第16話:王宮のパーティーに招待されました
試合を見に行って以降、今まで以上に我が家に遊びに来るようになったレオ。最近では、なぜか晩ご飯まで家で食べるようになった。
元々我が家に馴染んでいたレオ。
さらに家の両親とも仲を深めており、最近では
「もうレオ君は家の家族の様なものね。レオ君がミシェルのお婿さんになってくれたら嬉しいわ」
なんて、お母様が嬉しそうに話している。私だってレオと結婚出来たら嬉しいけれど、こればっかりは本人の意思を大切にしたいものね。
そして私はと言うと、相変わらずシュミナと仲良しで、レオからのリクエストに答えるべく、最近ではサンドウィッチ作りに精を出している。
「せっかくなら、珍しいサンドウィッチを作りましょう」
シュミナの提案で、今は色々な味のサンドウィッチを作っているところだ。作ったサンドウィッチは家とシュミナの家の使用人たちが味見をしてくれている。
今のところ、下味をしっかり付けたお肉と玉ねぎを炒めて挟んだサンドウィッチが、一番評判が良かった。
そんな日々を送っているうちに、ついに10歳になった。そう、10歳と言えば1度目の生で、私が第二王子に一目ぼれをし、お父様に頼んで婚約者にしてもらった歳だ。
もちろん今回の生では、絶対に第二王子を私の婚約者になんてするつもりはない。それどころか、近づくつもりもない!そもそも9歳の時に第二王子に会ったが、恐怖以外何物でもなかった。正直二度と会いたくない。
でも…
そろそろなのよね。王宮からパーティーに誘われるのって。正直憂鬱でしかない。
そしてついに、その時がやって来た。
「ミシェル、実は来月、王宮でパーティーが開かれるんだよ!もちろんお前も参加するだろう?」
ついに来た!1度目の生で私を破滅へと導いた、運命のパーティーだ。
「お父様!私、王宮のパーティーには行きたくありません!ねえ、行かなくてもいいでしょう?」
どうしても行きたくない私は、久しぶりに我が儘を言った。
「ミシェルがそんな事を言うなんて珍しいね。でも、王宮からのパーティーはさすがに断れないな。レオやシュミナ嬢も参加するはずだから、お前も参加しなさい」
にっこり微笑むお父様。どうして?1度目の生の時は、何でも言う事を聞いてくれたのに。もしかして、いい子になりすぎて、我が儘を聞いてくれなくなったのかしら?
憂鬱な気持ちで自室へと戻る。どうしよう…
「行きたくない!行きたくない!そうだわ、当日お腹が痛くなるのはどうかしら?でもきっとルシアナにバレそうね。それなら前日から体調が悪いアピールをして、当日も体調が悪いという事にすればどうかしら?これならルシアナにバレないかもしれないわ。よし、この作戦で行こう」
「お嬢様、そんな事は許しませんよ!」
後ろから物凄く低めの声が聞こえた。恐る恐る振り返ると、そこには鬼の様な顔をしたルシアナと、苦笑いをしているエレナが立っていた。
「お嬢様!いくら王宮のパーティーに行きたくないからって、仮病を使おうなんて絶対にダメですからね!」
「どうしてそれを知っているのよ。ルシアナ!あなたまさか人の心が読めるの?」
「お嬢様、残念ながら、お嬢様のお考えが声に出ておりましたよ」
呆れ顔のルシアナ。何ですって、声に出ていたですって!なんて事なの。
「とにかく、仮病は許しませんからね」
ルシアナに釘を刺された。
「でもお嬢様、どうして王宮のパーティーに行きたくないのですか?世の令嬢たちは、王宮で開かれるパーティーを楽しみにしていると言うのに」
不思議そうに私に問いかけるエレナ。
「実はね。私、第二王子が苦手なの…だから、どうしても王宮のパーティーに行きたくないの!ねえ、お願い。今回は見逃して!」
第二王子は私にとって恐怖でしかない。そんな王子に会いに行くなんて、拷問以外何ものでもない。
「第二王子のユーグラテス様と言えば、超イケメンで優しいと令嬢から人気なのに。お嬢様はお嫌いなのですか?」
不思議そうな顔をしているエレナ。
「嫌よ!だって…」
あの男は私達家族とレオに酷い事をしたのよ!そう叫びたかったが、ここでそれを言っても、ただの頭のおかしな子だと思われるだけだ。
「とにかく、私は第二王子が苦手なのよ…」
私はそう言うと布団に潜り込んだ。困り顔のルシアナとエレナ。
とにかく王宮ではシュミナにずっとくっ付いて居よう!そして、極力第二王子には近づかない事。この作戦で行くしかないわね。
そう思っていたのだが…
「えっ!シュミナは王宮のパーティーに参加しないの?どうして?」
「実はね。お姉さまが参加する事になったの。どうやら各家庭1人しか参加できないみたいで。ごめんねミシェル、一緒に行ってあげられなくて」
申し訳なさそうに謝るシュミナ。
「大丈夫よシュミナ。心配してくれてありがとう」
「でも、どうしてそんなに第二王子様の事が苦手なの?一体何があったの?」
不思議そうに私に問いかけるシュミナ。どうしよう、なんて答えたらいいのかしら。迷った末、正直な気持ちを答えた。
「レオの試合を見に行った時、帰りに第二王子に会ったの。第二王子の笑顔を見たら、急に怖くなっちゃって。なんて言うか、裏があると言うか…」
正直言うと、1度目の生を知っているから怖いと思ったのだけれど、その事は触れずに感じた事だけを伝えた。
「なるほどね。第二王子様と言えば、容姿端麗で誰にでも優しいと聞いているけれど、裏の顔は誰にも分らないものね。もしかしたら、ミシェルは第二王子様の裏の顔を感じ取ったのかもしれないわ。ほら、よく小説でも、優しい男性が急に豹変したりするじゃない!そんな感じなのかも」
さすが恋愛小説大好きなシュミナ。視野がとても広い。
「でもミシェルがそこまで怯えるなら、何かあるのかもしれないわね。とにかく、第二王子様には近づかない方がいいわ。一緒に居てあげられなくて、本当にごめんね。ミシェルがピンチの時に側に居てあげられないなんて、自分が情けないわ。」
申し訳なさそうな顔をするシュミナ。
「そんな顔しないで。レオもいるし、何とかなるわ」
少しでもシュミナに安心してもらえる様、渾身の笑顔を見せた。
まさかシュミナが参加しないなんて、想定外だったわ。でも、居ないものは仕方がないわよね。あぁ、増々気が重くなってきた。
重い気持ちのまま、月日だけが流れて行く。そしていよいよ明日は王宮のパーティーが開かれる日だ。
「ルシアナ、明日どうしても行かなきゃダメ?」
ベッドに顔を埋め、ルシアナに話しかける。
「当たり前です。行かないといけませんよ!」
「なんだかお腹が痛くなってきたわ。熱もあるみたい」
私のおでこを触るルシアナ。
「熱はありませんし、健康そのものです!お嬢様、往生際が悪い!」
ルシアナに一喝された。
へこむ私の元に、エレナがやって来た。
「お嬢様、レオ様がいらっしゃいましたよ」
「レオが!」
そう言えばここ最近姿を現さなかったレオ。急いでレオの待つ部屋へと向かう。
「レオ、いらっしゃい。久しぶりね」
「ミシェル、最近忙しくて、中々来られなかったが、元気そうだな」
どうやらレオも元気そうだ。
「ミシェル、明日は王宮のパーティーだろ。もちろん、ユーグラテスもいるだろうけれど、お前大丈夫か?」
どうやら、明日のパーティーを心配して来てくれた様だ。
「大丈夫と言いたいけれど、正直行きたくないわ。でも、ルシアナもお父様も行けって言うし。それに頼みの綱だったシュミナも欠席だし、もうどうしようかと思っていたの」
正直に今の気持ちをレオに伝えた。そんな私の側にやって来て、隣に座るレオ。久しぶりの接近に、心拍が一気に上がる。
「ミシェル、明日はずっと俺が側に居てやるから安心しろ!極力ユーグラテスには近寄らせないようにするし」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。なんだか1回目の生の時のレオを思い出した。やっぱりレオは、いざとなったら頼りになる。
「ありがとう、レオ!そうしてもらえると嬉しいわ」
私の言葉を聞き、満足そうなレオに抱きしめられた。さらに心拍が上がる。
「レオ?」
「ミシェル、お前は俺が守ってやるから安心しろ」
急にどうしたのかしら?いつも失礼な事ばかり言うレオが、こんな事を言うなんて。増々惚れちゃうじゃない!
でもレオの腕の中、温かいし落ち着く。レオが居れば、明日のパーティーも大丈夫な気がする。
そうよ、私にはレオが居るわ。明日のパーティー、何が何でも乗り切って見せるわ。
レオとの仲も随分いい感じになって来ました(*'▽')




