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17話 祝受の儀

た、大変だった……ものすごく長くなりました。


「そのスフィアの制作は順調に進んでね、あとは微調整」の微調整を「最後の仕上げ」に直しました。23/2/24

 ん? あれが扉?


 近づくにつれてハッキリと見えてきた扉は、大きな神殿のマークを囲むように光る線で描かれた、上部の一辺が半円のアーチ形になった長方形の絵だった。

 神殿の壁面に光る線があるだけだから、扉と認識できる独立した部位が無い。

 もし扉だと言われなかったら、壁の模様と勘違いして素通りする自信がある。そんな自信いらんけど。

 でも、それぐらい型破りな扉の先で行われるのが、未知の儀式、恩寵の儀だ。

 いやが上にも期待が膨らむ。


 そんな不思議な扉に一点集中で前進していたら、突然手が後ろに引かれて前に進めなくなったから振り返ると、父が立ち止まっていた。

 どしたの〜? と下がって父を見上げたら


「アイシェ、大切なことを伝えるのを忘れていた」


 真面目な顔で話しかけてくるから、神殿に入る前に何かやるべきことでもあったのかと思ったら


「神殿に入る前に伝えておく。神殿は天界の一部だと言われており、我々の知る常識とは違うことが多々あるが、そういうものだと思って受け入れてほしい。そして、できるだけ静かにしているように」


 ん? 

 言葉は理解できたけど、意味が理解できない。

 頭の中ははてなマークだらけだったけど、一応「はい」って答えたら、私がよく分かっていないことが伝わったのか、「とにかく騒がなければいいからな」と言われた。


 神殿の中だから厳粛な雰囲気なのかな……興奮して騒がないようにお口にチャックしとかなきゃ。

 でも、天界の一部で常識とは違うってなんだ? もしかして、中に入ったらいきなり空の上とか……

 天界という言葉から連想できる世界を想像すればするほどワクワクしてくる。


 湧き上がる興奮で走り出しそうになるのをグッと堪えて無理やり平静を装ったけど、そのせいか一歩一歩に力が入り過ぎて足音が大きくなってしまった。


「緊張しているのか?」


 足音が大きすぎたのか、父が心配して私を抱き上げてくれた。

 緊張じゃなくて興奮しすぎてなんだけど……

 ちょっと恥ずかしくなって返事ができなかったから、にっこり笑って誤魔化しておいたよ。


 そしてそして、父に抱っこされたまま、ついに扉の前に到着した。

 どうやって開けるのかなあと思ったら、何もしてないのに光る線に囲まれた部分が、消えた!


 思わず「おお!」って出そうになった声を飲み込んだ。

 つい今し方静かにしているようにと言われたばかりだからね、我慢したよ。


 消えた扉を抜けた先に現れたのは、光溢れるだだっ広い空間とその真ん中から上に向かって伸びる白い階段。

 なんだけど、階段は一段目が床に着いているだけで、そこから先は宙に浮いているように見える。支えているものも吊っているものもない。

 しかも、階段の先はどこにも繋がることなく途中で途切れている。

 意味がわからない。


 しかも、空間の中には半分透けて見える建物と大地、草木、その中を走り回る子供達が見える。

 上を見上げたら天井は見えず、やっぱり半分透けた空が見えた。


 また声が出そうになって慌てて両手で口を押さえた。


 で、なんとなく視線を横にずらしたら、今度は誰かの像に向かってお祈りをしているように見える人達がいる光景が半分透けた状態で見えた。

 子供達が見える光景と祈っているような人達が見える光景が重なっている部分もある。

 空間全体をよく見ると、他にも違う光景がいくつか重なっていた。


 なんじゃこりゃーーーーーー!


 叫びたいのを必死に堪えてたら、静かに喋るのは大丈夫だぞって少し笑いを堪えた顔で言われた。

 後ろから付いてきてるトーマスさんとセスさんを見たら、二人も笑うのを堪えてた。

 先に言ってよ。静かにって言われたから声を出しちゃいけないのかと思ったじゃん!


 私が「お父様、意地悪です……」ってボソッと言ったら、顔を背けて少しの間肩をピクピクさせてからまた私を見て「すまない。顔を真っ赤にしてまで声を出すのを我慢するとは思っていなかったものでな」って頭を撫でながらすごく優しい顔で言うから、許しちゃうじゃん。ずるい! でも……いいなあ、こういうの……




 なんかフワフワした気持ちのまま、もちろん父に抱っこされたまま、幅が三メートルぐらいありそうな階段を上がっていくと、途中で視界が一瞬歪んだと思ったら、やっぱり白い壁の、円筒形の部屋に出た。


「おお!」


 今度は出るままに素直に驚いたら、また笑われた。

 それからまたさっきと同じすごい優しい顔で頭を撫で撫でされた。

 むふー幸せだー


 きっと今の私はだらしない顔をしているだろうけど、気にしない。

 そのまま部屋の中を見回すと、壁には表の扉と同じように光る線で描かれた、上部の一辺が半円のアーチ形になった長方形が五つあり、その線の内側には神殿のマークではなく、それぞれに光る文字で『祝受の儀の間』、『子供の園』、『祈りの間』、『万相談室』、『売店』と記されている。


 ん? 万相談室? 売店? 違和感半端ないんですけど? ここ、神殿だよね? 神聖な場所だよね?

 さっきの頭ナデナデと麻薬的笑顔のダブルコンボでフワフワしていた気持ちが、『万相談室』と『売店』というあまりにも世俗的な名称に一気に持って行かれた。

 私がじーっと二つの扉の方を見ていたら、父に「歩けるか?」って聞かれたから、「はい」と答えると下された。ちょっと残念。


 そんな私の手を引いた父が真っ直ぐに『祝受の儀の間』と書かれた扉に進んで行ったことで、そうだった、祝受の儀だった! と我に返った。

 この扉を潜ったら、今度こそ祝受の儀。

 考えたらまた気持ちが高ぶってきた。


 父に手を引かれるままに扉の前に立つ。

 そして、扉が消えた瞬間、光溢れる白い通路と、その先に、光の柱と人が立っているのが見えた。


 おおー、ついにきたよー


 ここにきて緊張しだしたのか、心臓の鼓動が激しくなった。

 やけに大きく聞こえる心音を聞きながら通路を進んでいくと、さっきよりも広い円筒形の部屋に出た。


 やっぱり光に溢れた空間だけど、部屋の真ん中に人一人がスッポリ包まれるぐらいの大きさの一際明るい場所がある。

 そこには、サーチライトのような強い光の柱があって、その横に白いスーツを着た黒髪茶目という懐かしい色のおじさんが立っている。

 懐かしさを感じたのは髪と瞳の色だけじゃない、この世界で初めて前世ビジネスマン風のシンプルなスーツ姿を見た。

 ジャケットの中に着ているのはTシャツっぽい。


 そんなおじさんの姿が気になったけど、それ以上に気になったのが、おじさんの視線。

 もうガン見もガン見。

 視線が私の頭部に固定されてる。

 やっぱりこの目と髪が嫌なのかな……


 怖くなって父の後ろに隠れると


「娘がどうかしましたでしょうか?」


 父も不快感を覚えたのか、ちょっと低い声で聞いた。

 その声にハッとしたおじさんが、


「これは大変な失礼をしました。あまりにもお色が——」


「娘の色が何だと言うのです?」


 おお、父の声が更に低くなった。


「違うのです。決して悪い意味ではないのです。申し訳ありません」


 おじさんは父に謝ると、今度は膝をついて私に目線を合わせてから、ジッと見つめて怖い思いをさせてしまって申し訳ない、と私にも謝ってくれた。

 その目が私を化け物と呼んだナンシー達とは違って優しかったからちょっとホッとして、大丈夫ですって答えたら、おじさんもホッとしたような顔をして立ち上がった。

 そして


「改めまして、祝受の儀を執り行う神官のヤーマトです。よろしくお願いします」


 と自己紹介をしてくれたので、こちらも父が自己紹介をした後に、私とトーマスさんとセスさんの紹介をした。




「では、アイシェ、こちらへ」


 ヤーマトさんから部屋の中心にある光の柱の中に入るように言われた。

 父を見上げると行っておいでと背中を押されたから、ドキドキしながらもおっかなびっくりで光の柱の中に入ったんだけど、その中は優しい温かさでとても心地良かった。


 なんだかお母さんの中にいるみたい……


 ちょっとぼんやりしていたら「では始めますね」と言ってヤーマトさんが光の柱に両手をかざした。


「解錠」


 ヤーマトさんの言葉のあとに頭の中にキーンと甲高い音が聞こえたのと同時に、ドクンと心臓が一度大きく脈打った。


「読み出し」


 今度は光の柱が一気に狭まって私の中に入ってきたようになって、また広がっていった。


「記録送信」


 一拍置いて「受理しました」と、どこからか女の人の声が聞こえてきた。

 部屋には、父とトーマスさんとセスさんとヤーマトさん、そして私だけしかいないはずで、声の出どころを探してキョロキョロしていると、手に何かを握らされた。


 見ると、長さが十五センチぐらいのクリスタル・ヴォーゲル・ワンドのような物だった。

 ただ、記憶にあるクリスタル・ヴォーゲル・ワンドのような両端の太さの違いがない。


 上下はないから気にしなくていいけど、立てた状態で両手がそれぞれワンドを握るように持ってと言われたので、そのように持つ。

 続けてその手を胸に当ててと言われた。

 私が言われたようにワンドを持って胸に当てたのを確認すると


「アイシェは神々からの贈り物を受け取りたいですか?」


 と聞かれたから、ここでいいえって答えたらどうなるんだろうと不思議に思いながらはいって答えたら


「それでは、私は受け取ります、と言ってください」


 と言われて、何となく不安に思って父を見たら頷いたから、唾をごっくん飲み込んでから、口を開いた。


「私は受け取ります」


 また一泊置いて「キーワード確認。解放します」と聞こえたかと思ったら、ワンドから何かが体に流れ込んできて、体中の細胞が沸き立つような熱さを覚えた。

 そして脳を無理やり四方八方に引き伸ばされるような感覚がして頭がクラクラする。

 強い目眩に襲われて体が傾いた気がした時、世界が真っ白になった。


「アイシェ!」


 慌てたような、驚いているような、心配しているような、そんな声で私を呼ぶ父の叫び声が聞こえた。

 同時に「旦那様!」と「ウィリアム様!」と叫ぶ声も聞こえた。






 何が起こってるの?

 意識が闇の中に落ちていく……と思ったら、額に冷たい何かが触れた。

 そしたら、脳が引き伸ばされる感覚も体の熱さもスッと治まって、目がパッチリ開きました!

 意識ハッキリ、超クリア!


 そんな私の目に飛び込んできたのは、私を覗き込む二つの光る白銀の瞳。


 びっくりして「うぎゃ!」って叫んで暴れたら、体が動かなくなったんだけど、なんで?

 勘弁してよ! やだー早く動いてー!

 目も開かないー!


「大丈夫大丈夫。目を開けてごらん」


 言われて目を開けたら、目の前にはテーブルがあって、コップがあって、そのコップからは湯気が上がってる。

 しかもレンダーのいい匂い。

 正面にはさっきの光る白銀の瞳の人が座っていてニコニコしてる。

 落ち着いて見ると、ヤーマトさんと同じような白いスーツを着たちょっとイケてるロン毛のお兄さんだ。

 髪の毛も白銀で光ってる。

 なんかどっかで見たような……って、私と同じ色じゃん!


「うん。うん。アイシェと同じ色だよ」


 は? なんで私の名前知ってるの?


「神だからね」


「かみ?」


「そう、神。君達は創造神アイデンって呼んでるね」


 創造神アイデン………………はあ? マジマジの神様?


「そう、マジマジの神様」


 ん? 私、今声に出したっけ? それにここまでの会話——


「出してないよ。でも聞こえる」


 聞こえる、聞こえる、聞こえる………………


「もしかして思考バレバレ?」


 思わず叫んだら「そうだね。そうなるねー」って相変わらずニコニコ顔で言ってるんだけど、そんな恐ろしいことをニコニコ顔で言うのはやめて欲しい。

 怖くて何も考えられなくなっちゃうじゃん。


「大丈夫だよ、今だって考えてるでしょ?」


 確かにーーーーーー! って、これも聞かれてる? やだー! 全部バレるのやだー! 馬鹿なのがバレるー!


「そういう心配なの?」


「大事なことです!」


「今更だから隠さなくても大丈夫だよ」


 なんか、サラッとムカつくことを言われた気がするけど、いや、ここは怒ってはいけないところだ。だって、悲しいかな、私は記憶力がいいだけの馬鹿なんだから。って、自分で言っててムカつくーーーーー!


「まあまあ、一人で怒ってないで、もう体も動くようにしたから、お茶でもどうぞ」


 言われた直後に体がフッと軽くなったから手を動かしたら動いた。

 慌てて自分の状態を確認したら、背の高い椅子に座ってた。

 あ、目を開けていいって言われた時点で椅子に座ってたんだ。全然気が付かなかった。

 周りを見回すと何もない真っ白な場所。

 神殿のどこかなのかな? ま、考えても仕方ないか。お茶、いただこうかな……


「アイシェはレンダーが好きみたいだからレンダーにしたけど、違うのがよかったら言ってね。コーヒーでもいいよ。すぐに変えるから」


 なんでコーヒー?


「前世では水の代わりに飲むぐらいに好きだったでしょ?」


 あー確かに。でも今はレンダーかなあ。


「レンダーがいいです。これ、大好きなので」


 ありがとうございます、いただきますと言って飲んだんだけど……なんか違う。確かにレンダーなんだけど、美味しい! っていうあの感動がない。


「やっぱりダメかー。それには心が入ってないからね。ただのお茶なんだよ」


 言われたことがいまいちよく分からない。

 お茶はお茶だよね? そのお茶にただのお茶ってあるのか? 値段がただって意味、じゃないよね? 心が入ってないってなんだ?


「このお茶はね、僕が作り出したお茶だから、その過程には茶葉を育てる人の心も、茶葉を加工する人の心も、売る人の心も、買う人の心も、お茶を淹れる人の心も入っていない。だから、ただのお茶なんだよ」


「心が入ってない?」


 心が入ってないって何だろう……


「口に入るまでにお茶に関わってきた人たちの思いのことだよ。その思いはエネルギーとなって茶葉に蓄積されていき、そのエネルギーは旨みへと変化して元々の茶葉の味に追加される。それが今までアイシェが飲んでいたお茶だね。でも、今僕が作り出したお茶にはその思いの旨みが入っていないからね、純粋な物質としての茶葉の味しかしないんだよ。だから感動がないんだろうね」


「なるほどーそういうものですかー」


 神様が作ったものなら極上の味になるのかと思ったら、そういうことにはならないのね。


「そうそう。だからね、神界には自動人形はいないんだよ。そのせいで君はその姿になったんだよね」


 何に対して「だからね」なのか分からないけど、自動人形? 自動人形って何?

 なんで自動人形とやらがいなかったら私がこの姿にならないといけないの?


「自動人形はアイシェが以前住んでいた地球ではアンドロイドって呼ばれているね」


「ああ、アンドロイド。……ん? 神界にはアンドロイドとかいないんですか?」


 人間の世界よりずっと高度な生活をしていそうだからアンドロイドとか普通にいそうなのに……


「神は魂の無い意思あるものを作ってはいけないんだよ。だから魂のある人間を神もどきにしようと作ったのが【もどき】というスフィアだったんだけど、それをマーニャンがポイっとしちゃってね……」


「はあ、マーニャンがポイっとしちゃったんですかーそうですかーっていやいや、全く意味が分からないんですけど?」


 この神様、説明が飛びすぎててさっぱり分からないんだけど……もう少し順を追って話してくれないかな……


「説明してもいい? ちょっと長くなるんだけど、聞いてくれる?」


 何故前のめり。

 しかも、すっごく嬉しそう。ってことは……あーこれは「はい」しか選択肢がないパターンかあ……長くなるのかあ……まあ、レンダー飲みながら聞くかあ……


「よかった。じゃあ話すけど、予備知識として、僕達の説明から始めるからね」


 私が頷くと神様は話し出した。




「僕達は『始まりの神』と呼ばれている三柱の神々が生んだ『親神』である二十七柱の神々によって作り出された神で、外見は『女神(にょしん)』と『男神(だんしん)』に分かれている。気質も大概はそれに合っているけど、アイシェ達のような生殖機能は無いし、恋愛感情というものもない」


 あれ? 神様って子供ばんばん作ってなかったっけ?


「ああ、それは地球の神話に出てくる神々の話だね。その神々は僕達とは違うかな。僕達は親神に作られて誕生するからね、子供を作る必要がない。それに誕生した時からこの姿だよ」


「そう、なんですか……」


 常識が……


「続けるね。親神に作り出された神には、力の強い順に『全大神』、『全小神』、『属性神』、『補佐神』がいて、全大神は一柱で余力を残して星が作れる。全小神は五柱でやっと星が作れる。属性神は創造の力を持っていないから何柱集まっても星は作れないけど、全大神もしくは全小神と組んでなら星が作れる。補佐神は星作りではなく星の管理補佐と『中央管理局』の職員を主にしている。中央管理局は、親神に作り出された僕達神々と、親神によって生み出された魂を管理する場所で、地球でいうところの役所だね。その中央管理局は、始まりの神である三柱が重なり合う領域『オリジェン』にあり、オリジェンには神々以外に親神によって作り出された数多の生命体が生息している。アイシェ達がいう神界だ。因みに、僕達もアイシェ達も何もかも全てが、始まりの神々の一部で作られているんだよ」


「はあ……」


 常識という鉄壁の防御が発動して神様の言葉が脳みその表面をツルツル滑って流れていく……


「ふふ、理解できなくても聞いていてくれればいいからね」


「はあ……」


 拒絶反応なのかなあ……感覚が麻痺してきた気がする……


「それでね、僕達は作り出されてからしばらくして気の合う仲間ができると、星を作りにオリジェンを出るんだ。そのために管理局に行って星を作るための空間を割り当ててもらうんだけど、その時に窓口の補佐神に哀れみの視線を向けられてね。僕達は何故そんな目で見られるのか分からないまま割り当てられた空間に行き、星作りに入ったんだけど、理由はすぐに分かったんだよ。先にその階層に星を作っていた先輩神のグループがとても個性的だったんだ」


 なんか、神様が遠い目をしてる……よほど個性的だったのね……


「そうなんだよ。先に作られた星は二つあったんだけどね、片方は女神ばかりが集まって作った乙女の星、片方は男神ばかりが集まって作った虫の星だったんだよ」


「虫の星?」


 おおう、全身に鳥肌が。

 虫と聞いて何故か最初に思い浮かぶのは、奴。視界に入っただけで全身が恐怖に支配されてしまう恐ろしき存在、その名もゴキ助。


「いや、虫は虫でもその虫じゃないのだけど……綺麗なものばかりを集めて、地球でいうなら、そう、御伽の国、御伽の星を作った女神達には耐え難いものだったのだろうね。その二つの先輩神グループはとても仲が悪かった。それで少しでも僕達の星を自分達寄りにしようと代わる代わる押しかけてきては星作りに干渉してきて大変だったんだよ。しかも、その二つの先輩神グループは中央管理局でもかなり評判が悪くてね。その影響で僕達が作ったこの星の運営補佐を募集したのに、補佐神が一柱も応募してくれなかったんだよ」


 また遠い目をしてる。よほど苦労したのね……


「苦労したんだよ……それで僕と八柱の神々とで仕事を分担して、マーニャンに癒されながら星の運営を続けていたんだけど、やはり大変でね」


 ん? マーニャン?


「ポイっとした?」


「そう。マーニャンはオリジェンに住むドラベリアンと呼ばれる種族で、我らがアイドルなんだよ。マーニャンの癒しがなければ僕達は星の運営を続けるのは無理だったかもしれない。とは言え、やはり大変なことには変わりなかったからね。今後のために仕事の補佐をしてくれる何かを作ることにしたんだ。ところが、神は魂の無い意思あるものは作ってはいけないからね、考えに考えて出した答えが、人間を神のように改造することだったんだ」


 なんか嫌な予感……


「はは、その予感は当たっているよ。人間の構造と親神に作られた僕達神の構造は似ているところが多い。それなら人間の体を神界に適応できる体に、神と同じような体に作り変えることができるのではないかと考えたんだ。そこで研究して生み出したのが、人間を神もどきにするための【もどき】のスフィアだった」


 スフィア?


「ああ、スフィアは魂と融合させることでその魂が宿った肉体に特殊な能力を持たせるための道具だよ。それで、そのスフィアの制作は順調に進んでね、あとは最後の仕上げをすれば完成するというところで、中央管理局から連絡が来たんだ。メルヘルンとニーブルが始まりの神により消去された。空間に漂う魂を全て回収して順次中央管理局へ送るようにってね」


 メルヘルンとニーブルって何?


「ああ、メルヘルンとニーブルは二つの先輩神グループが作った星の名前だよ。因みに、この星の名前はエイラ」


 エイラはいいや、それよりも


「消去されたってなんですか?」


「この星の名前だから覚えて欲しいのになあ……消去されたは、そのままの意味だよ。星とその星の神々の存在そのものが跡形もなく消されてしまったんだ」


「……そんな、信じられない。怖すぎる……」


「ふふ、大丈夫。何の前触れもなくある日突然消えるだけだからね。恐ろしいと感じることも、痛いと感じることも、苦しいと感じることも、何もないからね。怖いことは何もないよ。それに、始まりの神による消去は稀にあるんだ。さて、このことについて話すと更に長くなってしまうからね、ここはそういうことがあったと流してほしい」


 疑問がいっぱいだけど、ここで食い下がって教えてもらったとしても常識ガードが働いて理解できないだろうし……素直に返事をするか。


「はい」


「ありがとう。じゃあ続けるね。空間に放置された魂達の回収は、通常同じ階層の近い場所に位置する星の神々で分担して行うのだけど、この階層にはまだメルヘルンとニーブルとエイラしかないからね、その内の二つが消えたのだからその魂の回収作業は全てエイラの神々、すなわち、僕達で行わなければならない。一度に二つの星の魂の回収だから膨大な量だ。もう上を下への大騒ぎさ。この時初めて中央管理局から補佐神が来てくれてね、その補佐神達は回収作業が終わってもそのままエイラに残ってくれたから、今は星の運営に余裕ができて助かっているんだよ。って、余談だったね。続けるね」


「はあ……」


「回収作業で大変だろうからと補佐神がエイラの運営を手伝いに来てくれたけど、それでも目の回るような忙しさでね。マーニャンを放置してしまったんだよ。ここからはその時のマーニャンの様子をナレーション風に説明するよ——




 突然膨大な量の魂の回収を依頼された神々は、その対応に忙殺された。 

 そのあまりの忙しさに、マーニャンは放置された。


 マーニャンはエイラに来て初めて放置された。

 いつでも神々の中心にいたのに放置された。

 アイドルだったのに放置された。


 遊んで欲しくて近づいても、軽く頭を撫でるだけですぐにどこかへ行ってしまう神々。

 甘えたくて近づいても、「あとでねー」と頭を一撫でしてすぐにどこかへ行ってしまう神々。

 ほんの少しでいいから構ってと近づいても、頭をポンポンしてすぐにどこかへ行ってしまう神々。


 突然誰にも相手をしてもらえなくなったマーニャンは、寂しくて悲しくなった。

 でも我慢した。

 ずっと我慢した。

 我慢したが流石に三日間は長かった。




 ちょっと中断、この三日間は神界での時間で、この時の地上では一年半が経過しているよ。では再開するね。




 我慢が限界を超えたとき、寂しさと悲しさはマーニャンの中で怒りに変わった。

 その怒りをぶつけるように近くにあった物を壊したら、その時だけは優しく声をかけてもらえて構ってもらえた。


 物を壊せば構ってもらえると思ったマーニャンは、遊んで欲しくなったら目につくものを壊すようになった。

 しかし、それを何度か繰り返した時、ダルバリオンに強く叱られた。


 構って欲しかっただけなのに、叱られたのだ。


 優しく注意されることはあっても叱られたことのないマーニャンは、強烈な衝撃を受けていじけてしまい、誰もいないアイデンの工房に籠った。


 マーニャンはしばらくの間、床うずくまっていた。

 しかし、叱られたことを思い出すたびにだんだんとムシャクシャしてきて我慢できなくなった。


 マーニャンは思い切り床を転げ回った。


 ウニャウニャ言いながらヤケクソに転げ回った。


 転がりすぎて勢い余って作業台にぶつかったとき、綺麗な虹色に光るスフィアがお腹の上に落ちてきた。


 それを見たマーニャンは、アイデンが何やら一生懸命に作っていたのを思い出した。


 マーニャンは、アイデンを困らせてやりたくなり、お腹の上に乗っているスフィアを咥えると、地上に繋がるゲートに行った。

 そして、魂を送り出す作業をしているランツィエールがゲートから視線を逸らした隙に、ゲートにポイっとスフィアを放り込んだ——




 そのスフィアが神もどきを作るための【もどき】のスフィアだったんだよ。無いことに気がついたのは、魂の回収作業と送還作業が終わって一段落した八日後、この時の地上では四年が経過した時で、アイシェが一歳弱の時かな。ようやく【もどき】を完成させられると工房に行ったら無くなっていてね、慌ててそこら中を探したけど見つからなくて、時間を遡って調べてみたら、マーニャンがゲートにスフィアを放り込むところが見えたんだ。そしてそのスフィアは、胎児に入ろうとしていた魂と融合してしまった」


「はあ……ん? えっと、それって、もしかして、そのマーニャンがポイっとした【もどき】のスフィアが私の魂に融合しちゃったってことですか?」


「そういうことだね」


「なんで?」


「偶然だね。スフィアが出現した場所の落下地点にたまたまアイシェの魂があったんだよ」


「たまたま?」


「たまたま」


 たまたま……たまたま……たまたま……

 ちょっと待て、私が母親に拒絶されて家族とも暮らせなくなって悲しい思いをした挙句に穴蔵に監禁されて暴力を振るわれて精神崩壊しかけたのが、たまたま?

 たまたま???


「はあああああああ?」


「まあまあ、落ち着いて。話した通り、マーニャンにも悪気は無かった訳だし」


「いやいや、悪気大ありでしょう! だって、「アイデンを困らせてやりたくなり」ってしっかり言ってたじゃないですか! マーニャンが神様を困らせようとスフィアをポイしたから、だから私はこんな姿になって、母親から放り投げられて、化け物って言われて、捨てろって言われたんですよ! お母さんをお母さんって呼べなくなったんですよ! 家族と暮らせなくなったんですよ! 穴蔵に監禁されたんですよ! 定期的に暴力振るわれてたんですよ! それなのにそれがたまたまって! そんなのはいそうですかって言えるわけないじゃん! ふざけんな!」


 ああ、体が震える。

 もっと違う理由だったらこんなに腹が立たなかったのかな。世界のためにとか大層な理由を言われたら我慢できたのかな。

 んなわけないか……

 悔しい……

 すごく、悔しい……


「アイシェがその姿で生まれたことで受けた苦しみは、最初に抱きとめた時に見たから分かっているよ。だから理由を説明したかったんだ。その、すまない」


「すまない? そんな一言で、そんな一言で済むと思うなーーーーーーーー!」


 気がついたら思いっきりジャンプして神様に向かって突っ込んでた。




 ゴッチーン!


 ぐおおおおおおおおおおおおおお

 頭が割れるーーーーーーーーー


 頭を抱えてテーブルの上に蹲ってたら頭に何かが触れて、痛みが消えた。


「僕は全小神だよ。もどきのアイシェが敵うわけないでしょう? まったく、突然飛び上がって突っ込んできて頭突きをするなんて、自殺行為だよ。だけど、それだけの思いをしたんだよね。本当に、ごめんね」


 そう言って私をテーブルから抱き上げると、優しく抱きしめてくれた。

 お母さんに放り投げられた時からのことが走馬灯みたいに頭の中を駆け巡っていく。

 その時々の感情が次々に甦る。

 甦ったいろんな感情が一気に押し寄せてきて、爆発した。




「う、うわあああああああああああああ」




 今日までのこと、全部全部吐き出す勢いで泣いた。

 いっぱいいっぱい泣いた。




 いっぱい泣いてたら、あったかいザラザラの何かがほっぺたを撫でていった。




 目を開けたら、でっかいピンク色の逆三角形。

 白い毛。

 黒い唇。

 ちょっとスリムな髭袋からはお髭がピンピン生えている。

 ズームアウトしていったそれは、白銀の毛に黒い斑点があるアイスブルーの瞳が美しい……ちょっと顔が丸めの雪豹さん!


「この子がマーニャンだよ」


「え?」


 この子が?

 フサフサお顔にぶっといお手々、ぶっといあんよにぶっとい尻尾……極モッフモフ……


 呆然と見ていたらほっぺをベロンと舐められた。

 あったかいザラザラの舌、さっきのは君の舌だったんだ……




「狡いよ……怒れないじゃん……」




 ほんと、こんなの狡い。

 泣き笑いしてたら、また舐められた。


 神様に下ろしてもらったら、マーニャンは大きかった。

 体高が一メートルは超えてる。

 私が手を伸ばしたら、マーニャンから顔を寄せてきてくれた。

 伏せの体制になってくれたから首に抱きついたら、毛がビックリするぐらい柔らかくてふわふわで、とってもあたたかかった。


 すごく心地よくて、思わず「もう許す」って言ったらゴロゴロ喉が鳴る音が聞こえた。

 こんなの反則だと思うけど、神様に頭突きを食らわすほどの怒りはマーニャンのモフモフの前に霧散したよ。

 完敗だ……


 それにしても、神様の世界にも地球と同じような生き物がいるんだなあ……


「それは逆だね。オリジェンの生き物を参考にして星の生き物を作ることが多いからね、だからドラベリオンと似た姿の雪豹が地球にいるんだよ」


「あ、じゃあもしかしてフォルセスもそうですか? フォルセスは地球の馬に似てるけど」


「そうだね。フォルセスはオリジェンのエッセリオン種とほぼ同じかな。エッセリオンは美しいからね、僕達も好きなんだ」


「うにゃ!」


「ごめんごめん、マーニャンの方が美しいよ」


 うわーめちゃくちゃ甘えてる。見てるだけで可愛い。

 しかもうにゃって、鳴き方も鳴き声も可愛すぎる……これは確かに癒されるね。存在が神だわ……


「マーニャンの可愛さが分かってもらえて嬉しいよ。それから、許してくれてありがとう。本当は本来の体に戻してあげたいけど、一度魂と融合したスフィアは分離できないんだ。だからアイシェはこれからもその姿で生きていかなければいけない。もし、アイシェが望むなら、このまま僕とエイラの神域に行くことができる。そこで僕達と暮らすことができるけど、アイシェはどうしたい?」


 私は………………


「私は父やドルチェンさん達と一緒にいたいです……」


「そうなんだね。分かったよ。でも、もしこの先地上で生きることが苦しくなったら、その時は、僕を呼んで。いつでも迎えに行くからね」


「はい。そのときは宜しくお願いします」


 お辞儀をしたら頭をナデナデされた。


「【もどき】の力は神としては弱いけど地上では神同様に思われるだろうから、力の使い方には気をつけてね」


「そんなに凄い力があるんですか?」


 自分の手を見ても何かが変わった気がしない。


「まず、地上のどんな武器もどんな魔法もどんな病気もどんな状態異常も、今のアイシェを害することはないよ。それから、始まりの神々の感覚にリンクすることができるようになったから、世界のどこでも見ることできるし、聞くことができるし、行くことができる。過去を見ることもできる。ただし、未来は見ることができない。それから、僕の劣化版で作ったから、創造の力も使えるからね、物を作り出すことも自由自在だ。まあ、そこは既に魔法である程度できるようになってるみたいだけど。魔法で作る以上に簡単に作れるし、明確なイメージも必要ないよ。ああ、生命体と星は作れないからね」


 生命体と星はいいとして、イメージ、必要ないの?


「じゃあどうやって物を作るんですか?」


「明確にイメージしようとしなくても、何となく考えるだけでそれに見合ったものがリストアップされるからね、そこから選択するだけでいいんだ。ただ、アレンジする時や、リストアップされない場合には具体的なイメージが必要だけどね」


「じゃあじゃあ、もしかして食べ物も作れちゃったりしますか?」


「アイシェは魔法でも試したみたいだね。ふふ、アイシェは人里離れた秘境にでも籠もって生活をするつもりなのかな」


「そういうわけじゃないですけど……」


 だって、お金がなくてもご飯食べれたら楽かなーって思っちゃうじゃん……

 なぜ笑う……


「まあ、今のアイシェなら作れるよ。でもね、さっき飲んだレンダーと同じことになると思うよ。もし、バルンドレン・ロアの料理を再現したいと思っているなら、それは無理だと教えておくよ。何故なら、僕達には心を作ることはできないからね」


 あ、物質そのものの味。


「そう。感動の無い、物質そのものの味。物質だけなら最上級のものを作れるから、物質そのものの味で言うなら、一番美味しいとは思うけどね」


 なるほどー


「そうですかー。じゃあ、食べ物を作り出すのは非常時だけにしておきます」


「それがいいね」


「そうだ、神様、質問は受け付けてもらえますか?」


「答えられることならいいよ」


 やった!


「えっと、魔法で瞬間移動をする時に、実際に見ていない場所には移動することができないんです。頭の中のイメージはできているのにです」


「それは僕達でもできないよ。何故なら、頭の中でイメージした空間はどれだけ正確にイメージできていても仮想空間でしかないからね。イメージした空間を空間魔法で作り出すことはできても、実際にその場所に移動することはできない。僕達でも移動する前には予め移動先を見ているんだよ。そうだね、今のアイシェはさっきも言ったように始まりの神々の感覚にリンクできるから、魔粒子ドローンを飛ばさなくても見えるよ。一度試してみようか。祝受の儀の間を見ようと意識してみてごらん」


 言われて、祝受の儀の間を見ようと意識したら、目の前に見えている視界とは別のもう一つの視界が現れて、何の苦もなく祝受の儀の間が見えた。部屋の中心部が真っ白な光に包まれていて、そこへ向かおうとしている父とそれを止めようとしている体制のトーマスさんとセスさんが見える。ただ、みんな人形のように動かない。


「部屋の中心部が真っ白な光に包まれていて、父達が人形のように動きません」


「それで合っているよ。今、この星の時間はアイシェをここに呼んだ時のままで止まっているからね。とまあ、そんな感じで、目的地を視認した状態で移動するんだよ。納得してもらえた?」


「はい! ありがとうございます!」


 っていうか、凄い! 何この視界! 見たいと思っただけで見えるなんて、便利すぎる!


「喜んでもらえて良かった……他には何かある?」


 あ……


「私は何故前世の記憶があるのでしょうか?」


「それは、中央管理局にメルヘルンとニーブルの魂が溢れていた時だからね、おそらくだけど、感情エネルギーを抜いた後の記憶の封印工程を飛ばしてしまったか、担当者がし損なってしまったんだろうね。補佐神達も完璧ではないからね。たまにはミスもあるんだよ」


「そうですか。って、あの、感情エネルギーを抜くってなんですか?」


「それは……そうだ、魂は感情エネルギーが溜まりすぎると破裂して消滅してしまうんだよ。だから必ず一度の生が終わると感情エネルギーを抜くんだ。そうすることで何度でも生まれ変わることができるんだよ」


「なるほどー魂って風船みたいですね」


「ああ、そう言われると……確かに風船みたいだね」


 おおう、またマーニャンに舐められた。

 私もマーニャンのほっぺを撫で撫で。

 かっこかわいい……


「そうだ、僕の加護を付けておくから、アイシェは今後アイシェ・エイラ・アイデンと名乗るといい」


 アイシェ・エイラ・アイデン? エイラ? アイデン?


「エイラって星の名前ですよね? しかも神様の名前まで。そんな大層な名前なんて名乗れません!」


「アイシェはね、【もどき】と融合した時点で僕の子供になったんだよ。だから、アイシェは僕の家族でもある。遠慮しないで僕の名前を名乗って欲しい。そうそう、これからは僕のことを、お父さんって呼んでね」


 あーいい笑顔だなーこれはなー無理だなーうー……


「分かりました。でもいきなりお父さんと呼ぶのは難しいので、いずれということで……」


「うん、うん。それで構わないよ」


 笑顔が眩しい……


「じゃあ、そろそろ戻ろうか」


「はい」


「ふふ、マーニャンは挨拶するかい?」


「にゃ!」


 あー可愛い声を上げてから私の前に伏せてくれた。

 あーマーニャンさまさま、モフモフさまー

 思いっきり抱きついてモフモフに顔を埋める。


 至福……


 マーニャンのゴロゴロ音に幸せエネルギーがマックスになったところで体を離した。


「ありがとう、マーニャン」


 お礼を言ってお辞儀をしたら、ほっぺたをまた舐めてくれた。

 離れ難いけど、帰らなきゃね。


「またね。マーニャン」


「にゃ!」


「それじゃあ、戻るよ」


 神様の声が聞こえたと思ったら視界が真っ白になった。

 徐々に光が落ち着いていき、視界に色が戻ってくると、私は祝受の儀の間の光の柱の中にいた。

 神様もマーニャンもいない。

 戻ってきたんだ。




「アイシェ!」


 父が突進してきて私を抱き上げた。

 こんなことは初めてだ、大丈夫か、体はなんともないかって凄く不安そうに聞いてくるから、大丈夫って答えたら、良かったって言ってぎゅーって抱きしめられた。

 マーニャンとは違う幸せエネルギーが溜まったよ。


 ヤーマトさんもこのようなことは初めてですって酷く驚いていた。




 この後、私の恩寵を確認したんだけど、恩寵の確認は空間に浮かび上がる文字で表示されてびっくりしたよ。

 神殿での現象のなにもかもが超科学的すぎて、父が最初に言ってた「我々の知る常識とは違うこと」とはこれらのことかーと納得した。


 それから、表示された名前がアイシェ・エイラ・アイデンになっていたことや、創造神アイデンの加護がついていたこと、そして、恩寵が二つあったことに、ヤーマトさんも父達も仰天していた。


 肝心の恩寵は、一つは【もどき】で、一つは【歩く】だった。

 この【歩く】が本来の私の恩寵だった。

 で、【歩く】の効果は、歩いて移動するなら、どれだけ歩いても疲れないというものだった。

 うん。なんだろう……微妙。


 ただ、ひたすら歩いて歩いて歩きまくっているとレベルアップして、歩いているのに速度が少しずつ早くなっていくようだ。

 究極までレベルアップできれば、歩いているのに時速百キロぐらいの速さになるみたい。

 どれだけ歩けばそのレベルに辿り着けるのかは謎だ。

 

 こんな感じで、本来の私の恩寵はかなり微妙だったけど、でも、神様に会えたことで、いろいろとスッキリした。


 この世界では、子供は三歳までに亡くなることが多いらしい。

 だから、三歳の誕生日が生まれて初めてお祝いする誕生日になり、同時に、祝受の儀を受けることで人生で最初の記念日になるのだそうだ。


 私にとっても記念日になった。

 家族がもう一人、じゃなかった、一柱増えたことの記念日。

 自分が化け物じゃないと分かった記念日。

 そして、ずっとモヤモヤしていたものが消えて、本当の意味で心機一転前を向けた記念日。

 今日、無事に祝受の儀を受けに来ることができて良かった。心の底からそう思う。

 連れてきてくれたお父さん、ありがとう。




 あ、そうそう、ヤーマトさんが私の恩寵を確認している最中に突然両膝をついて膝立ちし、両の手の平を自分に向けて胸の前に掲げて人差し指から小指までの指の部分を、指を閉じた状態で重ね合わせて、余った親指と親指をくっつけた状態で目を閉じて動かなくなったから何事かと思ったら、しばらくして徐に立ち上がり「創造神より御神託を授かりました」と言って、その内容を父に告げていた。


 どうも私をドルチェンさんに預けるようにと言われたみたいで、父が渋い顔をしていた。

 預け先は自分で決めるって言ってたからね、神様から指示されてちょっと不満だったのかもしれない。

 でも、私は嬉しかった。

 きっと神様が気を利かせてくれたんだね。

 神様、ありがとう。


『どういたしまして』


「え? 神様?」


 空耳かな? ま、いっか。




 帰りに「神様にお礼を伝えに行くよ」と言われて祈りの間に寄った。

 そこには神殿の壁と同じ素材だろうもので作られた真っ白な神像が九体並んでいた。

 その中に創造神アイデンと記された神像があるのだけど、なんで威厳のある髭を生やしたおじさんの姿なんだろう。

 私が会った創造神は若いお兄さんだったはずなのに……


 何故かヤーマトさんが一緒に来ていたから、この姿はって聞こうとしたらそっぽを向かれた。

 あーこれはワザとだ。

 もしかしてこっちの姿の方が神様らしいとかそんな理由かなあ。


『そうだよ』


 ん? また? あれ?

 んーどうも耳がおかしい。

 にしても、これは詐欺じゃないのか? ま、お祈りするのに姿は関係ないか。

 とにかくお礼を伝えなくちゃね。

 恩寵をありがとうございました。




 しっかりとお礼をしてから、ヤーマトさんにもお礼を言って神殿を出た。

 すると、外はもう黄昏ていた。

 神殿の中が真っ昼間のような明るさだから全然気が付かなかったよ。


 帰りの馬車の中では父が私をドルチェンさんに預けるなんていやだーって泣いてたけど、私もトーマスさんもセスさんも見ないふりをした。

 そしたら、「酷いよアイシェー」って更に号泣するから宥めるのに大変だったよ。

 もう少し公爵としての自覚を持って欲しい……

 

 そんなちょっと面倒で楽しい馬車を降りて父達にバイバイをして離れに戻ったら、なんと、ドナさんがご馳走を用意して待っていてくれた。

 しかも、ドナさんが今日は特別ですって言って一緒に食べてくれたから、凄く楽しくて美味しい晩御飯になったよ。


 寝る準備をしてベッドに入ったら、すぐに朦朧としてきた。

 朧げな意識のなかで見えたのは、かっこかわいいマーニャン。

 蘇るモフモフ感。

 あったかくて、柔らかくて、フワフワで……しあわせだ……

 心の中に広がる喜びと幸せに包まれて、私の意識は眠りに落ちていった。






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