は枯れることもなく、今や天にも届きそうなほどに大きくなっている。
ただ、木として存在するだけならば枯れるその日まで見守るしかないとこれまで静観してきたが、五千年ほど前に異変が起きた。
一つの装置で定期的に起きるスタンピードとは明らかに違う、大規模なスタンピードが起きたのだ。
それを皮切りに、大規模スタンピードは他の装置でも次々に起きていった。
明らかな異常事態だったために調査をすると、セルフィシオンの木から伸びた根がそれぞれの装置まで届いていた。
その後も大規模スタンピードは起き続け、生まれる魔物や魔人の力も徐々に強くなっていっている。
全ての力を奪われたはずのセルフィシオンが、長い時間をかけて力を取り戻したに違いない。
その力を使って間違いなく何かをしている。
流石に放置できなくなり今度こそ俺たちで対処しようとしたら、再び中央管理局から手出し無用の指示が来た。
いったい何なんだ! 俺たちの星を何だと思っている!
とは言え、中央管理局からの指示を無視することはできない。
どうすることもできずに、時間だけが流れていった。
そんなある日、アイデンから人間のガキを鍛えて欲しいと頼まれた。
最初はなんで俺がと突っぱねたが、アイデンが作った【もどき】の力を持った子供だという。
更にそのガキの望みを聞いた俺は、そのガキを鍛えることを了承した。
それが目の前でバシレウス族の黄金の鱗に頬擦りしているチビだ。
だらしない顔で黄金の鱗に頬擦りする欲望剥き出しのチビには開いた口が塞がらないし、口に出す言葉だけが敬語で、性別が女とは思えないほどに酷く汚い言葉を平気で頭の中で叫ぶわ連呼するわの、前世で何十年も性別女としてどうやって生きていたのか疑問しか湧かないクソガキだが、悪態をつきながらも俺の扱きから決して逃げ出さずについてくるその姿に、少しだけチビの指南役を引き受けて良かったと思う自分がいる。
そんなチビはまだまだ弱い。
今日の戦いから見えてきた課題を克服しつつ更にチビを鍛えていくには、バシレウス族の協力は必須。
自分で鍛えたという魔力は人間の領域を越えているために、力加減を学ぶ必要もある。その練習にもバイシレウス族は最適だろう。
だが、まさかアムザを指名するとは思わなかった。
まあ、結果的にチビが気に入られ、頼んだ協力を喜んで引き受けると言わせたのだから良かったのだろう。
それにしても酷い顔だ。
今日はバルンドレン・ロアの店でチビの誕生日祝いが行われるからこの後もこの酷い顔のままなのだろうが、どこまでも性別女らしくないガキだ。
だが何故だろうな。この先もずっとチビの誕生日祝いが行われるようにと願ってしまう。
チビが俺の目的を果たしてくれるかもしれないからか、それとも……まさか俺はチビに愛着を感じ始めているのか?
俺にはマーニャンという究極の癒しが存在するのに!
フン! クソガキのくせに俺の気持ちを少しでも向けさせるなど生意気だな!
そうだ、休み明けは悪態をつく余裕もないぐらい扱いてやろう。
そのだらしない顔も今だけだ。
覚悟しておくといい。クソガキ!
ダルバリオン先生、心が小さい……




