第71話:一体どこにいるんだ!~レオ視点~
その後、王宮では大混乱が起こった。泣きじゃくる王妃に顔を真っ青にしている王太子妃、全く使えない陛下に変わり必死に指示を出す王太子。とにかくここに居ても意味がなさそうだ。
一旦ミューティング公爵家に戻ろう。外に出ると、随分と明るくなっていた。夜が明けた様だ。馬車に乗り込み、公爵家へと急ぐ。ミシェルは今頃どうしているのだろう。ユーグラテスに酷い事をされていないといいのだが…
どうして俺は油断してしまったのだろう。俺の命を狙ってくるほど、ユーグラテスは危険な男だと分かっていたのに…
それなのに、どこかで気の弱いユーグラテスが、これ以上何かを起こすはずはないと、頭のどこかで考えていたのも事実だ。
「くそ!」
ドン!
自分への苛立ちが抑えられず、つい馬車を叩いてしまった。全て俺の責任だ!俺がもっとミシェルを見張っていれば、こんな事にはならなかったんだ!
「お坊ちゃま、公爵家に着きましたよ」
考え事をしていたせいか、公爵家に着いた事すら気づかずにいた。屋敷に入ると、既にガーディアン侯爵とシュミナ嬢が来ていた。
「レオ様、ミシェルが何者かに連れ去られたのですってね!今家のスパイたちが捜査を開始したわ。大丈夫ですよ。きっとすぐにミシェルは見つかりますわ」
そう言って俺を慰めてくれるシュミナ嬢。
「それで、王宮の方はどうだった?」
「すぐに王都の出入り口を閉める様依頼をしたよ。それと…ユーグラテスも行方をくらました様だ…」
「何だって!第二王子が行方をくらませただと!」
明らかに動揺する父上。シュミナ嬢も口を押えている。
「そんな…待って、それならミシェルの居場所が分かるかもしれないわ。ユーグラテス様には家のスパイを付けているの。すぐにスパイを呼んで」
シュミナ嬢が側に控えていた執事に指示を出している。なるほど、それならすぐに分かるな!そう思っていたのだが…
「お嬢様、申し訳ございません。第二王子様に付けていたスパイですが、すぐに見つかってしまい、敵と戦っている隙に見失ってしまった様です。今必死に、第二王子様を捜索中との事でございます」
「何ですって!家の優秀なスパイが見破られたですって…」
真っ青な顔をして座り込むシュミナ嬢。
「落ち着きなさい、シュミナ。きっとお前が雇ったスパイ以上に、相手が優秀だったという事だよ。お前も、もう少し勉強が必要かもしれないね」
ガーディアン侯爵がシュミナ嬢の肩を叩いて慰めているが
「そんな…ミシェル…」
そう言って泣き崩れてしまった。
「レオ君、とにかく今家のスパイが王都中をくまなく探している。ただ、相手もかなりやり手の様だ!一筋縄では行かないかもしれないな」
深刻そうな顔のガーディアン侯爵。彼はかなり優秀だ、そんな侯爵が難しい顔をしているという事は、やっぱり厳しいのかもしれない…
午後には王太子やジル、アレックス兄さんもやって来た。
「レオ、話は聞いたよ。大変だったな!」
そう言って俺の肩を叩くジル。
「ジル、シュミナ嬢がかなりショックを受けている。今すぐ彼女の元へ行ってやってくれ」
「シュミナがか!わかった」
ミシェルの親友でもあるシュミナ嬢は、今回ミシェルを守れなかった事を物凄く落ち込んでいる。でも、本来ミシェルを守るのは俺の役目だ!それなのに…
悔しくてたまらない!今の俺は無力だ、ミシェルを見つけ出す事も、救い出してやることも出来ない。ただ、捜査班からの報告を黙って待っているだけ…
今もミシェルがユーグラテスに酷い事をされているかもしれないのに…そう思ったら、居ても経ってもいられなくなった。
「俺もミシェルを探しに行ってくる!」
そう言い残し、馬に乗ろうとしたところでアレックス兄さんに止められた。
「落ち着けレオ、お前がやみくもに探してもミシェルは見つからない!騎士団も動いているし、王都の出入り口にも検問所を設けてある。とにかく、辛いかもしれないが、今は待つしかない」
検問所だと!
「出入り口を封鎖したのではないのか?」
「さすがにそんな事をしたら物流が止まってしまう!物流が止まれば市民生活に影響が出る!大丈夫だ、かなり念入りに検問をしているから、そうそう逃げられない!とにかく落ち着け!」
アレックス兄さんに連れられて、屋敷内に戻る。玄関で、ふとチャチャの姿が目に入った。あいつ、あんなところで何をしているんだ?
「チャチャ、お前ここで何をしているんだ?ほら、みんなのところへ行くぞ」
抱きかかえて広間に連れて行こうとしたのだが、俺の腕から抜け出し玄関の前に座り込む。
「レオ様、チャチャ様はああやってお嬢様の帰りを待っているのですよ。玄関に居れば、お嬢様が帰ってくると思っているのでしょう」
ルシアナが目に涙を浮かべながら教えてくれた。そうか、チャチャもミシェルを心配しているんだな。そうだよな、お前はずっとミシェルと一緒だったもんな。
「チャチャ、大丈夫だ!きっとミシェルは帰って来るよ」
しばらくチャチャの横に座り、チャチャを撫でた。
その時だった。
「レオ、ユーグラテスのベッドから通信機と思われる物が出て来たと連絡が入ったよ」
王太子が俺の方に向かって走って来た。
「何だって!それで、どんな通信機なんだ?」
「僕もよくわからない。とにかく、一度王宮に戻るよ」
「待て、俺も行くよ!」
王太子と一緒に急いで王宮に戻った。王宮に戻ると、王太子妃が心配そうにこちらに走って来る。
「ユリー様、レオ様、ミシェルちゃんは見つかりましたか?」
「いいや、まだだ。ただ、ユーグラテスの部屋から通信機が見つかったと連絡が入った。今から確認するところだ!」
急いでユーグラテスの部屋に入る。
「殿下、こちらでございます」
騎士から通信機が渡された。小型で見た感じかなり性能がよさそうだ。
「これは、アドレンラス王国で見た事がある。確かこの機械を使うと、周りに気づかれる事なく通信が出来る様だ。ほら、これを耳に当てると音が漏れないし、このマイクを使うと、自分の声も周りに聞こえないらしい」
王太子が丁寧に説明してくれた。アドレンラス王国と言えば、機械に関する技術がかなり進んでいると聞く。もしかしたら、アドレンラス王国から来た奴が、ユーグラテスに協力をしているのかもしれない。
「これを使って組織と連絡を取って居たという訳か。確かにこれを使えば、周りにバレることなく組織と密に連絡が取れるな。おい、この機械からアジトを特定する事は出来るか?」
「アドレンラス王国の技士に確認すれば、出来るかもしれません」
「そうか、それならすぐに依頼をしてくれ!」
「かしこまりました!しかし、アドレンラス王国まで馬を飛ばしても3日はかかります。そこから分析を行うとなると、かなりの日数がかかるかと…」
「たとえ時間が掛かっても、やらないよりはマシだ!とにかく依頼をしてくれ」
「かしこまりました!すぐに向かいます」
王太子の指示で、急いで走って行った騎士。
「大丈夫だよ、レオ。ミシェル嬢はきっと僕たちが見つけ出すから、そんな顔をしないでくれ」
そう言って悲しそうに笑う王太子。
「そうだな…とにかく、今は待つしかなさそうだ…」
ミシェル、どうか無事でいてくれ…
次回、ミシェル視点です!
 




