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21話 区切り

転移という言葉が何故か苦手で、このアップ後に、20話の「転移」を「神移動」に修正します。それから、12話で出てきた「マジックバッグ」を「無限収納バッグ」に変更しましたが、「無限収納鞄」に変更します。

 修行初日、やっとの思いで頂上に到着するや倒れ込んだ私を小脇に抱えたダルバリオン先生は、そのまま全てが浄化されて体力が全快する温泉にじゃぶじゃぶと入り、私が溺れかけたところで温泉から上がると、一瞬で水分を蒸発させた。

 その方法は瞬間的に体の温度を超高温にするというもの。


 私なら拭くか風で乾かすところだから、なるほど、火属性の神様はやることが違う。火魔法の新たな使い方を知ることができて、得した気分になったよ。

 でも、同時に、自分が人間の体ではないことを改めて実感してしまった。

 ダルバリオン先生の体が超高温になった時、私の体も超高温になったはずなのに、特に異常がなかったからだ。


 とは言え、異常が無かったのは私の体だけで、異常はあったのよ。

 異常に気がついてすぐに頭の中に言葉が浮かべば伝わったのかもしれないけど、頭の中に浮かんだのは、ぎょえーーーーっていう悲鳴だけ。


 走っている間中、悲鳴やら泣き言やらを頭の中で叫び続けていた私の脳内悲鳴を今更ダルバリオン先生が気にしてくれるはずもなく、そのまま「ゴリゴリマッチョ亭に行くぞ」って言うから、「ちょーっと待ったー」って慌てて待ったをかけたよ。

 だって私、素っ裸になっちゃったんだもん。

 一瞬で水分を蒸発させた超高温は、私の服も蒸発させちゃったのよ。あり得ん!


 さっきまで着ていた服は、父が買ってくれた服だったのだ。

 父がわざわざ街から平民の子供服で女の子らしい可愛い服を探して買ってきてくれた三着の内の一着だったのよ。

 それなのに蒸発させるなんて! 酷いよ! どーしてくれるのよ!


「ダルバリオン先生、服を返して下さい!」


 頭にきて強い口調で言うと、さすがに悪いことをしたと思ったのか


「お前が着ている服が人間の服だということを失念していた。悪かったな。アイデン! チビがさっきまで着ていた服を強化して戻してやってくれ!」


 ダルバリオン先生が大きな声で叫んだかと思ったら、フワリと空気の揺れを感じた後に服が元に戻っていた。

 おお! 創造の神様、凄すぎる! ありがとうございます!


「戻ったな。その服は今後俺の熱で蒸発することはないから安心しろ。じゃあ行くぞ」


 ダルバリオン先生の言葉が終わると同時に景色は一変、ゴリゴリマッチョ亭の厨房の片隅に移動していた。


 この場所は、私が公爵邸を出て自由になったことをお祝いしてくれた日に、いつもドルチェンさんと一緒に来られるわけではないからと、一人のときは魔法で瞬間移動してくる私のためにバルンさん達が用意してくれた、客席からは見えな場所だ。

 そして、ここに突然現れるのは小さい私だけのはずで、私を小脇に抱えた大男のダルバリオン先生は想定されていない。


 だから、いきなり現れたダルバリオン先生に気がついたバルンさんは顔を顰めて、そのあと私が小脇に抱えられているのを見た瞬間に纏う空気が変わった。

 これが殺気ってやつなのかな? 静電気がそこら中で起こっているみたいに肌がビリビリとしだした。

 これは不味いと私が声を出そうとしたら、肌のビリビリがスッと消えてバルンさんがその場に跪いて首を垂れたからびっくり。


「俺はチビが絶賛する飯を食べに来た、ただの客だ。だから、楽にしろ、バルンドレン・ロア。そして、お前の料理を俺に食わせろ」


 ダルバリオン先生の言葉に立ち上がったバルンさんは、一度会釈をすると黙って料理に戻っていった。

 何が起こったのか分からなくて、何? 何? って頭の中で連呼していたら、ようやく下ろしてくれたダルバリオン先生が説明してくれた。


 バルンさんは、バルンさんの恩寵である【料理人】でダルバリオン先生を見たそうで、『対象:神。調理不可』と出たことで、ダルバリオン先生が神様だと気がついて跪いたのだそうだ。

 料理に戻っていったバルンさんからは一切の動揺が感じられないけど、実は、頭の中は周章狼狽大混乱中らしい。

 今バルンさんを動かしているのは、これまでの経験で体に染み込んだ条件反射なのだそうだ。

 そこに思考は一切入っていないのだとか。

 そのせいでメニューが出てこないしオーダーも取らないとダルバリオン先生はぼやいておられる。

 だから、


「あー多分私と同じメニューが出てくると思いますよ。私の晩御飯はバルンさんにお任せなので」


 と言うと、「何! 何故それを先に言わない!」って言うから、そもそも神様が一緒にご飯を食べに来るなんて聞いてないし、神様が人間のご飯を食べるとも思ってなかったと伝えると、美味しい料理があることが分かると食べに来ることがあるのだと教えてくれた。


「じゃあ、次に来る時はメニューを見せてもらえるようにお願いしましょう」


 どう見ても平静に見えるバルンさんを眺めながら言うと、「次は明日だ」って言うから思わず「は?」って言ってしまったよ。

 神様相手に「は?」は失礼だとは思ったけど、出てしまったものは仕方がない。ついでに「明日も一緒に来るんですか?」って聞いちゃったし。


 そしたらギロリと睨まれて、今日食べるご飯が美味しければ、修行が休みの安息の日以外は毎日一緒に来るって言うから、ついついダルバリオン先生の口には合いませんようにって祈っちゃったよ。

 もちろん、心の声は思いっきり聞こえてしまっているわけで、明日を楽しみにしているといいと神様のくせに凄い悪い顔で言われてしまったよ。


 やらかしたーーーーーーああ、私の命運も明日(あす)までか……


 迫り来る終末にぬおーーーーと頭を抱えて悶えていたらバルンさんがご飯を運んできてくれたから、気を取り直していただきますをした。

 食べ物を前にしたら、切り替えは早いのだ。へへ。

 うーやっぱり最高に美味しい。

 ちらっとダルバリオン先生を見ると、うわーめちゃくちゃ顔が緩んでるーこれは間違いなくお口に合ってしまいましたね。


「ああ、数千年ぶりの美味さだ。思考が停止していてもここまで美味いとは、美味さへの執着が極限に達しているのか……」


 なんか難しいことを呟いたあとは、黙々と食べていらっしゃったよ。

 私も美味しい料理を一口一口じっくりと味わう。

 口もお腹も心も目一杯満たされて、ほっこり幸せ。


「あーおいしかったーごちそうさまでした」


 私が手を合わせて挨拶をすると、ダルバリオン先生も私の真似をしてごちそうさまをするから笑ってしまった。

 心の中で、これは前世で食事の後にしていた感謝の気持ちを表す挨拶ですよと伝えると、なかなか良い習慣だから真似をしたと言われて、ちょっと嬉しかった。

 私が考えたことじゃないのに、日本の習慣なのに、ありがとうございますとお礼を言ってしまったよ。




 さて、いつまでもここに居てバルンさんの負担になってはいけないからね、セリーお姉さんに挨拶をして帰りましょうかと思ったところで、ダルバリオン先生が食事代を払っていないことに気が付いた。

 いくら神様でも食い逃げはダメでしょ。


「ダルバリオン先生、いくら神様でも食い逃げはいけないと思います」


 ダルバリオン先生を見上げて言うと、ちょうどそこへバルンさんから呼ばれて説明を聞かされた後にぎこちない動きで現れたセリーお姉さんに


「セリージア・ロア、我らは現金を持たない。手間をかけるがこれを売って食事代にしてくれ。無限収納(かばん)だ」


 と言いながら無限収納鞄を渡すから、セリーお姉さんが目をむいて硬直してしまった。

 そんなセリーお姉さんに更に追い討ちをかけるるようにダルバリオン先生が恐ろしいことを言った。


「それは明日から来るだろう他の奴らの食事代も含まれている。足りなくなりそうだったら言ってくれ。追加を渡す。ああ、他の奴らも俺達と同じ色をしているから直ぐに分かる。では頼んだぞ」


 は? 他の奴らって何? まさか他の神様達も食べに来るってこと?


「そうだ。こんな美味い飯を俺だけが食べたとあっては、袋叩きにされかねんからな。きちんと報告する。いや、もう見ているだろうが」


 あーうん。えっと、一度に全員で押しかけてくるのだけは止めてあげてください。切にお願い申し上げます。


 なんだかバルンさんとセリーお姉さんが気の毒で、心からお願いしてしまったよ。

 ダルバリオン先生も分かってくれてるみたいで、二人づつ順番にするから安心しろって言われた。

 様子のおかしいセリーお姉さんを心配したバルンさんが途中から一緒に聞いていたけど、すごく複雑な顔をしていたのが印象的だったよ。


 でも、なんだろう、筋肉が丸見えのはち切れそうな白いシャツを着た者同士というのは波長が合うのだろうか?

 いや、シャツの色は関係ないのか? 筋肉が丸見えのはち切れそうなシャツが大事なのか?

 謎だけど、数日でダルバリオン先生とバルンさんは意気投合して、最初の緊張は何処へ行ったと聞きたくなるほどに仲良しになっていた。

 しかも、さらに数日後にはドルチェンさんも加わって、さらにさらに数日後には交代で食べにきていた神様の中の美と芸術の神様も加わって、仲良し四人組、じゃなくて、二人二柱組になってた。

 あ、美と芸術の神様は男神だった。

 神像は女神だったはずなんだけど、お会いした姿はどう見ても男神。

 だけど、目が潰れそうなぐらいに眩しい美しさを持つお顔と、しなやかな筋肉のラインが美しい細マッチョな神様だった。うん、筋肉のラインが美しいなんて、私の頭に問題が発生しているかもしれない。


 とにかく、私には全く理解できない世界が二人二柱の間にできあがっていて、一緒に来ていた光の神様が「筋肉から生まれたような奴らは放っておいて、私たちはご飯を楽しみましょう」と言って光のベールで空間を遮ってくれたから、この時は静かにご飯を食べられた。光の神様に感謝。

 でも……世界中みんながマッチョになってみんなではち切れそうなシャツを着たら、みんな仲良しになって世の中から争いが無くなるかもしれないと、ふと考えてしまって頭を振りまくった私は、いつの間にかに脳みそがマッチョに侵食され始めているかもしれない恐怖に怯えることになった……恐るべし、マッチョパワー……私は……私はマッチョになんかなりたくないからねーーーーー!






 さて、夕飯を食べて山に戻って来ると、明日から午前中はエフィレイス先生の授業で、午後からはダルバリオン先生の授業だから、朝はしっかり食べて昼は軽く食べるか、もしくは食べないかにしろと言い残してダルバリオン先生は帰っていった。

 それは、明日からもずっと今日みたいな修行が続くということを意味しているわけで、今日のことを思い出しただけで心が折れてしまいそうになった。


 バルンさんの晩ご飯で上向いた心は再び下を向いてしまったよ。

 うう……お父さんに会いたい……お父さんの笑顔に癒されたい……

 一昨日バイバイしたばっかりなのに、無性に父に会いたくて、せめて顔だけでも見たいと神視界で父を見てみたら、公爵邸じゃない、見たことのない狭い部屋のベッドの上に腰掛けて頭を抱えていた。

 どこだろうと視界をずらしてみると、どこかの宿屋にいる。


 まさか、母に浮気と勘違いされて公爵邸を追い出されたとか? もしそうならなんとかしなくちゃ!

 もう、居ても立っても居られなくなって、部屋の前に神移動しようとして、いや、ちょっと待てと押し止まった。

 その前に一つ、とっても大切な、絶対にやりたいことがあったのよ。


 だから、神殿に神移動して祈りの間で質問して答えをもらえると、また山に戻ってきて、光が乱反射するようなカット調の小さなガラス瓶を一つ作った。

 うん、キラキラして綺麗だ。自画自賛。

 その瓶に虹色に輝く霊薬を満たすと、ビンと同様にガラスで作った蓋をして、神視界でエリザさんのご主人を見ようと意識する。


 見えた先のベッドには、年齢を判別するのが難しいぐらいに痩せ細った、苦しそうな呼吸をする男性が寝ていた。

 すぐ横にはその男性の手を握る泣きそうな顔のエリザさんがいる。

 父からはもう長くないと聞いていたから、間に合って良かった。


 今日霊薬の湧く泉を解放したとき、肉体の全ての異常を取り除き本来の姿に戻す力があるという霊薬の効果を見て、もしかしたら病気も治せるのではと思ったのよ。

 で、さっき神様に確認しに行ったら、治るどころか超健康体になるという答えをもらえたから、エリザさんのご主人には絶対に飲んでもらわないといけなくなったのだ。


 そのエリザさんは、私を自分の娘のように可愛がってくれたとても優しい人だ。

 私の見た目を全く気にせず、他の子供と違っても気味悪がることもなく大切に接してくれて、私が穴蔵で正常に生き抜くために必要だった魔法の基礎知識を教えてくれた、命の恩人と言ってもいい人。

 いつか絶対に恩返しをしたいと思っていた相手で、大好きな人だ。

 それが今日叶う。


 私は「大好きなエリザさんへ。これを飲めば病気が治ります。浄化下着は無事に卒業しました。今は一人でご不浄に行けます。偉いでしょ? えっへん! 離れのアイシェ」と書いた紙で瓶を包むと、ご主人の手を握るエリザさんの手の中に瓶を神移動させた。


 エリザさんは突然ご主人と自分の手の間に異物が現れて驚いていたけど、私からのメッセージを読んで直ぐに瓶の蓋を開けて、中身を、飲んだ? 側に居た侍女さん達が慌ててる。

 と思ったら、自分の口に含んだみたいで、そのままご主人の口に口移しした。

 ご主人の喉仏が動くと、ちゃんと霊薬を飲み込めたみたいだ。ご主人の体が光りだした。

 エリザさんはご主人に口移ししたあと、そのままご主人に抱きついてる。

 毒だったら自分も一緒に死ぬ覚悟で霊薬を口に含んだのかもしれない。

 そんな覚悟をさせてしまったのなら、エリザさん、ごめんなさい。


 でも、大丈夫。

 エリザさん、気がついて。

 光が収まって見えるようになったご主人の顔が、元に戻ってるよ。

 今なら二十代だと分かるよ。

 あ、侍女さんが恐る恐るエリザさんに声を掛けてる。

 ご主人から体を離したエリザさんが、穏やかな寝息をたてるご主人を見て抱きついて泣いてしまった。

 それでご主人の目が開いたら、エリザさんの泣き方が激しくなった。

 でも、これは嬉し泣きだからいいよね。

 良かった……良かったよ……うーもらい泣きだよー




 これ以上覗いているのはいけない気がして、神視界を切った。

 湧水のところに行って顔を洗うと、今日ダルバリオン先生がやっていたことを真似して顔を乾かしてみる。

 一瞬で乾いた。これはなかなか便利かもしれない。



 頬を叩いて気分を切り替える。

 よし、今度こそ、頭を抱えている父のところに行かなければ!

 もう一度神視界で父を見ると、相変わらずベッドに腰掛けて頭を抱えてる。

 私は部屋の前に神移動すると、意を決して扉をノックした。


 少しだけ開けられた隙間から見えた父の顔は、いつもの優しい顔でも凛々しい顔でもなくて、焦っているような、イラついているような、目だけがギョロギョロと動いて、悪いことをした後の人みたいな顔をしていた。

 その顔に驚いてしまって声が出せないでいると、父は私が扉をノックしたことなど知らないから、視線の先に誰もいないと分かると扉を閉めようとした。

 ハッとして「お父様!」と呼びかけると、顔が下に向いて父の瞳に私が映った。瞬間、父の目が大きく見開かれて、ガバッと扉を開いて勢いよく抱き上げられてグリグリ頬擦りされた。


「なんて幸せな幻覚なんだ」


 あーこれは、幻覚を見るような状態に追い込まれるほどに思い悩んでいたということ? やっぱり母に追い出されたのだろうか……


「お父様、幻覚ではありません。お父様に会いたくて、恩寵の力を使ってここに来ました」


 私の言葉に頬擦りがピタリと止んで、顔を離した父が「幻覚ではないのか?」って言うから再度幻覚じゃないと伝えると、私を床に下ろして今度は父がしゃがんで私の両肩に手を置き、目を鋭くして「ドルチェン・ラングに酷いことをされたのか?」って聞くから、きちんと否定しておかないとまずいと思い、ドルチェンさんはとても良くしてくれていますと言うと、父の顔から険が取れて穏やかになった。

 すかさず


「とてもとてもお父様にお会いしたくて我慢ができなくなり、来てしまいました」


 と言うと、父の顔がでれーっと崩れてアイシェは本当に可愛いなあと言いながらむぎゅーっと抱きしめられた。

 ちょっと苦しかったけど、嬉しい。

 あーちょっと明日頑張れる気がしてきた。

 って、気が緩んで忘れるところだった。確認しなければ!


「お父様、明日は……マリアローズお嬢様のお誕生日パーティのはずですが、何故公爵邸にいらっしゃらないのですか?」


 私の質問に体をビクリと振るわせた後に父が見せたのは、泣きそうな顔。


「そのようなお顔をされて、何かあったのですか?」


 更に聞くと話してくれた。

 双子の姉であるマリアローズの誕生日パーティー前に領地の視察に急に出た理由で、母が納得しそうな内容のものが思いつかなくて、帰るに帰れないのだと。


 理由を聞いて頭を抱えたよ。

 何で行動に移す前に通用する言い訳を用意しないかなあ……

 でも……あの時は夜突然来て泣かれて翌朝には部屋に居たから……あの時の父の頭に有ったのは、私と一緒にいる時間を作ることだけだったのかもしれない……にしても、うーん……

 ちょっとだけ父の考えなしの行動に呆れつつ、私と一緒にいるためにしてくれたことだから、何かいい理由を見つけなければと頭を悩ませる。


 そこへ物音に気が付いたのか、隣の部屋からセスさんが出てきて私が居ることに驚いていたけど、恩寵の力で来たと伝えると納得してくれて、セスさんも一緒に父の部屋に入り、三人で理由を考えることになった。

 何としてでも父達を今夜中に公爵邸に帰らせなければ。


 うんうん唸っていると、セスさんが使えそうな案を出してくれた。


「何度も申し上げましたが、マリアローズお嬢様のお誕生日の贈り物のために迷宮に宝を探しに行ったことにすれば奥様もお許し下さるのではないでしょうか? 実際に昨日迷宮に潜りましたし」


 なんと、昨日迷宮に潜ったらしい。この公爵領にも迷宮が有ったのね!

 その理由、いいじゃないのと思ったのに、父は「その案は却下しただろう。戦利品が何も無かったのだからその理由は使えないのだ」と即却下。

 いや、戦利品が無くても娘のためにに頑張ったんだと伝われば良いのでは? と思ったけど、駄目らしい。男の意地とかそんな感じかな? それにしても、どうしたものか……


「ところで、その迷宮ではこれまでにどのような宝が発見されたのですか?」


 気晴らしに聞いてみると、治療薬や一般的な武器が殆どで、ごく稀に攻撃力が増す効果のある武器や結界を発生させる魔道具なんかが発見されるのだそうだ。


「指輪などの宝飾品が発見されたことはないのですか?」


 アクセサリー系は発見されたことがないのか聞いてみると、過去に一度だけどんな物理攻撃も無効にする『守護の腕輪』が発見されたことがあるそうだ。

 ふむふむ、宝飾品も発見されたことがある。

 ならば、ここは力業といきましょう。


「その迷宮の名前を教えていただけますか?」




 私は迷宮の名前を聞くと父とセスさんに少し席を外すことを伝えて一度山に戻った。

 庭には穏やかな寝息をたてるヴォルグス達が転がっている。

 コックナンと仲良しになったのか、二羽のコックナンが転がるヴォルグス達にくっ付いて寝ている。

 大きく深呼吸すれば、体中の細胞が喜びで沸き立つような美味しい空気で胸が満たされる。

 空を見上げれば数多の星々が輝き心を和ませてくれる。

 目の前には『ルカの迷宮』の宝箱リストが表示されている。

 あとはこの中から宝飾品を選ぶだけ——。


 選ぶだけなんだけど、それができない。

 力業でと思ったのに、選べない。

 宝飾品の入った宝箱は浅い階層には無かった。

 冒険者達は宝を求めて命懸けで迷宮に潜る。

 その宝をこんな狡して手に入れていいのか……




「アイシェ」


 横から柔らかい声で穏やかに名前を呼ばれた。

 ビクンとはしたけど、ダルバリオン先生の時みたいに飛び上がったりはしなかった。

 名前を呼ばれる前に視界が少し明るくなったから。

 夜見る神様の明るさは、まんまるのお月様みたいに辺りを照らす。

 溢れ出す銀色の光は優しくて心地いいけど、今の私には眩しすぎる……


「神様……」


 自分のしようとしていることが恥ずかしくて俯いてしまった。


「アイシェ、僕のことを父と呼べるようになるまでは名前で呼んでくれないかな?」


 俯いた私の頭を撫でながら言われたことに驚いて顔を上げると


「アイデンって呼んでくれる?」


 小首を傾げて可愛く言うから断れなくて、アイデン様と言うと「様も無しで」と無茶なことを言われてしまい絞り出したのが


「アイデン兄様」


 言い終わった瞬間神様が破顔した。


「思いつかなかったよ。父親になることばかりを考えていたけど、その手があったんだね。にいさま、にいさま、うん。すごくいい響だね。じゃあこれからはそれでお願いね」


 微笑む神様の顔につられて私も笑ったけど、そうだった。宝飾品を……


「アイシェ、もうそれはしなくていいよ。代わりにこれを持っていきなさい」


 神様、じゃなくて、アイデン兄様が差し出したのは、上面に何かのマークが焼き付けてあるシンプルだけど艶やかな表面を持つしっかりとした作りの細長い箱を二つと、一辺が十センチぐらいのやっぱり何かのマークが焼き付けてある箱が一つ。


「これは?」


 とても不安になって聞くと


「これはね、ウィリアム・アル・プリムス・メディエスの悩みを解決するものだよ。細長い箱は彼の妻と娘に、四角い箱はこの国の国王への献上品だね。それを持って行けば彼らには意味がわかる。新しい記憶が増えているはずだからね」


 アイデン兄様の言っている意味が分からない。

 アイデン兄様が父の尻拭いをしてくれるってこと?


「ふふ、尻拭い。本当にそうだね。それを渡すときに彼に伝えてくれる? 感情に任せた選択で三度みたびアイシェを苦しめる時は、君から大切なものを貰い受ける。それが嫌なら、感情のままに選択し行動する前に深呼吸して冷静になることだ。君は決して愚かではないのだから。とね」


 アイデン兄様……


「ありがとうございます」


 私は受け取った箱を胸に抱いて深く深く頭を下げた。


「彼の愛情深さは長所のはずなんだけどね、まったく困った男だね……」


 


 アイデン兄様は私に頭を上げさせると、「さあ、行っておいで」そう言って私を父達の部屋に送ってくれた。




 部屋に現れた私を見た父は、どんな記憶が追加されたのか、すごく申し訳なさそうな顔をして「すまなかった」と言うと私を抱きしめてくれた。

 そして、私が箱を渡すと、中を見せてくれて、それが何なのかを教えてくれた。


 細長い箱の中には長さが一センチほどの雫型をした深紅に輝く宝石が付いたネックレス、四角い箱には直径が二センチ程のやっぱり深紅に輝く、美しいカットが施され磨かれた裸石が一つ入れられていた。

 この赤い石は、つい最近ルカの街の近くの山で見つかった新しい鉱物で、埋蔵量を調べてみると全部掘り出してまとめたとしても赤子の頭分も無いほど極少なことが分かったのだそうだ。

 鑑定すると『ルビー』と呼ばれる鉱物で、宝飾品に向いていると出たために研磨をしてみた結果、これまでに無かった深紅の輝きを放つ、美しい顔を現したそうだ。


 ルビーと聞いて、地球の鉱物の名前をそのまま付けたのね、とちょっと笑ってしまった。

 父は私が笑った理由が分からなくて何かあったかと聞かれたけど、ちょっと神様のことで思い出し笑いですと言ったら説明を続けてくれた。


 ルビーは宝石としての価値が非常に高いものだったそうだ。

 だから、マリアローズの誕生日の贈り物と、妻への贈り物として二人お揃いのネックレスを急ぎ作ってもらったけど、制作が間に合わず、今日までかかってしまった。

 裸石は王家への献上品として一緒に受け取ったもの。


 という記憶が、私と過ごした四日間とその後からこの時点までの記憶とは別に、元々ある記憶に並行する形で追加されたそうだ。

 この記憶が頭に流れ込んできた時は混乱したけど、落ち着いたら私が居なくなって直ぐに起きたことと、私が創造神の加護を得ていることを思い出して、こんなことができるのは創造神しかいないと分かったから、私に謝ってくれたのだそうだ。


 それならと、アイデン兄様からの伝言をそのまま伝えると、「神は全てご存知だったのか……」と頭を抱えてしまった。

 父の言葉を聞いてアイデン兄様が私の記憶を見たからだとは言えずに黙って待っていると、しばらくしてゆっくりと顔を上げた父は、一度目を閉じて深呼吸をした。

 再び目を開けて


「神の御言葉、我が魂に刻もう。二度と再び感情のままに進む道を選ぶことのないように」


 そう言った父の瞳には、これまでにない奥行きが宿っているように感じられた。

 アイデン兄様の言葉に何かの気づきがあったのかもしれない。

 よし!


「では、これで戻れますね。今から戻りますから、お父様もセスさんも荷物をまとめてくださいますか?」


「今からですか?」


 セスさんが驚いたように聞いてきたから、


「はい。恩寵の力で公爵邸の側まで戻ります。今はまだ寝る時間ではありませんから、明日のためにも今日中にお話しは済ませておいた方がよいのではないでしょうか」


「確かにその通りだとは思いますが……」


 セスさんが心配そうに父を見る。

 見られた父は、一度大きく深呼吸すると、「今直ぐに荷物をまとめる」そう言って動き始めたから、セスさんも「では自分も」と言って嬉しそうに部屋へ戻っていった。


 十五分後、フォルセスに乗った父達と公爵邸近くの道に神移動した。


「アイシェ、何から何までありがとう」


 父はフォルセスから降りて私を抱き上げてぎゅっと抱きしめると、「では、行ってくる」と言ってまたフォルセスに跨って公爵邸へと帰っていった。

 行ってくると言った時の父の表情からは、並々ならぬ覚悟が見て取れたよ。

 アイデン兄様、父と母が上手くいきますように。どうか見守っていてあげてください。

 頑張れ! お父さん!




 二人の背中を見送ると、急に光が無くなったように感じた。

 明るさは何も変わっていないのに、夜だから暗いままなのに、さっきより暗く感じる。

 父に会いたかったのは、明日からの修行が怖くて心が折れそうだったから。

 父の笑顔で元気エネルギーを補充したかったのに、なんだか今日は補充するよりも放出した感じがして疲れてしまった。

 それに、なんでかな……ちょっとだけ寂しくなってしまったよ……一人は慣れてるはずなのに……




 こんな軟弱な精神ではいけないと両手で頬をバシバシ叩いたけど、気合が入らない。やっぱり寂しい……

 縋るようにドルチェンさんを神視界で見てみたら、丁度寮のご飯を食べ終わって部屋に戻るところだったから、ドルチェンさんの部屋に神移動して、ドルチェンさんが戻ってくるのを待った。

 ドルチェンさんが帰ってきてからは、今日のお山改造とか恐怖の修行のこととかを全部話した。

 神様とご飯を食べたところでは自分もダルバリオン先生に会いたいと言うから、安息の日以外の夕食時ならいつでもバルンさんのところに来れば会えると言うと、喜んでいた。


 ドルチェンさんは仕事の後で疲れているだろうに、私の話を嫌がりもせずにずっと聞いてくれた。

 翌朝一緒にご飯をたべているとき


「俺はもうアイシェの家族だと思っている。だから、気をつかう必要も遠慮する必要もないからな。子供らしくどーんと甘えてこい」


 そう言って頭をガシガシ撫でられた。

 それが嬉しくて、ドルチェンさんの言葉に今日を乗り切る元気をもらえた気がしたから、つい照れ隠しに


「そんなこと言って、後で後悔しないでくださいね!」


 って言ったら、


「おお! この筋肉を後悔させられると思うならやってみるがいい!」


 って胸のお肉をピクピクさせるから、両手をあげて降参したよ。

 うん。間違いない。私はどこまで行ってもマッチョが苦手だ!






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[一言] なんだろ、優しい回だった。よきかなー
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