第51話:懐かしい人たちに会いました
領地に来て2日目。
朝早くに起きた私は、早速昨日とって来た木の実を使い、ケーキを作った。
「お嬢様、少し料理の腕を上げましたね」
久しぶりに私がケーキを作る姿を見た料理長に褒められた。自分では気づかなかったが、私の腕も少しずつ上がって来ている様だ。
今日からレオは大忙しだ。まず午前中は、領地の役人たちと顔合わせを行う。基本的に王都で生活している為、領地のことは領地に居る執事や役人たちが事実上取り仕切ってくれているのだ。
もちろん、細かな報告を受けつつ、的確な指示を出すことも公爵の仕事らしい。そのため、役人たちとしっかり信頼関係を築いておくことも重要との事。
そして午後からは、孤児院を訪問する。もちろん、私が領地に居た頃にお世話になっていた孤児院だ!
朝食を食べた後、早速役人たちが待っている部屋へと向かった。今回はレオと一緒に私も挨拶する事になっている。なんだか緊張するわね。
「レオ様、お嬢様、こちらでございます」
領地を切り盛りしてくれている執事に案内され、早速中に入って行く。部屋には既に役人たちが来ており、男性が8人ほど座って待っていた。中には20歳前後の若い男性もいる。
「皆の者、今日は私の為に来てくれてありがとう。ミューティング公爵家を継ぐことになった、レオ・スタンディーフォンだ。隣がミューティング公爵家の長女で、私の婚約者でもあるミシェルだ。よろしく頼む」
まあ、レオったらいつの間にこんなにしっかりした挨拶を覚えたのかしら?って、感心している場合じゃないわね。私も挨拶をしないと。
「お初にお目にかかります。ミシェル・ミューティングです。いつも父がお世話になっております。今後は婚約者のレオ共々、お世話になるかと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げた。
「これはこれは、話には聞いておりましたが、お2人共とてもしっかりしていらっしゃる。公爵様も、近い将来安心して隠居できますな」
そう言って笑ったのは、この中で一番年配の男性だ。その後は1人づつ自己紹介をしてくれたが、あまり覚えられなかった。自己紹介後は領地に関する話をしていた。正直、私にはあまりよくわからないが、レオはしっかり理解している様で話の中心にいる。
意外と頭がいいレオ。さすがだわ。尊敬の眼差しで見ていると、1人の男性が私に話しかけて来た。
「そうそう、ミシェル嬢が公爵様に孤児院の現状を訴えてくれたと聞いております。私たちがいくら訴えても中々動いて下さらなかったので、本当に助かりました。ありがとうございました」
「いいえ、私はただ現状を伝えただけです。お礼を言われるほどの事は、しておりませんわ!今回、孤児院も視察できると聞いております。1年でどれほど改善されたのか、とても楽しみですわ」
1年前も随分良い環境になっていたが、正直まだまだな部分もあった。だから今回、どこまで改善されているのか、とても楽しみな部分もあるのだ。
役人たちのと挨拶は、2時間ほどで終わった。やっぱり知らない男性たちと一緒に居るのは疲れるわ。でも、午後は孤児院に行けるのですもの。グッタリしている場合じゃないわよね。
お昼ご飯をさっさと食べると、レオとチャチャと一緒に馬車に乗り込んだ。
「ミシェル、随分と嬉しそうだな」
馬車に揺られながらソワソワしている私に、少し不満そうなレオ。
「だって、皆に会えるのよ。楽しみに決まっているわ」
私の答えに、さらに不機嫌になる。一体どうしたのかしら?
「ミシェル、お前、気になる男が孤児院に居るのか?怒らないから正直に言って見ろ!」
既に怒っているレオから、なぜか詰め寄られた。
「そんなもの、居る訳ないでしょう。もう、レオったら!とにかく孤児院に行けば分かるわよ!」
この人は、どれだけ心配性なのかしら!しばらくすると、孤児院が見えて来た。
「レオ、あそこが孤児院よ!1年前に比べると、随分と建物が奇麗になっているわ」
ひびが入っていた壁も修繕され、外壁も奇麗に塗り替えられている。早速馬車から降りて中に入ると、マルサさんが待っていてくれた。
「マルサさん、お久しぶりです。元気そうで何よりですわ。それにしても、随分とこの施設もきれいになりましたね」
中も改装された様で、壁や床も張りなおされていた。さらに、子供たちのプライバシーが保たれるよう、簡単な仕切りではあるが、仕切られた子供部屋もいくつか準備されていた。この1年で、随分と改善された様だ。
「お久しぶりです、ミシェル様。ミシェル様のおかげで、随分と建物も修繕して頂きました。本当に、ありがとうございます」
「何度も言っていますが、私は何もしていませんよ!お礼なら父に行ってください。そうそう、こっちは私の婚約者のレオです」
「レオ・スタンディーフォンです。どうぞよろしく」
「次期公爵様ですね。わざわざこんな小さな孤児院に来ていただけるなんて、光栄ですわ。さあ、子供たちが奥で待っております。どうぞ」
マルサさんに案内され、中に入って行く。中には、楽しそうに遊ぶ子供たち。奥には勉強をしている子もいるわ。
「あっ!ミシェルお姉ちゃんだ!チャチャもいる」
私達を見つけた子供たちが、一斉に駆け寄って来た。
「お姉ちゃん、久しぶりだね。一緒に遊ぼう!」
「お姉ちゃん、勉強でわからないところがあるの、教えて!」
「ご本も読んで~」
久しぶりに見た子供たちは、しっかりご飯を食べているおかげか顔色も良く、健康そのものだ。着ている服も、以前より良くなったし。
「皆、久しぶりね。元気そうでよかったわ。そうそう、皆に紹介するわね。私の婚約者のレオよ。レオは騎士団に所属しているから、とっても強いの」
私がレオを紹介すると、一斉にレオの方を向く子供たち。
「レオお兄ちゃん、騎士様なの!凄い、僕に剣を教えて!」
「ずるい、僕にも教えて!」
どうやら騎士は子供たちからも人気がある様で、一気に囲まれたレオ。
「よし、剣を教えて欲しい奴。外に出ろ!」
「「「やった~」」」
レオと一緒に嬉しそうに外に出て行く子供たち。元々人懐っこい性格のレオは、一気に子供たちの人気者になった。
子供たちと遊んだ後は、マルサさんから孤児院の経営状況などを聞いた。どうやら、補助金も十分いきわたっている様で、安定した経営が出来ているとの事。とりあえず、一安心ね。
孤児院の視察が終わると、屋敷に戻る為馬車に乗り込む。
「ねえレオ、少し寄り道しても良いかしら?」
私の言葉に一瞬怪訝そうな顔をしたが、「別にいいぞ」と言ってくれた。向かった場所は、もちろんイザックさんの牧場だ。
「イザックさん、お久しぶりです」
早速イザックさんを見つけ、挨拶をする。
「ミシェルお嬢様、お久しぶりです。チャチャ様も元気そうで何よりです」
久しぶりのイザックさんに、嬉しそうに飛びつくチャチャ。
「レオ、チャチャはこの牧場で生れたのよ。そして、イザックさんがチャチャを私譲ってくれた人なの」
レオにイザックさんについて簡単に説明をした。
「イザックさん、こっちは私の婚約者のレオです」
「レオ・スタンディーフォンです。ミシェルとチャチャが、大変お世話になっていた様ですね。感謝します」
「いえいえ、とんでもございません!まさか次期公爵様が、こんな牧場にわざわざ足を運んでいただけるなんて、とても光栄にございます」
急に慌て始めたイザックさん。その周りを、チャチャが嬉しそうに走っている。
「そうだ、チャチャ様の兄弟を今連れて参りますので、ぜひ会ってやってください」
そう言うと、イザックさんは小屋の方へと行ってしまった。しばらく待っていると、チャチャにそっくりな茶色い犬が2匹、こちらに向かって走って来た。
「まあ、チャチャにそっくりなのね。チャチャ、あなたの兄弟よ」
人懐っこいチャチャはどうやら嬉しい様で、兄弟たちに飛びつくが
「キャンキャン」
と、吠えられてしまい、急いで私の方に飛んできた。
「チャチャ、あなたの兄弟よ。仲良くしないと」
そう言って、もう一度チャチャを兄弟の元へと向かわせる。最初は警戒していた兄弟たちだったが、次第に仲良くなり、最後の方は一緒に遊んでいた。
「イザックさん、今日はチャチャの兄弟に会わせてくれて、ありがとうございました。1ヶ月くらいこっちにいますので、また遊びに来ますね」
そう言い残して、牧場を後にした。今日は懐かしい人たちに沢山あえてよかったわ。特に孤児院の子供たち、以前より生き生きとしていたわね。イザックさんもマルサさんも元気そうだったし。
それにしてもチャチャの兄弟、チャチャにそっくりだったわね。
懐かしい人たちと再会できた喜びを、しっかり噛みしめるミシェルであった。




