第65話:ミシェルのおかげで命拾いした~レオ視点~
レオ視点です!
いつもの様にミシェルを見送った後、稽古場へと向かった。とにかく誰よりも強くなって、ミシェルをしっかり守りたい。今まで以上に稽古に集中する。
「レオ、最近特に頑張っているね。学院を卒業したら、君を副団長に推薦したいと思っているんだ。期待しているから」
そう言って声を掛けてくれたのは団長だ。副団長か!俄然やる気が出て来た。今日もしっかり汗を流し、稽古場を後にする。
「レオ、物凄い雨が降っているぞ。これは帰るのが嫌になるな」
隣でジルが苦笑いしている。確かに前が見えないほど凄い雨だ。
「とにかく帰ろうぜ。どうせ家に帰ったら汗を洗い流すんだ。多少濡れても大丈夫だろう。それじゃあジル、また明日な」
「おう、また明日」
急いで馬車に乗り込み、雨で濡れてしまった体を軽くふいた。稽古場から家までは約15分。途中人けのない道を通る。その時だった!何かが割れるような音と共に、馬車がぐらりと揺れた。
そのまま物凄い衝撃が俺を襲う。
「イタタタ…」
正直何が起こったのかわからず、周りを見渡す。とにかく起き上がらないと!そう思い体を起こそうとした時、右足に激痛が走る。額からもかなりの血が出ている様で、目に血が入って痛い。なんとか馬車の外に這い出ると、そこには体格の良い男が5人、剣を握って立っていた。
周りを見渡すと、俺を護衛してくれていた騎士たちが倒れている。
「悪いな兄ちゃん。お前にはここで死んでもらう」
「お前たちは、一体何者だ。なぜ俺を狙うんだ」
「なぜ狙うかって。そんなもの決まっているだろう。お前を殺せと命令されているからだよ!そうそう、依頼主からの伝言だ。“君が悪いんだよ”だってよ。まあ、俺たちも依頼主が誰なのか、しらねぇがな」
そう言ってガハガハ笑う男たち。
「さあ、無駄話は終わりだ。さっさと死ね」
そう言って剣を振りかざす男。このまま俺はここで殺されるのか…やっとミシェルを手に入れたのに!
きっとミシェル、泣くだろうな。もし俺が死んだら、ユーグラテスと婚約させられるかもしれない!そんな事は絶対させない!
嫌だ、死にたくない!必死で逃げようとするが、足が思う様に動かない。
「それで逃げているつもりかよ。さっさと死ね」
もうダメだ!やられる!
そう思った時だった。
「ギャァァァ」
何処から現れたのか、3人の騎士によって、次々と倒されていく男5人。こいつらも相当強そうだったが、それ以上に強い3人の騎士。何なんだこいつら、一体何者なんだ?
あっという間に5人を縛り上げてしまった。
「レオ様、大丈夫ですか?助けるのが遅くなり申し訳ございません。さあ、屋敷に戻りましょう」
そう言うと、どこから準備したのだろう。新しい馬車に乗せられた。
「あの…あなた達は一体…」
「私たちはある人物から、あなたを守る様依頼された騎士です。さあ、出血がひどい。少し横になって下さい」
そう言うと、簡単な処置をしてくれた。
そして、1人の騎士に連れられて屋敷に戻って来た。残りの2人は、現場に残った様だ。事情を騎士から聞いた執事が、すぐに騎士と一緒に現場に急行した。
俺は泥と雨で体中汚れている為、まずは体を奇麗に拭いてもらってから治療に入った。それにしてもあの騎士たち、物凄く強かったな。それに、“ある人物から依頼された”って、言っていた。
もしかしてミシェルが依頼したのか?シュミナ嬢の指示で!賢い彼女なら、俺が一度狙われたタイミングで、ミシェルに護衛騎士を付ける様助言していたとしてもおかしくはない。一度聞いてみよう。
その時だった。ミシェルが凄い勢いで入って来た。雨に打たれてきたのか、かびしょ濡れだ。どうやら、誰かが知らせた様だ。
俺の顔を見るなり、安堵の表情を見せるミシェル。ミシェルの顔を見たら、なんだか俺も安心した。あぁ、生きて戻って来られたんだって。
その後、家の家族とミシェルの家族を交えて、今日何が起こったのか詳しく話した。やはりあの3人の騎士は、ミシェルが付けたものだと判明した。どうやら俺は、ミシェルに命を救われた様だ。
一旦話が終わり、皆が俺の部屋から出て行く。その時、ミシェルが俺の看病をしたいと言い出した。
もちろん公爵は反対するが、珍しくキース兄さんがミシェルの味方をしたおかげで、ミシェルが残れることになった。
「レオ、今日は私がしっかり看病するから安心して」
そう言って張り切るミシェル。お前が見ていると寝られない、そう思っていたのだが、どうやら眠ってしまった様だ。それにしても、なんだか息苦しいし熱い…
ゆっくり目を開けると、ミシェルが椅子に座ってうたた寝をしていた。起こすのは可哀そうだな、そう思いまた目を閉じた。次に目を覚ましたのは、ミシェルが俺に氷枕を入れてくてれているところだった。
どうやら俺の熱に気が付いたようだ。それにしても熱くてたまらない。息も苦しい…喉も乾いた…
「ミシェル…水…」
ミシェルに水が欲しい事を伝えると、俺を起し水を飲ませてくれた。そして、薬を飲めと渡して来たミシェル。
俺は今病人だ。多少甘えても罰は当たらないよな!そう思い、口移しで飲ませて欲しいとお願いすると、照れながらも飲ませてくれた。ミシェルの柔らかくて温かい感触。これはたまらないな。
調子に乗った俺は、ミシェルをベッドに引きずり込み、一緒に眠った。
朝目が覚めると、隣でミシェルが眠っていた。そう言えば、ミシェルの寝顔って子供の頃以来見た事なかったな。いつの間にか、こんなに奇麗になりやがって!
眠るミシェルにそっと触れる。唇を舐めると、くすぐったそうに背中を向けた。それが気に入らなくて、またこっちを向かせる。俺のミシェル、誰にも渡したくない!ギューッとミシェルを抱きしめた。
しばらくすると、ミシェルの専属メイド、ルシアナから声を掛けられた。
「レオ様、そろそろお嬢様を起こす時間です」
もっとミシェルの寝顔を見ていたいが仕方がない。ミシェルに声を掛けると、ゆっくり目を開けた。その姿が物凄く可愛くて、ついからかってしまった。真っ赤な顔で抗議するミシェル。本当に、こいつは何をしても可愛いな。
その後着替えを済ませ、一緒にご飯を食べる。俺が怪我をしているからか、俺の要望を何でも聞いてくれるミシェル。ここぞとばかりに、甘えまくった。こうやってミシェルと過ごせるなら、怪我をしたのも悪くないかもしれない。そんな事まで考えてしまう程、ミシェルとの時間は幸せでたまらない。
午後からは、ジルとシュミナ嬢が見舞いに来てくれた。そして、なぜかユーグラテスも…
ユーグラテスの顔を見た瞬間、俺、こいつに殺されかけたんだ…そんな思いが頭をよぎった。
そう、俺を襲った男の1人が言っていた“君が悪いんだよ!”その言葉が、どうしてもユーグラテスの言葉の様な気がしてならない。
夜になり、ミシェルはチャチャと一緒に帰って行った。チャチャに
「俺の側にいてくれるか?」
そう聞いたのだが、さっさとミシェルにくっ付いて帰っていきやがった。チャチャの野郎、薄情な奴だぜ。
夕食後、ミシェルの父親でもある公爵が訪ねて来た。ちょうどいい。父上も呼び出し、3人で話をする事にした。
「あのさ、昨日は話さなかったが、俺を狙ったのは多分第二王子のユーグラテスだと思う」
俺の言葉に、2人共固まっていた。ただ、公爵が思いがけない言葉を口にしたのだ。
「実は、私も以前からそうではないかと思っていたんだ。ガーディアン侯爵の話では、まだミシェルを諦めていない様でね。シュミナ嬢も警戒して、第二王子にスパイを付けている様なんだ。ただ…第二王子が動いている気配が全くなくてね。頭を抱えているところなんだよ」
何だって!こいつ知っていたのか。それにシュミナ嬢が第二王子にスパイを付けているだって。そこまで話が進んでいたなんて…
「今回ミシェルが付けていた騎士のおかげで、実行犯は捕まえたが、どうやら彼らは何も知らされていない様だ。ただ、後ろでかなり大きな組織が動いている事は間違いないだろう!第二王子が動いているなら、狙われるのは間違いなくレオ、お前だろう。そして次に狙われるのは…」
父上がそう言うと、公爵の顔を見た。
「そうだろうな。第二王子の狙いはミシェルだろう。だとすると、私も邪魔な存在だ。レオと私を始末した後、ミシェルと結婚するつもりだろう。父親でもある私を失ったら、ミシェルは誰かを頼るしかないからな…」
そう言ってため息を付く公爵。
「ただ、これはあくまでも私たちの憶測にすぎない。さすがに穏やかな性格の第二王子がそこまで考えているかと言われれば、かなり疑問が残る。しかし、最悪の事態を想定して動く必要があるという事だ。とにかくレオ、十分に気を付けろよ。寝首をかかれるかもしれないから、枕元には剣を常に準備しておけ。屋敷の周りも警護を強化させるから」
「わかったよ、父上!」
やっぱり、父上たちもユーグラテスを疑っていたのか。でも、正直今でもユーグラテスがそこまでするとは考えられない。とにかく今は、怪我を治す事が先決だ。ただ俺が狙われているという事は、ミシェルが殺されることはなさそうだな。その点は安心だ。
とにかく、ユーグラテスには十分注意しないと!




