第70話:ミシェルが連れ去られた~レオ視点~
「お坊ちゃま、大変です!起きてください!」
物凄い勢いで俺の部屋に入ってきたのは、専属執事だ。こんな夜中に血相変えて来るという事は、ただ事ではないのだろう。
「一体どうしたって言うんだ!」
「ミシェル様が、何者かに連れ去られました!」
「何だって!ミシェルが!」
あまりの衝撃で、頭が真っ白になった。ミシェルが連れ去られただって!そんな…
「お坊ちゃま、しっかりして下さい!とにかく、すぐに着替えてミューティング公爵家に向かいましょう」
頭が真っ白で全く動けない俺を、執事が着替えさせる。とにかく、公爵家に向かわないと!急いで馬車に向かう。
「レオ、遅いぞ!」
どうやら父上にも話がいっていた様で、馬車に乗って待っていた。とにかく公爵家に行かないと!ミューティング公爵家までは馬車で10分。この10分が、もどかしくてたまらない!
ミシェルが連れ去られたとは一体どういう事なんだろう!ユーグラテスがマレー王国に婿養子に行く事が決まってから、完全に油断していた。まさか、ミシェルが連れ去られるなんて…
「しっかりしろ!レオ」
頭を抱えて考え込む俺に声をかける父上。
やっと公爵家が見えて来た。馬車の扉が開くや否や、急いで屋敷内に入る。
屋敷入ると、チャチャが飛んできた。ケガをしたのか、包帯を巻いている。
「チャチャ、何があったんだ!お前怪我をしたのか?」
「チャチャ様はお嬢様が連れ去られる際、果敢にも敵に向かっていき、蹴られてしまった様です。怪我は大したことはないのですが、念のため包帯を巻いているのです」
メイドの1人が教えてくれた。
「そうだったのか!偉かったな!チャチャ」
チャチャを連れて、公爵たちの元へと向かった。広間に入ると、泣きじゃくる公爵夫人とルシアナが目に入った。公爵も真っ青な顔をして座り込んでいる。
さらに、何人かの騎士と1人のメイドが治療を受けていた。
「おじさん、一体何があったんだ!ミシェルは誰に連れ去られたんだ?」
俺が声を掛けると、ゆっくりとこちらを向く公爵。
「レオ、ミシェルが…ミシェルが連れ去られたんだ…私の可愛いミシェルが…」
フラフラとこちらにやって来る公爵。ダメだ、こいつじゃあ話にならない。
「それで、ミシェルはどういった状況で連れ去られたんだ?」
父上も同じ事を思ったのか、近くにいた執事に声を掛ける。
「どうやら窓からお嬢様の部屋に侵入した様です。侵入者に気が付いたチャチャ様の鳴く声で、護衛騎士とメイドの1人がすぐにお嬢様の部屋に向かいましたところ、男が5人いたそうです。もちろん騎士たちとメイドがお嬢様を取り返そうとしましたが、何分相手が強すぎまして…」
「申し訳ございません!私が側にいながら、お嬢様を連れ去られてしまいました…私のせいです…」
泣きながら謝るのは、エレナというメイドだ。腕を深く切られたのか、包帯から血がにじんでいる。
「エレナ、あなたのせいじゃないわ!お嬢様の専属メイドなのに、側にいなかった私の責任よ」
ルシアナが泣きながら叫んでいる。
「あなた達の責任じゃないわ。それにエレナはミシェルを助ける為、怪我までしたのよ。ミシェルを守ろうとしてくれて、ありがとう!さあ、あなたはもう休みなさい。ルシアナ、エレナを連れて行ってあげて」
夫人の指示で、エレナを連れて行くルシアナ。
「きっと相当腕の立つ5人組だったんだろうな。それで、1人でも捕まえたのか?」
「申し訳ございません…逃がしてしまった様です」
父上の問いに、申し訳なさそうに答える執事。
「何やっているんだよ、ここの護衛騎士は!まあ、家の護衛騎士も似たようなもんか。レオが襲われた時、皆やられていたからな」
そう言ってため息を付く父上。
「とにかく、まだあまり遠くには行っていないはずだ。今すぐ王宮に使いを出し、王都の出入り口を封鎖させろ!」
「しかし、今は夜中で…」
「公爵令嬢が連れ去られたんだぞ!そんな悠長な事は言ってられない!夜中のうちに王都から脱出されたら面倒だ!急げ。それから、夜が明けたら至急騎士団長を集めろ。騎士団からも捜索を行う。それと、ガーディアン侯爵にも伝えろ。あそこにも協力してもらおう。とにかく時間との勝負だ!急げ!」
「かしこまりました!」
急いで動き出す執事たち。
「待ってくれ、王宮には俺も行く!ミシェルを連れ去る相手なんて、あいつしか考えられない!」
ユーグラテスだ!あいつはきっとまだミシェルの事を諦めていなかったんだ!あいつを問い詰めれば、きっとミシェルの居場所が分かるはずだ!
「わかった、気を付けて行って来いよ」
父上の許可を得て、急いで馬車へと乗り込む。王宮に着くと、門番が慌てて走って来た。
「こんな夜中に、どのようなご用件でしょうか?」
「ミューティング公爵家のミシェルが、何者かに連れ去られた。今すぐ王族共を叩き起こせ!」
俺の迫力に、急いで王宮内へと走って行く門番。とにかく俺たちも中に入ろう。
しばらく待っていると、陛下と王太子がやって来た。
「レオ、一体何があったんだ!ミシェル嬢が連れ去られたとは、どういう事だ!」
「夜中に公爵家に押し入ったんだよ。とにかく、今すぐに王都の出入り口を閉めてくれ。王都から出られては大変だ!」
「わかった!おい、今すぐ王都への出入り口を全て封鎖しろ!急げ」
王太子が急いで指示を出した。この王太子、陛下とは比べ物にならない程、非常に優秀と評判だ。子供も産まれた事だし、さっさと王位を王太子に譲ればいいのに。
「それで一体何があったんだ!詳しく話してくれ」
その時だった
「レオ様、ミシェルちゃんが連れ去られたと聞いたわ。それは本当なの?」
真っ青な顔をして入って来たのは、王太子妃だ。
「レベッカ、君はドリーと一緒に寝ていろと言っただろう!早く部屋に戻るんだ」
「イヤよ!ミシェルちゃんが連れ去られたのよ。眠れる訳ないでしょう!ドリーはメイドに預けて来たから大丈夫よ。お願い、私もここに居させて!」
必死に訴える王太子妃に根負けしたのか、ここに居る事を許した王太子。早速ミシェルが連れ去られた経緯を説明した。
「ミシェルの家の騎士たちが全てやられた。相手は相当腕が立つのだろう。もしかしたら、大きな組織が裏に居る可能性が高い。それから、ユーグラテスは居るか?」
「なんでユーグラテスの名前が出て来るんだ?」
不思議そうに首を傾げる王太子。
「ユーグラテスはずっとミシェルを狙っていたんだ!怪しむのは当然だろう」
「ユーグラテスはそんな事はしない。レオ、いくら何でも失礼だ!」
王太子が顔を真っ赤にして怒り始めた。これは厄介だな…
「ユリー様。確かにユーグラテスはミシェルちゃんを付け回していたわ。念のため確認してみてはいかが?そうすれば、レオ様も納得いくはずよ」
王太子妃の言葉に、まだ納得いかない様だが
「ユーグラテスを連れて来てもらえるか?」
そう指示を出した王太子。どうやら王太子妃には弱い様だ。それにしてもこの王太子妃、いい仕事をするな。完全にミシェルの味方の様だ。
「大変です殿下。ユーグラテス殿下の姿がどこにもありません」
「何だって!どういう事だ?」
「部屋はもぬけの殻でした。今王宮中を探していますが、どこにもいらっしゃる気配はありません」
「何て事だ…」
頭を抱えて座り込む王太子。やっぱり、ユーグラテスがミシェルを連れ去ったんだ!
「とにかく、王都中を探させろ!急げ」
「かしこまりました」
「すまない、レオ。どうやらユーグラテスが、ミシェル嬢を連れ去った可能性が高い…」
頭を下げる王太子。とにかく、ミシェルを探さないと!
王族とレオの話し合いの時、もちろん陛下もいます。
ただ、どうしていいかわからず、一言も言葉を発していません(;'∀')
残念な陛下です。
次回もレオ視点です。よろしくお願いしますm(__)m




