23話 すっごーーーーーい!
思いっきりアイシェの欲望の回です。かなりしつこいです。それから、フォルセリアス・リューオンをフォルセリアス・リュオーンと毎回間違えて書くので、フォルセリアス・リュオーンに変更しました。あと、今回も22話が書けない間にイメージ固めで描いた絵を載せています。イメージの参考程度に……よろしくお願いします。
「え? は?」
思いも寄らないダルバリオン先生の言動に理解が追いつかず、先生が消えた場所を呆然と眺めていたら、突き刺さるような視線を感じた。
その視線に引かれるように顔を向けると、フォルセリアス・リュオーンと目が合った。と思った次の瞬間、鋭い歯が並んだ大きな口が目前に迫っていた。
咄嗟に横に飛んで避けて、着地と同時にフォルセリアス・リュオーンと逆方向に全力で駆け出す。
やばいやばいやばすぎる。あれは確実に私を餌認定してる。
背後に魔粒子を展開してフォルセリアス・リュオーンの位置を把握した状態で聳え立つ巨木の間をジグザグに走って逃げる。
走りながら光魔法で強い光源を発生させてフォルセリアス・リュオーンに目眩しを仕掛けて足止めをし、ひた走る。
本当は魔粒子で巨大なハンマーでも作って殴るなりなんなりの攻撃をすればいいのだろうけど、力加減が分からないからそれで殺してしまったら暫く泣き暮らすことになりそうで攻撃ができない。だから、逃げるが勝ちとばかりにお山の中を逃げ回って鍛えられた足で全力疾走する。
さほど間を置かずにフォルセリアス・リュオーンが再起動してあっという間に追いついて来たところで、少し先に淡い虹が形を変えながら流れるように動く壁が見えた。
「結界!」
あわやフォルセリアス・リュオーンの口が届くというところで真横に飛んで躱して結界へと飛び込む。
直後に耳をつんざぐギィィィィィィィという甲高い音が聞こえた。
あまりの音に耳を押さえながら飛び込んだ勢いで前転した体を即座に結界に向けると、結界の外側から私を睨みつけるフォルセリアス・リュオーンが見えた。
さっきの音は結界に入る前の私を捕まえられなかったフォルセリアス・リュオーンの悔し鳴きだったのかもしれない。
どうやらフォルセリアス・リュオーンには結界が見えるし、触れてはいけないものだということも分かっているらしい。
暫くの間結界越しに私を睨んでいたけど、諦めたのか、結界に背を向けて歩き出した。
森に消えていく漆黒を見送ると、一気に力が抜けてその場に座り込んでしまった。
初めての経験だった。
ヴォルグス以外の野生の魔物と向き合ったのは初めての経験だった。
鼓動が早い。大して走っていないのに……
彼らの生息域に侵入したのは私だから襲われるのは当たり前、追われるのも当たり前。
だから、それを念頭に置いて逃げる準備をした状態でその場に居たならよかったんだけど、何の心構えもない状態だったから、いきなり喰いかかられて平常心が吹っ飛んだ。
結果、本能の叫ぶままに走って逃げ出すという思考が一切介在しない行動をとってしまった自分が情けなくて仕方がない。
最初の攻撃を躱した後、冷静に対処していれば闇魔法で眠らせることもできたのだ。
そうすれば、追いかけられることもなく、もしかしたらあのビロードのように輝く漆黒の体を撫で撫でできたかもしれなかった。なのに、なのに、折角のチャンスを不意にした馬鹿な私のばかーーーーーー!
今からでも結界を出てフォルセリアス・リュオーンを追いかけて眠らせようかと思ったけど、ふと、何でこんな巨木が立ち並ぶ森の中に結界があるのかと疑問に思った。
だから、後ろを振り返った。
そして、唖然としてしまった。
振り返った視界の先には、一面の花畑が広がっていた。
左手の奥には大きな滝があり、水しぶきでいくつもの虹が出来ている。
花畑の上には大きな蝶……ん? 人間? 人間に蝶の羽? ん? 頭に触覚がある羽の生えた人間が、何人もフワフワと舞っている。
その羽の形や色が大雑把に分けると二種類あって、彼らが舞った後には青や緑に輝く光が道を作っては消えていく。
「綺麗……」
その光景に見とれていると、突然背後に何かが現れた。
大きな人型を感知して振り向いたところで、欲望を強烈に刺激する輝きが目に飛び込んできた。
口角が自然に吊り上がっていく。そして、足が勝手に輝きに向かって一歩踏み出そうとした時、頭蓋骨にめり込むんじゃないかと思うような力で頭をガシリと掴まれて持ち上げられた。
頭を持って宙にぶら下げられれば体重の全てが首に集中する。
当然痛いから、急いで頭を掴む何かに手を絡めて体重を分散した。
そこで見えたのは、またしても欲望を強烈に刺激する輝き。
私をぶら下げるそれは、黄金。
状況そっちのけで吊り上がる口角の角度が限りなく直角に近づいていく。
欲しい……これ、めちゃくちゃ欲しい……
欲望に純粋に従ったエフィレイス先生の姿勢維持とダルバリオン先生のスパルタ修行で鍛えられた腹筋が、宙ぶらりんになっている足をゆっくりと持ち上げていく。
そして、手と同様に頭を掴む黄金の何かに足を絡めた。
「な!」
声の後に頭を掴む何かが離されたから、ここぞとばかりに黄金にガッチリと取り憑いた。
すると勢いよく黄金の何かを振りながら「離せ!」と言われたから、「私の宝! 私の黄金を離してなるものか!」と言うと、「何を言っている! さっさと離せ!」と言われたから、「絶対離さん!」と言うと、変わらず黄金の何かを振りながら「離せ!」と言うから、また「離さん!」と叫んだ。
そこから離せ離さんの応酬をしていると、
「何をしている」
横から声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、光に輝く目が眩むような黄金が目に入った。
よく見ると、上から下までキンキンピカピカの金属質黄金人間。
二十四金人型インゴットがいるーーーーーーーーー!!!
取り憑いていた黄金の何かをパッと離すと、欲望のままに二十四金人型インゴットに飛びかかった。
けど、至極残念なことに、二十四金人型インゴットに取り憑く前に止められた。
二十四金人型インゴットの黄金の腕に。
黄金の腕……二十四金人型インゴットの一部……これも私の物……
口が裂けそうなぐらいに口角が釣り上がっていく。
先ほどと同様に頭を掴む腕に両手両足を使ってガッチリと取り憑いた。
「離せ」
なんか地響きがするような声で言われたけど、絶対離すもんか!
取り憑く両手両足に更に力を込める。
私は黄金が大好きだ! だって、豊かさの象徴に見えるんだもん。
それに、黄金の輝きは刈り入れ前の稲穂の輝きにも、心が喜んでいるときの弾けるエネルギーの色にも、新しい一日を祝福する朝日の輝きにも、一日の終わりを労う夕日の輝きにも見える。
見てると幸せを感じるのよ。
だから、お山を改造してワンルームの家を作った時に、魔法で金のスモ君人形を作ったけど、なんだか癒されなくて嬉しくなくて、大好きなスモ君なのになんか嫌で、本来の色のスモ君に作り直したんだよね。
その後も、金で色々作ってみたけど、なんか心が落ち着かなくて全部分解して消した。
それ以来金を作ってこなかったけど、なんでか目の前の黄金には全力で惹かれるのよ。物凄く魅力的! めちゃくちゃ欲しい!!
「これは一体何なのだ?」
取り憑いている二十四金人型インゴットが少し焦ったように言うと
「どうやら腕の黄金を宝だと思っているようだ」
最初に取り憑いた、こちらも改めて見たら二十四金人型インゴットが嫌そうな声で答えた。
「なんだと? それほどに欲深い人間なのに、なぜ我の本能はこれを拒絶しない? 何故だ?」
私が取り憑いている二十四金人型インゴットが凄い不服そうに言うと、最初に取り憑いていた二十四金人型インゴットが諦めたような声で答えた。
「我もそのことに疑問を感じたが、本能に逆らうことはできない。諦めて遊戯場へ連れて行こう」
「そうだな……おい貴様、それほどにこの黄金が欲しけば、これから行く遊戯場で行われる戦いに勝て。そして、その時に鱗が欲しいと言えば、これが手に入る」
「本当?」
戦いに勝てと言われて気持ちが急降下したけど、この黄金が手に入ると聞いて気持ちが急上昇した。
「我らの王が了承すればの話だが」
「え? もし了承しなければ貰えないの?」
「そうだ」
「じゃあ離れない」
「なっ! どのみち貴様は我らの同胞の誰かと戦わねばならない。故にどのみち我の腕からは剥がされるぞ」
「あれ? さっき、鱗って言ったよね……これ、黄金の鎧じゃないの?」
「鎧? 何を言っている。これは我の腕で、お前が触れているのは我の皮膚だ」
「えーーーーーーーー! 黄金の匂いがぷんぷんしたのにこれ生物の細胞なの? えーーー生物の細胞は要らないなあ……う゛ーーーこれは欲しいけど生物の細胞はなあ……どう見ても金属なのに……手触りも金属なのに……詐欺だ……」
生き物の細胞と知ってさっくりと腕から離れると
「何故そこで離れるのだ! 我らの鱗は世界最強の金属デュオリクトの次に強いのだぞ! 生物の細胞だと! 貴様のその軟弱な細胞と同等だと考えることが間違いなのだ!」
離れろって言ったくせに離れたことに文句を言われた。
「じゃあ、腕は要らないから、そのちっちゃい鱗、一枚頂戴」
「何故我が貴様に鱗を与えねばならない」
「だって欲しいもん」
「だって欲しいもん、では無いわ!」
「ボルダーグ、その人間と同じレベルに落ちるな」
ずっと黙って見ていた最初に取り憑いた二十四金人型インゴットが呆れたような口調で失礼なことを言った。
私と同じレベルに落ちるなってどゆこと? 確かに精神年齢がかなり低いのは自覚してるけど、同じレベルに落ちるなって、どんだけ私って低いのよ?
どこがどうそんなに低いのかと考えていると、小さい鱗一枚もくれないと言ったケチな二十四金人型インゴットがハッと何かに目覚めたような顔をした。
「我は何をムキになっていたのだ……ジーガよ、感謝する」
最初に取り憑いた二十四金人型インゴットが満足したように頷くと「では遊戯場へ行こう」と言った直後に景色が一変した。
正面には金色に色付いたガラスのように透明な壁。
その上には、ここに私を連れて来た二人の二十四金人型インゴットより一回り大きな二十四金人型インゴットが立っていた。
改めてその姿を観察してみると、髪の毛は黄金の針金のようだ。
おでこには楕円形の虹色に輝く宝石のようなものが付いていて、その両側には黄金の髭のようなものが伸びている。
眉毛の無い釣り上がった目は黒く、縦に割れた白い瞳孔が覗いている虹彩は金色だ。
そして、鼻は無く、極薄の唇は頬の端近くまで伸びており、服と思われるものは、上半身は前合わせでベロを大きくしたような形状の黄金が三枚並び、腰から下は同様にベロのような形状の黄金が何枚も重なってスカートのようになっている。
下から見上げているせいで足元がよく見えないから、両隣に立っている二人の足元を見ると、鋭い爪が生えた素足があった。視線を上げると額の宝石のようなものの色が二人とも違うことに気がついたけど、今はまあいいや。
とにかく全てが金属質の黄金に輝いている。
あの黄金が生き物の細胞だとはとても信じられないほどに金属質だ。触った感じも金属質だったし。
見れば見るほどやっぱりあの黄金が欲しいと欲望がムクムクと湧いてくる。
頭の中であれが欲しいあれが欲しいと騒ぐ自分に、確かにレベルが低いかもと思っていると、横から声が上がった。
「アムザ王よ、侵入者だ」
「ふむ」
壁の上のアムザ王と呼ばれた大きな二十四金人型インゴットが上からじっと見つめてくる。
頭の中の欲望の全てを見透かされているようで、つい目が泳いでしまう。
早く視線を逸らしてくれないかなあと思っていると、声が降ったきた。
「我らバシレウス族は、我らの縄張りに入った人間を許さない。だが、我らは強き者を好む。故にお前の力を示せ。お前が強き者ならば、我らはお前が人間であろうとも受け入れよう。もし、お前が弱き者ならば、お前はここで肉体という器を手放すことになる。さあ、ここにいる同胞から一人選べ。そして、戦え」
そう言って両手を広げた。
その動きに導かれるように周囲をぐるりと見回すと、透明の壁がぐるりと周囲を囲い、その上に、沢山の二十四金人型インゴットが立っている。
その黄金の輝きが透明の壁に反映して、空間そのものも黄金に輝き、空気までが黄金になったように見えた。
「すっごーーーーーい! 金、金、金、金、きーーーーーん! 私は今、黄金に囲まれてるーーーーーーーー!!!」
あまりの興奮に握りしめていた手を開きながら目一杯空に伸ばし、上を向き、思いっきり叫んだ。
「大金運、きたーーーーーーーーーーー!!!!!」
止まらない興奮のまま更に叫ぶ。
「ありがとーーーーーー!!! 私は余すことなくこの大金運を受け取りますーーーーー!!!」
全てを出し切る勢いで叫んで、やり切った満足感に手を上げたままホッと息をつくと、周囲が異様な雰囲気に包まれていることに気がついた。
「あれ?」
そろそろと手を下ろして周りを見回すと、ドン引きしている二十四金人型インゴット達が見えた。
「あ……あの……えっと……、失礼しました」
反射的に頭を下げると、頭上から咳払いの後に早く一人選べと言われて、何も考えずに「じゃあ、あなたで」とアムザ王を指名した。
「我を選ぶか?」
言葉と同時に上から押さえつけられるような力が降って来た。
即座に空間魔法で快適な空間を展開した私には何の影響もなかったけど、両隣に立っていた二人は苦しそうに膝をついる。
「無理をしている訳では無いな。これは予想外に楽しめるかもしれん」
そう言った直後に両隣にいた二人が消えてアムザ王が黄金の槍と共に降って来た。
思わず魔粒子の手で黄金の槍を掴んで奪い取ってしまった。
こんなことをしたら避けろってダルバリオン先生に怒られるのに、大好きな黄金をつい、掴んでしまった。
呆気に取られているアムザ王に
「あの、これ返すんでやり直してもらっていいですか?」
魔粒子の手で掴んだ黄金の槍を返しながら聞くと、黄金の槍を掴んだアムザ王が返答の代わりに質問を返してきた。
「近頃の人間は魔法の行使に呪文を使う。故に魔粒子操作を疎かにしていると思っていたが、考え方が変わったのか?」
「いえ、今も呪文主体ですが?」
さっきバシレウス族って言っていたから、多分ここは鎖国しているというバシレウス国のはず。なんで外のことを知ってるのか疑問に思っているとまた質問された。
「では何故お前は魔粒子を操れる?」
何故って、鍛えたからに決まっているわけで、
「鍛えたからですけど?」
当たり前のことを聞くなとばかりに答えると、アムザ王は獰猛に笑んだ。
「ならばその力を使って我を楽しませろ! さすれば我に勝てずとも、お前の願いを一つだけ叶えよう!」
来る! と思った瞬間穂先が見えて、薄皮一枚の差で避けた。
そこから更に連続で繰り出される攻撃を何とか避けているけど、ダルバリオン先生の攻撃より早くて避けることに必死で隙を探す余裕がない。
さっきみたいに魔粒子の手で槍を奪えばいいけど、それでは全然楽しくない。って、ん? あれ? 楽しくないって何だ?
いつの間にか思考が戦士仕様になっている自分に驚きつつ、ひたすらに避ける。
いい加減鬱陶しくなってきて、魔粒子でアムザ王の足を拘束しようとして、避けられた!
「魔粒子が見えるの?」
思わず叫んだ私に、「当然だ!」と言いながら距離を取ったアムザ王が火球を放って来た。
その火球に向かって走りながら火球を分解魔法で消去してアムザ王の懐に駆け込み魔粒子で作った特大バットを一気に振り抜いた。
スカッ
思いっきり空振りして、その勢いに任せて前に踏み出す。
私がいた場所に黄金の槍が突き立った。
間髪を入れずにその槍から雷が放たれ、咄嗟に魔粒子で作った壁でそれを防ぐ。
直後に、背後に気配を感じて瞬間移動で離れた場所に移動したら
「ほお。瞬間移動も使えるのか。面白い」
言葉が終わるのと同時に首元に黄金の刃が現れ、再び瞬間移動で回避したけど、瞬間移動した先々に黄金の刃が現れるようになり、そこからいたちごっこが始まった。
ちらりと横目でアムザ王を見ると、ニヤニヤとしている。
同じことの繰り返しとアムザ王の顔にだんだんとイライラが溜まっていく。
途中で何度か黄金の剣を分解消去したりアムザ王を魔法攻撃したけど、剣は消してもすぐに次のが現れるし、魔法はことごとく防がれるしで、上がりやすい私のストレスゲージは一気に振り切れた。
くあーーームカつくーーー!
そう思った瞬間、アムザ王の顔面スレスレに瞬間移動していた。
目を見開いたアムザ王の眉間目掛けて全力で頭を振り下ろす。
ガッキーン!!!
凄い音が響き渡った。
しまったと思った時には遅く、アムザ王が黒目を剥いて倒れていき、周囲からどよめきが上がった。
あたたたたたたたた……アイデン兄様に頭突きした時ほどじゃないけど、アムザ王も大概石頭だった。
即行闇魔法で頭を癒すと、頭突きをしてしまったことを後悔する。
私の体は地上では無敵。だから、頭も当然地上で一番硬い。ということは、頭突きも一番強い訳で……
せっかくの槍とか剣とか魔法での戦いだったのに頭突きで終わらせてしまった……短気な私って、私って……まいっか。早く帰らないと今夜は食事会だしね!
ちょっとピクピクしているアムザ王の頬を突きながら
「あーもしもし、生きてますかー?」
聞いてみたけど返事がない。
観戦していた二十四金人型インゴット、じゃなかった、バシレウス国の人だから竜人だろう人たちがざわめいてる。
さっきドン引きされたばっかりだし、これ以上印象が悪くなるのもどうかと思って、闇魔法でアムザ王の頭部を癒した。
「我は負けたのか……」
目を覚ましたアムザ王の何故か嬉しそうな声に不思議に思い、何で嬉しそうなのかと尋ねると想定外の答えが返ってきた。
「我らバシレウス族はこの星の守護者にして世界最強。そして、その中で我が最強なのだ。故に、生まれて五億年、この星で我に勝てる者はいなかったのだ。それがお前のような小さき人間の頭突きに負けた。この感覚、初めて味わう感覚。これを喜ばずして何とする」
黄金の鱗に覆われた鋭い爪の生えている両手を見ながら笑顔全開のアムザ王に、何と返していいのかが分からない。感覚が違いすぎてアムザ王が感じていることがどんなものか、全く想像ができない。
質問した手前、貰った答えに何か感想をと思うのに、何も思い浮かばない……
何かいい感想がないかと考えていると、
「小さき人間よ、名は何という?」
名前を聞かれた。
認めてもらえたみたいでなんだか嬉しい。
「アイシェです」
名乗ると、最初の探るような視線ではなく、優しさを感じる目で見つめられた。
そして私を抱き上げると、最初にいた壁の上に移動した。
「我同胞達よ! アイシェは見事我に勝利した! 故に、我らはアイシェを受け入れる! 依存のあるものはいるか?」
誰からも声が上がらない。
「では、これよりアイシェを我らが友とし、我らが縄張りへの侵入を永続的に許可する!」
アムザ王が宣言した瞬間「おー!」と地響きがするような同意の声が上がった。
その様子を満足そうに見回したアムザ王は、私に顔を向けると
「アイシェ、最初にした約束を果たそう。アイシェは何を望む?」
おーーーー! キタキタキタ、ついに来たーーー!
きっと今、私の顔は太陽のように輝いていると思う。
「鱗を一枚下さい!」
元気よく言ったら少しアムザ王が引いた気がしたけど、気にしない。
「ふ、ふむ。鱗か。よかろう。だが、鱗一枚でもアイシェには持ち上げることすらできまい。どう持ち帰る?」
ん? 金属っぽいから重いだろうとは思うけど、持ち上がらないほどに重いの?
不思議に思ってそんなに重いのかと聞くと
「本来の我らの姿はドラゴンである。故に、本来の姿に戻れば我らは山のような大きさになる。その体から落ちた鱗もまた大きい」
あーそうなんだ……そんなに大きいの?
「えっと……鱗……一枚はどれぐらいの大きさですか?」
「ふむ、おおよそ我を二人並べたぐらいの大きさだな」
長さが二メートル強ってところで、幅が二メートル弱ぐらい? んー重さじゃなくて大きさが問題なら魔粒子の手で持って歩けるかな? 相変わらず魔法では無限収納が作れないし、今は【もどき】を使うなと言い付けられているから無限収納鞄は作れないし、レイオオンさんにドールハウス代として貰った無限収納鞄は今ここに無いし……よし! 魔粒子の手で意地でも持って帰ろう!
「魔粒子の手で持って帰ります!」
「承知した。では行くぞ」
アムザ王がそう言うと、視界が一変した。
眼下に黄金の湖が広がっている。
輝きが凄すぎて目が痛い。
「ここは我らの抜け鱗を捨てている場所だ」
今、今、今、な、なんか物凄く聞き捨てならない言葉を聞いた気がする!
「あの、今なんと?」
「ここは我らの抜け鱗を捨てている場所だと言った」
やっぱり! なんて勿体無い! こんなに魅力あふれる黄金を捨てるなんて!!
「あの、あの、え? あの、あ、あれ? えっと、捨ててるの????」
「何かおかしいか?」
「おかしい訳じゃなくて、勿体無くて……こんな、こんな、魅力的な黄金を捨てるなんてーーー!!」
腕の中で頭を抱えて絶叫する私に困った顔をしたアムザ王は
「ドラゴニウムが欲しかったのではないのか?」
ん? ドラゴニウム? !! ああ、私が作った魔粒石が確かドラゴニウム並みの強度だった。でも、ちっがーう!
私はこの魅力的な黄金が欲しいのよ! 私の欲病を癒してくれる金運直結の心沸き立つ黄金が欲しいのよ! 一欠片持ってるだけでもお金がザクザク入って来そうなこの黄金!
「この黄金が欲しいんです!」
「そ、そうか……」
なんだろう、何か変なこと言ったかな?
アムザ王がまたしても引き気味に言ったと思ったら湖の淵に降りてくれた。
「どれでも好きなものを持ち帰れ」
言われて見てみると、どれも素晴らしい黄金に輝いているけど少しずつ輝きが違う。
その理由は分からないけど、中でも特に心惹かれるを鱗を発見!
その鱗に魔粒子の手を伸ばすと、水の中から引き上げた。
思った以上に簡単に持ち上がったキラッキラに輝くその鱗をうっとりと眺めていると
「それは三百年ほど前に我から抜けた鱗だ。アイシェは見る目があるな」
褒められた! えへ、嬉しい!
でも……
「自分の鱗が分かるんですか?」
不思議に思って聞くと「我には我の色があるからな」と言われた。
どうやら同じ金色でも竜人さん達にしか分からない色の違いがあるらしい。
それなのに数ある鱗の中から私がアムザ王の鱗を選んだから嬉しかったみたい。
私もこの中で一番幸せを感じる鱗を選べて嬉しいよ。
アムザ王にありがとうだよ。
この後アイシェはどうするのだと聞かれたから、家に戻ると伝えると、
「どのように戻るのだ? そもそも、どのようにしてこの地に来た?」
当然の疑問をぶつけられてどう答えたものかと悩んでいると、目の前にダルバリオン先生が現れた。
「チビ」
あれ? なんか、普段より声が低い。私、なんかやらかしたかな?
恐る恐るハイと返事をすると
「頭に血が昇ると頭突きをする癖を治せ!」
あ、見てたのね……
「はい……」
この後アムザ王がダルバリオン先生に「久しいな、ダルバリオン神。三千五百年振りだ」と挨拶をするのを見て、二人がお知り合いだったこととタメ口の挨拶に驚かされた。
口調については、竜人さん達に敬語という概念がないから誰に対してもタメ口らしい。さすが星の守護者で最強種。
お知り合いなことは、たまにダルバリオン先生が竜人さん達に稽古をつけに来るかららしい。これまたさすが星の守護者。
挨拶の後、一柱と一人は私そっちのけで話をしているから、私は黄金の鱗に頬擦りして幸せを満喫していた。
すると
「チビ、帰るぞ。ああ、今夜のゴリゴリマッチョ亭にアムザとチビを連行した二人も来ることになった」
え? そんな突然の予定変更はまずいでしょう。
「問題ない。バルンドレン・ロアには俺たち九柱が普段の倍を食べても大丈夫な量を作れと言ってある」
は? なんちゅう無茶苦茶なことバルンさんに言ってるの? それに、神様達全員来るの? それって、バルンさんのご飯目当てだよね?
「当たり前だ。普段のメニューとは違う料理を逃すわけがないだろう」
今日は私の五歳の誕生日祝いをしてくれる日なのに!
食べることだけが目的の神様達が来るなんておかしいよ……神様のくせに意地汚すぎる!
「失礼なことを考えるな。俺たちは美味い飯が好きなだけだ」
「左様でございますか……」
そんなこんなでお山に戻った私達は、待ちきれないとばかりに少し早めにゴリゴリマッチョ亭に神移動した。
あ、【もどき】使用は無事に許可されたよ。
私とダルバリオン先生の後ろに立っている黄金に輝く竜人のアムザ王と、改めて自己紹介をし合ったボルダーグさんとジーガさんを見たバルンさん達は少しパニックになったけど、神様達で免疫ができていたおかげで意外と順応は早かった。
そこから神様達も続々と集まってきて、一応私の五歳の誕生日祝いだったはずだけど、何故かバルンさんのご飯談議の場に変わっていた。
ちくしょー神様達のばかーーーー!
でも、やっぱりバルンさんのご飯は最高に美味しくて、私もご飯談議に参加して、みんなで盛り上がったよ。
趣旨は変わったけど、とっても楽しくて幸せな時間を過ごせた。
そして、帰る時にアイデン兄様が頭を撫で撫でしながら「アイシェ、五歳のお誕生日おめでとう」と言ってくれたことが、とても嬉しかった。
お山に戻って部屋に入ると、壁に立て掛けた黄金の鱗が神々しいばかりの光と共に迎えてくれた。
ふと、ダルバリオン先生の言った言葉を思い出した。
「だが、今日はもっといい思い出を作れるぞ」
本当にその通りだった。
初めて野生の魔獣に追いかけられて自分のバカさを再認識させられたけど、後からアムザ王に教えて貰った初めて見た妖精人さん達の美しさに感動して、初めて魔法を使った戦闘をして、無限の魅力を放つ黄金という大金運を手にして! そして仕上げに最高に美味しいバルンさんのご飯を食べて……
四歳の誕生日からどれだけレベルアップしたのかと思うほど素晴らしい誕生日になった。
何の説明もなくフォルセリアス・リュオーンの前に置いていかれたときには呆然とするしかなくて、こんな一日になるなんて思っても見なかったけど、蓋を開けてみれば本当にいい思い出になる一日だった。
改めて心の中でダルバリオン先生に感謝した。ちょっと文句も言ったけどね。
盛りだくさんだった一日に、ベッドに入ると直ぐに心地よい眠りへと誘われた。
その夜見た夢は、天から金貨が雨のように降り注ぐという欲望丸出しの幸せなものだった。
もちろん、翌朝の目覚めは、最高のものだった。
●竜人
種族固有能力
<竜型>飛行
<人型>瞬間移動
●妖精人(フューリー族)
種族固有能力:蜜生成
※服は百均の折り紙を貼っています
●妖精人(エシェラ族)
種族固有能力:蜜生成
※羽と服は百均の折り紙を貼っています




