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14話 まってろよ、マンシー

「家族はお父様だけなんです。それ以外の人は全く知らないので〜」の部分と、最後を書き直しました。他、気がついた間違いの修正をちょこちょことしました。23/2/10


身分が高いほど前に出て戦わなければいけないはずなのに、2話のエリザさんの言葉のままだと矛盾してしまうので、その理由を追加しました。23/2/12


「年配」の年齢範囲を勘違いしていましたので、ドナの年齢表現を「年配」から「四十代前半」に直しました。23/2/23

「うわ!」


 目を開けたら世界が白くて、びっくりして飛び起きたら柔らかい大きなベッドの上にいた。

 エリザさんが模様替えをしてくれる前までの、元、私の部屋みたい。


 太陽の白い光が気持ちいい……


 でも、穴蔵にいたよね? いつここに来たっけ?


 確か、待つのが怖くて寝てたら穴蔵の中に父が立ってて、夢かと思って目を擦ったけど消えなくて、見捨てられなかったんだって、来てくれたんだって、飛び上がりたいぐらい嬉しくなってホッとしてホッとしてホッとしてホッとして大泣きして、それからトーマスさんやセスさんとお話しして、あ、呼び捨てにしないといけないんだった、トーマスとセスとお話しして、マンシーに言いたいことがあるって言ったらトーマスもあるって言うから、じゃあ一緒にお父様にお願いしようってなって、それで上に上がったら死罪って言葉が聞こえて、その場で思いついた方法で死罪を回避しようと全力でお願いして、笑われて……あの優男、許すまじ……あ、死罪、回避できなかったんだ……


 じゃあ、マンシーって、あの後どうなったの?


 私は慌ててベッドから出ようとして、しっかりと出ていなかった上掛けに足を取られて空中へダーイビーング。

 顔から思いっきり床に着地してしまった。


 ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお


 人間は、痛すぎる時、悲鳴なんて出ません。無言で、耐えるのです。耐えられない時は、何かを叩くとか、転げ回るとか、声にならない声でクソっとかふざけるなっとか悪態をつくのです。


 かくいう私も、今、うずくまって必死に痛みに耐えております。手のひらが顔に触れないようにした片方の手の指先に全力で力を込めて前頭部を鷲掴みつつ、片手は拳骨で床をゴンゴン叩いております。


 だって痛いんだもん!


 そしたら、誰かが部屋に入ってきた。


「何事ですか! え? お嬢、様?」


 待って。誰か知らないけどちょっと待って。痛いの治ったら返事するから。だから、ちょっと待ってて。


 慌てて魔粒子体内循環を開始。


 ようやく痛みが治まって顔を上げたら


「お嬢様!」


 お仕着せを着た初めて見る四十代前半に見える女の人にびっくりした顔で叫ばれた。

 そんな顔してどしたのーって思ったら鼻から何か垂れていく感覚が。

 下を見たら鼻血がダバーって出てた。

 これは叫んでも仕方ないね。


 鼻声で大丈夫だから鼻に詰めるものを下さいって頼んだら、慌てて部屋から出て行っちゃった。

 魔粒子体内循環を始めたから鼻血もすぐに止まるだろうけど……申し訳ないことしたかな。

 そう思ってたら、超特急で戻ってきた女の人に顔面に治療薬を掛けられて、落下で強打した鼻はあっという間に治った。

 血は浄化下着君が綺麗にしてくれた。

 君は本当に優秀だね。


 で、ありがとうございますってお礼を言って、私はアイシェです、貴方はどちら様ですか? って聞いたら暫くの間私の世話をしてくれる侍女長のドナさん……ドナだと教えてくれて、続けて敬語を使うなと言われた。

 目上の者が目下の者に丁寧語、敬語を使っては侮られる原因になるから、止めるようにって。


 呼び捨てだけでも慣れなくて呼ぶたびに違和感がすごいのに、年上の人にタメ口って、難易度が高すぎるよ。

 ムリーーーって頭を抱えてたら、ソファの上に抱っこして移動させてくれた。

 それから、なんで鼻血を出す羽目になったのかって聞かれたから、マンシーのことが気になって慌てたら転んだって答えたら、ナンシーのことは忘れろって。


 そんなの無理! 忘れられるわけがない。

 父はああ言ったけど、私には黙ってここを出るっていう選択肢があった。

 でも、私はそれを選ばなかった。

 その結果がマンシー達の死罪だ。

 罪は償って欲しいけど、死んで償えとまでは思ってない。

 そりゃあ殴られてたときは腹が立っていつかぶっ殺してやるって思ったけど、本当に殺したかった訳じゃないから。

 

「ドナさーあんっと、ドナ、ナンシーの刑がいつ執行されるのか知ってる?」


 あードナさんが困った顔してる。教えてもらえないかな……


「今朝のことですからまだ決まってはいないと思いますが、おそらくは来月末か再来月かと」


「え? 来月末か再来月? 刑が決まってるのに随分と時間が開くんですね……私的には考える時間ができてとってもありがたいですけど……でも何故?」


「お嬢様、丁寧語に戻られておりますよ」


「あ、ごめんなさい。それで、なんでそんなに開くんであーの?」


 あ、ドナさんの片眉がピクってした。ごめんなさい! だって、慣れてないんだもん。


「それは……」


 なんか答えにくそう。でも言っちゃダメなことなら直ぐに知らないって答えるよね。


「穴蔵生活で鍛えられてるから、何を言われても大丈夫だよ?」


「穴蔵生活でございますか?」


「そう、地下の部屋。狭くて薄暗いから、穴蔵って呼んでたの」


 あードナさんの目がウルってなっちゃった。

 いかん、話を戻そう。


「で、なんでそんなに開くの?」


 ドナさん、大きなため息を吐いたよ。


「それは、今月の三十四日に、マリアローズお嬢様が無事に三歳になられましたことをお祝いするパーティーが、盛大に開かれるからでございます」


「あーなるほど。祝い事があるからその前後は凶事を避けるってことですね!」


 合ってる? ってドナさんの顔を見たら


「不満に思われないのですか?」


「なんで?」


 え? なんか不満に思うことあった?


「お嬢様も三歳になられます。ですが、お嬢様のパーティーは開かれないないのでございますよ?」


 あーそれは


「私にとって、家族はお父様だけなんです。それ以外の人とは生まれてから全く関わりがないので他人でしかないんです。だから、双子のお姉様の誕生日パーティーが開かれると聞いても何も感じません。そーですかーって思うだけなんです」


 ドナさん、ドナさん、同情は不要ですよ。

 涙ぐまなくていいですよ。

 夕べお父さんが来てくれた。それだけで、私はとってもとーっても幸せなんだから。

 ん? でもちょっと待って。


「ドナさん、慶事がある時って恩赦が出たりしないんですか?」


「お嬢様、さん付け丁寧語にまた戻られております。ご注意くださいませ」


「あ、うーーーーーーー」


 涙とツッコミは別物かー


「唸ってはいけません」


「はい……」


「恩赦でございますか……デーヴィド様がお生まれになりました時には出されましたが、それ以降は出されておりません」


 そっかーじゃあ誕生日如きでは出ないかー


「お嬢様はナンシーを助けたいと思っていらっしゃるのですか?」


 助けたい? んー


「助けたいわけじゃない、かな。ハッキリ言って大っ嫌いだし、一発ぶん殴ってやりたいし。それに、悪いことをしたと自覚して欲しいし、罪は償って欲しいから。でも、死罪は重すぎると思うのよ」


「お嬢様、僭越ながら申し上げますが、それは違います。ナンシーは旦那様の命に背いてメディエス公爵家のお子様であるお嬢様を監禁いたしました。これはメディエス公爵家に対して牙を剥く行為であり、死罪になるのは当然なのでございます」


 まいった、貴族社会という未知の壁が高すぎる……メディエス公爵家の子供を監禁したから死罪って……ん? メディエス公爵家のこども? メディエス公爵家のお子様である私?


「ドナ……お母様は私のことを記憶から消したままだよね?」


「何故それを……」


「あ、うんとね、私は何故かお母様のお腹の中にいたときからの記憶があって、お母様が私を化け物と呼んだことも、捨てろと言ったことも、お母様が記憶から私の存在を消してしまったことも聞いてたから知ってるの」


「そのようなことがあるなど……」


「それが、あるみたい。実際に私がそうだから。だからこの生活には無理があるなーってずっと感じてた。いくら西の離れはお母様が近づかない場所だといっても、一生ここに閉じこもっているわけにはいかないでしょ? メディエス公爵家の娘である限り、いつかは表に出なきゃいけない時がくる。でも、そしたらその時に私のことを何て説明するの? 女だからわざわざ養子に取る必要もないし、じゃあ、お父様の隠し子? 愛人の子? そんなの絶対ダメだよね。だから、私はもう少し大きくなったら、公爵家を出て平民になるつもりだったの」


「お嬢様……」


「幸いずっとここに住んでてその内の二年は穴蔵にいたし、私の存在は幻みたいなものだから、それならいっそ本当に生まれなかったことにすれば、ナンシーが監禁した相手も存在しなかったことになる。これなら、ナンシーが公爵家のお金を使い込んだから解雇ってことぐらいで済ませてもらえるんじゃないかなーと思うの。希望だけどね。ナンシーはお母様付きでいることに拘ってたから、解雇されるだけで相当のショックを受けるだろうし、十分罰になると思うのよ」


「ですが、それではお嬢様があまりも——」


「全然かわいそうじゃないよ。お母様をお母様とも呼べずにここに閉じ込められ続けることの方が、平民になるよりも遥かに辛い。まあ、平民になりたい私の希望が通るかどうかはお父様とのお話次第なんだけど」


 ごめんね。ドナさん、こんな話をしてしまって。そんな辛そうな顔させたかったわけじゃないんだけど。

 そうだ、


「ドナさ……朝ご飯はいた……もらえたりする?」


 あ、顔が上がった。


「はい、直ぐにご用意いたします」


「おねがい……ね。あと、お父様にお話しがありますと伝えて……くれる?」


「かしこまりました」


 ドナさんが深々とお辞儀をしてから出て行ったけど、私はお辞儀をされるような人間じゃない。

 ただ自分のせいでマンシー達が死罪になるのが嫌なだけの利己主義者だよ。


 にしても、マンシーめ、私は難しいことを考えるの苦手なんだぞ! 守備よく死罪を回避できたら、めちゃくちゃ痛い拳骨一発お見舞いしてやる。


 っと、今の内にしばらくの間晩御飯をもらいに行けないことをバルンさんに伝えておかなくちゃね。

 あーあ、バルンさんのご飯が食べられない日があるなんて、辛すぎる。

 何とかしなくちゃ。


 私はドナさんがいない内に朝の習慣を一通り済ませて、バルンさんへの連絡も済ませて、もう自由だから外に出てみようかなーと扉に向かったところで、ドナさんが朝ご飯を持って来てくれた。




 目の前には湯気の上がる具がいっぱい入ったスープと柔らかそうなパン、それから、サラダとピカピカ光るカトラリーが綺麗に並べられてる。


 どーしよー野生児な私はスプンぐらいしか使えない。

 チラっとドナさんを見たらニコニコして見てるし。

 うーここは正直に使い方が分かりませんと言うしかない!

 ドナ、使い方がわからないの、適当に食べていい? いや、使い方を聞くべきか……ここはドナ、使い方を教えて——


「お嬢様、もしかしてマナーがお分かりになりませんか?」


 おーイエース! ドナさん、聞いてくれてありがとー


「はい」


「今はマナーのことはお気になさらず、ご自由にお召し上がり下さい」


 ああ、ドナさんの後ろに後光が差して見える。ありがとー


 うん、お野菜シャキシャキ! 美味しいね。


 そう言えば


「ドナ、あのね、お父様ってとっても若く見えるけど何歳なの?」


「旦那様は二十六歳でございます」


「そんなに若いのにもう公爵様ってすごいね」


「はい。ですが、旦那様は若くして公爵家をお継ぎにならざるをえなかったのでございます」


 ドナさんは、ここからメディエス公爵家のこと、この国の貴族のことを教えてくれた。


 父は十八歳で公爵家を継いだそうだ。

 というのも、二十五年前に起きた大規模スタンピードで当時の公爵夫妻である曽祖父母が戦死、祖父は右足と右腕の肘から下を失うという大怪我を負い、命は助かったものの車椅子での生活になり、父が成人すると直ぐに公爵の座を譲って引退したそうだ。


 ドルチェンさんに聞いてはいたけど、まさかこんなに身近なところにもスタンピードの傷跡があるとは……

 でも、あんなに強力な治療薬があるのにって思ったら、治療薬では失った手足は生えないのだとか。


 ドナさんの話は続いた。


 この国には、七箇所の超危険地帯があって、その内の五箇所はスタンピードが定期的に起こる場所で、この五箇所の内、一箇所は王家が、残りの四箇所は公爵家が領都を構えて守っているのだそう。

 ここエルデンもその一つ。


 残りの二箇所は、その地域にだけ生息しているケツァルトドラゴンという獰猛で人間を好んで襲う体調が三メートルほどの小型のドラゴンが住んでいる場所だそうで、その地域は国内でありながら特別区域とされていて、土着の戦闘民族であるグルガム族に任せてあるそうだ。戦闘民族、ちょっと萌える……


 話を聞いていて、危険な場所に王家とか公爵家とか、私の感覚では危ない場所にいなさそうな地位の名前が出てくるから不思議に思っていたら、この国は、身分が高い者ほど国民を守るために前に出て戦わなければいけないんだそうで、貴族は全員が性別関係なく戦闘訓練を受けるし、上級貴族は特に厳しい訓練があるそうだ。だから二十五年前の大規模スタンピードのときに女性である曽祖母も戦死されたのか、と納得した。

 公爵家の敷地が内壁の中にないのも、スタンピードが起きた時に一番最初に矢面に立つのが公爵家であり、兵士さん達だからなんだ……そっか……


 自分で振った話が重くなって食べる手が遅くなったら、ドナさんに謝られちゃった。

 いや、謝らないで。それよりも、情報をありがとうだよ。


 で、もしかしてドナも戦えるの? って聞いたら、戦えますって。自分も子爵家出身で今も三日に一回は剣の訓練をしてますって聞いてびっくりした。

 さっきこの国には戦闘民族がいるって言ってたけど、この国の貴族と分ける必要があるのか不思議に思ったよ。


 そう言えば、エリザさんは風属性だから戦闘に役立ちそうなのに、立場上あまり魔法は使わないって言ってたんだよね。子爵なのに戦いに参加しないのかと聞いたら、エリザさんが管理を任されている地域はスタンピードが起こるような場所ではないし、生息している魔物や魔人もそれほど強いものがいないから、平時は冒険者に任せているそうだ。

 エリザさんが管理しているような地域で貴族が出しゃばると、逆に冒険者の仕事がなくなるために顰蹙を買うのだとか。だから、そのように仰られたのでしょうと言われた。

 なるほど。いつでも先頭に立って戦えばいいというわけではないのね。タイミングは大事。うん、気をつけよう。


 こうしてドナさんの話を聞きながら朝ご飯を食べ終わったところで、父がやってきた。




「おはよう! アイシェ! よく眠れたか?」


 うん、めっちゃ笑顔。平民になるって言いにくいわー


「おはようございます。お父様。はい。ぐっすりと眠れました」


 そうか、よかったと言いながら私を抱き上げて頬擦りずりずり。

 おい、公爵の威厳はいいのか? ドナさんが口をぱっかーんって開けて見てるよ? 嬉しいけどさ……


「アイシェはやっぱり可愛いなーお父様は心底癒されますよー」


 左様でございますか。それはとても良かったですが、ドナさんの口がそろそろ限界だと思うんで、公爵に戻って下さいませ。


「お父様、お髭が痛いです」


「ああ、済まない。アイシェが話があると言うから湯浴みを後回しにして急いで来たからな。まだ髭を剃っていなかった」


 父の頬の髭を両手でジョリジョリ。

 うん。これ結構楽しい。


「それで、話とは何だろう?」


 父が私をソファに下ろして聞いてくれたから、ちゃんと言わなくちゃ。


「お父様、私をメディエス公爵家から除籍、いえ、生まれた記録を抹消してください。私は平民になりたいのです」


 あーそんな顔しないで欲しい……私だってずっと一緒にいたいけど……


「理由を聞いてもいいか?」


「はい」


 私はドナさんに言った胎児のときからの記憶があることを話した。

 母が私を投げ捨てて化け物と呼び捨てろと言ったことも、私を記憶から消し去ったことも知っていると。

 だから、ここに居続けるのは辛いのだと。

 自由になりたいのだと。


「知っていたのか……」


 父はその一言を言って黙ってしまった。


「お父様、私はお父様が私のことを、『何故双子なのに一人だけがこのようなことに』と嘆いてくださったことも、『この子も私たちの娘なんだ』と言ってくださったことも、覚えています。……お母様のお腹の中で、お母様の優しさをずっと感じていました。お姉様と私を慈しんでくださっているのをずっと感じていたのです。だから、早くお母様に会いたくて仕方がありませんでした。生まれてお母様に会うことを心待ちにしていたのです。でも、そのお母様に化け物だと言われ、捨てろと言われてしまいました。心が潰れる思いでした。そんな私を救ってくださったのは、お父様です。お父様の言葉がどれだけ嬉しかったか……」


 父が驚いたように顔を上げた。

 ごめんね、お父さん。ここで終わらないの。まだ続くの。


「私はお父様が大好きです。ずっと一緒にいたいぐらい大好きです。だからこそ、今、私はここを出たいのです」


「なぜ……」


「私が公爵家にいる限り、私はずっとここから出られないでしょう。その時間が長くなればなるほど、体が成長すればするほど、閉じ込められていることに対する苦しみが増していき、やがてそれは怒りに変わり、憎しみに変わるでしょう。その矛先は、本邸で家族と幸せに暮らす双子のお姉様に向けられる。私は閉じ込められて独りなのに、なぜお姉様だけが家族に愛されて、しかも自由に暮らしているのか、と。そして、いつかその憎しみは、私をここに閉じ込めたお父様へと向いてしまう。そんな自分が容易に想像できてしまうのです」


 父の目がすごく悲しそう……ごめんなさい。ごめんなさい。大好きなんだよ。お父さんのこと、大好きなの。だから


「私はお父様のことを憎みたくないのです。ずっと大好きなままでいたいのです。ですから、私を公爵家から消してください。そして、公爵家とは何の関係もない平民にしてください。お願いします」


 私は立ち上がって頭を下げた。

 頭を下げるしかできなかった。


「すまない、アイシェ。少し時間をくれないか? 今ここでは返事ができない」


「わかりました」


 父は来た時とは打って変わって肩を落として帰って行った。

 帰り際にトーマスさんが私に深々とお辞儀をしていった。

 胸が痛い。私は自分のためにやってるのに……罪悪感が半端ないよ……


 お父さん……お父さん……


「お嬢様」


 ドナさんが私を抱き上げてくれた。


「ドナ……」


 ドナさんにしがみついて泣いた。

 もっと違う方法が思いつけばいいのに……

 もっと私が賢ければよかったのに……




 二日後、父がまた来てくれて、私の願いを受け入れることにした、と言ってくれた。

 一歳で死亡したことにするから、私は既にただのアイシェだそうだ。

 届け出の時期がずれているのは大丈夫かと聞いたら、貴族の本登録は三歳からだから、三歳までの死亡届けは時期がずれていても問題ないのだとか。

 よかった。


 でも、私の行き先を決めるまでの間は、この離れで暮らすことを条件に出された。

 もちろん、行き先を決めるのは父。

 あと、祝受の儀も一緒に行くことって。


 それから……「アイシェが平民になっても親子であることは変わらないのだから、絶対に定期的に会うこと! これからも私のことはお父様と呼ぶこと!」だって。


 最後の条件を聞いた時は、泣き笑いしちゃった。

 だって、これからも会ってくれるって、私を娘だって言ってくれるんだもん。

 最高のパパだよ。大好き! お父さん! ありがとう! お父さん!




 それから、懸念していたマンシーの件は、私が一歳で死んでるわけだから、監禁されていた事実自体が無かったことになるため、刑罰がかなり軽くなってしまうから、申し訳ない、と謝られてしまった。


 私としては、もう心の中でガッツポーズしまくりだったんだけど、マンシーが反省してくれるならそれでいいですって言ったら、なんと、あの救出された日に、トーマスさんに鼻っ柱をポッキリと折られたそうで、今は反省しまくっているんだとか。

 今は、「アイシェお嬢様に謝りたいです」って言ってるって言われて、あのマンシーが私に謝りたい? 気持ちワル〜って思っちゃった。

 しかも私のことをお嬢様って……一体トーマスさんは何をしたのやら。


 不思議で仕方なくて聞いたら、トーマスさんとしては心底申し訳ないという思いからマンシーに謝っていたらしいけど、その内容が、「お前の本質は信頼も信用もできない人間だ」って思いっきり言ってたらしくて、見ていてちょっと可哀想なぐらいだったんだって。

 トーマスさん、優しそうな顔してなかなか厳しいのね。でも、ナイス!


 それですっかりしおらしくなったマンシーが、どうしても私に会いたいと言っているらしく、どうするって聞かれたから、私も会いたいということで、会いに行くことにした。

 その前に、


「お父様、兵士さん達の中で一番拳骨が痛い人は誰ですか?」


 藪から棒になんだと不思議そうに聞いてくるから、私からマンシーへのプレゼントですって答えたら、笑いながらグラントが適任だなって教えてくれたから、マンシーに会いに行くときに同行してもらえるようにと頼んでおいた。


 ふっふっふ。まってろよ、マンシー。強烈な拳骨、お見舞いしてあげるからね……あー顔がニヤけてしまう〜




 こうして、翌日父とトーマスさんとセスさんとグラントさんと私でマンシーに会った。

 まあ、私が地下牢に行ったんじゃなくて、マンシーがこの離れに連れてこられたんだけど。


 びっくりした。

 私を見た途端に申し訳ありませんでしたーってスライディング土下座したから。

 こっちの世界に土下座があるのか知らないけど、自分がしたことをきちんと理解して、反省してくれたことは、しっかりと伝わってきた。


 でも、許さん!


 私はグラントさんに「一発、思いっきりでお願いします」ってお願いした。


 マンシーはキョトンってしてたけど、次の瞬間に「ゴツン!」ってすっごいいい音がして、マンシーが頭を押さえて床を転げ回った。


 あー女の子がそんな、床を転げ回るなんて、はしたない。


 でも、これでスッキリした。


「ナンシー、あなたの謝罪を受け入れます」


 涙目で頭を押さえたままなんとか落ち着いたナンシーにそう言ったら、目を見開いてから、目に涙をいっぱいに溜めて、「申し訳ありませんでした。ありがとうございます」ってまた頭を下げられた。


 結局、ナンシーの刑罰は公爵家のお金を使い込んだとして鞭打ち十回と解雇。

 ニーナは平民なのに公爵家のお金を使い込んだため、しかもかなりの額だったことから、鞭打ち三十回の後、鉱山送りになり、ベインは使用人の枠を超えた贅沢な食事とちょっと高めのお酒に使っていただけで額はそんなに大きくなかったけど、平民だから鞭打ち三十回の後、解雇だそうだ。使い込んだお金の返済義務があるから、エルデンから出ることはできないんだとか。

 ニーナの娘は公爵家で暮らした二年間の記憶を消して、既に父親の元に返されているそうだ。


 みんな死罪じゃなくなって良かった。

 これで安心して寝られるよ。

 全部分かっててやってくれたんだね。

 お父さん、ありがとう。






 私がただのアイシェになってから五日、ナンシーと対面してから四日が過ぎた。

 私はもう貴族じゃないのに、ドナさんは変わりなく私に対して丁寧に接してくれて、大切に世話をしてくれた。

 まるでエリザさんがいた時みたいに落ち着いた、心穏やかな日々だった。


 そんな穏やかな心を沸き立たせる日が、ついに明日に迫った。

 そう、祝受の儀の日。


 父と初めてのお出かけ。

 初めて乗る平車(へいしゃ)

 初めて生身で行く街。


 外からしか見たことがない真っ白な神殿の中はどんな風なんだろう?

 祝受の儀を受ける場所は?

 もらえるのはどんな恩寵?


 姉のマリアローズが午前中に父と母と行くから、私は午後も遅めの時間に行くらしい。


 そう、私が行くのは午後も遅くなの。

 なのに、どうしよう……

 まだ日付も変わってないのに、今からワクワクが止まらないよ。


 目が冴えて全然眠れない。


 こんな時は文字を見るのが一番。


 窓から差し込む月明かりの中、私が退屈しないようにと父が持ってきてくれた本を開く。


 私が平車に乗ることを楽しみにしてたからかな。

 現在の平車を引いている魔獣のフォルセス(地球の馬のそっくりさん)のルーツのお話で、とある狩人と森に住んでいたフォルセスとの友情物語。

 くぅ、涙なしには読めない……


 ちょっと泣き過ぎた……


 あー目がしばしばしてきた……


 今なら寝れそうな気がする……




 この世界のお月様も綺麗だなあ……


 お月様、お月様、明日が素敵な日になりますように。


 おやすみなさい……






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[一言] 正式に家を出るのかー。母親が化け物と呼んだ我が子の母親への想いを知る日は来るのだろうか
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