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勇者様は魔王様!  作者: くるい
1章 最果ての魔王と勇者
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3話 周辺を調査する

 俺が死亡したとされる日から、数十ほどの日が経とうとしている。

 瀕死だった頃と比べ、体力や傷などはすっかりと回復していた。


「ごちそうさま。美味しいな、いつも助かるよ」


 食事が終わり、食器を下げる彼女に礼を言った。

 あの日以降、彼女は何を言うでもなく自ら進んで炊事をやってくれている。助かることこの上ない。


「こちらこそ。料理が得意とは口が裂けても言えませんので。美味しそうに完食頂けるだけで嬉しく思います」

「そうか? 俺はまあ、舌に自信とかはないけど……ステラは料理の腕があると思うぞ」


 まあ、食の質が慣れないとった事情を加味してくれているのかもしれない。


 何せ魔界だ、人間界とは採れる食材も大きく異なる。

 だが、基本は変わらないはずだろう。


 それに、この身体には良く馴染む気はするのだ。魔界の食材は人に毒となる成分も多く含まれていそうだったが、特に俺の身体が異常を発したことはなかった。


「今日は出かけようと思う」

「調査ですか?」

「そうなるな。確かめたいことも残っているし」


 体力が戻って以降、俺は度々魔王城の外に出て周辺の状況確認を行っていた。

 具体的には、人間の痕跡が無いかの調査が主である。


 魔王という存在が倒され、魔界の戦力は大きく減少。

 魔界では魔王による統治は行われていないため、個々の戦力は残っているとは思うが……最大戦力が消えたのは事実だ。

 魔王の死を契機に、人間が魔界を攻めて来てもおかしくはない。


 そうなればこの穏やかな暮らしを継続するのは難しくなる。だからこそ、俺は人間が魔界に訪れた痕跡を探っているわけだった。

 ただ、今の所そのような痕跡はなく、俺の不安は杞憂に終わっているのだが。


 無論、理由はそれだけではない。

 純粋に変化した身体の慣らしや、食材調達もこの周辺調査で兼ねている。


「何か欲しいものはあるか? 可能であれば取ってくる」

「特には――あ、でしたら毛皮を所望します」

「毛皮?」

「じきに肌も冷える絶凍期になりましょう。備えがないので、今の内に準備をしておこうかと」

「ああ、魔界は寒暖差が酷いのだったか。分かった、なら肉の調達ついでに適当に狩ってくるよ」


 言われてみれば、少し肌寒い。

 魔王城に残っている衣類は状態が良いものを使っているが、絶凍期を越えるには確かに不足だ。

 俺は彼女に食事の後片付けを任せ、外に出ることにした。




 ◇




 外は気配が極端に薄い。

 理由は俺がいることだが、そもそも前魔王が根城にしていた地域なのだから、当然かもしれない。


 それに、戦火の痕は色濃く残されている。

 魔王城周辺の森林地帯は極大魔法を主とした濃い魔素溜まりのせいで、マトモな生物が住める環境ではない。

 必然的に、魔物を狩ろうというなら遠出する必要があった。


「……空を移動するってのは、なんともまあ。俺は人間ではないなって気分になってくるな」


 魔王城から離れ――俺は、その戦火の痕を地上数百ほど離れた空から見下ろしている。

 有り余る魔力を長時間の飛行に使うなど馬鹿げた芸当、ただの人間ならすぐに枯渇し落下していただろう。


 が、そこは魔王。それと相性が悪いものの、ついでに勇者の力も残ったままだ。

 無駄な魔力消費も問題にならないのであれば、景色も一望できるこのやり方がてっとり早くて楽なのである。


「やっぱり、人間の痕跡はないな。それで良いけど」


 一人呟き、遠視で周囲を見やる。

 が、遠くまで観察してもそれらしいものは見当たらなかった。


 まさかこの場所を除き、魔物が住む他地域から制圧することもないだろう。

 もしかすると、人間界は魔界の侵略など考えてもいないのかもしれない。それとも、他に理由があるのか。或いは、何か問題が生じてそれどころではないのかも。


「こんな辺境じゃ情報収集さえできないのが痛いな……っても、俺が出向くわけにはいかないし」


 というか顔など出したくはない。

 俺は人間という枠組みから追放され、本来死ぬはずだったのを何の因果か魔王として生き長らえている身だ。


 当然、彼らに向いた恨みはある。今更人間に情も抱けない。

 だからといって、復讐してやろうとなどとも思わないのだ。


 それに人間としての未練は今や残っていない。

 元々、平和を目指して俺は魔物と戦っていたんだ、結果的に今は――どの時世より平和な時間だろう。


 だというのに俺が人前に姿を現してみろ、余計な争いを生むだけだ。


 勇者アルテの顔をした魔王とか、自分で考えても洒落になっていないことがよく分かる。

 恐怖どころではない。阿鼻叫喚した後、血眼で俺を殺しにくるだろう。


 それは御免被る。

 俺はただ、平穏平和に暮らせればいい。

 余計な争いなど、やるにしても勝手にやって欲しいものだ。


「少し大物を狩って帰るか」


 俺は空中で身をくるりと反転し、視線を果てにある漆黒の山へと向ける。

 枯れ果てた大地を闊歩する巨大生物が、奥に見えた。


 その姿は、四足で地を闊歩する黒い獣。

 ここからでも動向が窺えるということは、相当な大きさだが――この身で倒せぬ敵が居るはずがない。


 身体の慣らしとしては充分。

 毛皮にも使えるかもしれない。

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