第17話:パーティー当日を迎えました
「お嬢様、起きてください。お嬢様!」
とうとうパーティー当日を迎えた。昨日レオに抱きしめられ、俄然気合いが入ったはずなのに…やっぱり行きたくない病が再発してしまった。
ルシアナに布団をはぎ取られても、ベッドの上で丸まり動かない私。
「お嬢様、いい加減にしてください!」
そう言って無理やり私を起こすルシアナ。この子は1度目の生の時から容赦なかったけれど、今回の生ではさらにグレードアップしている。
それでも抵抗する私に、ため息を付いて出て行くルシアナ。もしかして、諦めてくれた?そう思った私が甘かった。
4人のメイド仲間を連れて来たルシアナは、連係プレーであっという間に私をベッドから引きづりだし準備を整えてしまった。
仕方ない。こうなったらもう一度お父様にお願いしよう。この時間は朝食を食べている時間だわ。
急いで食堂に向かった。
「お父様、やっぱり私、王宮のパーティーには行きたくないです。それに、なんだかお腹も痛いし。どうか今日は欠席させて下さい!」
物凄い勢いで叫んだせいか、お父様もお母様も目を丸くしている。
「ミシェル、どうしたんだい?レオも今日はずっと側に居てくれると言っていたし、とにかくパーティーには行って来なさい」
「そうよ、ミシェル。何も怖い事はないわ。そんなに心配しなくても大丈夫よ。さあ、早く朝食を食べてしまいなさい。レオが迎えに来るわよ」
そう言って私を席に座られたお母様。
1度目の生では嫌なことがあると、癇癪を起こして抵抗していた。今回も癇癪を起こせば…って、何考えているのよ。そんなの、ダメに決まっているじゃない!
仕方なく朝食を済ませ、部屋へと戻った。自室に戻ると、ルシアナたち5人のメイドが待ち構えていた。
「さあお嬢様、早速準備に取り掛かりましょう」
正直そんなに気合いを入れてもらわなくてもいいのに…
そう思いつつも、私の体を洗い香油を付けるメイドたち。
「今日はバラの香りですわ」
嬉しそうに話すルシアナを、軽くスルーしておいた。私の気持ちとは裏腹に、どんどん着飾って行くメイドたち。ちなみに今日のドレスも黄色、アクセサリーはルビーだ。もうこうなったら、レオカラー満載で行く事にした。
さすがにこれは…そう思ったのだが、ルシアナとエレナが
「お嬢様、ある程度相手に好意があると伝える事も大切です。あれ?この子もしかして俺に気がある?そう思わせる事で、相手も自然と意識していくものなのですよ!」
と言われたのだ。確かに最近のレオは、私を子豚に戻そうとしなくなったし、少しは女性扱いしてくれる様になってきた気がするわ。
ここでさらに、“あなたに気があるのよ”アピールをしておけば、もしかしたらレオも私を意識してくれるかもしれない。そう思ったのだ。
「お嬢様、出来上がりましたよ!今日もとってもお美しいですわ。それに、レオ様カラーに仕上がっていますし。いいですか、お嬢様。今日は有り難い事に、ずっとレオ様と一緒に居られるのです。絶好のチャンスなのです。嫌だ嫌だと言っていないで、存分にレオ様にアピールしてくるのですよ。いいですね!」
なぜかルシアナに力説されてしまった。
重い足取りで、玄関へと向かった。
「あら、ミシェル。今日はまた一段と…」
お母様、何が言いたいのかしら?何となくだけれど、お母様は私がレオの事が好きなのを、知っている様だ。ただ、あえてその事を私に確認してくることはないけれど。
「お嬢様、レオ様がいらっしゃいましたよ」
メイドが私に声を掛けていた。
「ちゃんと準備は出来ているみたいだな。ほら、行くぞ」
どうやら外で待っていられなかったレオが、中までやって来て私の手を掴んだ。
「レオ、ミシェルの事お願いね。あなただけが頼り何だから」
「大丈夫だよ、おばさん。今日はミシェルから、1秒だって離れるつもりはないから安心して」
にっこり笑うレオ。やっぱりカッコいいわ。
そんなレオに連れられて、馬車に乗り込む。
「ミシェル、今回のパーティーは沢山の貴族が来るから、ウロウロするなよ。すぐに迷子になるからな。それくらい王宮は広いんだぞ。いいな、俺もお前から離れない様に気を付けるけれど、お前も俺にくっ付いているんだぞ。以前ユーグラテスに会った時みたいに」
ユーグラテス、その名前を聞いただけで、体がビクッとした。
「なあ、何でお前そんなにユーグラテスが苦手なんだよ。あいつ、どちらかと言えば女みたいで大人しいタイプだぞ。でも、嫌なら近づく必要はないからな」
なぜか嬉しそうにそう言ったレオ。もしかして、私が怯える姿を見て楽しんでいるのかな。こいつなら、有り得る。
「ミシェル、外を見て見ろ。王宮が見えて来たぞ」
何だかんだで箱入り娘だった私は、王宮に行くのは今日が初めてだ。もちろん、1度目の生では何度か行った事があるので、特に驚くことも無いけれどね。当たり前だけれど、ここに第二王子が居る。
やっぱり行きたくない…
馬車が止まっても動こうとしない私を見て、レオが声を掛けて来た。
「ほら、ミシェル。行くぞ!そんなに怯えなくても大丈夫だから」
そう言って私の手を掴み、馬車から降ろした。久しぶりに見る王宮は、やはり立派だ。確かパーティー会場は中庭だったわよね。
レオに手を引かれて、中庭へと向かう。既に沢山の貴族たちが来ていた。ふと奥の方を見ると、居た!第二王子だわ。隣には王太子殿下もいる。とにかく、あの一角には近づかない様にしよう。
レオも同じ事を思ったのか、第二王子が居る方とは別の方向へと歩き始めた。
「ようレオ、おっ、この子がミシェル嬢だよな。初めまして」
貴族令息3人組が話しかけて来た。
「お初にお目にかかります。ミシェル・ミューティングと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
レオから離れて、彼らに挨拶をした。
「ご丁寧にあいさつしていただき、ありがとうございます」
私の挨拶を見て、慌てだす令息3人組。
「やっぱり噂は本当だったんだな。我が儘で傲慢な公爵令嬢が、まるで別人のように生まれ変わったって話」
「本当だな!誰だよ、豚みたいに太っているって言ったの!めちゃくちゃ可愛いじゃん」
「確かにな」
令息3人がコソコソ話しているが、丸聞こえだ。どうやら私の評判は、少しずつ改善されている様だ。そうだわ、今日は貴族が沢山いるのだもの。私の悪い噂を一気に吹き飛ばしたらいいんだわ。
「レオ、他にも色々な貴族に挨拶がしたいの。付き合ってもらえるかしら?」
「別に行けれど、令息共は止めておけ」
どうして令息はダメなのかしら?そう思いつつ、令嬢たちに挨拶して回る。貴族界で3本の指に入る程権力を持っている我がミューティング家。さらに我が儘で傲慢と悪名高い令嬢として有名なためか、声を掛けた令嬢たちはなぜか怯え、少し話したら去って行ってしまうのだ。
「レオ、私そんなに怖いかしら?」
ここまで怯えられると、さすがにショックだわ。
「まだ昔のお前の評判を信じている奴も多いからな。そもそもお前にはガーディアン嬢が居るんだから、そこまで友達を増やさなくてもいいだろう」
確かに、シュミナがいるものね。ふと沢山の令嬢に囲まれている令嬢が目に入った。あれは、シュミナのお姉さまだわ。相変わらず取り巻きを引き連れて、感じが悪い事この上ない。
どうしてあの人があんなに人気なのかしら。さっぱりわからないわ…
その後はレオのお友達の令息たちと話をしたり、気を使って話しかけてくれる令嬢とお話をしたりして過ごした。もちろん、側にはずっとレオが居てくれる。
レオが側に居てくれる安心感と、めちゃくちゃ広い会場のおかげで、第二王子の存在をすっかり忘れて楽しむ事が出来た。
このまま何事もなく済んでいきそうな空気に、すっかり安心していたミシェルであった。
ミシェルのレオカラーコーディネートに、全く気付いていないレオ。とても鈍いレオなのです。
 




