16話 いよいよだ
とても短いです。ほぼ説明です。祝受の儀本番は次話になります。
私は今、初めて平車に乗っている。
前世でいうところの馬車だ。
窓の外の景色がゆっくりと流れていく。
滑らかにすべるように進む感じは速度の遅い新幹線に乗っているようで、静かだし快適だ。
全然揺れないのは、車輪から伝わる振動を緩衝させるためのサスペンションの役割をする部分に、余程大きな段差で起きる振動以外は完全に吸収してしまう魔法陣が描かれているからなんだそうだ。
やっぱりあなたは神様だよ、ジュリウス・ベンシューレンさん。リッチだけど……
その平車を引いているのは、馬でいうと耳があるところに、長さが二十センチほどの虹色に光る二本の角を持つ、全身ピッカピカのライトゴールドなフォルセスさん。
波打つ長いたてがみが風に靡く姿が美しすぎる……
もうね、存在自体が『美』。
前世で近くに競馬場があって、そこへ移動する馬を見かけては綺麗な生き物だなあと思ってたけど、まだ完成形ではなかったらしい。
正に、ここにその完成形を見たって感じ。
そんな『美』を具現化させたようなフォルセスという魔獣には、他に全身シルバー、全身ゴールド、全身ホワイトがいるそうだ。
えらく煌びやかなラインナップだ。
性格はとても穏やかで、人間から攻撃をしない限りは襲われることはまず無いけど、基本は肉食だから油断は禁物なのだそうだ。
御者さんに注意事項を説明してもらってから、父に抱っこしてもらって撫でさせてもらった。
触れると少し熱いぐらいの筋肉質な体を覆う体毛は、サラサラツヤツヤで撫で心地抜群!
許されるなら、ずっと撫でていたかった……
ここで、注意。
フォルセスの上位に位置するフォルセリアスとフォルセリアス・リューオンという魔獣がいるけど、決して撫でようと思ってはいけないそうだ。
フォルセリアスは急車を、フォルセリアス・リューオンは特急車を引く魔獣らしいけど、かなり気性が荒いらしい。
色がフォルセリアスは紺色、フォルセリアス・リューオンは漆黒で、大きさも全然違うし、角も全く違うから見れば分かるそうだけど、彼らは無意識に手を伸ばしてしまうほどに美しいのだそうだ。
フォルセスと同じ様に触ろうとしたら、伸ばした腕が無くなる覚悟をした方がいいのだとか。
だが……と言葉を切った父が私をじっと見てから、今の私の場合は体が小さいから、体高が三メートル半を超えるフォルセリアス・リューオンにとっては道端のゴミみたいなものだから、絶対に近づいちゃダメだと言われた。
近づいたら、腕が無くなるんじゃなくて、命が無くなるそうだ。
プチっと踏み潰されちゃうんだって……危険すぎる……
まあ、フォルセリアス・リューオンは元々は竜人の国であるバシレウス国にある森にしか生息しておらず、しかもバシレウス国は鎖国しているために、普通に暮らしているならフォルセリアス・リューオンに出会うことはまずないから大丈夫なんだって。
ここで一つ疑問。
何故鎖国している国にしかいないはずのフォルセリアス・リューオンがこの国で特急車を引いているのか。
それは、この国を建国した初代国王様がどうやってかバシレウス国と交流を持ち、そこの王様に気に入られて、親交の証にとフォルセリアス・リューオンを贈られたからなんだそうだ。
でも、魔粒子濃度の高い地域じゃないと餌に大量の魔粒石が必要になるため、魔粒子濃度が異常に高いこの国の最南端にあるハインス公爵領の領都バイアにしかいないらしい。
しかも特急車は軍専用なので、街中などではまず見られないそうだ。
私がホッとしていると、体高が二メートル強のフォルセリアスは公爵家の敷地にいるから、もし見かけても無闇に近づかないようにと言われた。
確かに、魔粒子ドローンで上空から見てたときに、角の生えた大きな馬もどきさんが走ってると思ってたけど、あれがそうだったのか……無意識に手を伸ばしてしまうほどに美しいお姿を一度近くで拝見させていただきたいわ。
時間があったら魔粒子ドローンで見に行ってみよう。
楽しみだ。
ついでにと、無意識に手を伸ばしてしまうほどに美しい魔獣繋がりで、一目見たら無意識に近づいて行ってしまうほどに可愛い鳥形の魔獣もいるから気をつけるようにと言われた。
名前はシク・ラッパル。
大きさは一メートル半ぐらいで、丸くて白くてホワホワで身悶えするほど可愛いのだとか。
ちょっとアイシェに似てるかもな〜ってデレデレの顔で頭を撫でられて嬉しかったのに、続いた言葉に複雑な気持ちになったよ。
その可愛さに魅了されて近づいた魔人や人間の顔面を嘴で一突きにして、殺して食べてしまうのだとか。
何、そのギャップ。
ギャップ萌え? ナイナイ。怖すぎる……
シク・ラッパルは、魔粒子濃度の高い草原地帯にしか生息してないから、エルデンの周辺にはいないから大丈夫だよ〜って言われたけど、顔面を一突きされた人が痙攣してて、その返り血を浴びたホワホワで真っ白な毛が真っ赤に染まってる姿を想像しちゃったから、悪夢を見そうだよ。
お父さんのバカタレ……
で、話がフォルセリアスとフォルセリアス・リューオンに戻ったんだけど、彼らはなんと、空も飛べるそうだ。
もちろん荷台を引いた状態で。
そんな話を聞いたら乗りたいと思うに決まってる。
鼻息荒く乗ってみたい乗ってみたいって連呼してたら、さっき言ってたハインス公爵領の領都バイアとその手前の町ルメルの間を結ぶ急車が空を飛ぶから、学園に入れば必ず乗れると言われた。
学園? それはエリザさんが話してた学生時代と関係あるのか?
気になって聞いてみたら、貴族の子供は十一歳から十六歳までの五年間、義務で王都にある学園に入って学問と戦闘訓練をするそうだ。
平民も、十歳で受ける魔粒石ランクの検査で中級以上だと判定された子供は、義務で学園に通う必要があるそうで、この場合は、将来国を守る仕事に就いて欲しいための教育だから、無料で通えるらしい。
魔粒石ランクが低い平民でも、希望してお金を払うなら入学に必要な最低限の学力さえあれば入学できるそうだけど、わざわざお金を払ってまで入学する平民は滅多にいないのだとか。
その学園での最後の年に総仕上げとしてバイアへ行き、現地の迷宮や、その南部に広がる深淵の森イリスで戦闘訓練が行われるらしい。
もちろん全員強制参加で必ず行かなければいけないため、急車にも必ず乗るのだとか。
なるほどー。でも、それで急車に乗るのは嫌だなあと思ってしまった。
だって、勉強嫌いだもん。
まあ、私は貴族じゃないから関係ないか、と思おうとして、自分の魔粒石の蓄粒限界値を上げたことを思い出した。
うん、十歳の検査で引っ掛かりそう。
これは、なんとかして十歳の検査を回避しなければ。
そんなことを考えていたら、神殿に到着した。
「おわ〜」
平車を降りて見上げたそれは、魔粒子ドローン越しに見るよりはるかに荘厳だった。
真っ白なのに、半透明にも見える滑らかな壁面には、よく見ると虹色の光の粒子が舞っているように見える。
底面は一辺が五十メートルぐらいあり、見上げた首が痛いぐらいに高い。
私が惚けて眺めていると、父が「行こうか」と言って手を差し出してくれたから、頷いて握った。
いよいよだ。
一歩一歩神殿の扉が近づくにつれて、私の鼓動も早くなっていった。




