第55話:探し求めていた組織を見つけた~ユーグラテス視点~
学院に入学してから、毎日ミシェル嬢を見ることが出来る。予想通り、物凄く美しく成長したミシェル嬢。やっぱり、欲しくてたまらない。
僕が名前で呼んでと言えば素直に呼んでくれるし、握手を求めれば怯えながらも答えてくれる。ミシェル嬢の手は温かくて柔らかい。この手を離したくない!そう思って手を離せずにいたのだが、すかさずレオに引き離された。
そんなミシェル嬢は、やっぱり僕の理想の女性だ。少しでも彼女に近づきたくて、あの手この手で接近しようとするが、ことごとくレオに邪魔される。あいつ、いつもミシェル嬢と一緒に居て、僕のこと睨んでいる。本当に邪魔な存在だ!
僕はというと、学院入学と同時に騎士団を脱退した。そもそも、騎士団なんて僕には合わなかったし、続ける理由も無いからね。
騎士団の稽古に参加しなくて良くなった分、自由な時間が増えた。この自由な時間を使って、友達作りにも励んだ。第二王子という身分を持った僕が話しかければ、友達なんて簡単に出来る。
今もその友達達と雑談中だ。
「最近、兄上が俺の事を邪険に扱って困っているんですよね」
「お前の家、まだどっちが後を継ぐか決まっていないんだったっけ?」
「そうなんだ、兄上がバカすぎて、父上も兄上には継がせられないと思っているみたいでさ。それなのに、兄上は家を継ぐ気満々なんだ。本当に、誰か兄上を消してくれないかな?」
「それだったら、いい話があるぜ…って、すみません。ユーグラテス様は、こんな話興味が無いですよね」
友人たちの話を黙って聞いていた僕に向かって、急に謝りだす1人の令息。こいつの家は伯爵家だが、色々とヤバいところと繋がていると言う噂もある。
「僕の事は気にせずに続けて。それに、僕もなんだか続きが気になっちゃって」
にっこり笑ってそう伝えた。僕の様子を見て、安心したのか続きを話し始めた令息。
「実は、王都の中心部の裏通りをさらに奥に進んだところに、金さえ払えば何でもやってくれる組織があるんだ。そこに頼めば、お前の兄貴なんて秒殺で消してくれるぞ」
「それ本当かよ。かなりヤバい組織じゃん!さすがにそんなところになんて、頼めないよ!」
「そうだよな!」
そう言って友人たちは笑っていた。
金さえ払えば何でもやってくれる組織か!コレだ!僕はその後、組織の話をしていた令息を捕まえ、彼らの居場所を詳しく聞きだした。
最初は警戒していたが
「僕にもどうしても消したい人間が居てね。君には迷惑を掛けないから、場所を詳しく教えて欲しい。もちろん、お礼はするよ」
そう言ってチップを見せると、喜んで教えてくれたのだ。早速放課後、1人でこっそりその場所へと向かう。
護衛騎士には、1人で行きたい所があると伝え、離れた場所で待っていてもらった。裏通りはかなり治安が悪い様で、怪しげな男たちがこっちを見ている。黒いフードを頭まですっぽりかぶり、急いで目的地まで向かった。
どうやらここの様だな。令息に教えてもらった場所は、一見宝石を取り扱っている店の様だが…
中に入ってみると、やはり沢山の宝石が売られていた。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
穏やかそうな男性が話しかけて来た。
「あの、お金を払えば、何でもやってくれる組織があると聞いて来たのですが、ここで合っていますか?」
僕の言葉を聞き、一瞬大きく目を見開いた男性。でも、次の瞬間
「申し訳ございませんが、家は宝石を扱っているお店でございます。誰に聞いたか知りませんが、そんな組織は聞いた事もありませんね」
男性はそう言うと、僕を店から追い出してしまった。あの令息の言っていた事は嘘だったのか…
落胆しながら路地を歩いていると、若い男性にぶつかった。
「お前どこ見て歩いているんだ。危ないだろうが!」
そう言って、僕の胸ぐらを掴んできた。でもその手には、あるメモが握られている。
メモには“夜中、もう一度店に来い”そう書かれていた。
「おい、聞いているのか?」
男性に怒鳴られ
「すみません、わかりました」
そう答えると、「次から気を付けろ」そう言って去って行った。やっぱり、あそこで間違いなかったんだ!でも、どうしてさっきはダメだったのだろう?疑問に思いつつも、とにかくもう一度夜中にあの店に向かう事にした。
そして皆が寝静まった頃、こっそり王宮を抜け出した。さすがに歩いて行くのは大変だ。王宮の馬を1匹拝借して、裏通りへと向かう。
お店の前に着くと、1人の男性に声を掛けられた。今日僕にぶつかって来た男性だ。
「よく来たな!中に入れ」
そう言われ、お店の奥にある部屋へと案内された。そこに居たのは、お店で僕に対応してくれた、穏やかな男性だった。
「やあ、よく来てくれましたね。今回は1人で来て下さったので、よかったです」
そう言ってにっこり笑う男性。この人、何を言っているのだろう。昼間だって1人で来たのに。
「ああ、本人は気づいていなかったのですね。あなた、どうやらスパイか何かに見張られているみたいですよ。昼間は、あなたの後ろに男が3人ほど付いていましたが、気づきませんでしたか?」
僕にスパイを?なるほど、きっと義姉上かミシェル嬢の友人、シュミナ嬢が付けたんだろう。僕の動きを見張る為に!特にシュミナ嬢の家は有名なスパイ一家だからな。
「それにしても、まさかこの国の第二王子が家に依頼に来るなんてね」
そう言ってクスクス笑う男性。
「僕の事を知っているのですか?」
「もちろんです、さすがに王族の顔位は知っていますよ。さあ、そこに座って。早速ですが、あなたの依頼内容を聞かせていただけますか?」
案内されたイスに座った。
「実は僕には、心から愛している女性がいるのですが、その女性が別の男と婚約してしまったのです。でも、どうしても諦められなくて…」
「なるほど、それで、その女性と婚約者の方はどなたですか?」
「ミシェル・ミューティングとレオ・スタンディーフォンです」
「これまたビッグカップルですね。この国で一番権力を持った貴族たちではありませんか」
「そうなんです!だから、母上も兄上も諦めろって僕に言うのです!でも、僕は絶対に諦めたくない!」
ミシェル嬢を諦めるくらいなら、彼女を殺して僕も後を追おう、そう思うくらい愛しているんだ!
「わかりました。でも、さすがに公爵家を相手にするのですから、かなりの費用が発生しますが、よろしいですか?」
「もちろんです!とりあえず、手付金を持ってきたのですが、これで足りますか?」
自慢ではないが、僕は王族だ。父上から譲り受けた土地からかなりの税収が入って来るので、金は腐るほど持っている。
「十分ですよ。でも、これはあくまでも契約金です。これからはこれの10倍、いや、100倍はかかりますが、大丈夫ですか?」
「問題ありません!よろしくお願いします!」
僕の答えに、満足そうな男性。
「では、まずこれからはこの通信機で連絡を取り合う事にしましょう。あなたはただでさえ、スパイを付けられていますからね。たとえ夜中でも、頻繁に外出する事は厳しいでしょう」
男性から渡された通信機の使い方を、詳しく教えてもらった。音声が漏れないよう、イヤホンというものを付けて通信を行うらしい。万が一誰かに会話の内容を聞かれると大変なので、話すときは必ずこの音漏れ防止のマイクを使って話す旨が伝えられた。
「そうそう、お部屋に居てもどこで誰が見ているかわかりません。出来るだけ通信は夜中に行いましょう。それと、布団をかぶって周りから見られない様に通信してくださいね。バレれば命取りになりますから」
どうやら、バレない様に徹底した対策を行う様だ。確かに僕にはスパイが付けられているみたいだから、細心の注意を払はないといけないだろう。
それにしても、やっと僕が探し求めていた相手に出会えた。これで、ミシェル嬢を手に入れられる!
もう1話、ユーグラテス視点が続きます!




