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13話 決着

今までで最長になってしまいました……

少し書き直しました。23/2/8の①

私にとって正に異世界な罪科を見落としていました。それを追加して修正しました。23/2/8の②

 ウィリアムは暗闇の中で声を聞いていた。

 助けを求める少女の声。

 どこか聞き覚えのあるその声の主を何とかして助けたい思うのに、どこまでも続く闇に足を取られて動けない。

 少しでも声の元に近づこうともがいていると、眼前に眩しい光を背にした小さな人影が現れた。

 その人影から助けて、助けて、と繰り返し聞こえてくる。


 今いく。今助けるから。


 ウィリアムは必死に手を伸ばした。

 体をよじり、動かない足を動かそうともがいて、ほんの少しだけ近づいた手が、指先が、あと少しで人影に届く――




 ウィリアムの瞼がゆっくりと上がる。


(夢、か……)


 耳に残る声の主が誰なのか喉まで出かかっているのに思い出せず、胸がざわつく。

 そこへ


「お父様、助けてください。私は厨房の地下にずっと閉じ込められています。このままでは殺されてしまいます。どうか、助けてください」


 夢と同じ声で助けを求める言葉が聞こえてきた。

 驚いて声がした方へ視線を向けると、そこには柔らかい光を放つ小さな少女がいた。

 少女は胸の前で手を組み大きな白銀の瞳でウィリアムを見つめている。

 その瞳から大粒の涙がこぼれたとき


「お父様、助けて! 私は殺される!」


 ただごとでは無い言葉を残して少女の姿が掻き消えた。


「まっ」


 ウィリアムは消えた少女を追うように右手を伸ばしたが、その手は力なく下されていく。

 少女がいた空間を見つめていた瞳もまた力なく下されていき、勢いで浮いた体がベッドに収まれば再び眠りに落ちるかと思われた。

 しかし、それを止めるものがあった。

 少女がいた場所に、暗闇の中で存在を主張するかのように淡い光を放つ長い白銀の髪が一本残されていたのだ。


(これは……)


 ウィリアムは手を伸ばしその髪に触れる。

 指先から伝わる感触が、確かにそこにあることを教えてくれる。


「夢、ではないのか……」


(あれは、随分と痩せていたがアイシェだった。だが、なぜアイシェが………………地下に閉じ込められていると言わなかったか? 殺されると……)


 はっとしてウィリアムは飛び起きた。

 扉の外からの安否を問う声に問題ないと答えつつも至急トーマスを呼ぶように伝えると、自身も急いでズボンとラフなシャツに着替えて剣を握り部屋を出た。

 そこにリーシアの侍女が控えていたため、


「西の離れに魔物が出ただけだ。いつもの魔物騒ぎだ。すぐに片付くからリーシアには心配しなくていいと伝えてくれ。それと、ユナリを呼ぶ。眠りの魔法でゆっくり寝かせてやってくれ」


 西の離れのアイシェのもとに行くからそのことをリーシアに悟らせるなと暗に伝えると


「承知いたしました」


 侍女は一礼して下がっていった。


「セス、ユナリをリーシアのところへ。それから、五人ほど動けるものを集めてくれ。テネスが動けそうならテネスも頼む」


「かしこまりました」


 ウィリアムの指示に従者のセスが下がると、入れ替わるようにトーマスが現れた。


「旦那様」


「トーマス、大至急だ」


 ウィリアムは足早に階段へ向かいながら西の離れの合鍵を持ってくるようにトーマスに伝えた。


「夜中の二時を過ぎておりますが、今から向かわれるのですか?」


 予想外の指示に驚きを隠せずに尋ねると


「これを見ろ」


 ウィリアムから白銀に光る細いもの見せられた。


「これは?」


「アイシェの髪だ。先ほど私の元に現れた」


「それはどういう――」


「言葉通りの意味だ」


 西の離れにいるはずのアイシェがウィリアムの元に現れたと聞かされても理解が追いつかないトーマスは、とにかく鍵を持ってくるようにと緊迫した様子で命じる主人に、ようやく尋常ではない何かが起きていると感じて「直ちに」と言葉を残して下がっていった。







「今から西の離れに魔物討伐に向かう」


 ウィリアムの言葉に、集められた兵士たちは顔を見合わせる。

 西の離れの警備に当たっている兵士からそのような報告は来ていないからだ。

 しかし、続いた言葉に理由は分からないがアイシェのところへ行くことは理解した。


「今は身を潜めている。そのせいで手こずっているようだ。急を要するため細かい指示は歩きながら出す。行くぞ!」


『はっ!』


 全員の力強い返事が響き、一同は西の離れに向かって歩き出した。

 そこへ合鍵を持ったトーマスが息を切らせながら合流すると、ウィリアムから質問が飛んだ。


「アイシェに最後に会ったのはいつだ?」


 トーマスは記憶を遡ると答えた。


「マイデン女子爵様がお辞めになり、新しく乳母に就任したニーナをご紹介したときでございます」


「そのときのアイシェの様子を覚えているか?」


 トーマスは再び記憶を辿る。


「はい。よほどお泣きになったのでしょう。瞼がはれぼったくなり目が充血しておられましたが、ニーナをご紹介したときには泣かれることもなく、静かに受け入れておいででした」


 これを聞いたウィリアムは何かを考えるように眉を顰めた。


「マイデン女子爵が辞めたことに対してアイシェは何か言わなかったか?」


「いえ、何も仰りませんでした」


 何故そんなことを聞いてくるのかとトーマスが疑問に思っていると、眉間のしわを深くしたウィリアムはさらに質問を重ねてきた。


「マイデン女子爵が辞めた後に初めて私がアイシェに会いに行ったときのナンシーの言葉を覚えているか?」


「確か、マイデン女子爵様が辞められたことに臍を曲げられ言うことを聞いてくださらないと……」


 トーマスは自分の言った言葉に違和感を感じてその違和感の正体を探す。

 その正体はウィリアムにより示された。


「お前が最後に会ったアイシェの様子と、ナンシーの言ったアイシェの態度が矛盾しているとは思わないか?」


「!! 確かに、今考えると矛盾しております。……ナンシーが嘘の報告をしたということでしょうか?」


「それは、わからない。しかし、よくよく考えてみれば、私の知るアイシェとナンシーが報告してくるアイシェの姿が重ならないのだ。先程会いに来たアイシェはずっと閉じ込められていると言っていた」


「ですが、扉越しではございますが、お声は確認しております」


「それだ。その声に騙されていたとしたら?」


「と申されますと?」


「ニーナには娘がいたな?」


 何かに思い至ったトーマスの顔が驚愕に染まる。


「もしニーナの娘が代わりに対応していたとしたら? 扉の向こうにいたのがアイシェではなくニーナの娘なら、私に姿を見られるわけにはいかないだろう。だから理由をつけて私を追い返していたとすれば、マイデン女子爵が辞めてから一度も会うことができなかったことの辻褄が合うとは思わないか?」


「あ……そんな……では……アイシェお嬢様は今どちらに……」


 トーマスは愕然として呟いた。

 それを拾ったウィリアムはアイシェが厨房の地下にいると言っていたことを伝えてから、もしも本当に閉じ込められているなら、救い出さなければならないと付け加えた。






 しばらく無言のまま歩き続けて離れが見えるところまで来ると一行は立ち止まった。

 ウィリアムは帯同してきた者たちに向き直り


「先程この離れで暮らしているはずの我が娘アイシェが、地下に監禁されている疑いが出てきた。それを今から確認しに行く」


 そう言ってから離れに何人いるのかをトーマスに尋ねた。


「アイシェお嬢様を含めて五人でございます」


「詳細は?」


「料理人のベイン、侍女のナンシー、ナンシーの妹で乳母のニーナ、そしてその娘でございます」


「全員個室か?」


「ニーナと娘は同室のはずですが」


「分かった。テネス、ここから離れの中にいる者の場所が分かるか?」


「少々お待ちくださいっ、【探査】。うわっ眩し……あー西側の地下にエンレイラのような反応が一つ。その強すぎる光のせいで西側は見えません。東側はかろうじて……二階の一番はじに小さな反応が並んで二つあります。片方がより小さいですね。大人と子供って感じですかね」


 テネスの答えにウィリアムは考える。


(東側の二階の一番奥はアイシェの部屋だ。そこにある反応が大人と子供だとしたら、ニーナとその娘……いや待て、使用人が仕えるべき相手の部屋で寝ているなどあり得るのか? 露見すれば解雇だけでは済まないぞ。そもそもナンシーがそれを容認するとは思えないが……しかし、地下のエンレイラのような反応がアイシェだとすれば、先程のアイシェの言葉と一致する。ならば、やはり離れの者全員がアイシェ監禁に加担しているのか……)


ウィリアムは顔を上げると全員を見回して口を開いた。


「今の話ではおそらくベインとナンシーは西側にいる。ワッツ、中に入ったら最優先で厨房の入り口を押さえろ」


「はっ!」


「ロブ、エヴァン、オラクはベインとナンシーを抑えてくれ」


「「「はっ!」」」


「グラントはエントランスで待機」


「はっ!」


「トーマス、セス、テネスは私と二階へ向かう」


「かしこまりました」

「承知」

「りょーかい」


「まだ容疑の段階だ。手荒な真似はするな。しかし、暴れるようならその限りではない。容赦無く取り押さえろ。トーマス、歩きながら西側の部屋の配置をワッツ達に説明してくれ。では行くぞ!」


『おう!』


 一行は再び歩き出した。

 そこへ、離れの警備に当たっている兵士が一人近づいてきたため、通常通りの警備を続けるように伝えると、一行は離れの中へと入っていった。







 アイシェの部屋の前についた四人は一旦向き合う。


「セス、中で寝ているのがニーナとその娘なら、その時点で罪人となる。遠慮する必要はない、叩き起こして拘束しろ」


「承知」


「テネスはニーナの娘の相手を頼む」


「りょーかい」


 小声で指示を出し終えたウィリアムは一度大きく深呼吸すると、トーマスに向かって口を開いた。


「私達は自身の目で確認する必要がある。分かっているな、トーマス」


「はい……」


 神妙に答えたトーマスに一つ頷いたウィリアムはセスに目配せする。

 それを合図に静かに扉を開いたセスは、室内に入ると部屋の照明を点けた。


「これはこれは」


 呆れたようなテネスの声が室内に響いた。


 光の中に浮かび上がったのは、ゴールドに塗装された見事な透かし彫りが目を引く美しい家具が並び、壁にはやはりゴールドで塗装された装飾が施され、窓には金糸銀糸をふんだんに使った重厚な刺繍がされたカーテンが掛かかる、乳白色を基調にした贅を凝らした室内だった。


「旦那様、予算の桁をお間違えになったということはございませんか?」


 トーマスの唸るような声に明後日の方を向いたウィリアムが答える。


「寂しい思いをさせているのだ。多少の我儘は聞いてやらねばと許可を出した」


「限度がございますでしょう」


 確かにとウィリアムがばつの悪そうな顔をしたところに


「誰よ! あんた達!」


 怒鳴る声が響いた。

 その声に本来の目的を思い出した四人が豪華な天蓋つきのベッドに視線を向けると、上半身を起こして四人を睨みつけてくるニーナの姿があった。


(やはりニーナなのですか。何故こんなことが……ナンシーは何をしていたのです? いえ、そもそもわたくしは何故全てを任せたままにしたのか……)


 トーマスは一度眼を閉じて湧き上がる思いを飲み込み再び目を開けると、ベッドに近づいて怒りの籠った声を投げかけた。


「ニーナ、何故お前がアイシェお嬢様の部屋で寝ているのですか?」


「え? トーマス? あ、さま? なんでここに?」


 不審人物だと思った四人の男の中にトーマスがいることに驚いたニーナは、いつものようにトーマスを呼び捨てにして直ぐにそれが不適切だったと気がつけたために慌てて「さま」をつけたが、寝耳に水な現状にそれ以上頭が回らない。


「なるほど、ナンシーはあなたを教育しなかったようだ。いえ、違いますね。最初から教育などするつもりはなかった、が正しいのでしょう」


 トーマスは、私の目はとんだ節穴だった、と自責の念の籠った深い深いため息を吐いた。

 そんなトーマスの姿を見たウィリアムもまた自身の目は節穴だったと思ったが、後悔は後だと思考を切り替える。


「セス、その女をベッドから引きずり出せ。いや、待て。見るに耐えん。先に何か羽織らせろ」


 胸の谷間が見えるほど胸元が大きく開いたネグリジェ姿のニーナに嫌悪感を丸出しにしたウィリアムの指示を聞いて、羽織るものを探そうと装飾の美しいワードローブを開けたセスは絶句した。

 一目で高価と分かる大人用と子供用の外出着が何着も掛かっていたからだ。


「ウィリアム様、これをご覧ください」


 セスの声にワードローブの中を見たウィリアムは


「アイシェのための金がこんなことに使われていたとはな」


 そう言って天を仰いだ。

 それを見ていたニーナはようやくメディエス公爵本人がいることに気がつき否定の声を上げた。


「そ、それはあれ、じゃなくて、お、お嬢さまとナンシーのもの——」


「黙れ!」


 怒りもあらわに遮ったウィリアムは、丁度目に入ったナイトガウンを掴むとニーナに向かって投げつけた。


「さっさとそれを着てベッドから出ろ。出なければこの場で切り捨てる」


 言うなりウィリアムは剣を抜き放ちニーナに向けた。

 この時初めて、ニーナは自分の置かれた状況を理解した。


 バレるなどとは露ほども思っていなかった。

 このままあれを殺せば終わるはずだった。

 早ければ来週頭にはお役御免になり、戦利品を手にここを出るはずだった。

 全てはうまくいっていた。

 完璧だった。

 だから、感覚が麻痺していた。

 自分が罪を犯しているということを、忘れていたのだ。


 犯した罪が頭の中を駆け巡る。

 それを追うように思い浮かぶ刑罰。

 最悪、死罪。


 ニーナの強気な瞳が怯えの色に染まっていく。

 顔色が悪くなり、体は小刻みに震え出した。


 ニーナは必死に言い訳を考えようとするが、思考がショートしてうまく考えられない。

 ただ浮かぶのは、私は悪くないという言葉だけ。

 だからそのまま口に出そうとした。出そうとしたが、ニーナが口を開いて「わ」と言った瞬間に、ウィリアムの握る剣の切っ先がニーナの口元に突きつけられた。


「黙れと言った」


 突きつけられた切っ先とウィリアムの冷たく鋭い声音に硬直したニーナの付近から異臭が立ち上った。


「あーあ、この人、やちゃいましたね。どうします?」


 その臭いに気付いたテネスが呆れたように言うと


「構わん、自分で招いたことだ。そのまま連れていく。女、もう一度だけ言う。それを着てベッドから出ろ」


 ウィリアムの言葉にニーナは震える手でぎこちなくガウンを羽織るとノロノロとベッドから出てきた。

 そこへ子供の声がかかった。


「ママ?」


 ニーナの娘の声にウィリアムがテネスに目配せすると、テネスはニーナの娘の側にいき、どんな魔法を使ったのかあっという間に打ち解けた。

 いつでも動けますというテネスの合図に、しばらくここで娘の相手をしているように指示を出したウィリアム達は、ニーナを連行して階下へと向かった。




 三人とニーナが階段を降りて踊り場を抜けると、エントランスホールの床に組み伏せられたベインと、剣を向けられて床に座り込んでいるナンシーの姿が視界に入った。

 それを見たウィリアムが大きなため息をつくと、


「大変に申し訳ございません」


 トーマスが深々と頭を下げて謝罪の言葉を告げた。

 しかし、ナンシーの言葉を信じたのはウィリアムも同じ。

 トーマスの謝罪が胸に突き刺さり、トーマスだけが悪いわけではない、自分も悪いのだと言いたい衝動をグッと堪えたウィリアムは、静かに言った。


「トーマス、謝罪する相手を間違えるな。私とお前が謝罪しなければならない相手は今も地下に閉じ込められている。行くぞ」


 トーマスは目に涙を浮かべて「はい」と返事をすると、四人は階段を降りていった。




「一騒動あったようだな。みんなご苦労。この女も含めて縛り——」


 ウィリアムが階下にいた兵士達に労いの言葉をかけてニーナも一緒に縛り上げておくようにと言いかけたところに、床に組み伏せられた状態のベインが叫んだ。


「俺は悪くない! ナンシーの指示に従っただけだ! だから——」


「黙りなさい!」


 今度はナンシーがベインの言葉を遮った。

 そのナンシーは床を睨みつけたまま微動だにしなかったが、


「私とトーマスとセスは今から厨房の地下に行く」


 続いたウィリアムの言葉に勢いよく顔を上げた。

 その顔には驚愕が張り付いていた。

 それだけでアイシェが厨房の地下に監禁されていることを裏付けるには十分だった。

 ウィリアムはナンシーの顔から視線を外すと指示を出していく。


「まずは三人とも縛り上げろ。それが終わったら、ロブとエヴァンは本邸に戻りニーナの夫に至急ここへ来るように知らせを走らせてくれ。それから、侍女長と下女を二人ここに連れてきて欲しい。グラントとオラクは三人を監視してくれ」


『はっ!』


 それぞれが動き出すのを確認すると、ウィリアム達は厨房へと向かった。




 ウィリアム達が厨房の入り口に来ると、口の端が切れて血が滲んでいるワッツが立っていた。


「ワッツ、ご苦労。その傷はどうした?」


 ワッツの傷に気がついたウィリアムの問いかけに


「ベインがいきなり殴りかかってきまして。面目次第もありません」


 ワッツは申し訳なさそうに頭を掻きながら答えた。

 そんなワッツに対してウィリアムは、ベインの侵入を防いだのだから役目はしっかりと果たしたと言って労い、エントランスホールのグラント達と待機するように申しつけると、厨房の中へと入って行き地下へ降りる階段の前まで来て、立ち止まった。


「情けない話だ」


 突然のウィリアムの言葉にトーマスとセスは顔を見合わせる。


「私は一週間後の祝受の儀でアイシェを見極めるつもりだった。どれだけ拒絶されようが、部屋から引きずり出してでも連れていくつもりだったからな。そして、やはり報告通りの手に負えない性格だと判断した時は、お前達も承知の通り、アイシェの記憶を消して遠く離れた隣国の孤児院に入れるつもりだった。この公爵家からアイシェの存在を抹消するつもりだった」


 トーマスもセスも黙って頷く。


「それは、拒絶されるままに引き下がり、姿を確かめることもせず、自分の目で見たアイシェとの相違に違和感を感じても、子供故にとその違和感に蓋をして、報告を鵜呑みにしてきたからだ。本当に、情けない。感じた違和感を蔑ろにし、嘘を見抜くこともできなかった私が何を見極めるというのか……私は今、この階段を降りるのが怖いよ。報告を鵜呑みにして放置した二年の間、アイシェがどのように暮らしていたのか、それを見るのが怖いのだ」


「旦那様……」


 トーマスもまた、それを思い下を向いてしまう。

 そこへ、セスの声が上がった。


「ウィリアム様、ならばこそ、一刻も早くその状態からお嬢様を救い出して差し上げるべきではないでしょうか?」


 セスは思い出していた。

 ウィリアムに抱かれて寂しかったと泣きながら涙で濡れた頬を擦り付けられて、困りながらも嬉しそうに笑う、人間離れした姿の、赤子らしくはないがとても可愛らしいアイシェの顔を。


「そうだな。セスの言う通りだ。お前達だけになって、少し気が緩んだ」


 ウィリアムは大きく深呼吸すると、意を決して足を踏み出した。




 地下に降りると、三人は三枚の扉を手分けして開けにかかった。

 その中で、ウィリアムが開けようとした一番奥の扉だけに鍵がかかっていて開かなかった。


「トーマス、ここだ。鍵を開けてくれ」


 言われたトーマスは、震える手で合鍵を差し込むと解錠してから後ろに下がった。


「開けるぞ」


 セスでもトーマスでもなく、ウィリアム自身が扉を開き、一番最初に部屋の中へと入る。


「な……」


 一音発して止まったウィリアムの異変にトーマスとセスが急いで室内に入り、二人もまた「な……」と一音発して止まってしまった。

 三人は室内の有様に続けて言葉を発することができなかった。




 ぼんやりと薄暗い明かりが灯る狭い部屋。


 その壁際の床の上に、白銀の淡い光を放つ痩せた小さな少女が横になり静かな寝息を立てている。


 その近くには何も入っていない大きめの木のコップが二つと本が一冊。


 少女はところどころ破れた服に浄化下着を履いている以外には何も身につけていない。




 突然トーマスがその場に崩れ落ちた。


「ああ、アイシェお嬢様、なんてことだ。お召し物があの時のままなどと……わたくしが、わたくしがナンシーを信用したばかりにこんなことに。申し訳ございません。申し訳ございません」


 トーマスは床に額を擦り付けて泣きながら謝り出した。


「トーマス、どういうことだ?」


 ウィリアムは抑揚のない声でトーマスに尋ねた。

 トーマスは咽び泣きながら、アイシェの服装がマイデン女子爵が辞めた日の服装と同じなのだと答えた。

 それは、マイデン女子爵が辞めた日の夜、もしくはその翌日の朝、アイシェが着替える前にこの部屋に閉じ込められたことを意味していた。

 ウィリアムは涙を堪えるように上を向くと顔を手で覆った。


「ああ、そんな……」


 セスもまた信じられない現実に涙を堪える。


 そこへ、小さな声が響いた。


「おとうさま?」


 ウィリアムがハッとして声のした方を向くと、目を擦りながらよろよろと立ち上がるアイシェの姿があった。


「アイシェ……」


 眠そうな目をしばたたかせながらウィリアムを見上げたアイシェの顔に、満面の笑みが浮かんだ。

 その笑みにウィリアムの緊張が一瞬和らいだ。

 直後に、アイシェの顔がぎゅうっと歪み口元が震え出し、閉じられた目からみるみるうちに涙が滲み出て次から次へ落ちてていく。

 泣くのを必死に堪えるようとするのに堪えきれていない様子の口から、かろうじて漏れたウィリアムを呼ぶ言葉。


「お と ざ ば」


 ウィリアムは弾かれたように駆け寄るとアイシェを抱き上げてぎゅっと抱きしめた。


「すまなかった。アイシェ、すまなかった」


 床の上で寝ていたアイシェの体は冷たかった。

 その冷たさがウィリアムの心を締め付け、謝罪はいつしか嗚咽へと変わっていった。


 アイシェもまた、ウィリアムの温もりに包まれて、自分を家族だと言ってくれた父に対して抱いていた捨てられることへの不安と恐怖が溶けていき、それまで張り詰めていたものが一気に弾けて、声を出さないように必死に引き結んでいた口が緩み


「うわあああああああああああああああああ、こわがった、こわがっだよおおおおおお、わああああああ」


 ウィリアムに縋り付いて大きな声で泣いていた。


 トーマスもセスもそれぞれの思いの中、込み上げるものに耐え切れず、涙を流した。







 どれぐらい泣いていたのか、扉をノックする音で我に返ったウィリアムが顔を上げると、テネスが立っていた。


「閣下、お取り込み中のところを申し訳ないんですが、ニーナの娘から驚きの話が聞けたんでお時間もらえませんかね?」


 ウィリアムはアイシェの涙を拭いて頬に手を添えると穏やかに尋ねた。


「彼と少し話がある。早くここを出たいだろうが、もう少しここでトーマスとセスと一緒にいてくれるか?」


「はい」


 アイシェは素直に返事をすると、ウィリアムから下ろしてもらい、トーマスとセスの間に立った。

 それを見たウィリアムは、そこにいるアイシェが正しく自分の知るアイシェだと実感し、自然に笑みを浮かべていた。

 

「閣下、顔」


 テネスの指摘に顔が緩んでいたことに気がついて、慌てて引き締めたウィリアムは、上で話を聞くと言ってテネスを伴い地上へ上がった。




 テネスはまず、ニーナの娘が寝たタイミングでアイシェの部屋からナンシーが使っていた部屋に移したことを伝えた。

 続けて、ニーナの娘が言ったことをそのまま再現するが怒らないと約束してもらえるかとウィリアムに尋ねた。

 ウィリアムはその真意が分からないまま、怒らないと約束する、と答えると、テネスは咳払いをしてから子供の声を真似して話し始めた。


「あたしね、もうすぐここをでるんだって。つまんない。ひろいしきれいだし、まいにちきれいなドレスがきれるし、だいすきなのに。なんかね、こうしゃくってやつがきて、したにとじこめてるばけものをつれてくんだって。そうするとね、ママやナンシーおばさんやベインおじさんがこまるんだって。だから、そうなるまえにばけものをころすんだって。でもね、ばけものをころすためにはきれいなふくがいるから、あたしのドレスをいちまいちょうだいってゆうの。いやっていったらママにおこられちゃった。なんで? ばけものにふくなんていらないのにね。でね、ばけものがしんだらね、もんだいがぜーんぶなくなるんだって。でもさ、あたしとママはここをでなくちゃだめなの。なのにね、ナンシーおばさんは、おくさまってひとのところにもどれてしあわせになれるんだって。ママがナンシーおばさんばっかりずるいっていってた。ということだったんですが、あー閣下? 俺に怒らなでくださいね」


 手を握りしめて額に青筋を浮かべ、今にも殴りかかってきそうな様子のウィリアムにテネスが引きつり笑いをしながら一歩後退る。

 ウィリアムはそんなテネスの胸ぐら掴むとグイッと引き寄せて


「お前が言ったわけではないと分かっていても無性にお前を殴りたい気分だ」


 怒りを押し殺した低い声で言ってから手を離しテネスに背を向けると、小さな声で呟いた。


「アイシェが殺されると言っていたのはこのことだったのか……」


 ウィリアムは湧き上がる怒りに今すぐに三人の元へ行き殺してしまいたい衝動を何度も深呼吸して抑え込む。


「テネス、よく聞き出してくれた。反逆罪、不敬罪、監禁罪、横領罪、アイシェ殺害計画……救いようがないな……三人は死罪確定だ。地下牢に入れるようにグラント達に伝えてくれ」


 テネスが返事をしようと口を開いたところに


「お待ちください」


 トーマスの声がかかった。


「旦那様、お願いがございます」


 トーマスは真剣な眼差しでウィリアムを見つめる。

 その後ろからひょっこりと顔を出したアイシェも


「お父様、私もお願いがあります」


 そう言って潤んだ瞳で見つめる。

 セスは特にお願いしたいことはなかったが、二人に並んで潤んだ瞳でウィリアムを見つめた。


 その異様な光景にたじろいだウィリアムが願いとはなんだと聞き返すと


「「ナンシーに物申したく思います」」


 トーマスとアイシェが声を揃えて答えた。

 セスはウンウン頷いている。


「もう一つ」


 アイシェが更に続けた。


「死罪ではなく、罰になるような過酷な高収入労働にしていただけませんか?」


 ウィリアムはアイシェの言葉に表情を消した。


「何故そのようなことを願う?」


 父親ではなく公爵として問い返してきたウィリアムにアイシェは一度目を瞑り大きく深呼吸してカッと目を開けると、真剣に一生懸命に答えた。


「さきほどトーマスとセスから聞きました! 元、私の部屋が豪華絢爛になっていると! それは! ナンシーとニーナとベインが私に充てられた予算を使い込んだ結果です! もし! 三人が死んでしまったら、この使い込んだお金は誰が返してくれるのでしょうか? 死体はお金を稼いではくれません! そして! 死体は一ラブルにもなりません! 一ラブルでも多く返金させるためにも、短時間でより多くのお金を稼ぐことのできる場所へ送り込むべきだと考えたからであります!」


 言い切ってぜーぜーと肩で息をするアイシェにウィリアムが呆気に取られていると


「であります!って、ぷっ、あはははははははは。なんですか。監禁されていた恨みより使い込んだ金返せって、一ラブルでも多く金返せって、三歳児の言葉じゃないですよ。しかも全力! であります!って、すごい。たまらん。あはははははははは」


 テネスがお腹を抱えて笑いだした。

 それを見ていたトーマスとセスも笑い出し、遂にはウィリアムまで笑い出した。


「な、わ、私は、守銭奴じゃないですからね!」


 四人の笑い声がぴたりと止み、一拍ののち、再び爆笑に包まれた。

 ひとしきり笑い終えると、ウィリアムが口を開いた。


「すまん、アイシェ。どこでそんな言葉を覚えたのかは知らないが、アイシェを守銭奴とは思っていないから安心しなさい。さて、刑罰についてだが、彼らはメディエス公爵家に雇われた身でありながら、当主の子供を正当な理由もなく監禁し、嘘の報告を続け、挙句、殺害計画を立てた。これはメディエス公爵家に対す反逆と見なされ、これだけで死罪が確定する。それに、彼らは他にも罪を犯している。救いようがない状態になってしまっているんだよ……アイシェ」


 ウィリアムはしゃがみ込むとアイシェの顔をしっかりと見て頬に手を添えた。


「彼らが死罪になるのは、彼ら自身が招いたこと。彼らの責任だ。アイシェには何の責任もない。何も悪くないんだ。それを間違えてはいけないよ」


 頬に添えられた手の上を熱い涙が流れていく。


「おいで」


 ウィリアムはアイシェを抱き寄せると静かに泣く背中を優しく撫で続けた。







「この子は不思議な子だな」


 ウィリアムは、泣き疲れて眠ってしまったアイシェを抱きかかえて新たに用意させた寝室へ移動しながらポツリとこぼした。


「さようでございますね」


 トーマスがしみじみと答えると


「この子の笑顔を守ってやりたいな」


 ウィリアムがまたポツリとこぼす。


「さようでございますね」


 トーマスもまたしみじみと答えた。







 アイシェを寝かせて侍女長のドナにあとを託したウィリアムとトーマスは、エントランスホールで待つセスの元に戻った。

 ホールには既に他の兵士達やベイン達の姿はなく、項垂れたナンシーとナンシーを縛るロープの先を握るセスだけが残っていた。


「セス、待たせたな。問題はなかったか?」


 ウィリアムの言葉にセスが答えようとしたとき


「何故ですか! 何故奥様付きにまでなった私が化け物の世話に付けられなければならなかったのですか!」


 それまで項垂れていたナンシーが勢いよく顔を上げてウィリアムに叫んだ。

 ウィリアムはナンシーの声に一瞥もすることなくトーマスに声をかけた。


「トーマス、話があるのだったな。そのために残したのだ。済ませてくれ」


「はい」


 トーマスはナンシーの言葉を聞いて悔悟慙羞(かいござんしゅう)の念に耐えないといった面持ちでナンシーの前に立った。


「先ほどの質問に答えましょう。貴方はとても期待されていたのですよ」


 力なく言ったトーマスにナンシーは食ってかかる。


「そんなの嘘です! 期待されていて、何故化け物の——」


「ナンシー!!!」


 トーマスの大きな声がエントランスホールに響き渡った。


「貴方は何度お嬢様を侮辱すれば気が済むのですか!」


「ですが、奥様はあれを化け物と——」


「貴方は奥様がお産みになったお子様を化け物だと言うのですか!」


「ちが——」


「貴方はアイシェお嬢様を侮辱することで奥様を侮辱し、ひいてはメディエス公爵家を侮辱していたのです」


「そんなつもりは」


「無いと言えるのですか?」


 トーマスの詰問にナンシーは答えに窮した。


(わたくしは何故このような人間にお嬢様を任せてしまったのか……)


 トーマスは今日何度目かの自責の念の籠った深い深いため息を吐きながら痛む眉間を揉み解す。


「行儀見習いで来たにも関わらず他の誰よりも真剣に真面目に取り組み、仕事も作法もしっかりと身につけていく貴方をドナもわたくしも高く評価していました。己に厳しく時に他者にも厳しい嫌いがあるにも関わらず、疎まれることもなく仲間と良好な関係を築ける対人能力の高さにも感心しきりでした。ですから、奥様付きの侍女の席が一つ空いた時には、若輩ながらも貴方を推薦したのです。アイシェお嬢様付きにしたのも、貴方ならマイデン女子爵様との関係を良好に保ちつつ、お優しすぎるマイデン女子爵様がアイシェお嬢様を甘やかし過ぎないための歯止め役になれると考えていたからです。ドナもわたくしも貴方の能力を信頼し、己に厳しい貴方を信用していたのです」


 思いも寄らなかったトーマスの言葉に呆然としながら、ナンシーは離れに来てからのことを思い返していた。


 リーシア付きを外されたことに拗ねて、不貞腐れて、アイシェを恨み、アイシェに関わることを拒絶し、マイデン女子爵との関わりは最低限しかしていなかった。


 マイデン女子爵が辞めることになったときは、すぐにアイシェを閉じ込めることを思いつき、実行した。


 そして、感情のままに暴行し、アイシェを憂さ晴らしの道具にし続けた。


 そこには罪悪感など微塵もなかった。


 それどころか、前途有望だった自分の将来を潰した元凶であるアイシェが受けるべき当然の報いだとさえ思っていた。


 そう、あのときにアイシェさえ生まれてこなければ、自分は今もリーシア付きでいられたはずなのだ。


 それなのに、トーマスは何と言った?


 確かにアイシェが生まれてきたから自分はリーシア付きを外された。でもその理由は——


 ナンシーは目を見開き何かを否定するように首を横に振る。


 そんなナンシーをおいてトーマスは尚も続ける。


「ですが、能力の高さに甘えて若い貴方をずっとここに閉じ込めておくことはできません。そのために住み込みで公爵家に必要な高度な教育を施せる新たな子守兼教育係りを探しておりました。そして、漸く半年前に条件に合う良い方が見つかり、先日仮契約を終えたばかりだったのです。お嬢様の祝受の儀が終わり、その日、旦那様がアイシェお嬢様を連れてお戻りになれば、本契約が成され、無の月の一日から来ていただくことになっておりました。その際にニーナは乳母を解任となりますが、貴方は奥様付きに戻ってもらう予定だったのです。それなのに、まさか、貴方がこのような愚行に及んでいるなどとは考えもせず……今日ほど自分にも他人にも失望した日はありません。ナンシー、目に見える優秀さに目を奪われ、貴方の本質を見誤ってしまったことを謝罪します。わたくし達が貴方を信頼し信用などしなければ、貴方はこのような罪を犯すことはなかったでしょう。本当に申し訳なかった」


 トーマスはそう言って深々と頭を下げた。


「そ、んな、わ、たしは、ちがう、うそよ、これは、まちがいよ。そう、夢、これは夢だわ」


 虚ろな目で呟くナンシーにウィリアムは現実を伝える。


「夢ではない。お前はお前が犯した罪をその命をもって償わなければならない。これは、お前自身が選んだことだ」


 低く静かな声音に引き寄せられるようにウィリアムを見上げたナンシーの瞳に映ったのは、悲哀に満ちたウィリアムの眼差しだった。

 その眼差しにナンシーの意識がたちまち正気に戻される。


「あ、ああ、いやあ、いやあああ、いやあああああああああああああああああ」


 ナンシーは頭を掻きむしりながら絶叫すると、プツンと糸が切れたように崩れ落ちた。


「意識を失ったようです」


 セスがナンシーの様子を確認して言うと、ウィリアムは疲れたように答える。


「……覚醒させて地下牢へ連れて行ってくれ」


 セスは頷きナンシーに覚醒の処置を施すと、ナンシーの意識が戻ったところで無理矢理立たせて引きずるように連行していった。




 二人を見送ったウィリアムは、腰を折ったまま涙を流し続けるトーマスの肩に手を置きグッと力を入れ、それから二回ポンポンと叩き、トーマスに顔を上げるようにと言った。

 それに従いトーマスが涙に濡れた顔をあげると、


「今回のことは、お前だけの落ち度ではない。私もまた同じだ。それなのに、お前にだけ背負わせてすまなかった」


 ウィリアムがトーマスに向かって頭を下げた。

 慌てたトーマスはあたふたしながらウィリアムに頭を上げるように願うと、


「私はまだまだ未熟だ。トーマス、手が掛かる主の世話は大変だろうが、これからもどうか、私を支えて欲しい」


 再び頭を下げたウィリアムに


「もったいないお言葉です。わたくしの方こそ、同じことを二度と繰り返さぬよう此度のことを肝に銘じて、粉骨砕身お役に立てますように努力して参りますので、これからもよろしくお願い申し上げます」


 トーマスも頭を下げた。


 ウィリアムはそんなトーマスの姿を見て静かに微笑んだ。

 そして、


「終わったな」


 呟くと


「ええ、終わりましたね」


 トーマスが答える。


「もう朝だな」


 明るくなり始めた窓の外を見てウィリアムが呟くと


「朝でございますね」


 トーマスが答える。


「戻って茶でも飲むか」


「それはようございますね」


 二人は外へ向かって歩き出した。


「お前も付き合え」


「わたくしめもでございますか?」


「ああ、たまにはいいだろう?」


「ドナに知られますと怒られてしまいますゆえ、ドナには内緒にしてくださいませ」


「もちろんだ」


 ウィリアムがニヤリと口端を上げると


「絶対でございますよ」


 トーマスが念押しする。


「つい口が滑ったときは許してくれ」


 ウィリアムが戯けて言うと


「それではお付き合いできかねます!」


 トーマスが真面目な顔で断る。


「冗談だ。ドナには絶対に言わないから、今日だけは付き合ってくれ」


「かしこまりました。では戻りましたらすぐにお茶の準備をいたしましょう」


「ああ、頼む」






 朝日に照らされて光り輝く西の離れは、楽しげに話しながら林の中に消えていく二人の姿を静かに見送った。






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