第20話:ミシェル嬢と話がしたい~ユーグラテス視点~
ミシェル嬢に会ったあの日から、彼女の事が頭から離れない。どうしても彼女の事が知りたい。そんな思いから、彼女に関する情報をこっそりと集めた。
それと同時に、レオとの関係も。
どうやら8歳の時から、ミシェル嬢は人が変わったかのように、努力を始めたとの事。ふくよかだった体を引き締め、苦手だった勉強やマナーを頑張りだした様だ。さらに、険悪だったメイドとの仲も改善したらしい。
今ではメイドとの仲もしっかり改善され、どこに出ても恥ずかしくない程の令嬢になったとの事。
また、ガーディアン侯爵家の次女、シュミナ嬢と仲がいいらしい。華やかな姉に比べ、大人しいシュミナ嬢。そんな彼女とミシェル嬢は、何でも話せる親友の様だ。
そして気になるレオとの関係だが、今のところただの幼馴染の様だ。ただ、レオが何度かミューティング公爵に、ミシェル嬢と婚約したいと申し出ているようだが、ことごとく断られているらしい。
どうして断られているのかは分からないが、とにかく今現在は、まだミシェル嬢は誰のものでもない様だ。
それなら、僕にもまだチャンスはありそうだ。そもそも母上は僕とミシェル嬢を結婚させたいみたいだし。それにしても、なぜ僕はミシェル嬢に怖がられているのだろう。
でもあの怯える姿、可愛かったな!思い出しただけで、体中から血が沸き立つ様な興奮を覚える。女性の怯える姿を見て興奮するなんて、もしかしたら僕は少しヤバい人間なのかもしれないな。
でも、あれから騎士団の試合が何度もあったが、なぜかミシェル嬢が現れる事はなかった。
「レオ、この前の大会にミシェル嬢を呼ばなかったのかい?」
僕の問いかけに、明らかに不機嫌な顔をするレオ。
「ああ、騎士団の試合は男共が多いからな。ミシェルはもう連れてこないよ。それに、なぜかお前を怖がっているし。本当にミシェルに何もしていないのか?」
「逆に僕が聞きたいくらいだよ。どうしてあんなに怖がるのか、全く心当たりがないんだ」
レオにはそう答えた。本当に自分で、もなぜあんなに怯えられるのか分からないからだ。
ミシェル嬢に会う機会がないまま、10歳を迎えた。
「ユーグラテス、今度王宮でパーティーを開こうと思っているの。もちろん、ミューティング公爵家のご令嬢も誘ったわ」
にっこり微笑む母上。
「母上、残念だけれど、ミシェル嬢はなぜか僕の事を怖がっていますから。それに、レオにべったりですし」
「あら、そうなの?そう言えば、レオとミューティング公爵家のミシェルちゃんは幼馴染だったわよね。ただ仲が良いだけじゃないの?」
「そうでしょうか?僕にはそうは見えません」
僕の言葉を聞き、クスクス笑いだす母上。一体何がおかしいのだろう。
「ユーグラテス、あなたミシェルちゃんの事が気になるのね。あなたが誰かに興味を持つのって初めてじゃない?実はね。ずっとあなたの事を心配していたのよ。ユーグラテスは聞き分けがいい分、ずっと言いたい事を我慢して自分の気持ちを押し殺していたでしょう。それに、いつも興味のなさそうな顔をしていたしね」
「僕は別に、ミシェル嬢に興味がある訳ではありませんから。変な誤解をするのは止めてください!」
そう言うと、僕は急いで自室へと戻った。どうやら母上には全てお見通しの様だ。なんだかそれが恥ずかしくて、つい逃げて来てしまったのだ。
パーティーは来月か。久しぶりにミシェル嬢に会えるんだな。今度はどんな姿を見せてくれるのだろう。また僕の顔を見て、怯えるのかな…
そして、パーティー当日。
今回は王宮主催のパーティーという事もあり、王太子の兄上と一緒に、招待客をもてなした。相変わらず女共がすり寄って来る。正直気持ち悪くて、気が付いたら軽くあしらっていた。
「ユーグラテス、お前が令嬢をあしらうなんて珍しいな。でも、いい事だぞ。嫌なものは嫌だと、はっきり言う事も大切だ」
そう言って微笑む兄上。
ふと入口の方を見ると、レオに寄り添うミシェル嬢が目に付いた。1年前に比べ、さらに美しさに磨きが掛かっていた。僕は彼女に釘付けになった。
今日は王宮主催のパーティーだ。きっと挨拶に来てくれるはず!そう思っていたのだが、僕達が居る方とは反対方向に歩いて行くミシェル嬢。
その後ミシェル嬢は、他の令嬢や令息たちと楽しそうに話していた。もちろん、隣にはずっとレオが寄り添っている。あぁ、あんな風に笑うんだな。笑った顔も可愛いな。
でも、やっぱりミシェル嬢はあの怯えた顔が一番可愛い!またあの顔が見たいな。時折、僕の視線に気づいたレオによって、ミシェル嬢を隠される事もあったが、めげずに見つめ続けた。
「なあ、ユーグラテス。さっきからずっと、あの令嬢の事を見つめているね。どうやらレオの知り合いみたいだが」
兄上が不思議そうに僕に問いかけて来た。
「彼女はミューティング公爵家のミシェル嬢ですよ」
「彼女がミシェル嬢か。母上がユーグラテスと結婚させたがっている女性だね。最近美しく聡明になったと聞いたが、その話は本当だったようだね。それにしても、美しい子だ」
「兄上、あまり見つめてはいけませんよ。兄上には婚約者が居るでしょう?」
王太子でもある兄上は、隣国から王女を貰う事になっている。この王女もとても美しくて聡明な女性だ。
でも、僕はタイプじゃないけれどね。
「ユーグラテス、そんなに彼女が気になるなら、話しかけに行っておいで。幸い、近くにはレオもいるし」
「無理ですよ。彼女はなぜか僕の事を怖がっていますから。近づいただけで、怯えられます。それに、レオからもミシェルが怯えるから、近づくなって言われてますしね」
だから僕は近づけないんだ。物凄く悲しそうな顔で兄上に伝えた。
「あら、そうなの?それならお母様に任せなさい」
急に後ろから話しかけてきたのは、母上だ!
「母上、何かいい方法でもあるのですか?」
気になって母上に問いかけた。
「私がレオからミシェルちゃんを引き離すわ。そうね、ブルーローズでも、見に連れて行くって言うのはどう?あそこは人けがないもの。私がミシェルちゃんを連れだしたら、あなたもブルーローズが咲いている場所に来なさい」
にっこり微笑む母上。
「でも、どうやってレオから引き離すのですか?あいつ、番犬みたいにずっとミシェル嬢にくっ付いていますよ」
そう、レオは一時だってミシェル嬢から離れない。あいつを引き離すのは至難の業だ。
「ユーグラテス、ここは母上に任せよう。母上は王妃だ。聡明になったと評判のミシェル嬢が、王妃でもある母上に逆らうとは思えないしね」
確かに兄上の言う通りかもしれない。
「分かりました。母上、お願いします」
僕の言葉を聞き、母上がミシェル嬢とレオの方へ歩いて行った。
もう1話、ユーグラテス視点が続きます。
よろしくお願いしますm(__)m
 




