第66話:レベッカ様が動き出しました
レオが襲われて、1ヶ月が経った。この1ヶ月、毎日朝晩とレオの様子を見に行っている。レオの怪我の治りも順調の様で、体がなまるからと、早い段階でトレーニングを始めている。本人曰く、体を動かしていないと落ち着かないらしい。最近では少しずつではあるが、騎士団の稽古にも参加を始めた。
さすがにそれは良くないと思って止めたのだが、私のいう事など聞くはずもなく…ただ、まだ足が治っていないので、移動は車いすか杖を使っている。無理をして治りが悪くなっては大変だものね。
私はというと、学院ではここぞとばかりに第二王子が絡んでくるが、ジル様とシュミナがことごとく邪魔をしてくれるので、何とか平和に過ごす事が出来た。朝も門の前で待っていてくれるし、帰りも私が馬車に乗り込むまで見送ってくれる2人。本当に、この2人には感謝しかない。
そして、いよいよ学期末休みに入った。レオが怪我をしたので、さすがに今年は領地へは行けない。そのため家で過ごしている。今年はシュミナも王都に居る様なので、マチルダと3人でお菓子を作ったり、クラスの令嬢と街に買い物に出掛けたりもしている。
もちろん、街に出る事にいい顔をしないレオ。護衛騎士を付けて行くと言う条件で、何とか許可を得た。
そして今日は、王宮でレベッカ様とティータイムと言う名の会合だ。随分とお腹が大きくなってきたレベッカ様。
王太子様が随分過保護な様で、レオのお見舞いにも来られなかったと嘆いていた。でも、それだけ大切にされているという事だろう。
ちなみにレオが襲われて以来、初めての王宮訪問だ。レオが”俺がいる時以外は王宮には行かせない”と言っていた為、今まで来られなかったのだ。もちろんレベッカ様も外出禁止なので、レベッカ様とは本当に久しぶりの再会になる。
「久しぶりね、ミシェルちゃん。レオ様の件、大変だったわね。あいつ、本格的に動き出したみたいね。それにしても、シュミナちゃんから詳細を聞いて驚いたわ。1度目の時のユリー様とほとんど同じ手口よ」
そう言ってお腹をさすっているレベッカ様。
「私もそう思いました。正直、またレオが命を狙われるかもしれないと思うと、心配でたまりません。今回は怪我で済んだけれど…」
「そうね、確かに心配よね。それでね。私、いい事を考えたの。あの変態野郎をギャフンと言わせる方法よ。この方法が上手くいけば、もう変態野郎に怯える必要はなくなるわ」
そう言うと、ニヤリと笑ったレベッカ様。これは悪い事を考えている顔ね。シュミナと2人で顔を見合わせた。
「実はね、来週私の友人でもあるマレー王国の第一王女、ベレッサが私の様子を見がてらこの国に視察にやって来るの」
マレー王国と言えば、小さいながら資源が豊富な王国だ。そして、ベレッサ王女は国王の唯一のお子様で、いずれ婿を取って女王になる事が決まっている。
「実はね、ベレッサは美しいものが大好きなの。さらに、今お婿さんを探している。ユーグラテスは見た目は恐ろしい程美しいうえ、性格も表向きは穏やかで優しいでしょう。だから、きっとベレッサはユーグラテスを気に入ると思うの」
「でも、ベレッサ王女はレベッカ様のご友人なのですよね。あの様な変態を押し付けて、大丈夫なのでしょうか?」
レベッカ様の友達をあんな恐ろしい男に押し付けるなんて、さすがに申し訳ないわ。
「その点は心配しないで、あの子はね。物凄く頭がいいうえ、物凄く気が強いの。あの変態も完全に尻に敷かれるはずよ。これから一生ベレッサの尻に敷かれて生きていくなんて、ものすご~くいい気味だと思わない?」
あまりにも嬉しそうに話すレベッカ様に、さすがに私とシュミナは苦笑いだ!
「それに、ベレッサの元に婿に行けば、ずっとマレー王国で暮らす事になるから、顔を見ることもほとんど無くなるわ。何より、もうレオ様が狙われることも無くなる」
「確かに、ベレッサ王女との結婚が決まれば、いくらレオ様を始末しても、もうミシェルと結婚する事は出来なくなるわ。なるほどね、この作戦が上手くいけば、もうユーグラテス様に怯える必要も無くなるって訳ね」
「そういう事よ。だから、何が何でもベレッサにはユーグラテスを好きになって貰うわ」
確かにこの作戦が上手くいけば、もう第二王子に怯えることも無い。
「レベッカ様、ありがとうございます!うまく行く事を祈っていますわ」
「ええ、任せておいて!」
そう言って胸を叩くレベッカ様。
とにかくこの件が上手く行く事を祈っておこう。
「そう言えば、レベッカ様。体調はいかがですか?」
「ええ、ばっちりよ。それにしても、お腹の子がとても元気で、私のお腹を蹴りまくるのよ。ほら、今も蹴っているでしょう」
そう言うと、お腹をさすったレベッカ様。確かに私たちが見ても分かるくらい、お腹が動いている。それにしても不思議ね、お腹の形が変わるぐらい動いているのですもの。
「物凄く元気そうでよかったですわ。早くレベッカ様と王太子様のお子様に会いたいです。王子様かしら、それとも王女様かしら?」
「さあ、それは産まれてみないとわからないわね。でも、私は元気ならどちらでもいいわ。だって、ユリー様と私の子供なのですもの!」
それはそれは幸せそうにお腹をさするレベッカ様。私とシュミナも、つい笑みがこぼれる。
「さあ、そろそろ男性陣のところに行きましょうか?」
「そうですわね。お庭かしら?」
レベッカ様が転ばない様しっかり支えつつ、ゆっくりと王宮の庭へと向かった。庭ではレオとジル様、王太子様の3人が剣を振るっていた。レオは車いすに乗ったまま、剣を振るっている。
「レベッカ、勝手に外に出てはいけないと言っただろう!転んだらどうするんだ!とにかく外に出る時は、僕と一緒にっていつも言っているだろう」
私達を見つけると、慌ててこちらに走って来る王太子様。レオに負けず劣らず過保護だ。
「先生にも少しは歩かないといけないと言われているから、これくらい平気よ。ほら、ミシェルちゃんとシュミナちゃんがしっかり支えてくれているし」
「それでもだ!本当に君は僕の言う事を聞かないのだから、困ったものだよ」
そう言ってため息を付く王太子様。あまりの過保護っぷりに、レオもジル様も苦笑いしている。
「とにかく、すぐに部屋に戻ろう。レオ、ジル、続きはまた今度」
そう言うと、レベッカ様を連れて王宮内に入って行った王太子様。
「ミシェルちゃん、シュミナちゃん。また今度ね!」
「「はい、また今度」」
レベッカ様達が中に入って行ったので、私たちも帰る事になった。
「それにしても、王太子は随分と過保護だな!庭に来たぐらいであんなに怒るなんて…」
そう言って苦笑いしているレオ。
「レオだって、少し前まで私が外に出ただけで怒っていたじゃない。人のこと言えないわよ」
「俺の場合は、お前の命の危険があったからだ!一緒にするな」
そう言って怒るレオ。イヤイヤイヤ、レオの方が酷いくらいよ!そう言いたかったが、これ以上否定してレオを余計怒らせても面倒なので、そっとしておく事にした。
それにしても、自分の事は意外とわからないものなのね。レオを見ながら、苦笑いするミシェルであった。
物凄く過保護な王太子です。王太子もレベッカの事を物凄く溺愛しています!




