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12話 動く

この回で魔粒石の超越者ランクの蓄粒限界値を「測定不能」から「表示枠外」に変更したため、2話と10話も修正しました。

直し① マジックバックの代金の部分で約八十年なのに十年と書いていて、八が抜けていたので、八十年に修正しました。23/2/24

直し② 『マジックバック』を『無限収納バッグ』に変更しました。23/3/6 から、更に『無限収納鞄』に変更しました。23/3/10

 結論から言おう。


 生き物は魔粒子間移動ができない。


 なんでだーーーーー!


 あんなに、あんっなに自分と睨めっこしたのに。酷いよ……


 立体で全方向から自分を脳内で作り上げられるところまで頑張って観察したのに何度やっても成功しないから、林にいる無害そうな虫さんで試してみたら、できなかった。

 何度か試したけどダメだったから、生き物は魔粒子間移動ができないと結論付けた。

 最初から虫さんとかで試してればあんなに自分観察しなくて済んだのに。

 馬鹿な自分に腹が立つ。ちぐじょー


 こうなるともう瞬間移動一択になるんだけど、こっちは練習した分だけ順調に成果が出て、室内の見える位置になら移動ができるようになっていた。

 その移動がスムーズになると、次は見える位置への連続した瞬間移動の練習。

 それがスムーズになったら最終段階の外への瞬間移動へと進んでいった。

 でも、ここで躓いた。


 イメージさえしっかりできていればできるはずと、真夜中にゴリゴリマッチョ亭の外に瞬間移動しようと試してみたけど、できなかった。

 ちゃんと頭の中にはゴリゴリマッチョ亭の外の景色が再現されていて、そこに立つ自分がいるのに、何度試しても移動できなくて、これじゃあ見えるところしか移動できないじゃん! と地団駄を踏んでいたら、ピロリン! って閃いた。

 見えるところしか移動できないってことは、見えるところなら移動できるってことじゃない? なら、魔粒子ドローンで見てる場所なら移動できるんじゃない? って。


 これがなんだかいけそうな気がして、早速夜中まで待って試してみたら、ぐふふふふ。できちゃったのよ。


 やったーーーーーー! できちゃったよーーーーーー!


 びっくりー


 約、二年と八ヶ月ぶりの外の空気。


 ちょーーーーーーーーーうまかったーーーーーーーーー


 思わず「自由だーーーーーー!」って叫んだらすぐ横のお家の中から物音がしたから、慌てて物陰に隠れた。

 急いで穴蔵に魔粒子ドローンを飛ばして自分を戻したけど、移動先に魔粒子ドローンが先行していないといけないのは不便すぎる。

 どうしたものかと考えてもいい案が思いつかなかったから、今後の課題として棚上げにしておいた。


 でも、嬉しくて嬉しくて堪らなくて、その夜はキレッキレのがむしゃら適当踊りを踊りまくったよ。




 これが、ドルチェンさんに会いに行った日から四週間と四日後だった。

 丁度風の月の一日(ついたち)で、私の独り立ちを自由と商売の神様が応援してくれてる気がして嬉しかった。




 この間に魔粒石作りはしっかり終わらせたんだけど、途中まで魔粒石作りでお金をもらうことに罪悪感が拭えなかった。

 だって、目が回りそうな忙しさの中で働いてるドルチェンさんを見ちゃったから。

 

 ドルチェンさんに会って数日後に魔粒石のことで質問ができたから勝手にギルドにお邪魔したんだけど、とても声をかけられる状態じゃなかったのよ。

 その日は何度かお邪魔してドルチェンさんの仕事が落ち着くのを待ったけど、様子が変わらなかったから諦めて次の日にまたお邪魔してみたら、やっぱり変わらなくて。

 これは邪魔しちゃダメだなとなって、窓の縁に上から石を乗せて質問を書いた紙を置いておいた。

 手が空いた時にでも答えを書いた紙を同じように窓の縁に乗せてもらえると助かりますって書いておいたら、ちゃんとそうしてくれて、以降、メッセージでのやり取りで進めてもらった。


 嬉しかったのは、結界を張るための魔粒子属性が無属性だったこと。

 やるじゃん! 無属性!


 でも、無属性の人にこだわる必要はないんだって。

 結界の魔法陣に魔粒子を供給する前の段階で魔粒子の属性を変化させる魔法陣を挟むから、全属性に対応できるそうだ。

 これは良い事なんだけど、冷遇対象の無属性が日の目を見るチャンスだと思ったのにそうはならなかったから、ちょっとガッカリした。


 そして、今回使う魔法陣は、結界用と属性変換用だけじゃなく、もう一つ、蓄粒用の魔法陣も加わるそうだ。 

 この蓄粒用の魔法陣は、人の体内の魔粒子残量を測定して、昏睡状態にならない量を残して吸い取り、魔粒石に蓄粒するまでを全自動でしてくれるものらしい。

 一つの魔粒石に対して二十ずつ用意する予定だから二十人ずつ一気に蓄粒できるため、街の人達を煩わせることがないそうだ。


 もうね、魔法陣の万能さに脱帽した。転移陣もそうだけど、何でもできるんだもん。

 魔法陣を作ったジュリウス・ベンシューレンさんって、実は神様だったんじゃないかと思ってしまったよ。まあ、今はリッチだから人間だったのは間違いないんだけど。


 で、素直に十一個作りましょーって作ろうとしたんだけど、私の中で待ったがかかった。

 何故なら、設置予定の魔法陣の数が二百を超えていたから。

 これはいくら街を守るためとは言え、父がその費用を出す気がしない。

 魔法陣の設置は転移陣に限らず高額だったはずだから。


 これでは魔粒石があっても結界が張れない。

 どうしたものかと悩んで、属性に関係なく一個の魔粒石に全ての属性を蓄粒できれば魔法陣の数を減らせるんじゃないかと思ったから、全属性を蓄粒段階で無属性に自動変換してくれる魔粒石を作ることにした。


 どの色の魔粒子が入ってきても魔粒石の表面を通過したら虹色に変わるイメージをする。

 そして、隕石が落ちてきても壊れず、魔粒子が一粒残らずスムーズに魔粒石の中に入っていくイメージを追加する。

 更に、蓄粒量限界値いっぱいなら上空から見た街を結界で覆っている状態が一年は続くイメージも追加して一気に物質化する。


 そしてできたのが、直径十五センチぐらいの太陽のように眩しく光り輝く魔粒石だった。

 流れで思わず蓄粒しちゃったのよね。

 もうやってしまったものは仕方ないから、この時ばかりはちょっとドルチェンさんの手を止めてしまうかもしれないと反省しつつ、ドルチェンさんのところに行って、部屋の隅に魔粒石を魔粒子間移動させてメッセージを残した。


 ——ドルチェンさんへ 結界用の魔粒石を作ってみました。ドルチェンさんに頼まれたサイズより少し大きくなってしまいましたが、これでも使えるでしょうか? それから、流れでつい、蓄粒もしてしまいました。ごめんなさい。お忙しい中を申し訳ありませんが、一度鑑定をお願いします。アイシェ

 

 ドルチェンさんは突然部屋の隅に眩しい光の塊が現れて驚いてたけど、私のメッセージに気がついて、すぐにテージさんを呼んで鑑定してくれた。

 結果は、



<名称>    結界専用魔粒石

<説明>    ■■■■■■■■■■■■■■■■ により作り出された魔粒石

<属性>    無属性

<ランク>   超越者

<蓄粒限界値> 表示枠外

<蓄粒量>   表示枠外

<再蓄粒回数> ゼロ回

<備考>    方法を問わず、再蓄粒が何度でも可能

        再蓄粒時の蓄粒抵抗なし

        全ての属性の魔粒子が蓄粒時に自動的に無属性に変換される

        蓄粒残量に関係なく、全ての属性の魔粒子を継ぎ足し蓄粒できる

        ドラゴニウムと同等の硬度あり

        結界用魔法陣以外での使用はできない



 と、なかなかいい出来になってたよ。

 結界で使うことだけを考えて作ったからか、勝手に使用制限がかかっててびっくりしたけど、結界にしか使えないなら悪用されることもないだろうし、安心した。

 でも、この時のテージさんは様子がおかしかった。

 鑑定して直ぐに早口で念写って言って鑑定書を出現させたあと、結果をドルチェンさんに押し付けるように渡して口を押さえて部屋から走って出て行っちゃったのよ。

 あの動きから連想するのは悪阻なんだけど、テージさんって男の人のはずだから、謎だった。

 体調が悪かったのだろうかと心配で、翌日様子を見に行ったら元気そうだったから安心した。


 結果を渡されたドルチェンさんの方は、紙を見たまま固まってて全然動かないから思わず声をかけたんだけど、無反応。

 と思ったら、後ろに傾いていくからびっくり。

 慌てて魔粒子ドローンの魔粒子を密集させてペラペラの紙みたいに薄くなった魔粒子ドローンで支えながらゆっくりと床に下ろした。

 ドルチェンさんは目を開けたまま気絶していたらしくて、しばらくしたら起きたからホットしたよ。


「アイシェ、居るのか?」


 上半身を起こしたドルチェンさんが頭を手で支えながら聞いてきたから居ますって答えたら、「俺をショック死させる気か」って言われちゃった。

 そんなつもりは無かったから謝ったら、


「いや、すまん。アイシェが謝る必要はない。大方魔法陣の費用削減を考えた結果だろう。予想が甘かった俺が悪い。だが、正直助かった。見積りで出てきた金額に頭を抱えていたところだったからな」


 って。やっぱり魔法陣のお金が凄いことになってたんだね。

 なら尚更かなと思って、魔粒石のお金は要らないって、一分もかからずに作れる物にお金を貰うのは申し訳ないって言ったら


「アイシェはどうして呪文も使わずにそんなに魔法が使いこなせるんだ?」


 って不意に問いかけられたから、鍛えましたって答えたら、


「もう少し詳しく聞いてもいいか?」


 って言うから、


『聞くも涙語るも涙な話、聞いちゃいます?』


 ってふざけて言ったら真剣な顔で「是非聞かせてくれ」って。


『長くなりますよ?』


 って言っても構わないって言うから、穴蔵に閉じ込められていることとかは抜いて魔粒石の魔粒子を感じるところから始めて生粒脳を鍛えて蓄粒限界値を上げて、魔粒子操作の鍛錬とイメージトレーニングを経て今に至ったことを話したら、ドルチェンさんってば「こりゃ参った」って言いながら片手で目を覆って笑った。

 なんだろ、楽しくて笑ってるっていうよりも、呆れて笑ってる感じだった。

 でも直ぐに笑うのをやめて真顔で聞かれた。


「なんでそれだけの努力をしたのに申し訳ないと思うんだ?」


 聞かれたことが意外で思わず『え?』って声が出た。


「誰も教えてくれる人間はいない。そんな状態で一から全部自分で考えて、試行錯誤を繰り返して、失敗しても躓いても諦めずにひたすら続けてきたからこそ、魔粒石が作れるようになったんじゃないのか?」


『それは、そうですが』


「魔粒石は一分もかからずに作れる物って言ったな?」


『はい』


「魔粒石が作れるようになるまでに四六時中魔力の鍛錬をして約一年五ヶ月かかったんだよな?」


『はい』


「なら、十四ヶ月だから四十五日をかけて……六百三十日。一日八時間やったとして……あー……五千四十時間か。それを分にしたらえらい時間になるぞ。これでどこが一分もかかってないんだ?」


 言われてハッとした。

 確かに、今は一分もかからずに作れるけど、ここに至るまでにかかった時間はめちゃくちゃ長かった。


「分かったか? アイシェの作った魔粒石は一分もかからずに簡単に作れるような安い物じゃない。アイシェが積み重ねてきた努力の結晶だ。その結晶に対する正当な報酬に何を遠慮する必要がある。自信を持って受け取ればいい」


 ドルチェンさんの言葉に心がフッと軽くなった気がして、魔粒石のお金を受け取ることへの罪悪感は消えていた。

 だから、お礼を言って魔粒石の代金は素直に受け取ることにした。

 でも、何でだろ。言われたことは全然違うのに、自分の存在を肯定してもらえた気がして嬉しかった。

 ちょっとうるっとしてしまったよ。




 しかーし、入手経路の変更案を聞いて、想定価格の大幅値下げを強制的に了承してもらった。

 だって、遺跡で発見したものを街の結界に使うのに高額で売ったら、ドルチェンさんの立場が悪くなる気がしたから。

 そんなの絶対ダメ。私が許せない。


 あと、遺跡で発見されたなら、空の物があってもおかしくないし、一個だけなのも不自然な気がしたから、空を一個と魔粒子満タンのもの十二個もおまけで付けることを、こちらも強制的に了承してもらった。

 了承してくれないなら鑑定用に持ってきた魔粒石は持って帰るし、今後一切結界用の魔粒石は作らないって言ったら一発OKだった。


 まあ、おまけの十二個は多かったかもしれないけど、何となく後で必要になる気がしたから作ることにした。

 この「なんとなくそんな気がする」とか「なんとなく気になる」を私は無視しちゃダメなのよ。前世でこれを無視して後悔したことが何度もあったから。

 ただ、この十二個の内十一個は今回の結界用には出さずに、ドルチェンさんに持っていてもらうようにお願いした。

 もし今後この魔粒石が必要だと思うことがあったら、ドルチェンさんの判断で売るなりなんなりして下さいと伝えておいた。


 それから、遺跡の場所を地図で教えてもらって、未発見の場所や部屋がないかを私が調べてみることにした。

 ちょーっと遠くて、魔粒子ドローンの飛行範囲を広げる練習もしなきゃいけなかったけど、これまであちこち飛ばしまくってたおかげでそんなに苦労しないで距離を伸ばせて、無事に遺跡も調べることができた。


 調べに行った時は、魔物や魔人が想像した以上にいて驚いた。

 一メートル越えの赤黒い蜘蛛に遭遇したときはびっくりしすぎて思わず魔粒子ドローンを霧散させてしまったよ。

 思い出しただけでも寒気がする。


 とまあ、遭遇すると驚くような魔物もちらほらいたんだけど、別にそれで私が攻撃される訳じゃないから、怖いのも気持ち悪いのも我慢して、ドルチェンさんに教えてもらった既に発見されている遺跡を徹底的に調べた。

 未発見の地下室がないかも土の中を飛ばして調べたら、あった。


 地上は柱が数本倒れた状態で草木が生い茂ってるんだけど、その下に空間がある。

 私がいる厨房の地下に似ていて、広い空間の壁に扉が三つあって、小さな部屋がある。

 しかも、小さな部屋の一つには剣とか盾とかが残ってた。

 これなら魔粒石とドールハウスがあったと言っても違和感がないだろうと勝手に判断して、発見場所はここに決めた。


 ということで、地上に出て目印になるものを探したけど木と草しかないから、目印になるものがない。

 仕方ないからマンシーが来ない日でゴリゴリマッチョ亭がお休みの日に遺跡に行ってもらって、私は案内役で同行した。姿の見えない魔粒子ドローンでだけど。



 そこで私は、『この世界には無限収納(かばん)が実在する!』という重大な事実を知ったのだ!



 そう、私が夢にまで見たバルンさんの極上料理をいっぱい入れておくための鞄、それを、ドルチェンさんとセリーお姉さんが持っていたのよ。

 高ランクの冒険者でも持っているのは一部だけらしいこの無限収納鞄は、迷宮で稀に発見されるらしく、なんと、容量に制限がなく、内部の時間は止まっているらしい。

 おおおおおおお! 私もほしーよー


 ドルチェンさんに買うことはできないかと聞いたら、レイオンに頼めば買えるぞって言われたから、お値段を聞いたら、一千万ラブルぐらいだと思うぞって言われて、私は床で転げ回ったよ。

 そんな大金持ってねーーーーーーって。

 あ、この世界の一ヶ月、四十五日間の平均収入は、手取りで十二、三万だそうです。

 約八十年分の稼ぎを全部注ぎ込まないと買えないじゃん。

 んなもん買えるかーーーー!


 私が買えないよーって嘆いてたら、アイシェなら買えるぞってドルチェンさんに言われて、そんな大金持ってないのに買えません! って怒ったら、レイオンのドールハウス購入提示額が一千八百万ラブルだから余裕だろうって言われた。


 いや、その話はお断りしたじゃないですか。ドールハウスは高くても十万ぐらいでしょうって。

 そう言ったら、アイシェの努力は安くないってまた返された。

 じゃあ、無限収納鞄とドールハウスを交換でどうかと持ち掛けたら、レイオンに相談してみるってことになり、現在は結果待ちだ。

 もしこれで無限収納鞄が手に入れば、夢が現実になる。

 バルンさんの極上ホカホカご飯がいつでも食べられる。最高だ!




 でも、楽しいことばかりではなかったよ……

 ドルチェンさんもバルンさんもセリーお姉さんもめちゃくちゃ強くて、襲ってくる魔物も魔人もバッタバッタと倒していくから三人が危険な状態になることはなくて安心だったんだけど、魔物や魔人が目の前で血を流して息絶えていくのを見るのが苦しかった。

 これが現実なんだから受け入れなきゃいけないと自分に言い聞かせたけど、みんなと別れて一人になったら耐えられなくなって泣いた。

 私もある程度大きくなったら冒険者になろうと思ってたのに、自分の手で魔物や魔人を殺すことができるのか分からなくなった。

 この世界で生きていれば当たり前のことだから、いつか私も慣れるのだろうかと考えたけど、この穴蔵の中にいては答えなんて出ない。

 だから、穴蔵の中にいる間は考えるのを止めた。

 今私が考える必要があるのは、無事にここから脱出すること。

 そして、その手段は手に入った。




 風の月の一日、私の誕生日まであと二十四日というところで外への瞬間移動ができるようになった。

 もういつでも外に出られる。

 当座のお金も、結界用の魔粒石のお金を前金で五十万ラブル貰ったから(ドルチェンさんに預かってもらってるけど)問題ない。

 服はいつでも作れるから、いつでも街に逃げ込める。


 だから、瞬間移動で外に出られるとなったとき、一度は黙って出て行くことを考えた。

 マンシーが私の担当になったのは、私が生まれた場にいたからというのは事実で、それに対しては申し訳なかっと思ったし、この穴蔵が魔法の鍛錬に最適な環境だったこともあったから。


 それに、私が消えるだけならマンシー達が罪に問われることは無いと思ったからだ。

 多少の騒ぎにはなるだろうけど、私は元々いなかったものとして処理されるだろう。今の私は父にとって、そういう存在だから。

 でも、その考えは切って捨てた。


 自分の姿をドルチェンさん達に見せた時の反応が怖くて穴蔵を出ることを躊躇している間に時間は過ぎていき、祝受の儀まであと一週間に迫った時、なんと父から祝受の儀へは父が同行するという連絡が来たのだ。

 これに焦ったマンシー達が、祝受の儀の前に私を殺すことを決めた。




 夜の偵察を終えたその日、私は父の枕元に立つことにした。

 魔粒子ドローンを二つ作って、一つは穴蔵に残し、一つは父の部屋に飛ばして、真夜中も過ぎて人々が寝静まったときに行動を開始した。


 父の枕元に瞬間移動した私はまず自分の髪の毛を一本抜いて父の横に置いた。

 そして、胸の前で手を組み訴えた。


「お父様、助けてください。私は厨房の地下にずっと閉じ込められています。このままでは殺されてしまいます。どうか、助けてください」


 繰り返し同じことを言い続けていると、父の目が薄らと開いた。


 私は再び同じことを言う。


「お父様、助けてください。私は厨房の地下にずっと閉じ込められています。このままでは殺されてしまいます。どうか、助けてください」


 父の目がしっかりと開いて私の姿を捉えたのを確認したら、もう一度、今度は目から涙をこぼしながら


「お父様、助けて! 私は殺される!」


 叫んで穴蔵に瞬間移動した。


 父の部屋に残した魔粒子ドローンで様子を見ていると、父が私の光る髪の毛に気がついて勢いよく飛び起きた。

 扉の外からは私の叫び声が聞こえたのか、父を案じる声がかかっている。


 大丈夫。これならきっと、今夜中に助けに来てくれる……よね? きっと……


 私は父の部屋の魔粒子ドローンを霧散させて床に転がった。

 待つのが怖かった。

 だから、寝ることにした。






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[一言] 父ちゃん動くよね?娘との絆をなくしちゃうぞー
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