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10話 私がドルチェンさん達の笑顔を守る!

ちょっと長いです。

<家形魔粒石蓄粒限界値>の「測定不能」を「表示枠外」に直しました。23/2/1

 やっほーい!


 上空から一気に降下して冒険者ギルドに突入ー!


 ドルチェンさんはギルド長だからきっと一番上にいるよね〜ということで、上からスポッとお邪魔しちゃいましょー

 って、最初に入った部屋がビンゴー!

 ドルチェンさんの部屋だった。


 早速ご挨拶の紙を魔粒子間移動させてドルチェンさんの目の前に。



「お、来たか。おはよう、アイシェ」


『おはようございます。昨夜メッセージを受け取りましたので、早速伺いました。今日はよろしくお願いします!』


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 ドルチェンさんがどこを見て話せばいいか困ってる。

 じゃあ机の上に着地して


『ドルチェンさん、私はドルチェンさんの正面の机の上にいるので、机に向かって話してもらえばいいかと思います』


「そうか、助かる。姿が見えんからな」


『可視化できるといいんですけど……ちょっと待って下さいね」


 んーどーすればいいんだろう……表面に色を付けてみて……


『どーでしょう? 見えるように』


 ドルチェンさんが首を横に振ってる。


『ですよねーならないですよねーんー』


「別にいいぞ。いる場所がわかればそこに向かって話すからな」


『すみません……あ! ちょっと待って! ドルチェンさん、そのままじっと! 動かないで! 目を開けたままでじっとしていてください!」


 ドルチェンさんの瞳に魔粒子ドローンが映っているイメージを……


『あうつ「うわっ!」』


 ドルチェンさんが椅子から飛び上がった。


『見えますか? 側面に丸が三つ、上部に三角の耳が付いてるドーム型の物体が』


「ああ、見える。……これが、アイシェ、なのか?」


『はい! 円なお目目と三角お耳がチャームポイントのアイシェです! よろしくお願いします! って、これじゃあ私、人間やめてるじゃないですか。違います。違います。その物体はただの中継器で、それを通してドルチェンさんと話をしています』


「そう、そうか。よかった……」


 ドルチェンさんが魔粒子ドローンから一切視線を外すことなくゆっくりとゆっくりと椅子に向かって慎重に腰を下ろしていくんだけど、その動き、まるでゴキ助に遭遇した時の私みたいで全然よかった感じがしない……大丈夫、かな?

 いきなり潰そうとしたりしないよね?


『大丈夫ですか?』


「あ、ああ、大丈夫だが……目を離した瞬間に虚無に引き摺り込まれそうでな……」


 ん? 虚無? ……あーそっか、埴輪顔だから無表情だもんね。初めてだとちょっと怖かったかもしれない。

 私はこの無表情さ加減が結構好きだったりするんだけど。

 でも、埴輪みたいに黒く見えないはずだから虚無って……あ、さっき色を付けたときにボディと耳は白で目と口は黒にしたわ。だからかー

 あ、ドルチェンさんが自分で自分の両頬を叩いてる。


「(しっかりしろ、ドルチェン。俺は幾多の死線を超えてきた男だ。こんなことで動揺してどうする)」


 なんか小さい声でブツブツ言ってるけど、本当に大丈夫かな?


『ドルチェンさん、本当にだいじょうぶ——』


「ああ、大丈夫だ。気にしなくていい。ところで前回聞きそびれたんだが、アイシェは何か特別な力を持ってるのか?」


『特別な力ですか? 例えば恩寵とか?』


「まだ祝受の儀は受けていないからな、恩寵以外でという意味なんだが」


『無いですよ、そんな力。恩寵以外で特別な力なんてあるんですか?』


「俺も知らないから聞いたんだが、アイシェは魔粒石を作ったり紙を作ったりしただろう」


『ああ! あれは魔法です』


「は?」


 あれ? 聞き取れなかったのかな?


『あれは魔法です』


「いや、言い直さなくてもいい……確認させてくれ。アイシェは、魔法で、魔粒石や紙を作ったのか?」


 ん? なんか変だった?


『そうですが』


 あれ? ドルチェンさんが頭抱えてる。なんで?


「どんな呪文を使ったか聞いていいか?」


『ん? 呪文ですか? 使ってないですよ。私、無属性なんで』


「は?」


『ん?』


「無属性?」


『はい。無属性です。冷遇対象の……』


「まさか、魔力を鍛えたのか?」


『はい。それしかやれることが無かったので』


「なんてこった……世界がひっくり返る……」


『そんな大袈裟な』


「大袈裟なことがあるか!」


 ひえ〜ドルチェンさんが怒鳴って立ち上がった!

 えーどうしよう、なんか怒らせちゃったみたいだし、怖いし、帰ろうかなあ……




「すまん。またやってしまった」


 あれ? 今度は椅子に座って項垂れてしまった。また? はて?


「アイシェ」


 あ、復活した。


『はい』


「いいか、魔法で魔粒石を作ったり紙を作ることは普通のことじゃない。こんなことができるのは、今の時代ではおそらくアイシェだけだ。だから、物を作る魔法は決して人前で使うな」


 え、そうなの? でも、ドルチェンさんが怒鳴ってしまうほどのことなら


『分かりました』


「公爵閣下はこのことをご存知なのか?」


『ご存知じゃないです』


「なら、家族にも言うな。いいな」


 もしかして今みたいに閉じ込められて、今度は道具みたいに使われるってことかな。

 それは嫌だ。


『はい』


 あ、しまった。これじゃあ私が公爵家の人間だって肯定したことになっちゃうじゃん!


『ドルチェンさん、公爵は関係ないです!』


「アイシェ」


『あの』


「いいか、鑑定結果にアイシェ・アル・メディエスと出た時点で、アイシェが公爵家の者であることは確定している。今更隠そうと思わなくていい」


『でも、私の存在は隠されてて、知られちゃいけないんです! 知られたら父と母に迷惑がかかるんです!』


「安心しろ。俺もバルンもセリージアも、アイシェのことを誰かに話したりはせん。……(それに、公爵閣下が本気でアイシェのことを隠したいならシーラさんに神の制約か許しを使っているはずだ。アイシェもとっくに消されているか、良くて遠縁の家に養子に出されていただろう)」


 話したりはせんまで言ったらドルチェンさんってば腕を組んで上を向いちゃったから後のほうがよく聞こえなかったんだけど……ま、いっか。

 そうだよね。人に話すならとっくに話してるよね。


『ありがとうございます……』


「よし。ちょっと待っててくれ」


 ドルチェンさんが部屋を出て行っちゃった……


 あーあ。普段は考えないようにしてるのに、自分の口で言うと痛感するなあ。

 はあ……私も堂々とお父さんとお母さんの娘です!って言いたかったなあ……




 あ、ドルチェンさんが戻ってきた。


「待たせたな。茶だ。飲むか?」


 え? うそ、ドルチェンさんがお茶を入れてきてくれた! 嬉しすぎる!


『はい。もちろんです! ありがとうございます! いただきます!』


 まりゅーしかんいどー!

 おおう、レンダーだ! やったー!

 バルンさんの晩御飯に付いてくるのはカモミールティーに似たミュリュっていうお茶で、レンダーは付いてこないから、またレンダーが飲みたいと思ってたんだよ! スーパー歓喜!

  

『おいしーい』


「レンダーは好きか?」


『はい! バルンさんのミルク煮のセットで付いていたのを初めて飲みましたが、その時に大好きになりました』


「はじめてか……」


『ん?』


「いや、なんでもないぞ。独り立ちすれば好きなだけ飲めるようになるさ。だが、まずは資金づくりだな」


『はい!』


「ところで、その変な物体も物が消えるのも魔法か?」


『はい。物体の方は説明できないですけど、物が消えるのは転移と同じようなものですよ』


「そうか……本来の無属性魔法とは何でもできるのだな」


『そうですねー何でもとまではいかないですけど、結構色々できますね。でも、食べ物は作れませんでした。食べ物が作れればお金が無くても生きていけると思ったのに神脳がちゃんと動いてくれなくて。水は魔法で作れるし、飲めるのに、変ですよね!』


「いや、それは変なのか?」


『変ですよ!』


「俺はそもそも魔法で食べ物を作ろうと考えること自体が変だと思うがなあ」


 ドルチェンさんが顰めっ面して何か考えてる。


 おかしいなあ。だって無属性は盾が作れるんだよ? 盾が作れるなら他の物だって作れるでしょ。

 他のものが作れるなら食べ物だって作れると考えてもおかしくない!

 うん。私、何もおかしくない!


 あ、ドルチェンさんが返ってきた。


「一応確認だが、魔粒石と紙以外で何か作ったりしたことはあるのか?」


『あります。今は毎朝ドールハウスを作ってます』


「ドールハウス? なんだそれは?」


『あーえーっと、人形の家です』


「……それは今そこにあるのか?」


『ないです。作りましょうか?』


「今作れるのか?」


『作れますけど、少しだけ時間をもらえますか?』


「ああ、構わない」


『分かりました。じゃあ、ちょっと待ってて下さいね』


 私は自分が住むつもりで外装、一部屋一部屋の内装や家具などについての細かいところまでイメージを作り上げていく。

 家の作り方は知らないから、ちょっと触っただけで強度が足りなくて倒れてしまうのは嫌なので、そうならないように家のフレームは魔粒石で一体型にする。この魔粒石って、実はすごい便利物質だった。形は正二十面体や正八面体である必要はなくて自由自在。表面の色も好きにできるし軽いから、魔粒子を蓄粒しなければただの樹脂みたいな物なのだ。手触りは硬質なガラスだけど。


 室内の家具や床板、絨毯や壁紙などなどは前世の記憶から持ってきてそれらをアレンジしながら決めていく。

 全てが決まったら一気に物質化。

 目の前に二階建ての前面の壁がないドールハウスが出現した。

 光の魔粒石を一個作って屋根の一部を持ち上げてセットすれば、各部屋に付いてる照明が光る。

 うん。いい感じ。 


『できました。こんな感じですが』


 机の上にドールハウスを魔粒子間移動させて、その屋根に乗った状態で話しかけると


「……」



 ……あれ? 無反応?

 もしかして、固まってる?


『ドルチェンさん?』


「んあ、ああ、すまん。なんだ、その、いろいろと俺の許容範囲を超えていてな。受け入れるのに時間がかかった」


 そっか。

 まあ、前世の私も同じことをされたら似たような反応になりそうだし、仕方ないか。


『もう下げましょうか?』


「いや、すまないが、これを鑑定してもいいか?」


『鑑定、ですか? 全然いいですけど』


「じゃあ、鑑定士を連れてくるから、俺が話しかけるまでは静かにしていてほしい」


 なんだろう? ま、いっか。


『分かりました』


「よし、ちょっと待っててくれ」


 ドルチェンさんは部屋にある棚から巻き物を取り出して応接セットのローテーブルに行くと、そこで何かを書き込んだ後に部屋を出て行った。

 しばらく待っていると、メガネをかけたお兄さんを連れてきた。




「テージ。これからこの部屋で見聞きすることは、俺と俺が許可した人物と話す以外の一切の口外を禁じる。それがどのような方法でもだ。それを了承できるならこの書類にサインをして部屋に残ってくれ。了承できないなら、業務に戻っていい」


 テージさんって言うんだ。

 今更ですよって言いながら躊躇いなくローテーブルに置かれた書類にサインしてる。

 おお、書類とテージさんの体が光って……書類が光になって消えた。えー何それ、どーなってるの?


「よし、アイシェ、喋っていいぞ」


 うえ? いきなり? えっと、えっと、何喋ろう……


『あー、テージさん、初めまして。私、アイシェです。よろしくお願いします』


 テージさんの顔がキラッキラの笑顔になってるんだけど、なんで?


「初めまして、アイシェお嬢様! 僕はテージ・モナルデと申します。冒険者ギルドで鑑定士をしております。三十二歳です。って、え? どちらにいらっしゃるのでしょう?」


 テージさんがキョロキョロしてる。

 小さい子が玩具屋さんで自分の欲しいものを探してるときみたいな期待に満ちた顔してる。

 ん? 三十二歳? 二十二の間違いじゃないの?


「机の上の家の屋根に乗っている三角の耳のついたあの白い物体だ」


 ドルチェンさんがこちらを指して言うと、テージさんの視線がドールハウスの屋根の上辺りを行ったり来たりしてる。

 あれ? 見えてない?


『もしかして見えないですか?』


 頷いてる。

 そっかードルチェンさんの瞳に映るようにイメージしたから、ドルチェンさん限定だったかー

 ま、面倒だからこのままでいいや。


『じゃあ、この家に向かって話してください。あと、お嬢様はいらないので、アイシェでお願いします』


 なんだろう、テージさんが萎れた花みたいになってる。


「そんなところで萎れてないで机の上にある家を鑑定してくれ」


 お、生き返った。

 ドールハウスの中が見えるようになるにつれて顔が輝いていく。

 テージさんて表情がコロコロ変わって面白い。


「これは、凄い……どこかの家を魔法で小さくしたのでしょうか? 何もかもが細かすぎます。それに、どの部屋にもある小さな魔光灯はどんな魔法陣を使っているのでしょう? はあ〜素晴らしい。これを作られた職人の方はとてつもなく腕がいいのでしょうね……は! ここにあるってことは、まさか、ギルド長の新しい趣味ですか?」


「違うわ! いいから、早く鑑定してくれ」


「はい……【鑑定】」


 また萎れかけたテージさんが【鑑定】って呟いたあとに、おー目がこぼれ落ちそうなほどに開いたよ。

 あれ? ちょっと震えてない?

 今度は右の手首を左手で掴んで右の手のひらを見つめてる。

 若干手が震えてるように見えるんだけど……


 まさかいきなり「くっ! 俺の中の暗黒邪神ヴァルドゼウズが目覚めかけている! 駄目だ! 今はまだその時ではない! 人々の心はすでに闇に堕ちている。あとは大地が汚れに満たされるのを待つだけだ。時がくれば盟約に従い我が血をもってお前を目覚めさせよう。だから、今しばらくの時を眠るのだ……」とか言い出したりしないよね?




「【念写】」


 よかった、念写だって。

 どうもああいうポーズを見ると、しかも震えてたりすると妄想が捗るわ。

 それより、テージさんの手に紙が出現したんだけど!

 【念写】って魔法なのかな?



「確かに『神の制約』が必要ですね」


 ん? 神の制約って何?


「納得するほどの結果だったか……見せてくれ」


 テージさんがテージさんの手に出現した紙をドルチェンさんに渡した。

 何が書いてあるのかな〜

 おおう?



<名称> ドールハウス

<説明> アイシェ・アル・メディエス/人間 が作った小型の家

     屋根の一箇所を持ち上げて光の魔粒石を入れると室内の照明が光る仕掛けになっている

<品質> 非常に高い


<家形魔粒石属性>    問わない

<家形魔粒石ランク>   超越者

<家形魔粒石蓄粒限界値> 表示枠外

<家形魔粒石蓄粒量>   ゼロタウ

<家形魔粒石再蓄粒回数> ゼロ回

<家形魔粒石備考>    人の手による再蓄粒が何度でも可能

             再蓄粒時の蓄粒抵抗なし

             蓄粒量がゼロの場合、再蓄粒の魔粒子属性を問わない

             ドラゴニウムと同等の硬度あり


<備考>  魔粒石とこの世界にはない材料で作られている

      現在照明用の光の魔粒石が入れられている



 すごい、鑑定結果ってこんな風に出てくるんだ。

 この世界にはない材料で作られているって、あーそっか。前世の記憶を頼りに作ってるから。

 それでテージさんが驚いてたのね。


「やはりこうなるか……アイシェ。質問いいか?」


『はい……』


 やっぱり聞かれるよね……


「この世界に無いものについては聞かん。どうせ答えられないだろうからな」


 おお! そこは見逃してくれるのね! ありがとー


「本体が魔粒石なのは理由を聞きたいところだが、今はいい。鑑定されたときに出てくる説明部分の名前をアイシェだけに、備考は表示されないようにできないか? ああ、種族の/人間も無い方がいいな」


 むむ、そんな器用なことできるかな?


『一度ドールハウスを戻してもいいですか?』


「ああ」


『じゃあ、ちょっと試してみます』




 ドールハウスを魔粒子間移動させて眺める。

 鑑定の情報ってどこからくるんだろう?


『ドルチェンさん、鑑定って、魔法ですか?』


「いや、恩寵だ」


『恩寵ですか……魔法じゃないのかあ』


「難しそうか?」


『そうですね、うーん……あ、テージさん、鑑定をしてる時ってどこからか情報が降りてくる感じですか? それとも対象物から上がってくる感じですか?』


「……対象物から上がってくる感じ、でしょうか」


『ありがとうございます』


 対象物から上がってくる感じなら、アカシックレコードみたいなところにアクセスして情報を下ろしてるわけじゃないってことかな。

 物が生まれる過程で物自身に刻まれていく情報なんだろうか……人間で言う成長記録みたいなものかな?

 まずは物にそういう記録があるのかを確認することが必要だよね。

 うーん、これは直ぐには終わりそうにないな。



『ドルチェンさん、一度戻ります。午後から出直してきてもいいですか?』


「ああ、構わない。今日は一日空けてあるからな」


『ありがとうございます。ではまた後で。テージさんも、また』


「ああ」


「はい!」







 なんとなくまた午後からって言ったけど、お昼が終わるまでにできるかな?


 んー物に刻まれた情報……「何月何日、何時何分何秒、何処そこ、誰それ、制作開始、材料はあれこれ、何月何日、何時何分何秒、〜の条件が付加される。何月何日、何時何分何秒、〜の工程追加により品質向上、何月何日、何時何分何秒、何処そこ、誰それ、制作終了」みたいなものかなあ……



 んーんーんーあ! もしかして物質って最小単位で単独のときは個がなくて時間が存在してないけど、他のとくっ付いて個と他を認識した瞬間に、初めて時間が発生する?

 そしてそこを基準に時間軸が伸びて、また最小単位に戻る時に時間軸が消滅して時間がなくなる?


 そうすると、全ての物にそれぞれの時間軸が存在することになるのかな?

 全ては一つの時間軸上で動いているように見えて、実は全く別々の時間軸上にいる?

 いや、全く別々ではないのか。

 星という大きな時間軸の上に枝が生えるみたいに新しい時間軸が伸びていくのか?

 じゃあ、大きな時間軸と繋がってる部分を消しちゃえば、何処にでも存在できるのか? いや、何処にも存在できないのか? あれ?頭が混乱してきた。

 関係ないことは今はいいや。


 とにかく、めちゃくちゃな考えだけど、個々に時間軸があるなら物に情報が刻まれてるのも有りな気がする。

 だとすると、その時間軸を辿れば情報の書き換えも可能、なのかなあ……

 時間軸ってことは時間魔法だから、やってっやれないことはないか?

 でも時間軸を見るって、どうやるんだろう?


 んーんーんー見る、見るってことは映像、映像、映像、記録の映像、きろく……あ! 映画を見るつもりでドールハウスの『今この瞬間』から『時間が発生した瞬間』までの映像を逆再生で見ていくイメージをすれば見られるんじゃない?

 よっしゃ、やってみよー!


 あ、ベインがお昼の食材を取りに来た。

 もうすぐお昼ね。

 急がなきゃ。




 私はドールハウスを見つめた状態で何度も挑戦した。

 でも、うんともすんともいわない。

 やっぱりダメかと諦めかけたとき、大ポカをやらかしていたことに気がついた。

 お昼の時間が終わるまでに結果を出そうと焦るあまりに、肝心の魔粒子操作を忘れていたのだ。

 ただ目の前に映像が見えるイメージしかしていないのだから、うんともすんともいわなくて当然だ。

 

 改めて、今度は手から伸ばした状態の魔粒子で包んで挑戦したら、見えた!

 やっぱり記録はあった!

 今ドールハウスは紫の魔粒子に包まれている。

 私の脳内では目で見ているように映像が逆再生中。

 残念なことに目の前に画面が出てきて映し出されたりはしなかった。


 その映像は不思議なことに第三者視点で、最初は私が住む穴蔵の床の上に置かれた状態、『今』から始まった。

 ドルチェンさんのところでの映像が終わり私がドールハウスを作り出したところまでは私の見てきたものとそれほど違いがなかったけど、次の瞬間には宇宙空間のような場所に私がイメージした通りのドールハウスが浮いていた。

 上方から薄い光が降りてきて、光が強くなるにつれてドールハウスの形が崩れていき、光とは別の方に伸びた虹色に輝く光の川が大きくなっていった。

 そして、目も開けていられないほどの光に包まれたと思ったら、ドールハウスは消えて何もない空間になって映像が止まった。


 どこにも私の名前が出てこない。

 でも、これだと鑑定結果が文字で表示されるのはおかしい気がする。

 この映像と並行して要所要所に文字記録があるんじゃないだろうか?


 今度はこの映像に並行して文字情報が表示されるようにイメージしながら逆再生してみた。

 すると、あった。

 魔粒子間移動したり鑑定されたりしたシーンで、文字の情報が表示された。

 『魔粒子間移動』と『鑑定』は今世の文字で表示されて、それ以外は見たことがない文字や記号で表示された。


 ドールハウスがこの世界に誕生した瞬間から遡っていくシーンからは、要所要所なんて甘かった。

 ずらずらと表示されていく。

 でも、やっぱり見たことがない文字や記号の羅列。

 全く意味が分からない。

 ただ、規則性が見て取れる部分もある。

 その中になんと、前世の文字があった。

 漢字やカタカナ、ひらがな、数字、それからアルファベット。

 原材料が全て前世の文字で表示されてる。

 それだけじゃく、屋根とか外壁とか椅子とか鏡とか、私がドールハウスをイメージしているときに思い浮かべたパーツの名称が今世の文字で表示されてる。

 映像の最後である時間の始まりには、今世の文字で私の名前も表示されていた。

 種族名はどこにあるんだろう? 今世の文字で書かれてない。


 とにかく見たことのない文字や記号ばかりでよく分からないから、私の名前の「・アル・メディエス」とその周辺と、今世の物の名称がある行と前世の文字のある行の辺りをまとめて消去しようとして、完全に消してしまうのはまずい気がしたので、黒マジックで塗りつぶすイメージをした。

 すると、うまく塗りつぶせた。

 見落としがないか塗りつぶし損ねた場所はないかを何度か繰り返し見て確認して納得できると、私は魔粒子ドローンをドルチェンさんの部屋に飛ばした。







『お待たせしました。戻りました』


 ドルチェンさんの部屋に着くと、ドルチェンさんの前に回りこんで声をかけた。


「お、おかえり。どうだった? できたか?」


『できているかどうかは分かりませんが、やるだけやってみました』


「そうか。すぐにテージを呼んでくるから待っててくれ』


『はい』


 あードキドキする。

 うまくいってるといいけど。


 ドルチェンさんが帰ってきた。

 テージさんも一緒だ。


『テージさん、お待たせしました。鑑定、よろしくお願いします!』


「アイシェさん、こんにちは。さっきぶりです。では、鑑てい、を……ドールハウスはどこですか?」


 あー移動させるの忘れてたー


『ごめんなさい! 今移動させます!』


 まりゅーしかんいどー!


「あ、はい。では鑑定しますね。【鑑定】」


 あ、また目が大きく開いた。

 でも、今度は震えてない。


「アイシェさん! どうやったんですか? 名前の後ろと備考部分が黒塗りになってますが」


 黒塗りってことはマジック塗り潰しがうまくいったってこと?

 うそうそうそ! ほんとにほんと? 

 結果、さっきみたいな結果の紙、見たい! 


『テ「テージ、先に鑑定書を見せてくれ」』


 あ、ドルチェンさんも同じこと思ってたんだ!


「あ、すみません。【念写】」


 またテージさんの手に現れた紙をドルチェンさんに渡した。

 どれどれ。



<名称> ドールハウス

<説明> アイシェ■■■■■■■■■■■■ が作った小型の家

     屋根の一箇所を持ち上げて光の魔粒石を入れると室内の照明が光る仕掛けになっている

<品質> 非常に高い


<家形魔粒石属性>    問わない

<家形魔粒石ランク>   超越者

<家形魔粒石蓄粒限界値> 表示枠外

<家形魔粒石蓄粒量>   ゼロタウ

<家形魔粒石再蓄粒回数> ゼロ回

<家形魔粒石備考>    人の手による再蓄粒が何度でも可能

             再蓄粒時の蓄粒抵抗なし

             蓄粒量がゼロの場合、再蓄粒の魔粒子属性を問わない

             ドラゴニウムと同等の硬度あり


<備考>  魔粒石と■■■■■■■■■■で作られている     

      現在照明用の光の魔粒石が入れられている



『ほんとに成功してる! 嘘みたい。全部勘だったのに。やったー!」 


「ふむ。これならなんとかなるか。例え鑑定されてもメディエスの名は出ないし、この世界にない材料が使われていることも知られない。本体に使われている魔粒石は問題になりそうだが、人間が作ったと思われなければ誤魔化せるだろう。アイシェ、これで資金が手に入るぞ。光の魔粒石は抜いておかないと不味いがな」


『え?』


「これを売れば金になる。例え魔道具に使えなくても家形という非常識な形の魔粒石に価値を見出して、その珍しさに大金を積んででも買おうと思う人間がいるだろう。だがそれだけじゃない。この大きさでこの精巧さ。それだけで十分に価値がある。現に一人、ここにもその価値を見出している男がいるしな」


 ドルチェンさんが呆れた顔をしながらテージさんを見ると、テージさんはドールハウスの家具を手に取って目をキラキラさせながら見ている。

 あ、食器棚はまずい。

 動かして皿同士が当たると割れる。


『テージさん、食器棚は動かさないでください。動かすなら、中に入ってるお皿とかコップが動かないように静かに動かすか、食器棚の中身を全部出してから動かしてください。じゃないと、ぶつかって割れてしまいます』


「え? 割れるって、まさか、この中の皿やコップは全て焼き物ですか? しかもこの棚の扉は開くんですか?」


『はい。焼き物だし、扉も引き出しも全部開きますよ。中に入っている物も全部出せます。普通の家と同じです』


「それは、取り扱いに注意が必要ですね」


「あとで商業ギルドに持ち込んで……ん? 割れる? 普通の家と同じ? ということは簡単に運べないか……やむをえん、レイオンを呼んで見てもらうか」


 ドルチェンさんが引き出しから紙を取り出すと何か書き始めた。


 ——見なかったことを死ぬまで後悔し続けたくなかったら光の魔粒石を一つ持って最短で俺のところに来い。ドルチェン


 おおう、なんか凄いメッセージだね。

 これ、レイオンさんとやらに出すのかな?

 あ、折り畳んでレイオン・ガルチェリへって書いた。

 敬称は無いのね……


「テージ、すまんがこれをマルタに渡して商業ギルドまでひとっ走りしてもらってくれ」


「わかりました」


「それと、鑑定ありがとう。もう通常業務に戻っていいぞ」


「え? あ……はい」


 テージさん、あからさまにガッカリしてる。

 渋々手に持ってるソファを戻したけど、目線がドールハウスに固定されてる。


「早く行け」


 あ、ノロノロと扉に向かって歩き出した。

 ゆっくり扉を開けて、お、振り返った。

 ちょっと潤んだ目で名残惜しそうにドールハウスを見てる。

 ドルチェンさんがシッシッって追い払う仕草をしてる。

 酷い項垂れ具合でようやく扉を閉めたよ。

 ここまで感情が表に出る人も珍しい。見てて飽きないわー

 って、そんなことよりも


『ドルチェンさん、ドールハウスのこと、ありがとうございます。随分遅くなってしまいましたが、ドルチェンさんのお話を聞かせてもらえますか?』


「ああ、それはもういい」


『え? 今日はドルチェンさんが前から考えていたことについての話をするんじゃなかったんですか?』


「そのつもりだったが違う形で資金づくりの目処が立ったからな。実現できるかも分からない、できたとしても時間がかかる俺の話をする必要はなくなった」


『それって、魔粒石を売ってお金に変えることを止めさせたことへの埋め合わせはしたから、もう私に用はないってことでしょうか?』


「いや違う。そうじゃない」


『じゃあ』


「俺の案はな、このドールハウスのように一朝一夕でできるようなことじゃない。上と話し合って許可が取れて予算が下りたら初めて行動に移せる。実現できるか分からん上に、実現できるとしても、すぐに金になるわけじゃあないんだ。だが、ドールハウスは確実に短期間で金になる。だからだ」


『それでもかまいません。迷惑でないならお話を聞かせてもらえませんか?』


「いいのか? 俺の方が迷惑をかけることになるぞ」


『大丈夫です。是非、お願いします!』


「そうか……感謝する。では聞いてくれ。この街の南東に——」



 ドルチェンさんの表情が少し柔らかくなった。

 よかった……本当に迷惑じゃないみたいだ。




 ドルチェンさんの話はエルデンの南東に広がる深い森、ライホーゲンの森に住む魔物や魔人の脅威とその被害についてから始まった。

 五、六年おきに起きる小規模スタンピードや数十年おきに起きる大規模スタンピード。

 どちらも地上の魔物や魔人だけなら被害を出しながらでも街は守れるけど、飛行タイプの魔物が出てくると、街を守り切るのが難しいそうだ。

 飛行タイプの魔物でも数が少なければそこまでの被害は出ないけど、七十年ほど前に一度、飛行タイプの魔物の大群によってこの領都が壊滅寸前まで追い込まれたことがあったらしい。

 ということは、再び同じことが起きてもおかしくないということだ。


 ドルチェンさんはこの飛行タイプの魔物から街を守るために、街の上空に結界を張りたいと常々考えていたそうだ。

 結界自体は以前エリザさんに教えてもらった『あなたの生活を快適にする便利な魔法陣特集』/ジェリウス・ベンシューレン著に記載されているそうで、依頼すればすぐにでも設置してもらえるけど、広範囲の土地を守るための結界を発生させる魔法陣を維持するための魔粒石が確保できず、これまで実現することができなかったのだそうだ。


 そこで、私の作った魔粒石だ。

 人の手による再蓄粒が何度でも可能で、再蓄粒時の蓄粒抵抗がなく、蓄粒量が超級ランクを超えるとにかく丈夫で壊れない魔粒石。

 これなら街に住む人みんなで協力して蓄粒を続ければ、街に結界を張って更に維持し続けることができる。

 だから、私に結界用の魔粒石を作ってもらえたらと考えたのだそうだ。


 ただし、魔粒石の鑑定結果の誤魔化しが必須だったし、予算申請のために見本となる魔粒石を一つ作って上の人間……私の父である公爵に見てもらう必要があり、その際の代金は予算が下りてからの支払いになるため、最初は手付金程度の少額しか払えないという問題があったため、これらについて私と話し合う必要があったそうだ。


 なるほど、なるほど。

 それなら、鑑定結果の誤魔化しはできることが分かったし、お金は後からでも払ってもらえればいいから、問題は……何もないね!


 ということで、さっそく明日から動き出すことになった。主にドルチェンさんが。

 いろいろと書類を作らないといけないそうだ。


 私は、蓄粒限界値を超越者ランクまで上げた魔粒石を作ることになった。

 大きさは直径が十センチほどで、球体でいいそうだ。

 入手経路は「突然現れた」で通すそうで、もしかしたら突然現れる瞬間を公爵に見せる必要があるかもしれないから、その時は協力をよろしくと言われたので、レンダー一杯で手を打っておいた。




 一通り話が終わったところで外を見ると、空がオレンジ色に染まっていた。

 ああ、綺麗だなあと眺めていたら


「これが実現すれば俺たちは心置きなく戦えるようになる。目の前の戦いに集中できれば死傷者が減る。死傷者が減れば悲しみも減る。アイシェは俺たちを負のスパイラルから解放してくる希望だ。俺の話を聞いてくれたこと、心から感謝する。ありがとう」


 ドルチェンさんに頭を下げられた。


 え……


 オレンジ色に染まった部屋の中で頭を下げるドルチェンさんの姿に、一瞬ドルチェンさんの背負う悲しみが見えた気がした。

 その悲しみが魔粒子ドローンを通して流れ込んでくる。

 沢山の死を見てきたドルチェンさんの悲しみが。


 胸が、軋む……


 平和な日本に生きていた私にとって人の生き死には画面の中のことだけだった。

 それこそ異世界の話と同じ……

 それが今、唐突に現実となって目の前に現れた気がした。


 ドルチェンさんの目はすごく優しいのに、すごく悲しそうで……


 これまでに失われていった命。これからは守れるかもしれない命。 

 重ねられてきた悲しみ。見出した希望。

 全てが込められた目……


『あ……わたし……なんて無神経な……』


 言葉が続けられなかった。

 情けなくて、申し訳なくて。


「ん? ああ、気にせんでいい。誰とも話さない場所にいるアイシェには実感がわかないのは当たり前だ」


 ドルチェンさん、気がついてたんだ。私が他人事で聞いてたこと。

 それでも怒らないで話してくれて、最後には頭まで下げてくれて。

 それなのに、私……


『ごめん、なさい……』


 鼻の奥が痛い。

 目が熱い。


「泣かんでいい。子供はな、難しいことなんぞ考える必要はない。元気に笑っていればいい。俺達はその笑顔を守るために戦うんだからな」


 そんなの、なんで子供だけなんだよ。ダメだよ。ドルチェンさん達も笑わなきゃ。

 なのに、言葉にならなかった。


『あ、あい』 


 返事をするのが精一杯だった。

 余計に泣いてしまった私は、また後日連絡するから今日は帰りなさいと言われて、なんとかまた返事だけしてその場で魔粒子ドローンを霧散させてしまった。




 この日はマンシー達の偵察には行かず、バルンさんの極上ご飯を食べても味がよく分からなくて、文字の練習をする気にもなれずに寝てしまった。

 翌朝目が覚めて起き上がった私は、思いっきり両のほっぺたを叩いた。

 三回叩いた。

 魔粒子体内循環してなかったから、ちょっとかなり痛かった……


 でも、決めた!

 ドルチェンさん達が子供の笑顔を守るなら、私がドルチェンさん達の笑顔を守る!

 そのためにも、お金関係なく結界を張る案には全面協力!

 それから、魔法をもっと鍛える。

 もし、私の魔法が私を閉じ込める原因になるなら、逃げられるだけの力をつければいい。

 逃げても追いかけてくるなら撃退できるだけの力をつければいい。

 いっそ『触るな危険!』になればいい。

 それぐらい強くなればいい。


 そうと決まれば、まずは逃げる練習からだな。

 魔粒子間移動で私自身が移動できるようにならないと。

 そのためには、まずは自分観さ、つ……おおう! いきなり難関だなー

 でもイメージするには避けては通れない必須事項だしー


 あーこれができても魔粒子間移動ができるようになるかは分からないよねー

 えーでも、やらなきゃ確認もできないしー

 うー諦めて鏡を作るかー

 おー悪夢にうなされそうだなー

 くー我慢だ私。大人になればきっと綺麗だと思えるようになるさー




 この日から私の日課には自分観察が加わった。

 同時に、自分自身の魔粒子間移動ができなかった場合に備えて空間魔法の練習も始めた。

 最終目標は瞬間移動!

 って、これだと自分自身の魔粒子間移動は必要なくないか?

 ま、いっか。選択肢は多いに越したことはないからね!







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