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勇者様は魔王様!  作者: くるい
1章 最果ての魔王と勇者
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6話 魔王継承

 魔王城の地下には、書庫が存在する。

 基本的には世界中から集められた古い魔法書の類が所狭しと本棚に敷き詰められており、それでも入り切らないものは平置きに積み重っているような空間である。


 その一角で、俺はステラと共に本を漁っていた。

 事の発端は――獣の皮剥ぎから魔法による防腐処理までの作業を終え、太陽が落ちた頃。


 昼間の狩りの最中の出来事を思い出し、呟いた俺の一言から始まった。


「ステラ。俺は、仲間が欲しい」

「え。仲間……ですか?」

「ああ。人間界を調査したいんだが、俺が行くわけにもいかないだろう。そういった時、代わりに出向いてくれる……あ、ステラに頼もうって話ではないぞ」

「なるほど」


 小さく頷いた彼女は考えるように頭に手を当てた後、俺にこう告げてきた。


「仲間、とは違うかもしれませんが、その役割でしたら使い魔で代用が可能だと思われますよ」

「使い魔か……精霊とか天使とか、悪魔とか?」

「そういった使い魔は偵察に向かないとは思いますが……」


 そうですね、とステラは答える。


「虫や小動物を使い魔とし、目や耳の代わりに使うのです」

「虫を使い魔に?」

「はい。蟻や蝿などでしたら大量に使役が可能で気付かれにくく、適していそうです」

「……ふむ」


 蟻。蝿。そんなものを使い魔に……。

 俺が知る使い魔は精霊の類だったが、可能なのだろうか。

 火や風などの精霊召喚なら、過去にやったこともなくはないが。


「私も知見はありませんが、城の地下に書庫があるのは目にしております。古い魔法書や希覯本などを集めていたようなので、恐らくそういった分野の魔法書もあるのでしょう」

「それは、俺が倒した前魔王の話か」

「ええ。使い魔を使役する姿もよく見ておりましたので」

「なるほどな……」


 かつての戦いでは、大軍相手の戦闘も珍しくはなかった。その中に使い魔があったというなら頷ける。


「使い魔は使役の前に召喚する工程が要りますが、召喚に必要な魔法式も種類ごとに異なります。時間は掛かるやもしれませんが、書庫を探せば魔王様の望む使い魔も見つかりましょう」

「そうだな……というか、書庫など初めて知った。ステラの提案だ、探してみようか」


 ――と、そんなわけで。

 俺とステラは、地下の書庫に半ば閉じこもるように本を読み漁っていたのであった。


 ただ、俺の想像よりも蔵書量は多い。

 現在では使われていない文字で書かれているのか、読めない魔法書も多くあった。

 どころか、知識や物語を記した本まである。目的の使い魔に関わる魔法書を探し当てるのは難しいらしい。


「前の魔王はさ。こう、本を分類分けするとかは興味無かったのか。集めるだけ集めて、雑多が過ぎるぞ」

「一度、読み終えてしまったものに興味は抱かなかったのかもしれませんね」

「……納得した。集めるというより、知りたかったのか」


 だとすれば、逆に蔵書していたことに感謝する必要が出てくるだろう。一度頭に入れたものを他の誰かに渡さぬよう、焼却処分してもおかしくはなかったということだ。


「しかし、確かに使い魔に関する魔法書は多いな」


 ――先ほども挙げた精霊。天使。悪魔三カテゴリ、特定個体の召喚に必要なものも含めて数十冊ずつ以上。

 これらは使い魔としては強力で、故に広く一般的だ。魔法や戦闘の補助にも使うし、生活でも使われことがあるから種類も多いのだろう。


 他にはゴーレムなどの召喚生物……鉱物などの素材を元に一から生み使役するタイプや、この世界に存在しない幻想生物を喚び出すための魔法書が幾つか。


 直接俺と戦ったことのある者達の図解も散見しており、推測も的中していたことが分かった。


「だが小動物や虫は見当たらないな。というか、偵察特化の使い魔を見つけられるのが良いんだけど」

「こちらもそういったものは見つけておりません。おかしいですね……見たことはあるのですが」

「本から吸収したんじゃないのかもな。まあ、戦闘面に強いのが多いってのは不思議でもないか」


 こうして会話を共にしつつ、俺は次の本を手に取った。


「……ん?」


 本日書庫での目的は使い魔に関する魔法書だ。

 知識学術書の類は一目見て戻していたのだが――そこに気になる記述を見つけ、俺の視線が止まる。


「魔王。継承」

「魔王様? どうされたのですか」

「……見つけてしまった」

「それは、良か――」

「ああいや……使い魔ではない。俺が、魔王になった理由だ」

「……!」


 俺は頁を捲る。

 そこに書かれてある記述を丁寧に追う。何者かの手書きで記された、魔王にまつわる情報を。

 付近の内容を一通り読み進め、俺は顔を上げた。


 黙していた彼女が、俺を覗き込んでいた。


「誰が書いたのだろうな。書庫に置き去りなら、前魔王が自分で書き記したものではないと思うが」

「あの。どのように書かれていたのか……お聞きしても?」


 驚いた顔つきで彼女は固まり、俺が閉じた本へと視線を落とす。

 革張りの装丁をした手書きの本。目を通したその中身を頭の中で一度噛み砕いてから、俺はこう応えた。


「どうやら、俺は魔王を倒したから魔王になったらしい」

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