第54話:不安の中、王都に戻ります
話し合いが終わり、各自解散となった。このままレオと離れて、もしも寝ている間にレオが襲われたら…
そう思うと不安でたまらない。
「ねえ、レオ。今日は一緒に寝ましょう!もしまたレオが襲われたらと思うと、心配で…」
私の申し出に、一気に顔が赤くなるレオ。
「なっ…何言っているんだよ、ミシェル。婚前にそんなことできる訳ないだろう!とにかく俺は大丈夫だから、安心しろ!ほら、寝るぞ!」
そう言うと、自分の部屋にさっさと入っていたレオ。とりあえず私も部屋に戻り、寝る準備を整えてチャチャと一緒に布団に入ったものの、レオが心配で寝られない。
ふとチャチャを見ると、珍しくまだ起きている。そうだわ、チャチャにレオと一緒に寝てもらったらどうかしら?
チャチャは非常に敏感だ。もし殺し屋が来ても、すぐに気づいて吠えるだろう。でもチャチャが殺し屋に危害を加えられるかもしれない。そんな事にでもなったら大変だし…
う~ん…
♢♢♢
「お嬢様、起きてください!お嬢様!」
「う~ん…もう少し…」
「何がもう少しですか!もうお昼ですよ!」
え?お昼?どうやら、いつの間にか眠ってしまっていた様だ。
「ルシアナ、レオは?チャチャもいない様だけれど?」
「レオ様は朝一番でお出かけになられて、先ほどお帰りになられましたよ。今チャチャ様を連れて、森にお散歩に出かけています」
何ですって!もう、どうしてレオは自分の命が狙われているという時に、呑気に外出なんてするのよ!
急いで着替えを済ませ、森へと向かった。森の入り口に差し掛かった頃、レオとチャチャがこっちに向かって歩いている姿が目に入った。私を見つけると、嬉しそうに飛んで来るチャチャ。
「よう寝坊助。やっと起きたか!」
「誰が寝坊助よ!それよりレオ。あなた昨日命を狙われたのよ!それなのに、呑気なものね!とにかく、今は屋敷内に居た方がいいわ!ほら、早く屋敷に戻りましょう」
レオの手を取り、急いで屋敷に戻ろうとしたのだが…
「あのな、ミシェル。俺はずっと騎士団で稽古を受けているんだ。もちろん、護身術も身につけている。お前に心配されるほど柔じゃない!それよりミシェル、お前の方が危ないだろう!とにかく、俺の事より自分の事を心配しろ!」
なぜか逆にレオに怒られてしまった。もう、せっかく心配しているのに!
「ほら、そろそろ昼ご飯の時間だ。そうだ、昨日のミルフィーユの店と話が付いたぞ。色々と準備が出来次第、王都で店を出す事になったよ。ただ、俺たちは明日には王都に戻らないといけないから、詳しい話は領地の執事が引き継いでくれる事になったから」
「本当?それは良かったわ。でも、この短時間でよくそこまで話を持って行けたわね」
「まあ、店長もかなり乗り気だったからな!それに、公爵家がバックアップするって言っているのだから、断る理由もないだろう。そうそう、このミルフィーユを今後領地の名物の1つにしたいとも考えているから、楽しみにしておけよ」
そう言って得意げに笑うレオ。レオって本当に優秀だわ。よくこんな優秀な人が、私と婚約してくれたものね。
「何ボーっとしているんだよ。ほら行くぞ」
「うん!」
レオに差し出された手を取り、食堂へと向かった。食後は、昨日食べたミルフィーユが出て来た。レオが今日話し合いに行った時に、お土産で貰って来たらしい。うん、やっぱり何度食べても美味しいわね。
嬉しそうに食べる私を見て、レオが
「そんなに好きなら俺のもやるよ」
そう言って、ミルフィーユを私の方においてくれた。やったーーー!そう思ったのだが
「お嬢様!ケーキは1日1個までです。あまりたくさん食べると、豚に戻ってしまいますよ!」
すかさずルシアナに注意され、ミルフィーユはレオの元に戻された。相変わらず容赦ないルシアナ。レオも苦笑いしながら、戻って来たミルフィーユを食べている。
午後からは、レオとチャチャと一緒に、孤児院やイザックさんの牧場に挨拶に行った。もちろん、チャチャの兄弟にもしっかり別れを告げて来た。
夜は私が王都に戻った時と同じように、使用人たちがお別れパーティーを開いてくれた。領地の人は皆温かくて優しい。宴の後は、明日に備えて早めに寝る事にした。
そう言えば、1年前はチャチャをどうするか悩んでいたのよね。一度は領地に置いて行こうと思ったけれど、チャチャは私に付いて来てくれた。そして、王都でもそれなりに楽しそうに生活をしている。
「チャチャ、いつも側にいてくれてありがとう」
私の隣で丸くなって眠っているチャチャを撫でながら、お礼を言った。さあ、明日はいよいよ王都に帰る日だ。そう言えば、王太子様は、馬車の事故に見せかけて殺されたのよね。
王都までは馬車で移動する。私も一緒に乗っているけれど、万が一の事も十分考えられるわ。注意しないと。
翌日
「今日乗る馬車だけれど、長旅になるはずだから、しっかり点検をしておいてね」
朝一番に、執事に馬車を点検する様に依頼をしておいた。
「お嬢様、昨日も点検しましたので、大丈夫ですよ」
そう言って笑った執事だったが、万が一の事も考えられる。そう思って、もう一度点検する様に頼んだのだ。すると、馬車の底の部分に、ボーガンが設置されていた。位置的に、馬車を引く馬に当たる様になっている。さらにタイマー式になっており、今から約6時間後に発射される様に設定されていた。
「何だこれは…一体誰がこんな事を」
一気に青ざめる執事。やっぱり、思った通りね!王都に戻ると警護が厳しくなる。警護がどうしても手薄になる、領地に居るうちにケリを付けたいのだろう。
でも、馬車が走っているうちに馬を殺してしまったら、レオはもちろん、一緒に乗っている私も命の保障はない。一体第二王子は何を考えているのだろう…
もしかして、第二王子の仕業ではないのかしら?
急いでボーガンと取り除き、もう一度入念に馬車をチェックしてもらった。それ以外は特に異常は無いようだ。今回のボーガン事件を聞きつけ、急遽私たちの安全を確保する為、領地の護衛団から数名、私たちの警護の為王都まで付いて来てくれる事になった。
「それにしてもお嬢様、お手柄でございます。まさか、馬車にボーガンが仕掛けられていたなんて…」
「先日あんな事件があったでしょう。念には念をと思っただけよ」
厳重警戒の中、馬車へと乗り込もうとした時、レオがある提案をして来た。
「ミシェル、お前は別の馬車に乗れ。俺と一緒に乗っていたら危険だ!」
レオも今回自分の命が狙われていると思っている為、別々に馬車に乗る事を提案してきた。でもそんな事をしたら、第二王子の思うつぼだろう。
「嫌よ、私はレオと一緒に乗るわ。でも、チャチャにもしもの事があったら大変だから、チャチャはエレナと一緒に乗って。エレナ、お願い」
エレナにチャチャを渡した。そして、レオの手を取って馬車に乗り込む。
「おい、ミシェル!」
抗議の声を上げるレオ。
「レオ、私はあなたから離れるつもりはないわ!レオにもしもの事があったら、私はきっと生きていけない!だからお願い、側に居させて!」
私の言葉に、ため息を付くレオ。
「バカミシェル。分かったよ!ほら、一緒に乗るぞ」
そう言うと、私をエスコートして馬車に乗り込んだ。
「キャンキャン」
エレナの腕から抜け出したチャチャが、すかさず私たちの馬車へと乗り込むと、ちょこんと私の膝に座った。
「チャチャ、お前も俺たちと運命を共にするのか?」
そう言って笑っていたレオ。私のせいで、レオの命が危険にさらされている!ごめんね、レオ。でも、だからと言って、第二王子の元になんて絶対行きたくない!
物凄く不安の中、馬車は王都を目指し、ゆっくり走り出したのであった。
次回ユーグラテス視点です。
よろしくお願いしますm(__)m




