第15話:俺の大切な幼馴染【後編】~レオ視点~
レオ視点です。
ミシェルに招待状を渡した翌日から、今まで以上に稽古に精を出した。とにかく今回の試合は、絶対に負けられない。
「レオ、随分気合いが入っているな。優勝候補だもんな。頑張れよ!」
そう言って仲間たちが声を掛けてくれる。中には練習相手になってくれる奴もいて、本当に俺は仲間に恵まれている。
家に帰ってからも、稽古場でひたすら練習を続ける。たまにアレックス兄さんが練習に付き合ってくれたりもする。アレックス兄さんは既に騎士団を辞めているが、それでも物凄く強い。
血のにじむような練習を続け、ついに明日は大会の日だ。今日も騎士団の稽古に精を出す。
騎士団の休憩中、ふと他の騎士たちが話しているのが耳に入る。
「なあ、明日は令嬢たちも何人か見に来るみたいだぞ」
「それ本当かよ!可愛い子がいたら仲良くなろうぜ。ここは男ばかりだもんな。こんな時くらいしか、令嬢と仲良くなんてなれないもんな」
元々男ばかりの騎士団で、令嬢が来れば注目されることは知っていた。だからミシェルにも、地味な格好で来いとは伝えておいた。
もし今の美しいミシェルを見たら、きっとあのむさ苦しい野郎どもがミシェルに群がるだろう!そう考えただけで、体中から怒りが沸きあがる。
とにかく、明日は極力俺の側に置いておこう。試合中は、そうだな。キース兄さんにでも見張ってもらうか。一応キース兄さんは婚約者もいるし、まだそこら辺の騎士よりかは安心だろう。
「あれ、レオじゃん。どうしたの?そんな怖い顔をして」
話しかけてきたのは、この国の第二王子、ユーグラテスだ。美しい見た目に穏やかな性格の、ザ王子という感じのユーグラテス。実はこいつとも幼馴染で、小さい時は良く王宮で一緒に遊んでいた。
そう言えばミシェルの奴、昔王子と結婚したいと言っていたな。こいつは正真正銘の王子だ。出来ればミシェルに会わせたくない。
「別に何でもないよ。それよりユーグラテス。お前明日の大会は見に来るのか?」
「僕?僕は選手にも選ばれなかったし、ああいった場所は正直あまり好きじゃないから行かないよ。そう言えば、レオは選手に選ばれたんだね。頑張ってね」
おっとりしていて、まるで女みたいな奴だな。
「ありがとう。頑張るわ!」
「それじゃあ、僕はもう帰るよ」
そう言って俺の元を去っていくユーグラテス。あいつが明日来ない事はある意味ラッキーだな。これで、ミシェルとユーグラテスが会う事はない。
騎士団の稽古を終えると、一旦家に帰り汗を洗い流した。そして急いでミューティング家へと向かった。もちろん、ミシェルに会う為だ。
今日もお菓子を作っていた様で、甘くていい匂いがするミシェル。早速お菓子をねだると、ちゃんと準備してくれていた様で、すぐに出て来た。やっぱりミシェルの作ったお菓子は、格別に美味しい。
おっといけない。今日はミシェルに伝えるべきことがあったんだった。
俺はミシェルに通信機を渡し、会場に着いたらすぐに連絡する様に伝えた。さらに、地味な格好で来る事、俺が指定した場所から動かない事など、注意事項を何度も伝えた。
さすがのミシェルでも、これだけ何度も伝えておけば大丈夫だろう。そう思っていたのだが…
大会当日
いくら待っても通信機にミシェルから連絡が入らない。おかしい!心配になって会場内を歩いていると、沢山の騎士たちとキース兄さんに囲まれたミシェルを見つけた。
あれだけ連絡をしろと言ったのに!あいつ!体中から怒りが込み上げてきて、ついミシェルを怒鳴ってしまった。
「おい、ミシェル!どういう事だよ。会場に着いたら連絡を入れろって、あれほど言っただろうが!」
俺と目が合った瞬間、ヤバいと思ったのか、素直に謝るミシェル。でもどうしても許せなくて、ミシェルに詰め寄る。
そんな俺に、ミシェルの友人の兄でもあるディカルド副隊長が、ミシェルを庇った。さらにキース兄さんまで、ミシェルの味方をしたのだ。
どいつもこいつもミシェルを庇いやがって!さらに怒りが込み上げてくる。その時1人の騎士が、”俺とミシェルは付き合っているのか?”と聞いて来た。
これはチャンスかもしれない!もうこの際、付き合っていると言ってしまおう、そう思った時だった。
「いいや。ただの幼馴染だよ!だからお前たちにも、チャンスがあるって訳だ」
キース兄さんがニヤニヤしながら、そんな事を言ったのだ。それを聞いた騎士たちは、嬉しそうにミシェルに近づく。
ふざけるな!ミシェルは俺のものだ!怒りに身を任せ、騎士たちの輪からミシェルを捕まえると、観客席へと連れて行った。
どうしても怒りが収まらず、ミシェルに怒りをぶつける。そして、絶対にここから動くな!と、強く言い聞かせた。俺がミシェルに言い聞かせている間に、キース兄さんたちが来たので、ミシェルを兄さんに預け、とりあえず試合会場へと急いだ。
何とか間に合ったものの、ギリギリになってしまった。急いで準備をし、1回戦を迎えた。俺が出て来たのに気づいたのか、ミシェルが大きな声で応援してきた。
笑顔で手を振るミシェル。でも、俺はつい恥ずかしくて目をそらしてしまった。ちょっと可哀そうなことをしてしまったかな?そう思いつつも、とりあえず試合に集中する。
1回戦を勝ち上がった俺は、その後も順調に勝ち進んでいった。それにしてもキースの野郎、ミシェルを枕にして寝てやがる!あいつ一体何しに来たんだよ!
俺のミシェルの膝に頭を置きやがって!今すぐキースの元に行って蹴り倒してやりたいが、今は試合に集中しないと!そう言い聞かせた。
そしていよいよ決勝だ!ミシェル、見ていろよ!絶対カッコいいところを見せてやるからな!
いよいよ始まった決勝戦。相手は俺より3つも上の相手。さすがに押され気味になるが、でも負ける訳には行かない。相手の隙をつき、一気に首を狙い勝利した。
よし!優勝だ!
とにかくミシェルの元に向かおう。急いでミシェルの元へ向かい、優勝したことを報告する。
ミシェルも嬉しそうに、“カッコよかったわ”と、言ってくれた。そうか、俺カッコよかったか!喜びの絶頂だった俺を叩き落としたのは、兄のキースだ。どうやらキースが邪魔したせいで、ミシェルは俺が勝った瞬間を見られなかったらしい。
さらにミシェルの膝の感想まで言いやがって!いくら兄でも許せん!そう思ったのだが、うまく逃げられてしまった。
クソ!家に帰ったら覚えていろよ!
その後はミシェルとディカルド副隊長、ガーディアン嬢の4人で食事をした。それにしても、どいつもこいつもミシェルをイヤらしい目で見やがって。とにかく、ここから早く去らねば!
食後は空気の読める兄妹によって、やっと2人きりになれた。それにしてもミシェルの奴、どうして男共のイヤらしい視線に気づかないんだよ。このニブチンが!
つい怒りから
「ミシェル、お前はもう少し警戒心を持て!知らない男と話すな!誰にでも愛想を振りまくな!」
と、ミシェルに向かって叫んだ。完全な嫉妬だ。わかっているけれど、どうしても止められないのだ。
そんな俺に、反論するミシェル。ついカッとなって” 男あさりをする為にここに来たのか“と、言ってしまった。
言った瞬間、しまったと思ったがもう遅い。目に涙をいっぱい浮かべて抗議するミシェル。さすがにマズい!そう思いミシェルに謝るが、俺を睨みつけるミシェル。どうしよう、そう思った時だった。
「レオ、ここに居たんだね。あれ、その子は誰?」
俺たちに話しかけてきたのは、第二王子のユーグラテスだ。クソ、何でこいつがここに居るんだよ!今日来ないって言っていただろう?とにかくユーグラテスをミシェルに会わせたくない。
そう思ったのだが…
「イヤ!」
そう言って俺の背中に必死にしがみつくミシェル。ギューッとくっ付いて離れない。一体どうしたんだ?でもこの感じ、悪くないな。
「ミシェル、どうしたんだ?」
優しくミシェルに声を掛けた。ゆっくり顔を上げるミシェル。その瞳には、涙がうっすら浮かんでいる。ゾクッとするほど美しいミシェルに、体中から血が沸き上がる様な興奮を覚える。こんな可愛い顔、他の奴には絶対に見せたくない!
そんな思いが頭の中に沸き上がる。少し落ち着いたミシェルは、ゆっくりと背中から離れ、俺の隣に来た。それでも俺の腕にギューッとしがみついている。何なんだこの可愛い生き物は…
とりあえず、ユーグラテスとミシェル、それぞれを紹介した。
一応第二王子のユーグラテスに挨拶をしなければいけないと思ったのか、俺から離れ、令嬢らしく挨拶をしたミシェル。
でも挨拶が終わると、再び俺にしがみつく。どうやらユーグラテスが怖いらしい。ユーグラテスにミシェルに何かしたのかと聞いたが、初対面の様で何もしていないらしい。
その後、ミシェルが体調が良くないと訴えたため、ユーグラテスとは別れたが、それでも俺にしがみつくミシェル。そんなミシェルをこれ以上他の男に見せたくなくて、抱きかかえた。初めて抱いたミシェルの体は柔らかく、それにとても軽い。
このままずっとこうして居たい!そう思いながら、馬車へと向かった。随分と落ち着きを取り戻したミシェルを、俺はどうしても離したくなくて、ずっと膝の上で抱いていた。
途中
「もう大丈夫だから降ろして」
そう言ったミシェルを無視し、家に着くまでずっと膝の上に乗せていた。もちろん逃げられない様に、後ろから抱きしめている。
ミシェル、俺はやっぱりお前が愛おしくてたまらない!たとえどんなライバルが現れようと、お前を誰かに譲るつもりはないから…
レオはミシェルが大好きです。少し不器用なところはありますが、ミシェルへの思いは誰にも負けません!
次回はミシェル視点に戻ります。
どうぞよろしくお願いします。
 




